表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻撃力ゼロから始める剣聖譚 ~幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に入学したら、魔王と契約することになった~  作者: 大崎 アイル
最終章 『剣聖』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/196

182話 ユージンは、仲間たちと語る

「これで……揃ったな」

 俺は、スミレ、サラ、アイリ、クロードを見回し呟いた。


 クロードのすぐ隣にいるリータさんがパタパタと翼を羽ばたかせている。


「で、このあとどうするんだ?」

 クロードの質問に俺は簡潔に答えた。


「100階層じゃ話しづらい。まずは300階層に移動しよう」

「「「えっ?」」」

 すでに伝えていたアイリ以外から驚きの声が上がる。


「300階層ってどうゆうこと! ゆーくん!?」

「ユージン、どうやったのよ!?」

 スミレとサラが説明を求めてきたが。


「あとで説明するよ。……っと、リータさんが来れなくなっちゃいますか?」

「いえいえー、私も行くっすよー。どうせ、暇なんで」

 といいながらクロードの首に腕を回している。

 

(そう言えばこの二人……デキてたっけ?)


「……」

「……」

 スミレとサラが何か言いたげだ。

 レオナやテレシアとはどうなったんだろう……?

 リータさんの前だと聞きづらいな。 


 俺たちは迷宮昇降機に乗って300階層を目指した。


 移動中、簡単に帝国での出来事を皆に説明した。


 帝国が停戦を宣言するという言葉に、サラがほっとした表情を見せた。


 いつもながら、200階分の上昇はかなりの距離だと思うのだがほとんど待ち時間なく到着する。


 加速度もそれほど感じない。


 扉が開くとそこは美しい花畑だった。


 300階層を管理している天使様の趣味らしい。


「わぁ……」

「綺麗……」 

 スミレとアイリのつぶやきが聞こえた。


「せんぱーい! いますかー?」

 リータさんが300階層の担当天使様を探している。

 が、返事はない。


「うーん、多分さぼりですねー。300階層だとほぼ探索者が来ないですし」 

「ちょうどいいんで、このまま話しましょう。みんな適当にかけてくれ」

 

「かけろって言われても」

「座るところなんて……」

 クロードとサラが怪訝な顔をするが。


 ぽん!


 と可愛らしい音と共に、花畑の中にアンティークな椅子とテーブルが現れた。


「わ! お菓子もあるよ!」

「このお茶は……西大陸産の最高級品じゃない?」

 スミレとアイリがテーブルの上にあるお茶とお菓子に興味があるようだ。

 

「好きに食べていいよ。()()()()魔法で創ったものだから」

「あいつ?」

 スミレが首をかしげる。


「アネモイ! いるんだろ!」

 俺が呼ぶと。



 ……ズズズ



 とすぐ近くの地面から金髪に赤いローブの幼女が目を逸らしながら現れた。


「「「「!?」」」」

 スミレ、サラ、アイリ、クロードが慌てて武器を構える。


「大丈夫だよ、彼女(アネモイ)は仲間だから」

 俺が言うとスミレが不機嫌そうな表情になった。


「でも! この子のミスで赤い竜が地上に召喚されちゃって……学園長は……死んじゃって……」

「ユウが封印されたのだって、そのせいじゃない! それを許すってこと!」

 スミレとアイリが俺に詰め寄ってきた。


「わ、悪かったわ……あの時は……」

 迷宮主が気まずそうに小声で言った。

 謝るならもう少し声を張れ。


「あのねぇ! そんな簡単に……」

 案の定、スミレはまったく許してない様子が。


「ユージン」

 

 サラの真剣な声で空気が変わった。


「戦争の最中に……一時停戦はしたみたいだけど、せいぜい数週間。こんなところで喋ってる間にも死んでいってる人たちがいるわ。私たちを集めた理由を教えて。私が納得できるような話なんでしょ」


 というサラの目は真剣そのものだった。

 スミレとアイリは口を閉じた。


 クロードも真剣な目をしている。

 リータさんがクロードから離れた。


「わかった。じゃあ、これからの目的について話す」

 俺は手近な椅子に座り皆を見回した。


 スミレ、サラ、アイリ、クロードの視線が俺に集まる。


 特に……戦争により多くの戦死者を出した聖国の代表であるサラには気持ちの余裕などないだろう。


 俺は結論を最初に告げた。




「俺たちが目指すのは天頂の塔の500階層だ」 




 俺の言葉に全員が怪訝な表情になった。


「なぁ、ユージン。500階層ってのは確か……」

「スミレが異世界に戻るために目指してるんでしょ?」

 クロードの言葉をアイリが引き継いだ。 


「そうだな」

 俺は短く答える。


 500階層の『神の試練(デウスディシプリン)』の達成報酬は『異界門(ワールドゲート)』。

 

 異世界へ渡れる神器と言われている。


 過去500年でそこに到達できたのは、天頂の塔記録保持者(レコードホルダー)一位、伝説の探索者クリストだけだ。

 

 異界門であれば、異世界からやってきたスミレは元の世界へ戻れる。


 それが俺とスミレが天頂の塔の攻略をする目的だった。


「ねぇ、ゆーくん。その……500階層を目指すのはいいんだけど、それは今じゃないと言うか……それどころじゃないと言うか……」

 スミレが俺とサラの顔を交互に見ながら言った。


 隣のサラの表情は険しいままだ。


「ユージン、まさか数週間で500階層を突破するなんて言わないでしょうね? そんな夢物語には付き合えないわよ。停戦の件は感謝するけど、戦争が再開してしまったら私は聖国に戻るわ」


「ああ、もちろん勝算はある。続きを聞いてくれ」

 俺が言うとサラは静かに次の言葉を待った。


「知っての通り500階層を突破したのはここ500年で一人だけ。ユーサー学園長ですらできなかった南の大陸の最難関迷宮だ。たった3週間でできるはずがない。が、現在天頂の塔は以前とは仕組みが変わっている。迷宮主(アネモイ)、説明を頼む」


 全員の視線が迷宮主に集まる。


「もともと……天頂の塔は上層に進むほど難易度が上がって攻略に時間がかかる。寿命の短い人族では1000階層なんて不可能な話だった……。だから、現在の天頂の塔は上層に上がるほど()()()()()()()()しているわ。ここ300階層だと、地上の300分の1。つまりこっちで300日経っても地上だと1日しか経ってないの」


「逆浦島太郎だ!」

 スミレがびっくりした表情で知らない人の名前を言った。


「スミレ? 誰だ、それは」

「あー、いやそれは……」


「スミレさんがいた地球という世界の昔話ですよ。時空のゆがみによって地上と深海の世界では時間の流れが異なるという悲劇のお話ですね」

 リータさんが説明してくれた。


「へぇ、魔法はないけどそんな話があるんだな」

 俺が感心して言うと。


「まぁ、ゆーくん! それはまた今度教えてあげるよ。じゃさ、今300階層だと時間がゆっくり進んでるから地上のことは気にせず天頂の塔の攻略ができるってことだね。でも、他の人より早く歳を取るのは嫌だって人がいるんじゃないかな?」

「あー、確かにそうだな。天頂の塔を攻略してたら、クラスメイトよりどんどん歳を取っていったとかは困るんじゃないか?」

 スミレの疑問にクロードが同意した。


「心配はいらないわ。300階層だと歳を取るのも遅くしてあるから、300日生活しても加齢は1日分よ」


「「「「!?」」」」

 迷宮主の説明に一同が驚愕の表情を見せる。

 って、リータさんまで驚いてる?

 

「それは……すごいな」

「いっぱい探索できるね!! ゆーくん」

「……人間の寿命を引き伸ばす魔法……いや、ほとんど奇跡に近いんじゃないかしら」

 クロード、スミレ、アイリが興奮気味に語る。


 が、サラの表情は真剣なままだ。


「それなら3週間の停戦期間でもこちらでは10年以上の探索ができる……。けど、ここはまだ300階層よ? 500階層までの200階層分を突破するなんて現実的じゃ……」


「その心配はいらないわ。今の天頂の塔は100階層づつ、一気に挑戦ができるようにしてある。この中でユージンが300階層を単独突破しているから、パーティー内の一人でも300階層を突破していたら、次は400階層から挑戦することが可能よ。400階層を突破したら次は500階層。つまり最短、2戦で500階層までたどり着くことができる……」


「「「「…………」」」」

 アネモイの言葉に全員が目を丸くした。

 そして、少しづつ500階層到達の現実性を理解してくれているように思えた。


「待って、ユウ!」

 ここでアイリが俺に話かけてきた。


「なんだ?」

「一番肝心なことを聞いてないわ! そもそもどうして天頂の塔の500階層を目指すの? 確かに友達のスミレが元の世界に戻りたいってことは応援してるけど、私やサラの一番の目的は『戦争を止めること』よ? ユウは言ったわよね! 私が納得するような説明をするって。天頂の塔を攻略したって戦闘は止められないでしょ!」

 アイリが強い目をして尋ねてくる。


「そうね、ユージン。多分、あえて回りくどい言い方をしているんだと思うけど……そろそろ本題を話してほしいわ。いったい何が目的なの? 戦争を完全に止めて……これ以上、悲しみを産まないようにするために私は貴方についてきたの……」


 サラの真っ直ぐな視線を受け、俺は小さく頷いた。


「わかってる。大丈夫。俺がこれから説明する話は、サラやアイリにとって絶対に良い話になる。……ただし、この話は何度もはできない。言えるのは『一回』だけだ。…………アネモイ、言っても大丈夫か?」


 俺は少し離れた位置で静かにしている迷宮主に声をかけた。


「ええ、心配いらないわ。300階層には幾重にも結界を張って、絶対に天界や魔界から聞かれることはないようにしてあるから」 

「わかった。」

 その言葉を……信じるしかない。


「ゆーくん、天界って?」

 スミレが聞きたそうだが、これ以上サラを待たせるのも悪い。

 俺は手でスミレに待つように伝えた。


 そして俺は……500階層を目指す『真の』目的を口にした。




「今から話す計画は、俺とここにいる迷宮主(アネモイ)……あと、この計画の助言をくれた御方の三人で立てた。俺は南の大陸で起きている神聖同盟とグレンフレア帝国戦争を止めたい。ただ止めるのでなく、もうこれ以上の被害がでないよう最小限に抑えたい。それが天頂の塔の500階層の『報酬の神器(ギフト)』なら可能であることを、ある御方に助言してもらった」


「異世界にいく神器にそんな力があるの……?」

 サラが疑わしそうに尋ねた。


「違うんだサラ。天頂の塔の500階層の話は、到達者が500年前に一人しかいなかったために、正しい使い方の記録が残ってないんだ。500階層のギフトである『異界門(ワールドゲート)』。これは異世界にもいけるが、異世界にいけるだけの神器じゃない」


「えっと、じゃあ、どこに行けるの?」


()()()()()


 俺の言葉に、まだ大きな反応はなかった。


 ただ……あまり具体的なことを俺から言うのはまずい。

 

 この計画は、あくまで『地上の民が()()()()気づいた』ことにしないといけない。


 俺のように助言を受けて計画を立てた者は、『神界規定』に反してしまう。


「待って……まさか」

 最初に気づいたのはアイリのようだった。

 

「そうだ、アイリ。気づいたか?」

「私は……父上を助けられるの?」


 流石だな。

 すぐにそこまで到達した。

 

「も、もしかして……?」

 スミレも気づいたらしい。


 クロードの目がワクワクしたものになっていた。

 こいつも思い至ったようだ。


「…………え? あれ?」


 ずっと険しい表情だったサラが、きょとんとした顔になった。


 そして、焦ったようにウロウロしながら周囲を見回す。


「そ、そんなことが……あっていいはずが……女神様がお許しになるはずが……」

 サラが指を噛みながらぶつぶつ言っている。

 そのサラにスミレが抱きついて言った。



「サラちゃん! 『異界門(ワールドゲート)』を使って()()()()()()()()()、戦争を止められるよ!!!」

 スミレが大きな声で言った。


「…………」

 サラが目を見開いてこっちを見る。


 俺はまっすぐサラの目を見て頷いた。


 

 ――異界門を使って過去へ渡り歴史を変える。


 

 それが俺の計画だ。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!


次回の更新は、8月31日(日)です。


■感想返し:

>戦争は始めるより終わらせるほうが難しいと聞くね

>片方がボロボロになって降伏、とでもならない限りは

>ここでトップ同士が話せてよかった


ひとまず、無事に聖女と皇帝が会えました。


■作者コメント

 明日は信者ゼロの更新です。

 や、やることが多い!!


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■ゼロ剣5
ゼロ剣5
■ゼロ剣マンガ2
ゼロ剣マンガ2
■ゼロ剣 4巻
ゼロ剣4
■ゼロ剣 コミック1
ゼロ剣マンガ
■ゼロ剣 3巻
ゼロ剣3
■ゼロ剣 コミカライズ
ゼロ剣漫画
■ゼロ剣 2巻
ゼロ剣2
■ゼロ剣 1巻
ゼロ剣1
― 新着の感想 ―
どこにでも行ける なので冥府から強引に連れ帰ってくるのかと思いました。これなら死んだ人も帰ってくるので。 前作も過去に戻ってどうにかしたので、一読者の意見としては次回作があるなら過去改編は本当に収集…
過去に戻って改変ですか。 それならマシな状態にできますね ただ「喋ってる間にも死んでいってる人たちがいるわ。私たちを集めた理由を教えて。私が納得できるような話なんでしょ」 とか被害者面の狂信者の国の…
過去改変ですが、タイムトラベルや死者蘇生が行われた世界観なので、十分にありな展開だと思えました。 加えて、信者ゼロのあふたーすとーりーの360話で、天頂の塔に多くの探索者たちが不自然なまでに仲良く探索…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ