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175話 ユージンは、神聖騎士団と戦う

「ロベール部長、お久しぶりです」

「久しぶりだな、ユージンくん。三年ぶりか……」

 俺は挨拶をしたが、あいにくゆっくり話す暇はなかった。


「侵入者だ!」

「囲め!! 囲め!!」

「こいつ、どうやって入ってきた!?」

「門番は何をやってるんだ!」

 あっという間に、十数名の神聖騎士(ホーリーナイト)に取り囲まれる。


(皆、若いな)


 そう感じた。

 歴戦の神聖騎士は前線に出向いているか、戦死してしまったという話は本当のようだ。


「ロベール団長! ここは我々にお任せを!」

「一人で侵入するとは馬鹿なやつだ!」

 二人の血気盛んな騎士がこちらへ詰めてくる。


 幸い、彼らの技量は高くない。

 すでに間合いに入っているのに隙だらけだ。


 なにより彼らの言葉で気になったのは。


(ロベール部長が神聖騎士団長……なのか?)


 三年前まで学生だった部長が?

 それほどまでに神聖騎士団は世代交代が進んでしまっているらしい。


「待て、彼は……」

「覚悟ぉ!」

 ロベール部長がなにか言いかけるが、騎士の一人が不用心に斬り掛かってきた。


 はっきり言ってしまえば、あくびが出るほど遅い攻撃だ。


(斬るのは簡単だが……)


 俺の目的は彼らと敵対することじゃない。

 サラと運命の巫女(オリアンヌ)様に会うことだ。


(ひとまず素手で相手するか)


「よっ」

 俺は空歩で距離を詰め、斬り掛かってくる若い騎士の剣の柄を掴んだ。

  

「なっ!」

 驚いた顔で慌てて剣を引くが、俺が掴んでいるため動けない。


「は、はなせっ!!」

 顔を真赤にして剣を引っ張るので、「はい」と俺が手を離すと「うわああああっ!」と一人で後ろに倒れていった。


 地面に背中を激突してて少し痛そうだ。

 もう少し優しく手を離したほうがよかったかもしれない。 


「よくも仲間をやったな!」

「許さん!」

 別の騎士二人が斬り掛かってくる。


 これじゃあ、さっきと同じことはできない。

 

 俺は迷った末、『黒刀』を抜いた。


 それに自分の魔力を纏わせる。

 

 二人が俺の間合いに入った時。



 ――弐天円鳴流『鎌鼬』



 斬り掛かってくる二人の剣士の『首』を横薙ぎした。


「えっ……」

「あっ……」

 カラン、カラン、と二人の剣が落ちる。


 おそらく二人には、自分の首が切り落とされたように感じただろう。


 二人は呆然として、自分の首を押さえている。


 もっともどちらの首も()()()()()()()()()が。


「大丈夫か!!」 

 周りにいた騎士の一人が、剣を落とした二人に駆け寄る。


「あ、ああ……。斬られたと思ったんだが……」

 まだ呆然としながら、気味が悪そうに俺のほうに視線を向けた。


「ユージンくん、さっきのは……君の魔法剣か?」

 ロベール部長が尋ねてきた。


「はい、俺の白魔力を纏わせると何も切れなくなりますからね」

「前皇帝の帝の剣の息子は、白魔力しか使えない。入学当初にちょっとした話題になったな」

 ロベール部長が懐かしそうに少し笑った。



 ……ざわ、と周囲の神聖騎士たちが動揺する。



 それはロベール部長の言葉に反応してだった。


 明らかに俺に向けられる殺気が増す。


「帝の剣の息子だと……!!」

「聖女マトローナ様を()()()()聖原ジュウベイの息子がノコノコ現れたか!!」

「生きて帰れると思うな!!」


 さっきまでの警戒する目から、殺気を含んだ目に変わる。


(当然……だろうな)

 今の親父は聖国にとって『()()()()』の大罪人だ。


 その息子である俺の心証も最悪だろう。




 聖女マトローナ様――かつてリュケイオン魔法学園の学園祭にも訪れてくれた八人の聖女様のお一人。




 そして、一般には知られていないが『前皇帝に毒を盛るように命じた者』である。


 前皇帝暗殺の黒幕、ということになる。


 もっとも聖女マトローナ本人は、皇帝が死ぬとまでは思っていなかったようだが。


 体調悪化を起こす程度の毒だったのだ。


 それが前皇帝陛下の体質と拒否反応(アレルギー)によって、皇帝は命を落としてしまった。


 ただ……運が悪かった。


 俺はそれを『天界の天使(かあさん)』に教わった。


 親父は母さんの力を借りず、自力で皇帝の暗殺に関わった者に辿り着いたらしい。




 そして――主君の()()()()()()




(それは東の大陸の流儀だよ……親父)


 前皇帝陛下と親父は『命の契約』を結んでいた。


 片方が命を落としたなら、親父の寿命も長くはなかったはずだ。


 母さんは明言しなかったが、仇討ちを果たした親父はおそらく…………もう。


 そのことを深く考えると気持ちが沈む。


 が、今は数十名の神聖騎士たちが俺の命を取ろうと剣を構えている場面だ。


 暗い気持ちを無視して、周囲の警戒を続ける。


「死ねぇええ!!」

 後ろから斬りかかられた。


 その攻撃は、魔力感知で認識している。


 俺は黒刀から白剣に持ち替えている。



 カアン! と甲高い金属が弾かれる音が響く。



 俺に斬り掛かった騎士の剣が後方へと飛んでいった。


「えっ……?」

 突然、剣を失った騎士が呆然としている。


 白剣で斬撃を飛ばして、武器だけを弾き飛ばした。


 この場にいるほとんどの者には、俺の動きが見えてないようだった。


 今のところ、この場にいる『ただ一人』を除いて、脅威はほとんどない。


 ただ、騒ぎを聞いてあつまる騎士の数はどんどん増えている。


(これ以上はこの場にとどまらないほうがいいか……?)


 飛行魔法か空歩でどこかに退避しようと考えていると。


「私が相手をする。皆は手を出すな」

 ロベール部長が前に出てきた。


「ロベール団長自ら!? いけません、聖女様から団長自らは戦わぬよう厳命されているはず!」

「危険です。ここは我々がなんとかします!」

「神聖騎士団を率いることができるのは、もう貴方しか……」

 周り騎士たちは止めようとしているが。


「君たちでは無理だ。ユージンくんは天頂の塔(バベル)の200階層記録保持者(レコードホルダー)。それだけでなく単騎で『冥府の番犬(ケルベロス)』や『魔王エリーニュス』にすら勝利している勇者だ。君たちの中で同じことができるという者だけ、ユージンくんに挑戦するといい」


「「「「「「「…………」」」」」」」

 ロベール部長の言葉に全員が黙る。



 ――む、無理だろ


 ――魔王に一人で勝つなんて……


 ――魂を抜かれると聞いたぞ、伝説の堕天の王の眼を見ると



 そんな声が聞こえてくる。


 エリーさん、恐れられてますね。


(失礼ねー。魂なんていらないわよ)

 魔王の念話(こえ)がかすかに聞こえた。


(エリー?)

 話しかけたが返事はない。


 聖都の結界に阻まれているようだが、自分の話題についてだけは一言、言いたかったのだろうか?



「ユージンくん、構えたまえ」

 鼻先にピリッとした殺気が走る。


「っ!」

 俺は慌てて白剣を構える。


(……強い)

 俺を取り囲んでいる数十人の神聖騎士たち。

 彼らが一斉に攻撃をしてくるより、ロベール部長一人のほうがはるかに恐ろしい。


 ロベール部長の剣先がまっすぐ俺の心臓に向けられている。

 

 その姿は過去に出会ったどの剣士よりも隙がなく、老練な雰囲気すらある。


 が、一度動けば目に止まらぬほどの剣速で斬られることを俺は知っている。


 俺は周囲の神聖騎士たちのことはいったん忘れ、正面のロベール部長だけに集中した。


「ユージンくんに一言、伝えておきたい」

「なんでしょう?」

 構えはそのままでロベール部長が静かに語った。


「君は迷宮都市を壊滅させた『赤い竜』と共に天頂の塔に封印されていたため、聖女マトローナ様の暗殺や現在の戦争と関わっていないことを私は知っている。だが……孤児だった私はマトローナ様に拾われ、育てていただいた大恩がある。…………悪いが手加減はできそうにない」


 そう言ったロベール部長の眼には強い感情が籠もっていた。


「わかりました。受けて立ちます」

 俺はその視線を受け、改めて白剣で普段の構えを取る。


「ともに200階層の『神の試練』へ挑んだ君と、このような形で勝負したくはなかったが……」

 ロベール部長の小さな呟きが聞こえたのが最後だった。




 ――しん、と静まる。




 ロベール部長は石像のように動かない。


 十秒……二十秒……と時間が経過し……


()()()!!!)


 三年前の俺には、神獣を斬った部長の剣筋は見えなかった。


 今のロベール部長の剣は更に速い。


 が、天使の能力である『未来予測』の精度を限界まで高めた今の俺なら斬られる前に察知できる。


 

 ――弐天円鳴流・猫柳

 


 ロベール部長の剣が光になって俺の心臓に迫るのを、ギリギリで躱す。


 そして利き手を狙って突きを放った。

 

「くっ!」

 俺の白剣がロベール部長の右腕に刺さる。


 他の神聖騎士たちと違って、ロベール部長を無傷でやり過ごすことはできなかった。


 二撃目は躱せないだろう。


 だから、攻撃を当てるしかなかった。


 右腕から血を流したロベール部長は、剣を左手で構え直したが先ほどまでの威圧感はなかった。


「そんな!」

「団長が……負けた?」

「うそだ!!!」 

 周囲がざわつき始めた。

 

「「「「「「……」」」」」」

 殺気立った神聖騎士団が、じりじりと俺への距離を詰めてくる。


(まずいかもな……)


 若い騎士たちは冷静さを失っている。

   

 こんな密集した場所で、全員が襲ってくると俺を倒すよりも同士討ちになってしまう可能性のほうが高い。


 俺はその場から離れるタイミングを図っていた、その時だった。




「ユージン!!!!」




 大きな声が広場に響いた。


(ああ……やっと会えたか)


 懐かしい声だった。


 三年ぶりだ。


「いけません、剣の聖女様! お下がりください!」

「ロベール団長を倒すほどの剣士です。危険です!」


「かまわないわ」

 若い神聖騎士たちをかきわけるように、長い黒髪の女騎士が現れた。


 腰に携えているのは、聖国の宝剣『慈悲の剣(クルタナ)』。


 その剣を扱えるのは、現在の聖国ではただ一人。


 リュケイオン魔法学園の生徒会長は、記憶にあるよりも大人びて見えた。


「久しぶりだな、サラ」

「………………ええ」


 三年ぶりに会ったサラは怒りとも悲しみともいえない表情で、俺の呼びかけに短く答えた。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、7月13日(日)です。


■感想返し:

>ミゲルくん、あんなことがあったのに聖国の支援に来たことがあったのか……

→見逃してもらってますね。

 支援は多いほうがいいので。


>次回は『ユージンVSロベール部長』かな?


→そうです。


■作者コメント

 やっとサラの再登場です。


 親父が…………。


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
事件の真相が思ってた以上にどうしようも無い・・・そりゃジュウベイさんはそうするに決まってる 聖女サマは誰かに唆されたのかな?
戦争の理由が馬鹿聖女のせいって天界ではわかってるならなんで天界と交信出来るはずの聖国が被害者ズラしてんのかわからん
現時点の情報だとどう考えても聖国悪すぎて滅ぼされても文句言えないレベルで驚きました。相手の国家元首に毒盛って暗殺するのは流石に…、10-0で悪いことしてたとは。 これも何かしら理由はあってのことだと…
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