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159話 最終迷宮の異変 その1


 カーン……カーン……カーン……カーン……


 迷宮都市に緊急事態を知らせる鐘が響いている。


 俺は迷宮組合からの呼び出しに従って、最終迷宮に向かう準備をした。


 手早く探索道具をまとめ、天剣と黒刀を腰に差す。


(スミレとサラはどうしてるだろう?)


 普段なら集合場所を決めておくか、英雄科の教室で待ち合わせるのだが……。


(ユージン、念話を使いなさい)


 魔王(エリー)の声が頭に届いた。


 普段と違って真剣な声で。


(俺は念話を使えないけど)


(契約関係にあるスミレとは使えるはずよ。やってみなさい。まずは対象を魔力検知で探してから、魔力連結(マナリンク)を遠くに飛ばす要領で)


(わかった。やってみる)


 魔王の教えにしたがって、魔力検知を行う。


 炎の神人族(イフリート)であるスミレの魔力は強大ですぐに見つかった。


 スミレに向かって魔力連結を試みる。


(魔力連結って普段は直接触れてやるものだから遠くに飛ばすっていってもな……)


(声に魔力を乗せて、スミレに呼びかけてみなさい。契約者に対しては繋がりやすくなるから)


(わかった。……スミレ、聞こえるか?……スミレ)


 しばらく語りかけてみるが、反応はない。


 こんなことをしている間に探しに行ったほうがはやいんじゃ、と一瞬迷っていると。




 ――ゆーくん!? えっ? なにこれ



 スミレの声が届いた。

 成功したかようだ。


(スミレ、今どこにいる?)


 ――わわっ、気のせいじゃなかった。本当にゆーくんの声だ。えっと、今はサラちゃん、アイリちゃんと一緒にどこに向かうか相談してたよ。


(わかった。じゃあ、学園の第三訓練所に集合してから天頂の塔に向かおう。サラとアイリにも伝えてくれ)


 ――うん! わかった!


 スミレから元気よく返事があり、念話は途切れた。


(どう? ユージン。便利でしょ?)

(ああ、助かったよ、エリ―。ありがとう)


(どういたしまして。それより今天頂の塔(バベル)がかなり奇妙なことになってるわよ。気をつけなさい)

(奇妙なこと?)


(私の未来予測が()()()()()の。リータからの返事もないし……。あと単純に『嫌な予感』がするわ)


(……わかった。十分注意するよ)

(死んじゃ駄目よ、ユージン)


 不吉なことを言ってエリーとの念話は切れた。


 エリーは普段、嫌な予感などという回りくどい言い方はしない。


 彼女の未来予測は、俺のとは違いほぼ正確に未来を言い当てることができるから。


 そのエリ―が『未来が読めない』と言った。


 もやもやした気持ちを抱えたまま、俺はスミレたちとの集合場所へ急いだ。




 ◇




 ……ズズズ


 地面が小さく揺れた。


「きゃあ!」

「危なっ!」

「転ぶなよ、気をつけろ!」


 学園の訓練所にはすでに多くに人が集まっていた。


 俺は目ではなく、魔力検知でスミレを探した。

 魔力の大きな生徒が多い魔法学園の生徒の中でも、ひときわ大きな魔力が右前方で見つかった。


(これは便利だな)


 俺は『空歩』を使って人混みをすり抜け、スミレのところまで移動した。


「スミレ!」

「わっ! ゆーくんが突然現れた!?」

「ユウ! 会えてよかった」

 スミレと一緒にいるのは幼馴染だった。


「アイリも一緒だったんだな。サラは?」

 スミレの話だと一緒にいるということだったが。


「サラちゃんは、生徒会のメンバーに会ってくるって。戦闘技能のない生徒を避難させないといけないからって」

「そうか。わかった」


 カーン……カーン……カーン……カーン……


 今も迷宮都市全体に聞こえるよう、緊急事態を知らせる鐘は不気味に鳴り続けている。


 この鐘が鳴っている時、一般市民は迷宮都市の外へ避難するよう義務付けられている。


 俺の知る限り、聞くのは初めてだった。


「アイリは生徒会の一員だろう? サラのほうへ行かなくていいのか?」

 俺が尋ねると。


「私もそう言ったんだけど、スミレを一人にしておくのは危険だからユウと合流するまでは一緒に居るようにって言われたの」

「もうー! 私だって修行して強くなったんだから、一人でゆーくんを探すくらいできるよ」


 アイリの言葉に、スミレが少し拗ねたように言う。


「いや、どうも迷宮都市全体の様子がおかしいから単独行動はやめておいたほうがいい。スミレとアイリは一緒に行動しよう。まずは、迷宮組合のアナウンス通り天頂の塔へ向かって情報を集める」


「えっ……でも、私は生徒会と合流して」

「アイリ、一緒にいてくれ」

「わ、わかったわ」

 俺はアイリの言葉を強引に遮った。


 スミレがなにか言いたそうな表情だが、何も言わなかった。


 俺が先頭を歩き、スミレとアイリが続く。


 ……ズズズ


 また地面が揺れた。


 さっきから1分おきくらいの感覚で、小さな地震が続いている。


(妙だな……)


 迷宮都市ではめったに地震が起きない。


 ただ、思ったより混乱が起きていないのは探索者たちは天頂の塔で様々な自然災害と出会っているからだろう。


 暴風、豪雪、大雨、竜巻や地震。


 階層によって様々な災害と直面する。


 地震を起こす魔物なんかもいるし、探索者にとって小さな地震そのものは慣れている。


「ねぇ、ゆーくん。なんだろうね……この地震」

 探索者歴が短いスミレが不安そうだ。


「ただの地震じゃないのは確かだな。天頂の塔から地震を引き起こすような魔物が逃げたか……。ただ、それにしては警戒が物々しすぎる」


「ねぇ、ユウ。この地震って珍しいの?」

 迷宮都市に来て間もないアイリはピンときてないようだ。


 帝都は地震が多かったからな。

 主に大魔獣のせいで。


「あぁ、迷宮内じゃともかく外だと俺は初めてだよ」

「…………」

 俺の言葉にアイリの表情もより真剣なものになる。


 そんな会話をしているうちに、天頂の塔の入口付近にやってきた。


 すでに多くの探索者たちが集まっている。


 おそらく三百人以上の探索者がいるのではなかろうか?


 そして、一箇所明らかに異常な場所があった。


 以前に、英雄科のクラスメイトたちと神獣『白虎』と戦った場所。


 天頂の塔の0階層『神の試練(デウスディシプリン)』が、無作為(ランダム)に発生する場所だ。


 そこに数十の黄金の魔法陣が浮かんでいた。


 魔法陣の術式は『召喚魔法』。


 何が召喚されているのかはわからないが、状況を鑑みると神獣である可能性が高い。


「えっと、神の試練なのかな……?」

 スミレが呟いた。


「にしては様子が変じゃないかしら」

 アイリの言う通り、迷宮都市の守護者十二騎士が全て揃い何やら険しい表情で会話している。


 その中心にいるのはユーサー学園長だ。


 珍しく腰に魔法剣を差し、杖まで持っている。


 他にも有名な高位探索者たちの顔も多数。


 こちらは迷宮組合の上級職員がなにやら説明をしている。


 どちらも取り込み中のようで、割って入れる空気ではなかった。


(仕方ない、迷宮組合からの次の指示を待つか)


 ただ、なるべく情報収集は続けたい。



 ……ズズズ ……ズズズ



 また、地面が揺れた。

 こころなしか、さっきよりも揺れが大きい。


 ということは、異常事態の中心はやはりここなのだろう。


 0階層の神の試練で起きているイレギュラー。


 最初に思い出したのは、迷宮主アネモイ・バベルだ。


迷宮主(アネモイ)さんがまたポカをしたのか」

「ありそう」

「前も神獣ヒドラの封印を解いてたものね」

 俺の推論にスミレとアイリが頷いた。


 アネモイさん。

 アイリみたいな新人探索者ですら疑われてますよ。


 もっとも迷宮主の名前を口にしたのは理由がある。


 おそらくこの事態に詳しいのは迷宮主のはずだ。


 天頂の塔で迷宮主の名前を出すと、現れることが多い。


 が、残念ながら今回は現れなかった。


「おや、ユージンくん。キミもきてたんだね」

 代わりに現れたのは赤毛のエルフの魔法使い。


 レベッカ・J・ウォーカー先輩だった。


「レベッカ先輩は今きた所ですか?」

「んー、一度後輩たちの避難を見届けてから戻ってきたよ。にしても厄介なことになってるね」

 腕組みをして、難しい顔をするレベッカ先輩。


 視線の先は、当然中に浮かぶ数十の魔法陣だ。

 いや、さっきから数が増えている。

 もう百を超えている。


「何が召喚されるんでしょうね。それに随分と時間がかかっている」

「ん? 違うよ、ユージンくん。あれは単なる召喚魔法じゃない」

 俺の言葉をレベッカ先輩が否定した。


「「「え?」」」

 俺だけでなくスミレとアイリも驚く。


(術式を読み間違えたのか……?)


 俺は黄金色に輝く魔法陣の術式を改めて、じっくりと読んだ。


 魔法陣は、魔法言語によって3つの構成で表現されている。


 第一文――門の生成の魔法言語(マナワード)


 第二文――通り道の生成の魔法言語(マナワード)


 第三文――呼びかけの魔法言語(マナワード)



「やっぱり召喚魔法の術式ですよ?」

「よくみたまえ。召喚魔法じゃないやつもあるだろう?」

 レベッカ先輩に言われていくつか他の魔法陣の確認する。


 第一文――門の生成の魔法言語(マナワード)


 第二文――通り道の生成の魔法言語(マナワード)


 第三文――門の解錠の魔法言語(マナワード)


 召喚魔法に必須である『呼びかけ』の魔法言語が書いていない。


 代わりに『門の解錠』が書かれていた。


「あれ? これって……」

「かなり簡略化されているけど空間転移(テレポート)の魔法陣が混じってる。つまり、何者かが()()()()来ようとしてるんだ」


「神獣が自分から……ですか?」

「うーん、そんなことある? って感じなんだけど」

 レベッカ先輩も戸惑っている。

 そりゃそうだ。


 流石にそれは……ありえないだろう。


 ……ズン!! 


 大きく地面が揺れた。


「きゃっ!」

「大丈夫? スミレ」

 転びそうになったスミレをアイリが支えている。


 そして、俺は見た。


 地震の揺れと同時に、魔法陣が増えるのを。


「みたかい? ユージンくん」

 レベッカ先輩の表情が険しい。


「魔法陣が増えましたね。ただ、それが何を意味しているのかは……」

 空間転移魔法が使えない俺にはわからなかった。


「そっか。君たちは空間転移を使わないから知らないのか……。本来、空間転移は『転移前』と『転移後』で周囲の自然を乱さない性質があるんだ。なるべく転移前と転移後の環境を近しくしておかないと空間転移に失敗しやすいからね。だけど、今目の前で起きているのは……」


「こっちに来ようとするだけで、地震が起こるような存在……?」

 俺の言葉にレベッカ先輩が頷いた。


「……ゆーくん」

 スミレが俺の腕を掴んだ。


 アイリと目が合った。


 潜在能力は高いが、戦いには不安がある異世界人のスミレ。


 戦闘技能は高いが、立場上前線にいてほしくない次期皇帝のアイリ。


 単独行動してほしくなくて、一緒にきてもらったがここにいるのはもっと危険かもしれない。


「アイリ、スミレと一緒に迷宮都市の外へ避難を……」

 俺が提案の言葉を言い終える前に。


「それは駄目」

「ここまできて帰れないわ」

 二人は避難を拒否してきた。


 できれば、説得したかったが。


「おしゃべりはここまで……かな。きたよ」

 レベッカ先輩の言葉に、俺たちは視線を魔法陣のほうへ戻した。



 ひときわ巨大な魔法陣が空中へと描かれる。



 おそらく(ドラゴン)がすっぽり収まるくらいの大きな魔法陣。



 そこから――とてつもなく巨大な赤い怪物の腕が現れた。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、3月23日(日)です。



■感想返し:

>エリーが後輩を堕落させる堕天使らしいと思えたことです。


→堕天使らしい一面が見れてよかったです。


>> 抵抗する魔王を俺は強引に引っ張る。

>単純な力では、ユージンよりもエリーの方が圧倒的に上だと思っていたのですが、

>成長したユージンはエリーを強引に引っ張るだけの力があるのでしょうか。


→ユージンに対してか弱いふりをしているだけです。

 エリーが本気を出すと、余裕で振り払えます。



>あれ? 封印とけちゃったら、バベルってどうなるの?

>運用するエネルギーが不足する→制御不能?


→この感想多かったですね。回答します。

 邪神(とある古い女神)の封印が解けて、邪神がどこか別の星に行ってしまうと

 徐々に惑星の魔力が減ります。


 その時は、『数万年後』には天頂の塔が稼働しなくなる可能性があります。

 邪神の魔力は桁違いなので、すぐに天頂の塔が動かなくなるなんてことはないです。


 少なくともユージンたちの探索に影響するようなことはないです。




■作者コメント

 今章のクライマックス、スタートです。


 信者ゼロ(漫画版)の最新話が更新されました。

 第45話「高月マコトは、第九区街を探索する」

 https://comic-gardo.com/episode/2550912964917698710


 


(再掲)3月25日に信者ゼロのコミック9巻が発売

挿絵(By みてみん)



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


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この星に封印された邪神って一人だけじゃ... まぁならここ数十年は安定してるんだろうか
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