186話 二年後
――400階層『神の試練』は挑戦者の勝利です。おめでとうございまーす☆
明るい天使さんの声が響いた。
天頂の塔での修行を開始して『二年』。
やっと400階層をみんなで突破できるようになった。
「か、勝ったの…………?」
「みたいね……」
スミレとサラが体を寄せ合っている。
「いやー、よく勝てたなー。ユージンの助力なしで」
クロードが槍を杖のようにして身体を支えている。
「ねぇー、ユウ、起こしてぇ~」
「ほら、手を出して」
俺は地面にへたり込んでいるアイリの手を引っ張った。
「もう動けないー」
「おっと」
アイリが俺に抱きついて、身体を預けてくる。
俺は腰あたりに手を添えて幼馴染の身体を支えた。
激戦だったし本当に疲れたのだろう。
俺以外の面子は。
「今回はユウ頼りじゃなくて倒せたわね」
「そうだな前回はほぼ俺だけで神の試練を突破したから今日は手出ししないって話だったからな」
実は俺たちは一度400階層の神の試練を突破している。
しかし、その時は俺がほとんど一人で戦ってしまい仲間との連携ができなかった。
そのため、俺を除く四人での挑戦が今回だった。
「ちょっと、アイリちゃん?」
「いつまでユージンとくっついてるの」
スミレとサラがやってきた。
「別にいいでしょ、ちょっとくらい甘えても。私たち頑張ったんだし」
「それもそっか。ゆーくん、私も動けないー」
スミレまで俺に抱きついてきた。
「ちょっと! ずるいわよ、ふたりとも!」
サラまでこっちに抱きついてきた。
「あの……三人同時はちょっと……」
手が足りない。
「クロードくん、おつかれさまー☆」
「さんきゅー、リータちゃん」
あっちでは天使さんがクロードに抱きついている。
平和な光景だ。
ちなみにリータさんの担当は100階層のはずだが、クロードがいるので400階層まで出張ってきたらしい。
職権乱用か!
ただ、400階層の担当天使は長期休暇中だそうでちょうどよかったのだとか。
意外にゆるいな天使業界。
母さんはいつも忙しそうだし、エリ―も天使時代は大変だったと言ってるから上司の神様次第なのかもしれない。
「アイリ、そろそろ代わりなさいよ」
「わたし、動けないもんー」
「嘘つき! 元気そうじゃない!」
サラとアイリが言い合いをしている。
随分と仲良くなったものだ。
再会した当初は、お互い目を合わせないし会話も必要最小限しかしなかった。
なんせ戦争をしている国々の首脳同士だからな。
それが今ではリュケイオン魔法学園でクラスメイトだった頃のような関係に戻っている。
「ゆーくん、どうしたの?」
スミレが顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもないよ」
この二年間の修行でスミレは本当に強くなった。
無詠唱で聖級魔法をバンバン連発できるうちの探索隊のメイン火力だ。
500階層に挑戦するならスミレの魔法は欠かせない。
(けど……500階層に到着したらスミレは……)
――元の世界に戻ってしまう。
それが俺とスミレが探索を始めた時に交わした約束だ。
400階層を突破したからまたしばらくは迷宮主と修行だろう。
そして、次の挑戦は500階層の『神の試練』。
(まさか……こんなにはやくここまでこれるとは)
俺が物思いにふけっていると。
ぽん、と肩を叩かれた。
振り返りと小柄な真っ赤なドレスの少女が腕組みをして浮いていた。
「アネモイ?」
「あんたは神の試練に参加してなかったから体力余ってるでしょ? 相手してあげるわよ」
「そうだな……じゃあ、相手を頼むよ。あとみんな休める場所を作ってもらえるか?」
「贅沢な探索隊ねぇ。ほら」
アネモイがパチンと指をはじくと、ベッドやらソファが現れる。
俺は、アイリたちを適当に寝かせ迷宮主に向き合った。
……ズズズズ、と迷宮主の周囲にエグい量の魔力が渦巻いている。
「で、今回の強さは500階層用でいいのかしら?」
威圧感のある笑みを浮かべる迷宮主。
「ああ、それで頼む」
次の挑戦のためにはその強さを超えないといけない。
……以前、試しで挑戦した時は1分と保たなかったが。
「ふふっ……じゃあ、行くわよ。今回は10分くらいは粘りなさい」
ばっと、迷宮主が両手を上げる。
――迷宮魔法・鉄の処刑
物騒な魔法が発動された。
ならばこちらは
(運命魔法・思考加速)
この魔法を使うことで、一瞬の判断や初見の攻撃への対応がしやすくなる。
300階層以上だと必須の魔法だ。
スミレやサラたちも当然、習得している。
それともうひとつ。
(運命魔法・未来予測)
未来予知ではなく、あくまでデータや状況を分析して「将来を推し量る」魔法。
こっちも仲間全員が覚えている。
思考加速と未来予測の魔法がないと、初見の攻撃ですぐ全滅する。
「おっと」
俺はその場から空歩で大きく飛び退いた。
ザン! とさっきまで立っていた場所に地面から黒い槍が十数本突き出している。
(ん?)
未来予測魔法が危険を感知した。
ちらっと上を見ると、数百本の矢が降ってくる。
(矢の範囲外まで避けるのは無理か)
その場で留まることを選択する。
矢の何本かを切り落とせばいいだけだ。
――迷宮魔法・火の処刑
アネモイの次の魔法が発動する。
周囲から炎が立ち上り、火の粉が舞う。
さらに空から無数の火の弾が降り注いできた。
(おいおい……)
空から無数の矢と火の弾が降ってくる戦争のような光景。
――迷宮魔法・獣の処刑
迷宮主の周りから黒い影のような獣がぽこぽこと湧き出してくる。
数百匹はいる。
(ここまでは……まぁ、なんとか)
かなり厳しいが対応できる。
――ゾクッ! と殺気を感じた。
隣に迷宮主が居た。
(空間転移!)
「あら? よく気づいたわね」
「くっ!」
アネモイの爪が赤く輝き、神速でこちらへ伸びる。
ぎりぎりそれを避けるが。
「遅いわよ」
死角からの回し蹴りにふっ飛ばされた。
受け身をとろうとして。
「ほら、避けてみなさい」
すでに目の前の迷宮主が赤く輝く拳を振り下ろしてくる。
とっさに腕を交差させ、結界魔法を張る。
ガン! という衝撃に襲われ、結界魔法が砕け散り、そのまま地面に叩きつけられた。
(強すぎだろ!)
これでまだ手を抜いているらしい。
それから約10分。
前よりは保ったほうだが、散々迷宮主に嬲られた。
◇
「ご、ゴメン……やりすぎたかも」
冷静になった迷宮主に謝られた。
現在の俺はさっきボコボコにされたので治療中だ。
「別にいいよ。あれでも手を抜いてくれたんだろ?」
「そうね、500階層の神の試練の相手にもよるでしょうけど、本番はもっと容赦ないと思うわ」
「まだまだ精進しないとだな……」
500階層を突破して、さらに待っている相手はリュケイオン魔法学園と迷宮都市を破壊した『赤い竜』だ。
俺たちはかなり強くなったとは思うが、それでもあの神話の怪物に挑むにはまったく力が足りない。
もっと修行しないと。
「よし! じゃあ、もう一回勝負するか」
「え? もう少し休まなくて大丈夫なの?」
迷宮主が目を丸くする。
「次は20分保つようにするよ……これ以上手加減はしなくていいからな?」
「あんた……やっぱり変態ね」
苦笑された。
「失礼なやつだな」
「ま、いくらでも付き合ってあげるわ」
「助かるよ。実戦に勝る訓練はないな」
俺と迷宮主が向き合い構えを取る。
その時。
「ちょっと、待ってー!」
スミレがやってきた。
「どうしたんだ? 休んでなくていいのか?」
「ゆーくんと迷宮主さんがイチャイチャしているからだよ! 次は私も参加するからね!」
「……イチャイチャ?」
「し、してないわよ!」
さっきは俺が一方的にボコられただけだが。
スミレも変なことを言う。
「はぁ、私はもう少し休んでいたいのだけど」
「ユージンとスミレちゃんだけに任せられないでしょ」
アイリとサラまでやってきた。
「みんな元気だなー。しゃーない、やるかー」
「クロードくん、頑張ってー☆」
クロードとリータさんまで。
「みんなは400階層を突破したばかりなんだから、今日は休んでたらいいだろ?」
俺が言うと、全員から呆れた顔をされた。
「ゆーくん、自分は例外にしちゃうから」
「ほっとけないでしょ」
「この男は無自覚だから、昔から」
スミレ、サラ、アイリから散々言われる。
クロードはニヤニヤしてこっちを見ている。
その後、何回か500階層の神の試練のレベルに合わせた迷宮主に挑戦して…………全員揃って叩きのめされた。
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次回の更新は、9月21日(日)です。
■感想返し:
>『ここ300階層だと、地上の300分の1。つまりこっちで300日経っても地上だと1日しか経ってないの』と説明しています。どっちが正しい?
→時間の流れが天頂の塔と地上で逆になってました。
前回の文章は修正しました。
■作者コメント
6巻の原稿作業で時間をとられております。
■その他
感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません
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