185話 ユージンは、魔王と話す
「遅い!!!」
魔王の第一声は予想通りだった。
「悪い、エリー」
俺は遅くなったことを詫びた。
「そこに座りなさい!」
「はいはい」
指示された通りベッドに腰掛けると、すぐに押し倒された。
紅玉のような美しい瞳が獲物を狙う肉食獣のように光る。
「なぁ、エリー。天頂の塔の攻略について聞きた……」
「それはあと。まずは私をこんなに待たせた『対価』を支払いなさい」
そう言って唇を奪われた。
俺はエリーの背中に腕を回し、強く抱きしめる。
いつも背中にある黒く大きな羽は、今は無くなっている。
便利な羽だ。
「ユージン……」
エリーが誘うような瞳を俺に向ける。
俺が紫のドレスの肩紐を外すと、はらりと白い肌が現れた。
「エリー……」
何度見ても目が眩むほどの美貌だ。
「ふふ……」
妖艶に微笑むエリーに俺は吸い寄せられるように抱きしめ、押し倒した。
◇数時間後◇
「500階層の神の試練についてかぁ~」
魔王を満足させたあと、俺は天頂の塔の攻略についてエリーに尋ねた。
「アネモイ曰く、全1000階層の天頂の塔の折り返し地点である500階層で、迷宮主が階層主として探索者の力量を測ることが多いらしいんだけど……」
「今回については迷宮主ちゃんが修行相手になってるなら、違うヤツが試練の相手になるでしょうね」
それがエリーの見解だった。
ちなみにアネモイも同じことを言っていた。
「迷宮主なんだから神の試練の相手も自由に選べるんじゃないのか?」
とアネモイに聞いてみたら。
「そんな便利なことできないわよ! 神の試練の相手は、神話時代の神獣たちなんだから私よりも格上なの! それに神獣召喚は女神様の奇跡で発動しているから迷宮主の管轄外なの!」
とのことだった。
「じゃあ、対策はとりようがないか……」
俺は呟いた。
とにかく個々の戦闘力を上げて、連携を強化するしかない。
「たしか天頂の塔の500階層の神の試練は探索者に因縁のある相手が現れるって聞いたことがあるわね」
俺のつぶやきを聞いたエリーが何かを思い出したように言った。
「因縁の相手?」
「そ。つまり過去に戦ったことのある神獣が再登場するって意味ね」
「……」
エリーの言葉に俺は真正面の堕天使の顔をまじまじと見た。
「なによ?」
「だったら魔王が相手になるんじゃないか?」
エリーは100階層の試練の相手として登場している。
因縁については言うまでもない。
「私はないでしょ。だってユージンは500階層の神の試練を突破したあとに……例の方法で『赤い竜』と再戦する気なんでしょ」
「……ああ、そうだ」
これについては、スミレ、サラ、アイリ、クロードの合意を得ている。
過去に戻るタイミングは、『赤い竜』がリュケイオン魔法学園を破壊した日。
その日に戻って、学園の崩壊とユーサー学園長を助ける。
そして帝国と聖国が戦争を始める前に止めることができるはずだ。
「赤い竜ちゃんと戦いたいなら魔王を相手に試練してる場合じゃないでしょ。あっちは世界を滅ぼす神獣よ? ユージンが戦った中だと……冥府の番犬ちゃんくらいかしらね。同格の神獣は」
「ケルベロスってそんなに強いのか!?」
「最古の神獣の一体よ? 私は話に聞いただけだけど、神界戦争だと古い神族相手に大立ち回りしてたそうだし……たしか木の女神からは知恵の女神ロキと神狼と戦う時に冥府の番犬に手伝ってもらったって言ってたわね」
「…………」
魔神様とも戦ってたのか冥府の番犬。
なんでそんな神獣と20階層で戦うハメになったのか。
「まぁ、結局は天頂の塔が500階層の神の試練にふさわしいと考える相手を召喚するから、その時になってみないとわからないわね。ただ、迷宮主を修行相手にするのはいいと思うわよ。それぞれの神の試練の難易度も知ってるでしょうし。まずはユージンと同じ300階層を突破できる強さを目指せばいいんじゃないかしら」
「それなら俺の考えと一致するな。じゃあ、具体的にスミレやサラの適性に合った修行方法は……」
「じゃあ、まずはスミレから考えましょうか」
俺はエリーに仲間たちの修行方法について相談した。
天頂の塔の時間の流れを変えているとはいえ、時間は貴重だ。
極力、無駄なく戦力を強化したい。
エリーは昔、女神候補たちの教育係だったらしいのでその手のノウハウが山のようにある。
「色々助かったよエリー」
俺は教えてもらった修行方法のメモを見ながら言った。
「まぁ、ほとんどが基礎的な運命魔法だから。300階層までならその程度でいいと思うわ。その後は400階層の推奨技能、500階層の推奨技能を鍛えるためのトレーニングを考えておいてあげる」
「……そこまでしてもらって悪いな」
魔王は未だ第七の封印牢に入ったままだ。
一度俺が「外に出るか?」と聞いたが、意外にも断られた。
前は散々、外に出たいと言ってたのに。
「私が好きでやってることだし。ただ、たまにこっちにも顔出しなさい。いいわね?」
「わかったよ。じゃあ、またなエリー」
俺は挨拶をして封印牢をでた。
その後、天頂の塔へ向かい迷宮昇降機を使って、スミレたちのところへ戻る。
「あー! やっと帰ってきた、ゆーくん」
スミレたちは迷宮主と訓練をしているところだった。
エリーのところで数時間過ごしただけだが、こっちでは十数日も経っている。
随分と待たせてしまった。
「エリーに色々教わったらからこれらの修行方法を見直そう」
と仲間たちに声を掛ける。
するとスミレがすすすっと近づいてきた。
「エリーさんの匂いがする」
「……す、スミレ?」
目が怖いんだが。
「あら? どうしたのユージ……ふーん。お楽しみだったみたいね」
サラがすぐに何かを察して。
「ユウ! もう戻ってきたの! あら? スミレとサラと喧嘩でもしたの?」
アイリは何も気づいてないようだ。
「と、とりあえずこれからのみんなの修行メニューを考えてきた」
俺は無理やり話題を逸らして、エリーから教わった内容を伝えた。
……結局、話題は逸らせずにその夜は三人の相手をすることになったのは別の話。
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次回の更新は、9月21日(日)です。
■感想返し:
>ライラママは学科系の先生でエリーは実技系の先生なのか…
→ライラママは諜報担当天使。
エリーは戦闘担当天使です
■作者コメント
今日はちょっと短めで申し訳ないです。
■その他
感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません
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