157話 ユージンは、空の主を知る
・大地の主ベヒーモス
・大海の主リヴァイアサン
・大空の主バハムート。
かつて神話の時代に世界の覇権を争った聖神様が使役したと言われる三大神獣。
その力は凄まじく、空を裂き、山を砕き、湖の水を飲み干すほどと伝えられている。
星から星へと渡り、古き神々、外なる神々、竜の神の軍を蹴散らしたと神話にはある。
三大神獣が暴れたあとは、しばらく生物が住めぬ星になってしまうとか。
(まぁ、神話の話だから盛られているんだろうな)
と思っていた。
実際に目にするまでは。
「目があったならあまり長く見すぎないほうがいいぞ。精神汚染の恐れがある」
「…………え?」
ユーサー学園長にひょいっと、宇宙望遠鏡を取り上げられた。
俺は心を落ち着け立ち上がる。
まだ少し身体が震えている。
「最後の『神の試練』……。アレを相手にしないといけないんですか?」
「おそらく、な。天頂の塔の最上層にいるのだからそうなんだろう。私の知る限りそこまで到達した者は人類史上いないが。私の予想では900階層や800階層にも固定の神獣がいると考えている。おそらく500階層を堺に、天頂の塔の難易度が数ランク上がる」
俺の言葉に学園長は髭をいじりながら答えた。
俺は200階層を合同部隊でやっと突破できたのに、そんなものでは効かないらしい。
「反則ですよ。聖神様は試練を突破させるつもりがないのでは?」
「まぁ、何かしら考えがあるのかもしれんが……。普通に考えて地上の民が戦えるようなものではないな」
学園長もアレと戦って勝てる、とは言わなかった。
「あとは……実はでっかいだけで動きはのろまだったり、頭がすごく悪かったりとか……」
そこまで言いかけたとき
――ぞわりと
背中に悪寒が走った。
「っ!?」
慌てて天を見上げる。
そこには青空が広がっているだけだったが。
(視られている……!?)
「ユージン、聞かれているぞ。あまり悪口を言わぬ方が良い」
「いや……えっ? き、聞かれてるんですか?」
どれだけ距離があると思っている。
耳がいいなんてもんじゃないぞ。
「空の主バハムートは、宇宙を飛び周囲の星の様子を監視している。地上の民の声を聞き分け、異変がないか探るのが役目だ。当然、声は聞こえているさ」
「いやー……すごいですね。神話に出てくる神獣は格が違いますねー。かっこいいなー、あこがれちゃうなー」
俺が言うと威圧的な視線が消えた。
うわ……、本当に悪口に反応してたのか。
これは滅多なことは言えないな。
俺が何も言えずに黙っていると。
「バハムートが一つの星にとどまることは少ない。おそらく数日もすれば別の星へと向かうだろう」
「ずっと天頂の塔の最上階にいるわけじゃないんですね」
「この星で活動している三大神獣は他にも海の主リヴァイアサンがいるからな。流石に常時二体は過剰配置なのだろう」
また変なことを言い出したぞ、学園長が。
「リヴァイアサンもどこかにいるんです?」
「最終迷宮の一つ、海底神殿だ。知っているだろう?」
「……本当にいるんですね」
確かに迷宮学の講義で習ったが、イマイチ現実感がなくてイメージが湧いてなかった。
迷宮学の先生も本物のリヴァイアサンを見たことはないようだったし。
「ああ、ちゃんといたぞ。海底神殿に侵入者がこないよう番をしていた」
「…………見たんですね?」
学園長の口ぶりだと、どうやら海底神殿にも挑んでいたらしい。
「うむ、リヴァイアサンに見つかって焦ったな。海底神殿に封印されているという恐ろしい邪神というのを拝んでみたかったのだが」
「……何をやってるんですか」
どうやら探索者時代の学園長は、想像以上に色々と危険な場所へ行ってたようだ。
「おっと、もうこんな時間か。ところでユージンは暇をしているのか?」
「暇ってほどじゃないですが、午前は休みですね」
「では、少し伝言と使いを頼まれてはくれないか? ユージンは100階層の新しい担当天使と面識があっただろう?」
「リータさんならよく話しますよ。なんでしょうか?」
俺が尋ねると、ユーサー学園長は分厚い紙の束を渡してきた。
「ここ最近の天頂の塔での異変をまとめたレポートだ。渡しておいてくれないか」
「いいですけど……、直接渡しに行かないんですか?」
学園長は400階層超えの探索記録者。
迷宮昇降機ならすぐにたどり着ける。
「私は今の100階層の天使と面識がないのでな。知り合いのほうが話がはやいだろう? ついでに、今の異変を管理者がどのように考えているかも聞いておいてもらえると助かる」
「なるほど、わかりました」
俺は学園長の依頼を快く引き受けた。
「では、私は別の用事がある。任せたぞ、ユージン」
と言って学園長は空間転移でどこかへ消えた。
忙しい人だ。
俺は預かった紙束を脇にかかえ、天頂の塔へ向かう。
その途中、ふと気づいた。
(学園長って未来予知の魔眼を持ってたよな?)
運命の巫女様ほどの精度ではないらしいが、未来が視えたはずだ。
さっき偶然出会ったような口ぶりだったが、もしかすると100階層に書類を届けるのにちょうどいい俺に先回りしていたのかもしれない。
(そんな回りくどいことをしなくても、命じてくれたら言うことを聞くんだけどな)
迷宮都市国家の王であるユーサー学園長は、基本的にはここに住む民に命令ができる。
が、学園長が無茶な命令をしているのを聞いたことがない。
たまに、魔法生物が逃げ出して『避難命令』が出たり、魔法実験で失敗して『避難命令』が出るくらいだ。
避難ばっかりだな……。
本人は研究がなにより好きな魔法使い。
迷宮都市の運営方針は『団結と平和』。
迷宮都市の民は、誰もがユーサー王を信頼している。
もちろん、俺も。
(しっかりと預かったものを届けよう)
そんなことを考えていると、天頂の塔の1階層に到着した。
昼食前の中途半端な時間なこともあって、迷宮昇降機は空いていた。
中継装置を見ると、100階層で神の試練に挑んでいる探索隊もいなさそうだ。
俺は迷宮昇降機に乗り込み、100階層のボタンを押した。
◇
――チン
と音を立てて迷宮昇降機の扉が開いた。
100階層に降りると美しい若緑の草原とぽつぽつと林が広がっている。
(じゃあ、天使さんを探すか)
よくリータさんが書類仕事をしている大きな机のある場所へ言ってみると、山積みの書類はあったが天使さんはいなかった。
ここで待っていれば戻って来るような気がするが、できれば午後の授業には出たいので探しにいくことにした。
見晴らしのいい場所だ。
すぐに見つかるだろうと、俺は勘を頼りに周囲を歩いていると。
「………………」
「………………」
誰かが会話する声が聞こえてきた。
おそらく片方はリータさんだろう。
となると、もう一人はエリーあたりだろうか。
まぁ、行ってみればはっきりするか。
俺は声のするほうに歩いて言った。
じょじょに声が大きくなり、会話の内容が聞こえてくる。
「……まずいって……ータちゃん」
「……えー……、本当は……くせに♡」
(ん?)
会話の相手はエリーじゃないな。
そして、声に聞き覚えがあった。
場所は林になっていて、少し見通しが悪い。
木々の裏から声が聞こえてくる。
俺がそっちを覗こうとした時。
(馬鹿! ユージン! 何をふらふらしてるの! いま、いいところなの!)
誰かに後ろから引っ張られた。
(なに!?)
さっきまで一切の気配を感じなかったのに。
いつの間に背後を取られた!?
慌てて振り向き、刀の柄に手を駆ける前に俺の引っ張ったのが銀髪の絶世の美女だと気付いた。
「エリ……」
(声が大きい!)
魔王に口を塞がれた。
喋るなということらしい。
(どうしたんだ?)
俺が声を出さす、唇の動きで質問した。
エリーはそれが理解できたようで。
(そこから覗いてみなさい。静かにね)
と念話で声をかけてきた。
それに従い、ゆっくりと木の陰から覗いてみると。
(…………え?)
予想外の光景に声がでそうになった。
「なぁ、これは急じゃないか? リータちゃん」
「ここまでさせといて恥をかかせるんすか? クロードくん」
俺の目に映ったのは……。
――天使さんに押し倒される親友の姿だった。
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次回の更新は、3月9日(日)です。
■感想返し:
>しかし、お母さん的にエリー単独ルートは非推奨でもハーレムはありなのか。
→本当は一人に絞れ、って言いたいのをがまんしたようです。
■作者コメント
3月25日に信者ゼロのコミック9巻が発売です。
ソフィア王女&レオ王子可愛いですね
■その他
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