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攻撃力ゼロから始める剣聖譚 ~幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に入学したら、魔王と契約することになった~  作者: 大崎 アイル
最終章 『剣聖』編

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188/196

188話 ユージンは、500階層に挑む


 天頂の塔(バベル)500階層。


 500年以上前に、伝説の探索者クリストが突破して以降、未踏。


 俺たちを乗せた迷宮(ダンジョン)昇降機(エレベーター)が上昇し続ける。


 スミレ、サラ、アイリ、クロードを見ると皆、どことなく緊張しているようだった。


 ちなみに迷宮主はいない。

 

 あいつは階層を自由に移動できるから「先に行って待ってるわ」と言っていた。

 

 これでもし500階層の『神の試練』の相手が、アネモイなら気が楽なんだが……。


(まぁ、それはないか)


 楽観は危険だ。


 考えて事をしている間に、迷宮昇降機が500階層へ到着したらしい。


 ゆっくりと扉が開く。


 何もない緑の草原が広がっていた。


 つまりまだ試練の相手は来ていない。


 これで奥に進めば『神の試練』が始まるはずだ。


「みんな、準備はいいか?」

 俺が仲間たちに尋ねると、皆無言で頷いた。


 俺たちはゆっくりと500階層の奥へと歩く。


 その時。



 ――シャラララン……



 という鈴の音のような音とともに、空中に黄金の魔法陣が浮かぶ。


 そこから小さな人影が現れた。


(……え?)


 一瞬、見間違えかと思った。


 が、どうみても見覚えのあるその姿は……。


「ら、ライラ様!?」

 サラが驚きの声を上げる。


(母さん!?)

 なんでここに。


 そんな俺の心の中の驚きを知らずか、突如現れた小柄な天使が上空から俺達を威圧的に見下ろしながら口を開いた。




 ――勇敢な挑戦者たち。よくぞここまでたどり着きました。




 普段会話している時とは違う、堅苦しい口調。


 サラはすでに跪いている。


 他の面々も、真剣な表情をしている。


 俺も黙って聞いておくことにした。


 

 ――500年ぶりに天頂の塔・500階層の神の試練へ挑戦する探索者がでたことに運命の女神(イリア)様も非常のお喜びです。天頂の塔を企画された太陽の女神(アルテナ)様もきっとご満足でしょう。そもそも天頂の塔のはじまりは……



(なるほど……運命の女神様の御言葉を伝えにきたというわけか……)


 どうしてリータさんじゃないのかと思ったが、それなら理解できる。


 母さんは普段、女神様の近くで仕事をしているみたいだし。


(あ、リータさんとマリエルさんが遠くでこっち見てる)


 普段はゆるい感じの100階層と200階層の担当天使さんたちが、珍しく神妙な顔してる。


 なんでこっちに来ないんだろう? 


(地方支社でのんびりやってたら、本社から御偉いさんが視察に来たみたいなものだからね~。あの子たちはやりづらいでしょうね)


 エリーの念話が届いた。


 ししゃ? ほんしゃ?


(ユージンには伝わりにくかったかー。偉い天使が来たから下っ端天使がビビってるってことよ)


 なるほど。

 母さんは天使として身分高いから、リータさんたちが緊張してるということらしい。


 にしても、母さんの話長いな。

 ずっと女神様の素晴らしさを語っている。


 そろそろ試練に挑戦したいんだけど。


(あー、ライラ先輩の天界時代の小言は長かったなー)


 エリーのつぶやきが聞こえる。

 やっぱりそうなんだ。


 

 ――話を聞いてない人がいるみたいですね。



 母さんが突然こっちを見た。


(げっ)

「えっ!?」

 もしかしてエリーとの念話を聞かれてる?


(聞こえてますよ、ユージン、エリー)

(…………やば)

 ひぇっ!

 脳内に直接母さんの声が響いた。


 サラがこっちを「何やってんの」という目で見ている。




 ――まぁ、いいでしょう。女神様のことはこれくらいで。迷宮主アネモイ・バベル。聞いていますね




 母さんが視線を俺から外した。

 

「は、はい!」

 離れた位置で身をかがめて隠れていたらしいアネモイが背筋を伸ばして立ち上がった。


 いつのまにか来ていたらしい。



 ――三年前の失敗は無様なものでしたが、それからの貴女の態度と取り組みは女神様も評価しています。精進を続けなさい。

 


「あ、ありがとうございます!」

 アネモイの声が上ずっている。

 ちょっと涙ぐんでいた。


(アネモイ……よかったな)


 三年前のやらかし以来、女神様からの天罰で『処分』されるんじゃないかと怯えていた。


 一応、ギリギリ恩情を与えられているようだ。


 実際、アネモイの助けなしでは500階層への挑戦は数倍の期間がかかっていたはずだ。


 いや、そもそもたどり着けたかどうかも怪しい。



 

 ――あとは……ここにいてはいけない御方がいますが……。みなかったことにしましょう。




(多分……魔神様のことだな)

 見逃してくれるらしい。

 ……今回の計画は、魔神様の助言なしだと立てられなかったからな。


(くわばらくわばら)

 そんな呟きが聞こえた気がした。




 ――さて、では準備はよいですか? 『神の試練』を開始しますよ




(あれ? 母さんが仕切るんだ)


 遠くにいるリータさんかマリエルさんだと思ったんだけど。


息子(ユージン)の活躍を近くで見たいんでしょ。職権乱用ねー)

 な、なるほど。


(エリー、余計なことを言わない)

 また母さんの念話が届いた。


(うそでしょ! さっきと念話の周波数変えたのに! なんで即ハッキングしてくるのよ!)


(あんたが地上でサボってるからでしょー。天界の魔法は日々進化してるのよ! さっさと戻ってきなさい)


(やだー! あと1000年はダラダラするー!)

 頭の中がうるさい。

 

 母さんがこほんと、小さく咳払いした。




 ――『神の試練』開始します



 母さんが厳かに告げた。


 500階層に巨大な黄金の魔法陣が現れる。


 と同時に草原から黒い木が生えてくる。


「みんな、周囲に気をつけろ!」

 俺は白剣を構えつつ皆に声をかける。


「結界魔法を張っておくね!」

 スミレがすでに詠唱を開始している。

 程なくして、俺たちの身体を頑丈な結界が覆った。


 サラとアイリはそれぞれ剣を構え、クロードは魔法陣の周囲を移動し始めていた。

 おそらく背後を取るつもりなのだろう。


 ほんの10秒ほどの間に、周囲には黒い巨木が森を作っている。


(何の神獣が現れる……?)


 冥府の番犬(ケルベロス)との再戦を予想していたが、戦場が森になったならおそらく違う。


(木属性に関連する神獣……)

 ぱっと思い浮かばない。


(うーん、木の大精霊(ドリアード)とか……? いや、それはないかなー)

 エリーも思い当たらないみたいだ。


 ただ、……何かこの状況に既視感があった。


「ねー、ゆーくん」

「どうしたスミレ」

「この黒い森ってもしかして……」

 スミレが何か言いかけた時、黄金の魔法陣から何かが現れた。


 俺たちは油断なく武器を構える。


 そして次の瞬間――


「え?」

 という声は仲間の誰かか、もしくは召喚された()()()


 魔法陣から現れたのは、漆黒の翼に星のような銀髪を持つ()()使()()姿()をしていた。


「…………エリー?」

「…………わたし?」

 召喚された本人さえもきょとんとしていた。



 ――え? えっ? なんでエリーなの? 予定と違っ……



 上空で母さんまで混乱していた。


 その時、ぱっと隣に迷宮主が寄ってきた。


「ちゃ、チャンスよ! 今のあんたたちなら魔王だって怖くないわ。修行の成果をみせなさい!」

 アネモイがぴしっとエリーを指差す。


 仲間たちをみると、エリーを見慣れているスミレとクロードは気が抜けた表情。


 サラはなんとも言えない表情をして、初対面のアイリだけは「これが魔王……」と緊張したつぶやきが聞こえた。


「うーん……なんで私なのかしら……」

 エリーは大きく伸びをしながら、パチンと指を鳴らすと空中から白い槍が現れた。


「エリー……えっと、おまえが『神の試練』の相手……なのか?」


「みたいねー。正直、今のユージンたちの相手としては魔王(わたし)じゃ力不足だと思うけど……。天頂の塔が選んだなら仕方ないわね。ライラ先輩ー、はじめてもいいの?」

 エリーが面倒くさそうに槍を構えた。


「えっ! なんで、どうして、エリーが? 運命の女神様から聞いていたのと違う……」

 母さんがずっと混乱している。


「なんかライラ先輩が珍しくテンパってるわね。はじめましょうか、ユージン」

「そ、そうだな」

 俺は改めて白剣を構えた。


「ま、気楽にやりなさい。今のあんたたちなら魔王(わたし)に負けることはないでしょうから……」


 その時だった。




 ――駄目よ☆ 私の可愛いエリーがそんなこと言っちゃ




 天頂の塔内に声が響いた。


 全身が粟立った。

 

 息ができなくなるほどの威圧感(プレッシャー)


 これは……魔神様の声を聞いた時と同じ……もしくはそれ以上の。


 スミレ、サラ、アイリ、そして少し離れた位置のクロードが膝をついている。


 隣の迷宮主は真っ青な顔をしていた。


「なっ……! 貴女様は……!」

 母さんが大きく口を明け。


「…………うそでしょ」

 エリーの顔が強張っていた。


 この声の主は……。




 ――木の女神(フレイア)の名において、エリ―の堕天を限定解除しまーす☆ じゃあ、あとはよろしくね、ライラちゃん



 

 息ができなくなるほどの威圧感は消えた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 アネモイの呼吸が荒い。


「大丈夫か、アネモイ」

「わ、わたしは……平気。それより……あんたの仲間を……」

 迷宮主の言葉ではっとする。


 俺は慌ててスミレたちに駆け寄った。


精神回復(マインドヒール)」 


 三人に精神安定の魔法をかける。

 真っ青な顔が普段の表情に戻った。

 まだ強張っているが。


(クロードは……?)

 姿を探すと、リータさんが精神回復の魔法をかけてくれているようだ。

 まだ、神の試練が始まっていないから問題ないのだろう。


 そして、視線を魔王(エリー)に戻す。


 


 ――やってくれたわね、あの木の女神(おんな)




 最初、その声の主がエリーだと気づかなかった。

 

 いつもの聞き慣れた彼女の声のはずが、耳に届くだけで身体が震えた。


 見慣れた漆黒の翼は、純白の白に。


 手に持っていた白い槍が黄金に輝いて。


 夜空に浮かぶ星のように煌めいていた銀髪はさらに光を放っている。 


 そしてなによりも……過去に会ったどんな神獣よりも凄まじい威圧感を放っていた。


「エリー……なのか?」

「残念ながら、そうよ」

 そう返事をするエリーの声は、いつもより小さい。


 そうしないと俺たちが怯えてしまうから、力を抑えているかのように。


 仲間たちの様子をみると、さっきの木の女神様の声を聞いた直後ほどではないが、全員エリーの威圧感に及び腰になっている。


 もっともエリーと付き合いの長い俺ですら、だ。


「まさか木の女神(フレイア)様が介入してくるなんて……確かに天頂の塔の500階層なら、ぎりぎり地上の範囲から外れるけど……はぁ」

 ライラ母さんが混乱から復活したようだった。 


「ねぇー、ライラ先輩。天使(これ)で試練の相手しちゃっていいの?」

 エリーが母さんに尋ねる。


「他にないでしょー、木の女神様が直々に試練を出されたんだから。ほら、ちゃっちゃと名乗りさない」


「しゃーないかー。じゃあ、改めて……」

 そう言いながら、すっ……と黄金の槍を構える。


 いつも通り面倒くさそうに……、にもかかわらずぞっとするほどその構えは美しかった。


 動き一つ一つが完成された演劇のように無駄がない。


 


「木の女神直属『戦乙女(ヴァルキリー)』壱番隊隊長、エリーニュス・ケルビム。500階層・神の試練の相手を務めさせていただくわ」



 

 一切隙のない構えで、こちらを自然な表情で見つめるエリ―。


 俺たちは誰も口を開くことができなかった。 


 代わりにぼそっと耳元で囁いたのは、ずっと静かにしていた魔神(ロキ)様だった。


「ちなみに、かつての神界戦争で『赤い竜』ちゃんを封印したのは木の女神の戦乙女(ヴァルキリー)部隊だよ。ただ……見た所彼女は当時の壱番隊隊長より強そうだね」 


「それは…………冗談ですよね? 魔神様」


「だったらよかったんだけどねー…………残念ながら本当だよ」


 絶望的な情報提供だった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!


次回の更新は、10月12日(日)です。


■感想返し:

>怒涛のスピードで話が進みますね。もっと、ゆ〜っくりしてもらって良いんですよ(笑)。


→年内完結が目標なので……。


>アネモイ、着実に好感度が上がってる気がするわ。

>次の修行相手になりそうなのは…………エリー?


→未来予知の魔法使いがいますね。



■作者コメント

 当初プロットでは、ゼロ剣のラスボスは魔王エリーニュスの予定だったんですが、気がつくと2章のボスに。

 そこで今度は天使エリーニュスをラスボスにする案もあったのですが、色々考えて500階層の相手になりました。


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
これは…母親の眼前で始まる嫁同士の骨肉の争いの予感… 姑の目の前とか、メンタル直撃では?
ライラから戻ってこいと言われる位なので 堕天も家出レベルの扱いなのでしょうが、 神直々一時的に解除とは。 まあ、余計に嫌われると思いますけどw エリーさん、頑張ってー。 多分手加減しにくくなってるの…
ゼロ信者でも木の国で出て来なかったフレイアがついにお出ましかー
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