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168話 三年後 その二

「母さん……お久しぶりです」


 女神様の像と同じ高さの上空に現れた小柄な天使――ライラ母さんは悲しそうに微笑んだ。


「ユージン、立派になったわね」


 上空からゆっくりと降りてくる。


 決して速くはなかったが、気がつくと俺は母さんに頭を抱きしめられていた。


 自分の身体が温かい光に包まれた。


 優しい光なのに……なぜか悲しい気持ちになったのは、それが母さんの心情なのだと直感した。


(ずっとこのまま……)


 甘えていたい、という誘惑にかられる。


 けど、ここに来たのはそのためじゃない。 

 

 聞かないといけないこと、知らなければならないことがある。


「母さん……、親父がどうなったのか。教えて欲しい」


「…………」

 返事はなく、小さく母さんの身体が震えた。 


 それだけで……なんとなく察してしまう。


 しばらくの間、礼拝堂内を沈黙が支配した。


 母さんが意を決したように口を開いた。




「ユージン……あの人は……………………なの」




 母さんの口から放たれた言葉は、ほとんど聞こえないほどか細かった。


「そっか……」

 

 俺はその言葉を聞き、改めて心を落ち着ける。


 覚悟はしていた。


 ここにきたのは悲しみにきたんじゃない。


 必要なのは、前に進むこと。




 ――このあと苦難の道が続くと思うが……がんばれ


 

 

 ユーサー学園長の言葉が蘇る。


 学園長と違い、生き残れた俺にはやれることはある……はずだ。


「母さんに頼みがあるんだ」


「ユージン?」


 戸惑う母さんの目を真っ直ぐ見て、俺は口を開いた。




◇スミレの視点◇


「ゆーくん大丈夫かな……。顔色よくなかったけど」

 私が言うと。


「ま、大丈夫でしょ。ユージンだし」

 魔王さんが楽観的な返事だ。


 心配してない、というより信頼をしてる感じ。


 大人の余裕があった。


 エリーさんが言うなら大丈夫かなぁ。


「あ、そうだ! ゆーくんが戻ってきたこと、アイリちゃんやサラちゃんに伝えなきゃ。エリーさん、机と紙とペン借りるね」

「自分の部屋に戻ればいいでしょう……。なんでここ使うのよ」


「ゆーくんが戻って来るって言ってたでしょ」

「そしたら私がユージンの相手をしておいてあげるから☆」


「だーめ」

「けち」

 そんな軽口を叩き合う。


 こういう話ができるのもこの第七の封印牢だけなのでやっぱり落ち着く。


 イゾルデ団長にそれを言うと、心底あきれた表情をされたけど。


 私は綺麗に整頓された机に腰掛け、紙とペンを取った。


『サラちゃんへ』


 とこっちの世界の文字で書き始める。


 正確には聖国(カルディア)の文字とリュケイオン魔法学園で習う文字は少し違うらしいのだけど、サラちゃんにはどちらでも通じる。


 リュケイオン魔法学園の文字はグレンフレア帝国で使われてる南の大陸統一言語、というものらしい。


 私は細かいことは書かず。



天頂の塔(バベル)の封印が解かれて、ユージンくんが戻ってきました。ユージンくんは元気です。最近の大陸の動向を説明すると驚いてました。返事待ってます』



 とだけ手紙に記載した。


「随分とシンプルな文章ね。スミレの親友でしょ? もっと色々書くことあるんじゃないの」

 後ろから覗き込んだエリーさんがもっともな指摘をする。


「今のサラちゃんの立場は()()()だから。長い文章を書くと、暗号が仕込まれてないかチェックに時間がかかってなかなか手元に届かないんだって」


「ふーん、なるほどねー。面倒ね」

「ほんとに」

 私はため息を吐いた。


 現在のサラちゃんは、次期聖女ではなく聖国の最高指導者『八人の聖女(エイトセイント)』の一人。


 戦争が始まって、多くの高齢の聖女様は引退をされて若い聖女に代替わりをしたというニュースが流れてきた。


 現在の最年長の聖女様は、運命の巫女オリアンヌ様らしい。


 サラちゃんからは直接連絡があって、『ごめん、スミレちゃん。しばらく会えないかも』と手紙に書かれていたのを思い出す。


 それから定期的に手紙でのやりとりはしている。


 迷宮都市の現状とかを手紙で知らせると『私もそっちに戻りたい』とか書かれてあって、聖国の苦労が察せられた。


 それから同じようにシンプルな文面でアイリちゃんにも手紙を書く。


「帝国のあの子にも手紙送るの? どうせ返事なんて()()()んでしょ?」

 エリーさんの指摘に私は頷く。


「うん……、皇帝になったアイリちゃんからは全然返事がこない。たぶん、途中で全部検閲で止められてアイリちゃんまで届いてないんだと思う」


「じゃ、意味ないじゃない」

「でも、内容を確認して伝えてくれるかもしれないし……」


「難しいと思うわよ」

「わかってるよ。でもゆーくんが戻ったことを伝えないわけにはいかないし」

 そう言って、短い文章で手紙を書いた。


 アイリちゃんが迷宮都市を去る間際。




 ――ごめんなさい、スミレ。本当は貴女と一緒にユウのことを待ちたかった……




 涙を浮かべていた私の手を握ったアイリちゃんの表情は今でも忘れない。


 きっとゆーくんの無事を、帝都で願っているはず。


 私はそう信じている。


 2通の手紙をそれぞれ封筒に入れる。


 封蝋には簡単な結界魔法文字を付与した。


 これで少々のことでは破れたりしないはず。


「じゃあ、私は手紙を送ってくるね」

「はーい、行ってらっしゃい」

 ベッドでだらしなく寝転んだエリーさんがひらひらと手を振る。


 第七の封印牢をでた私は、迷宮都市の中心部へ向かった。


 迷宮都市の輸送は、現在旧・迷宮組合で行っている。


 いや、最終迷宮の封印が解かれたから、迷宮組合に戻るのかな。


(もしかしたら今は混んでるかも……)


 そんな予感がしたけど、ゆーくんが帰ってきたことを早くしらせたくて私は迷宮組合の建物へ向かった。




 ◇




「やっぱり人多かったなぁー……」


 人混みに揉まれて疲れた私は、再び第七の封印牢へ向かって歩いている。


 天頂の塔の封印が解かれたことは、迷宮都市中に知れ渡ってるようだった。


 普段ガラガラの建物内には探索を希望する人たちで溢れかえっていた。


 みんな天頂の塔が探索できるようになるのを待っていた。


 天頂の塔で取れる素材や宝物は南の大陸においては貴重なものが多い。


 本来の迷宮都市の主要輸出品。


(これで迷宮都市に人が戻ってくるかな……)


 ここ三年の迷宮都市は年々寂れていってるの実感して寂しかった。


 私が初めて異世界にやってきた頃の賑わいが懐かしい。


 あの頃はゆーくんにリュケイオン学園を案内されて、ユーサー学園長がいて……。


 ということを思い出すと、どうしてもしんみりしてしまう。


(でも、ゆーくんが戻ってきたから!)


 私は最奥の地下牢を目指した。


 そろそろゆーくんが帰ってきてるかなー、と期待しつつ封印された扉を開く。


 エリーさんのいる部屋に入ろうとした時。



「んっ……もう、ユージン激しいんだから♡」



(ん?)


 妙な声が聞こえた。


 今のって……可愛い声だったけど魔王(エリー)さんの声だよね?


 って、()()()()何してるの!


「ゆーくん! エリーさん!」


 私が慌てて部屋に入ると。


「すー……すー……」


 と可愛らしい寝息をたてる魔王さんがいるだけだった。


「あ、あれ……?」


 ゆーくんの姿はない。


 さっきの言葉は寝言だったみたい。


 幸せそうな顔でエリーさんは寝ている。


(可愛い寝顔だなぁ~……)


 私はベッドの縁に座って、エリーさんの長い銀髪を撫でた。


(ちょっと休も)


 私はエリーさんの隣で横になった。


 大きなサイズのベッドなので二人で寝ても余裕がある。


 横になった私は、すぐに眠りに落ちた。




 ◇




(……ん? 今何時だろ)


 目を覚ましても地下牢だと時間が分かりづらい。


「起きた? スミレ」

 隣を見るとエリーさんが目を覚ましてた。


 もっとも私と同じでさっき起きたみたい。


 いつも艶々の髪にわずかに寝癖がついている。


 表情も眠そうだ。


「おはよう……エリーさん」


 私はぼんやりした頭のまま返事をする。


 周囲を見渡すけど、まだゆーくんは戻ってきてない。


 もしかしたら、別の所に行ってるのかな。


 でも、リュケイオン魔法学園の寮はなくなってるし、寝る場所は他にないと思うんだけど……。


 あまり働いてない頭でそんなことを考えていると、視線を感じた。 


「…………」

 エリーさんの赤い瞳がこっちを見ている。 


「どうしたの? エリーさん」

 私が聞くと。


「スミレ~、魔力(マナ)もらっとくわよ」


「えっ? ……んんーっ!」


 私の返事を聞く前に()()()()()()


 昨日もあげたばっかりじゃん!


 私がバタバタ抵抗するけど、エリーさんに力で敵うわけがない。


 身体が熱くなり、唇を通して魔力が渡っていく。


(もー、強引なんだからー)


 私は抵抗をやめて、なされるがままになる。


 エリーさんは私に覆いかぶさっている。


 魔力連結(キス)されている間、暇だしエリーさんの大きい胸でも触ってやろうかと手を伸ばすと。




「………………なにやってるんだ?」




 誰かの声が聞こえた。


「「!?」」

 私とエリーさんは慌てて振り返る。


 とはいえ、現在の迷宮都市に第七の封印牢に入れる人は二人しかいない。


 一人は私、そしてもうひとりは……。


「ち、違うのよ、ユージン!」

「そ、そうだよ。ちがうの、ゆーくん!!」


 私とエリーさんは、ぱっと身体を離す。


「…………なにが?」

 ゆーくんは、まずいものを見てしまったという表情をしている。


 その後、エリーさんと私で魔力連結をしていた話をゆーくんに説明して理解してもらえた。


「随分、仲良く……なったんだな」

 ぽつりとゆーくんが言った。


 あれ? なんか引いてない?


 えっと……、理解してくれたよね?



 説明を終え、今度は私は気になっていることを聞いた。


 だって、ゆーくん朝帰りだよ?


「ゆーくんはどこで、なにしてたの?」

「ああ、ちょっと人に会いに。そのあと()()()()()行ってきた」 


「「え?」」

 私だけでなくエリーさんまで驚きの声をあげた。


 だって、三年封印されてやっと外にでられたのに、また迷宮に戻ってたの?


「なに考えてるのよ、ユージン」

「そーだよ、もう少しゆっくりしなよ」

 私たちが言うと、ゆーくんはちょっと困った顔で微笑み、すぐに真剣な顔になった。


「スミレ、エリー」


「なによ?」

「なに? ゆーくん」

 真面目な声で名前を呼ばれ、私たちは尋ねた。


「戦争を止めたいんだ。二人に手伝って欲しい」


 三年間迷宮に封印されて、出てきたばかりのゆーくんが口にしたのはそんな言葉だった。


 ゆーくん、休む気ある?

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、5月26日(月)です。

※5月25日(日)は信者ゼロの更新です。



■感想返し:


 今回は戦争に関する感想が多かったですね。


>どちらの国も愛しのユージンが帰ってきたとかでは止まらないよなぁ


→ですね。皇帝になったアイリ。聖女になったサラ。

 ユージンが会っただけでは、戦争を止めるのは難しいでしょう。


>アネモイがこのままお咎め無しという展開だけは辞めて下さい。


→アネモイには責任を取らせないといけないですね。



■作者コメント

 来週は2日連続更新かー。

 あと最近のジークアクスが楽しみすぎてやばい。

 来週のサイコガンダムのやらかしを期待している。


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをエックスでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://x.com/Isle_Osaki

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