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173話 ユージンは、聖国へ向かう

「なぁ、ミゲル。この空路(ルート)は飛んだことあるのか?」

「はい、何度か。ですが、僕よりもクロード様のほうが詳しいはずです」

 

 現在、俺たちは海沿いに聖国へと移動している。


 波で荒れた海と切り立った崖が続き、人の気配はしない。


 ミゲルの召喚した竜の巨体は目立つため、飛竜に乗り換えている。


「おいおい、ミゲル。様なんて堅苦しい呼び名はやめてくれよ。俺たちは仲間だろ? なぁ、スミレちゃん」

「う、うん。ところでクロードくん、竜の運転が荒くないかな? かなり揺れるんだけど!」

「あれ? わるい、スミレちゃん」

 

 飛竜に三人は乗れないため、『俺とミゲル』『クロードとスミレ』という組み合わせだ。


「ねー、ゆーくん。なんで、私がクロードくんとペアなのー。ミゲルくんのほうが運転が丁寧だよー」

 スミレが不満を言う。


「ここから先は戦闘地域だ。もし軍に見つかった場合、クロードと一緒にいたほうが安全だ。俺は最悪、飛行魔法が使えるからな」


「そうですね。二人乗りということであれば、クロード様の竜は蒼海連邦随一の飛竜の乗り手です。安全性は確かかと」

「うーん。そっかー」

 一応、納得してくれたらしい。


「でもさ、ユージン。聖国の軍なら俺の顔を知ってるから揉めることもないと思うぞ?」

 クロードの言葉に俺は首を横に振った。


「見つかるのが怖いのは()()()だ。クロードだって知ってるだろ?」

「……ああ、そうだな」

 クロードが素直に頷く。


「そうなの? ゆーくん」

「ユージン様のご出身ですよね? 話せば通じるでは……」

 スミレとミゲルにはピンときてないようだ。


「帝国軍における基本戦術行動――少人数で行動する部隊は必ず()()()()。少人数の部隊は、作戦行動中の場合(ケース)が多い。無理に捕らえて情報を吐かせるより、根絶したほうが敵軍へのダメージに繋がるという考えだ。この指針は帝国軍の末端まで浸透してる。帝国軍に見つかると、地の果てまで追い回されるぞ。俺が帝国出身なんて関係ない」


「「…………」」

 俺の言葉に二人が黙る。


 が、別に脅しではない。

 ただの事実だ。


 帝国軍士官学校で、嫌と言うほど叩き込まれた。


「く、クロードくん。そうなの……?」

「あぁ、ユージンの言ってることは正しい。末端兵まで徹底されているとは俺も知らなかったが……」

「ユージン様。帝国軍って組織行動が多いんでしょうか?」

 ミゲルの質問に俺は答える。


「多いというか、それが全てだ。帝国軍人は単独行動は厳禁だ。『常に少人数を多人数で叩く』。それが基本行動だ」

「で、でも帝国には前任の『帝の剣』や『剣の勇者』。それに『天騎士』たちは単独で活躍をするという話をよく聞きますが……」

 ミゲルの言葉に俺は首を横に振った。


「それが印象操作なんだ。あえて外部には単騎の名声を広めて、単独行動を好むように見せているが、帝国で評価されるのは集団行動ができる者だ。100人の敵の部隊と出逢えば、自軍が200人になるまで待ってから攻める。これが基本作戦だ」


「帝国が強いわけだ……」

「シンプルな分、誰でも理解できますし」


 クロードとミゲルが感心した声で話すが。


(こんな形で士官学校時代の知識が役に立つなんてな……)


 俺は気分が沈むのを感じながら、周囲への警戒を続けた。




 ◇





「ここからが元・神聖同盟の領地だが……今は帝国の占領地域だ。注意して進もう」

 クロードの言葉に俺たちは頷いた。


 眼前には緑の少ない岩肌と砂地が続いている。


「何にもない場所だねー」

「このあたりは通称『乾きの大地』。ほとんど人は住んでいませんし、帝国としても占領する旨味のすくない地域です。安全だと思いますよ」

 スミレの言葉にミゲルが説明する。


 確かに一見すると人の気配はしない。

 ……が。


「いや、ここから右前方に約800M。5人くらいの気配がする。まだこちらには気づいていないな」

 俺が言うと、三人がぎょっとした顔で振り向いた。


「おい、ユージン。本当か?」

「ああ、魔力感知で装備している魔道具を確認した。間違いない、帝国兵だ」

 強さでいば『天頂の塔』のCランク探索者程度なので、脅威は低いと思うが援軍を呼ばれるとやっかいだ。


「前はここに帝国兵はいなかったはずですが……」

「おそらく神聖同盟と蒼海連邦の移動路になっているのがバレたんだろうな。左から迂回していこう」


「わかった。スミレちゃん、しっかり掴まってくれよ」

「う、うん」

 スミレがぎゅっとクロードにしがみつく。


 クロードに任せれば、スミレは安全だろう。


「ユージン様も僕から離れないようにしてくださいね」

「わかったよ。ただ、俺はいざとなったら一人でも逃げられるから帝国兵に見つかったら振り落とすくらいの気持ちで逃げてくれ」

「わ、わかりました」


 俺たちは気を引き締め、乾きの大地の上空を移動した。



 その後もぽつぽつと帝国の斥候が潜んでいたが、俺の魔力感知で避けながら進むことができた。


 景色に変化があったのは、陸地を移動し始めて一時間くらい経ったあたりだろうか。



「そんな……酷い……」

 スミレのつぶやきが聞こえた。


「これは……」

 俺たちの目に映ったのは、()()()()()()小さな集落だった。


 おそらく帝国空軍による、飛空船爆撃だろう。


 地面に巨大なくぼみがいくつもできている。


 ほとんどの家屋が破壊され、燃え尽きていた。


「このあたりに住む少数民族『砂の民』の村だな……」

「厳しい環境で育った砂の民の戦士は強靭です。聖国側の強力な前衛を務めていましたが、帝国軍によって故郷が焼き払われました……」


 クロードとミゲルが、暗い声で説明をしてくれた。


「そんな……これをアイリちゃんが……?」

「いや、スミレちゃん。別に彼女が命じたわけじゃ……」

 クロードが否定するのを聞きながら。


(帝国軍の軍事作戦の最終承認者は『元帥』だが、作戦内容は全て皇帝まで報告が上がる。そして、承認された作戦の『停止』権限を持つのは皇帝陛下だけだ。つまりアイリもこれを容認している……ということか?)


 自分で言っていて、現実味がわかない。


 アイリが一番嫌う作戦じゃ、……ないのか?


 その後、移動を続けると似たような光景を何度も目にすることになった。




 ◇




 広大な湖とその奥に巨大な壁のような山脈が見えてきた。


 三日月湖(クレセントレイク)と南の大陸の最高峰聖母山脈(アンナピーク)だ。


「やっとここまでこれましたね……」

 ミゲルがほっと一息ついた。


「よし、湖を超えたら完全に聖国(カルディア)神聖騎士団(ホーリーナイツ)の管轄領域だ。もう一息……」

 そうクロードが言った時。



 ドン!!!!



 という巨大な音と、衝撃が俺たちを襲った。


「きゃあ!!」

 悲鳴をあげるが、飛竜からは落ちないようスミレがしがみついているのを確認する。


「上だ!!」

 俺は叫びながら、心の中で舌打ちした。


 警戒を怠ったつもりはなかった。しかし


()()()()飛空船団がいたのか……)


 視界はもちろん、爆撃をしてくるまで魔力探知に引っかからないよう結界を張ってあったようだ。


「ユージン様! あれは!」  

 ミゲルが空を指差す。


 そのさきには黒い人影が……こちらへ落下していた。


「帝国軍の鉄人形兵(アイアンゴーレム)だ! 逃げるぞ! つかまれ、スミレちゃん!」

「う、うん!」

「ユージン様、しっかり掴まっていてください!」

 クロードとミゲルは、飛竜に指示を出す。


 が、俺はこちらに落下してくる鉄人形兵(アイアンゴーレム)に見覚えがあった。


(帝都の魔導研究所で開発中だった、最新型の飛行タイプだ。完成していたのか。飛竜で逃げ切れるかは……五分だな)


 下手をすると、鉄人形兵(こいつら)を聖国領土へ引き入れてしまう恐れがある。


 そう判断した俺は、全員へ聞こえるように叫んだ。


「俺はこいつらを足止めする! 皆は先に向かってくれ。聖都(アルシャーム)で落ち合おう」

「そ、それは危険です!」 

「ダメだよ! ゆーくん!」


 当然、ミゲルとスミレからは反対された。


 が、クロードは俺の考えを理解したらしい。


「ユージン。二人を聖都へ送り届けたら、迎えに戻る。無茶するなよ?」

「ああ、問題ない。二人を任せた!」

  

 その声に安心して、俺はミゲルの操る飛竜から飛び降りた。

 

 ――スミレちゃん! しかり掴まってろ!


 ――うそ! 本気、クロードくん!


 ――ユージン様! どうか、ご無事で!


 まだ戸惑っているスミレと心配するミゲルの声が小さくなっていく。


(飛行魔法……発動)

 

 自由落下から、ふわりと水中に飛び込んだような浮遊感に包まれた。


 トン! と地面に降りると同時に。


 ダダダダダダだだん! 


 と乱暴な音を立てて着地する帝国軍の鉄人形兵に取り囲まれた。


(人数が少ない方を優先する。帝国軍の基本作戦に忠実に魔導命令(コーディング)されてるな)


 やはり囮になって正解だった。


 俺は白剣を構える。


 この場にいるのは、鉄人形兵のみ。


 しかし、上空の飛空船には帝国軍人も多く待機しているはずだ。


 彼らまでやってくると、同郷の人間と戦うことになる。

 それは避けたい。


(さっさと片付けよう)


 ――弐天円鳴流・鎌鼬


 俺は決意し、手始めに二体の鉄人形兵の首を落とした。


 てっきりまだ動くと思ったのだが、首を落とされると停止するようだ。


「…………炎ノ嵐(ファイアストーム)!」

「…………雷の槍(サンダーランス)!」

「…………岩の砲弾(ストーンキャノン)!」

 

 近接戦闘は危険を判断したのか、鉄人形兵たちが攻撃魔法を繰り出す。


 悪くない手だが、人間よりも魔法の速度や精度が悪い。


 避けるのは難しくない。



 ――弐天円鳴流・飛燕


 

 近距離の鉄人形兵は、直接。


 遠くにいる鉄人形兵には斬撃を飛ばし首を落とす。


 正確にはわからないが、三分はかかっていないはずだ。



 俺は、全ての鉄人形兵を無力化した。



 その時、上空の方で魔力検知が反応する。


 中規模の部隊がこちらに降下している。


(鉄人形兵が反応しなくなったので、直接確認しにきたか)


 こっちは人間の部隊だろう。


 降下速度が、さきほどの鉄人形兵と全く違う。


 これなら近づかれる前にこの場を離れられそうだ。


(……姿隠しの結界魔法)


 俺は周囲の景色に溶け込み、聖都のある聖母山脈のほうへ移動を開始した。


(水魔法・水上歩行)


 三日月湖(クレセントレイク)の上を歩いて進む。


 移動は飛行魔法より遅いが、魔力の節約になる。


 湖の水面は穏やかだった。


 ただし、霧が出ていて視界が悪い。


 それが今の状況には都合がよかった。


 追ってくる帝国軍はいないようだ。


 上手くまけたらしい。


 俺は注意深く、霧の中の湖を進んだ。


 巨大な山脈の麓が近づいてくる。


 ここからが聖国領。


 予定とは違うが、たどり着いた。


 この奥にサラと運命の巫女(オリアンヌ)様がいる。


 二人に会うのが次の目的だ。


(にしても、帝国出身者が単独で歩いて入国とは……。完全に間者(スパイ)だな)


 苦笑いが溢れた。


 帝国軍からは逃げられたが、今度は神聖騎士団(ホーリーナイツ)に見つかる恐れがある。


 クロードたちと別れた現状では、おそらく言い訳は通じない。


 問答無用で斬られる。


 見つからないように進もう。


 俺はそう決意し、聖都を目指した。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、6月29日(日)です。


■感想返し:

>リリーこの可愛さでヒロイン昇格しないのは納得いかない!!

>是非とも!是非ともヒロイン昇格を!!!!


→リリー可愛いですよね。



>うわぁバカな作戦だぁ(誉め言葉)


→ユージンは見た目はクールキャラですが、中身は剣一筋の脳筋です。



■作者コメント

 最後の新キャラは運命の巫女オリアンヌさま。

 これから会いに行くのでちょうどよいですね。

挿絵(By みてみん)


 5巻の表紙は発売まで掲載します。

挿絵(By みてみん)


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
>オリアンヌ様 ご威光に平伏して忠誠を誓うので2次元に旅立ちます。
普通に帝国士官学校の機密情報漏洩がされている……
グランフレア帝国は強大すぎます。彼らは航空優勢を握っており、それなりの魔法が使えるウォーゴーレムまで持っています。聖なる同盟が負けているのも納得です。破壊された村々を見ると、帝国がこの戦争に負けること…
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