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177話 ユージンは、運命の巫女と語る

「ではユージン・サンタフィールドさん。改めてようこそ聖都アルシャームへ。少々騒がしい来訪でしたが、大きな負傷者もでなくて幸いでした」

 運命の巫女(オリアンヌ)様が微笑んだまま口を開いた。


 俺とスミレ、ミゲルとクロードは聖アンナ大聖堂の一室へと案内された。


 大きめの会議室で、運命の巫女様の他にサラやロベール団長がいる。

 もちろん、護衛の神聖騎士団たちも同席しているが、数はそこまで多くない。


「お時間を作っていただき感謝します、オリアンヌ様」

 まずはお礼を言った。


「かまいません、座天使(ガルガリン)ライラ様の御言葉がありましたから。それに聖国(カルディア)は大魔獣『闇鳥(ラウム)』と戦っていただいた貴方に恩があります」

 そう語る運命の巫女様の表情には、特に含んだものはなさそうだった。


 しかし、ロベール部長やサラ以外の若い神聖騎士から俺への視線は相変わらず厳しいままだ。


(そういえばリリーやジャクリーヌ団長の姿が見えないな)


 かつて一緒に大魔獣と戦った仲間。

 彼女たちは元気だろうか。


「ユージン。それで……ここに来た理由は?」


 サラが俺に尋ねる。

 その口調は昔の時よりも距離を感じた。

 

「サラの力を借りたい。俺と一緒に来てほしい」

「…………本気で言ってるの? 八人の聖女(エイトセイント)の一人である私が帝国側につけるわけないでしょう」

 

「そうじゃない。戦争を止めたい。そのために力を貸してくれ」

「戦争を……どうやって…………? アイリ皇帝に直談判でもするつもり?」


「ああ、そうだ」

「あのね……。いくらユージンでも……難しいと思うわよ。そもそも会ってもらえるかすら……」

 サラが言葉を続けようとした時。


「ふざけるな! そのような世迷言を!」

「貴様一人でこの戦争が止まるものか!!」

「そのような戯言で聖女様を連れ去るなど、我らが許さぬ!!」

 サラの周囲にいた若い神聖騎士たちが一斉に凄んできた。

 

(この感じ、昔生徒会メンバーから敵意を向けられてたのと似てるな……)


 場違いなことを思い出した。


「みんな、落ち着きなさい。ユージンはこれでもアイリ皇帝の幼馴染で、三年前まで恋人だったの。彼女に対等に意見できるとしたら、エカテリーナ宰相を除けばユージンくらいだと思うわ」


「「「「「…………」」」」」

 という言葉に若い神聖騎士たちが黙る。


 俺はサラの言葉が少し気になった。


「俺だけってことはないだろ。サラだってアイリと親しかったし、スミレだって……」

 生徒会執行部に入っていたアイリは、サラとうまくやっていたはずだ。

 しかし。


「私は無理だわ。もうあの子と…………話せる自信がない」


 暗い声で言うサラから、何か不穏なものを感じた。


 しばらく気まずい無言の時間が続く。


 それにしてもさっきから運命の巫女様が大人しい。


 もっと色々と聞かれるのではないかと思ったのだが。


「まぁ、いいわ。それでアイリ皇帝にどうやって会うつもりなの。今の貴方の立場で簡単には会えないでしょう?」

 サラの言葉に俺はクロードに視線を向けた。


「帝都の手前までクロードの飛竜に運んでもらう。そのあとは自力でエインヘリヤル宮殿に侵入するよ」

「おいおい、ユージン。マジかよ」

 俺の言葉にクロードが目を丸くした。

 言ってなかったっけ?


「難しいか?」

「難しいに決まってる。帝都の周囲は近衛艦隊が蟻一匹不法侵入できないよう厳重に警備されていて、さらに24時間魔導兵が周回している徹底ぶりだ。前皇帝が暗殺されたからな。それを掻い潜るとなると……かなり骨が折れるだろうな。見つかったら確実に帝国領の外まで追い回される。捕まれば拷問のあと処刑だ」

 クロードの言葉に俺がなんと言っていいものか悩んでいると「まぁ、でも」と言葉が続いた。


「…………そのあと皇帝のいる宮殿に侵入するのと比べたらはるかにマシだな。やってやるさ」

「助かる」

 クロードが苦笑した後、了承してもらえた。 


「単独でエインヘリヤル宮殿に侵入なんて……そんなことが……できるのか?」

 若い神聖騎士の一人が訝しげな表情で呟くのが聞こえた。


「できる。帝都の裏道はすべて知っているし、宮殿内の配置も頭に入ってる。天頂の塔(バベル)で神獣を相手にすることに比べたら、はるかに容易だ」

 俺はまっすくその神聖騎士に向かって言い放った。  


「すくなくとも……嘘はついていないようだ」

 嘘看破の魔法を使われていたらしい。


「それで……私は何を手伝えばいいの? 帝都に一緒に行けばいいのかしら」

「聖女様、いけません! 危険過ぎます!」 

 サラの言葉に近くの神聖騎士が慌てて反応する。


 俺は首を横に振った。


「いや、サラはスミレとミゲルと一緒に先に迷宮都市で待っていてくれ。詳しいことはそこで話す」

「え? そうなの? 私とサラちゃんは一緒じゃないんだ」

 それまで静かに聞いていたスミレから声が上がった。


「私は帝都に同行しなくていいの?」

 サラも意外そうな顔をしている。

 

「流石に今のサラを帝都には連れていけないよ」

 そこまで危険なことをするつもりはない。


「でも、そしたら何に協力をすればいいのよ」

 サラの疑問はもっともだ。


「それは迷宮都市に着いてから話す」

「何を企んでいるのか知らないけど……まぁ、いいわ。ちゃんとあとで説明してよ」

 少し呆れた顔をしつつも、サラは俺の言葉に同意してくれた。


 しかし、納得できない者もいる。


「サラ様に何をさせるつもりだ!」

「説明をしろ! サラ様を帝国の人質にするつもりじゃないのか!?」

「帝の剣の息子を信用できるはずがない! 本当のことを言え!!」

 若い神聖騎士たちの追求が激しい。

 もちろん彼らの言い分はもっともだ。 


(困ったな……)

 もちろん、サラにはあとできちんと説明をするつもりだが、この場で言うことができない。


 が、神聖騎士たちは納得しなさそうだ。


 俺が苦慮していると、それまで黙っていた運命の巫女様が口を開いた。




 ――私の愛しい子供たち。




「っ!?」

 全身を稲妻で打たれたような衝撃が走った。


 がたっ、と気がつくと俺は立ち上がって後ろへ下がっていた。 


(しまった)


 慌てて周囲を見回す。

 八人の聖女の二人との会談の場でする態度ではなかった。

  

 何か申し開きをしようとして……唖然とした。


 その場にいた神聖騎士たち全員が、運命の巫女(オリアンヌ)様に()()()()()

 

 聖女(サラ)ですらだ。


 そこで俺は気付いた。


 声の主の正体に。


 口を開く前に、サラや神聖騎士たちに倣って跪いた。



 

 ――楽にしてくれてかまいませんよ。




 不思議な声だった。


 初めて聞いたはずなのに、なぜか懐かしい気がする。


 それでいて聞いているだけで、この声の主には『絶対に敵わない』と強制的に確信させられる御声。


 次元が違う者から天の声。


 ふと見るとクロードは周りと同じように、膝をついている。


 スミレとミゲルはおろおろと戸惑っていた。


(二人になにか声をかけたほうがいいか……?)


 ただ、今この場で口を開くのをためらっていると。


 

   

 ――しゃべっても構いませんよ。ユージン・サンタフィールド。



 

 運命の巫女様の口から俺の心を読んだような言葉が出てきた。


 いや、読まれたのだろう。


 なんせ相手は――




 ――そういえば名乗っていませんでしたね。私は運命の女神(イリア・オリュンポス)です。




 南の大陸『女神教会』の信仰女神様が降臨した。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!


次回の更新は、7月27日(日)です。


7月25日は、信者ゼロの更新日です。


■感想返し:

>もしかして、上層部(少なくともオリアンヌさん)はユージンの天使化について知っていたりするのかな?

ユージンが天使の血を引くことは、誰もしらないですね。

オリアンヌ様はうっすら気づいているかもですが、「危なそうだし、触れんとこ」と思ってます。

エリーと契約している件はオリアンヌ様気づいてます。


■作者コメント

 展開遅いという声をいただいております。

 これが限界なんです(最近、時間がまったくなく)。

 申し訳ないです。


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
ママかと思ったらママの上司か
展開は遅くは無いと思うのですが、事態が事態なだけにもどかしい気持ちになるのでその所為かも知れませんね さて、こちらの運命の女神様はポンコツなのかそれとも?
ユージーンが半分天使であるということは、彼が天使たちが仕える聖なる女神たちと自然に結びついているということですね。ユージーンとマコトのこの違いが見られて嬉しいです。マコトは女神たちの前でも臆することな…
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