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156話 ユージンは、母と語る

「あの……母さん?」


「………………」

 話しかけるが返事がない。


 ただ不機嫌そうというか、どうやら怒ってるっぽい。


「えっと……何かあった? そもそも教会じゃないと会えないんじゃなかったっけ?」


「これは精神通信(マインドリンク)という天界の技術よ。本来は女神様の奇跡(まほう)なのだけど、少し無理を言って特別にユージンの夢に介入させてもらったの」


「へぇ~、そうなんだ」


「ところで! 私がどうしてここにきたか、理由はわかってる?」


「俺に会いに来てくれたんじゃ……」


 というと、母さんは眉間にシワを寄せてがっくりと首を下げた。


「それもあるけど! いろいろと言いたいことがあるの、聞きなさいユージン」

「は、はい」

 何やら真剣な話のようなので俺は慌てて姿勢を正す。


「まずは……」

 ごくり。


「200階層の『神の試練』突破おめでとう! 天界からユージンたちが挑戦する様子は見ていたわ。運命の女神(イリア)様や木の女神(フレイア)様、水の女神(エイル)様もユージンの剣技を褒めてたわよ。光栄に思いなさい」


 普通に褒められた。

 が、後半の言葉がとても聞き流せない。


「め、女神様が……俺を?」

 思わず上を見上げる。


 そこには青い空と黄金の雲が広がっているだけだった。


 女神様に視られていた……、という言葉に身が引き締まった。


「で、次の話なんだけど……」

 母さんの言葉で、俺は視線を前に戻した。


「ユージン」

「はい」

 まるでここからが本題、というように声が真剣なトーンになる。




「あなた…………どの()()()()()?」




「…………え?」

 神の試練や女神様の話から、急に別方向の話になった。


「やっぱりユージンが魔法剣士を再び目指すきっかけになったスミレちゃんかしら?」

「いや……あの」


「それとも学園にきて最初にパーティーを組んだサラちゃん?」

「……母さん?」


「それとも幼い頃から一緒に育って、最近はついに()()()()アイリちゃんかしら?」

「ちょっ!?」


 全部バレてる!?


 天界からって神の挑戦以外も視られてるのか!?


「ま、さ、か、とは思うけど……。エリーが本命だなんて言わないでしょうね?」

「…………」

 母さん的に魔王(エリー)が本命はNGなんだろうか?


「で、どうなの? 母さんに言ってみなさい」

「それは……」

 一瞬、誤魔化そうかとも思ったけど。

 

 わざわざ女神様に力を借りてまで夢の中で会いに来てくれた母さんに嘘をつくのは憚られた。


 だから正直に答える。

 

「俺は()()()()同じくらい好きだよ」

 はっきりと答えた。


「む……」

 母さんがなんとも言えない表情になる。


 が、俺の偽らざる気持ちだ。


 再び魔法剣士をめざすきっかけを作ってくれたスミレには、大きな恩がある。


 学園にきて知り合いが少なかった頃、パーティーを組んでくれたサラには感謝している。


 いっときは距離を置いていたけど、やっぱりアイリとは気軽に話せるようになって本当によかった。


 そして……一番心が荒んでいた時に俺を救ってくれたのはエリーだ。


 順番なんてつけられない。


「誰が本命とかはないよ。全員が大切な人だから」

「…………はぁ~」

 俺は真剣に言ったのだが、母さんは大きなため息を吐いた。

 あれ?

 

「ユージンって誠実なんだか、不誠実なんだかわからないわね」

「……だめかな?」


「別に(わたし)が許可するようなものでもないでしょ。ユージンの人生なんだから好きにしなさい。けど、大切な子たちなら泣かせちゃ駄目よ? ちゃんと見てますからね」

「わ、わかったよ、母さん」


 その見てるってのはどこまでなんだろう。


 さっきの言い分だとアイリと朝までいたことを見られてたっぽいし、なんならスミレやサラとのことも……。


 それから色々と小言を言われ。


 ――夜ふかししちゃ駄目よ。睡眠はしっかり取るのよ、とか。


 ――部屋は綺麗にするのよ。汚い部屋は女の子に嫌われるわよ、とか。


 ――服は綺麗にたたみなさい。シワだらけは駄目よ、とか。


 ――好き嫌いしないでちゃんと野菜も食べなさい、とか。


 ――迷宮探索以外の授業も幅広く取っておいたほうが将来役に立つわよ、とか。


 ――これ以上、恋人を増やすのはやめておきなさい、とか。


 ――家事や育児を女の子に任せっぱなしは駄目よ、とか。


 

 いっぱい過ぎて覚えきれなかった。

 

 最後のは気が早すぎると思うが。


「これくらいかしらね。ユージン! わかった!?」

「は、はい。母さん」

 やっと終わったようだ。


「じゃあ、私はこのあと女神様に呼ばれてるから! がんばりなさい!」 

 そう言って母さんの姿は黄金の霧に包まれて消え去った。


 なんか慌ただしかったな。


 感動の再会、って感じじゃなかった。


 同時に夢の中なのに、眠気が襲ってくる。


 眠気のなか、ふと思う。


(……そういえば、母さんからの説教って生まれて初めてだな)


 俺が物心ついた時、父親しかいなかった。


 親父はあまり細かいことは言わない性格だから、親からの説教自体がほとんどなかった。


 親から小言を言われる、という経験がほぼない。


 だからだろうか。新鮮だった。


 色々と細かいことは言われたが……、悪い気持ちはしなかった。


(……結構、貴重な体験……だったな)


 そんなことをぼんやりと考えているうちに、俺の意識は薄れていった。




 ◇




 ……チチチチ


 窓の外からは穏やか日差しと、鳥のさえずりが聞こえる。


 朝になっている。


(寝坊したか)


 朝は強いほうなのだが、昨日の神獣との戦いで相当疲れていたようだ。


(ん?)


 枕元に食べ物と紙が置いてある。


 紙をひろうと、なにか書いてあった。


------------------


 おはよう、ゆーくん!


 きのうはおつかれさま


 あさごはん、よかったらたべてね☆


 スミレより


------------------


 可愛らしい丸文字で書かれている。


 食べ物はパンにチーズとハムと野菜が挟んである食堂で売ってる迷宮携帯食だった。


 以前、俺が好きだと言ったのをスミレはわざわざ買ってきてくれたらしい。


(あとでお礼を言おう)


 ありがとうスミレ、と感謝を心の中で伝えつつ、俺はパンを食べて制服に着替えた。


(午前の授業は……もう間に合わないな。午後からにしよう)


 英雄科の生徒は必須授業が少ない。


 好きな講義を選択して自由に受けて良い。


 進級や卒業に必要は単位数は決まっているが、俺は普通科の時に多くの単位を取っていて無理をする必要はなかった。


 部屋を出て階段を降り、寮から学園の校舎のほうへ向かう。


 午後の授業まではまだ時間がある。


 学校の訓練場にでも顔を出そうと思ってたら、珍しい人物と出会った。


 深紅のローブを着た壮年の男性。


 


「ユーサー学園長?」


 長い筒のようなもので天頂の塔を観察している学園長だった。


「ユージン、昨日の『神の試練』突破はおめでとう」

 学園長は天頂の塔を観察しながらこっちに話しかけてきた。


「ありがとうございます。……何をなさってるんですか?」

 俺が聞くと学園長はようやく筒から目を話しこちらを向いた。


「うむ、この魔道具は『宇宙望遠鏡』と言ってな。大気圏を突き抜けている天頂の塔の最上階の様子を見ることができる」


「そんなことができるんですかっ!?」

「中の様子は見れないからあまり意味はないがな。わかるのは1()0()0()0()()()()()()()()の様子くらいだ」


「……え?」

 今なんて言った、学園長。

 1000階層の神獣だって?


「ちょっと待ってください。神獣は毎回、無作為(ランダム)に召喚されるはずですよね? どうして1000階層に神獣がいるんですか?」


「あまり知られていないことだが、神獣がランダム召喚なのは400階層までだ。500階層からは少し召喚のルールが変わる」


「……初めて聞いたんですが」

 英雄科の探索講義でもそんな話はでなかった。


「リュケイオン魔法学園の講師でも、400階層以上の記録保持者は私だけだからな。必要に応じて伝えようと思っていた。どうせ先の話だ」


「俺に言ってよかったんですか?」

「ユージンは500階層を目指しているのだろう? それに以前、私の探索の時の話を聞かせると約束をしていたからな」

 随分前の話を学園長は律儀に覚えてくれていたらしい。


「ちなみに500階層からの『神の試練』はどうなるんです?」

「うーむ……、これは調査ができた事例が一件しかないので確証はないのだが……。500階層の神の試練では戦う相手が『迷宮主』である可能性が高い」


「……え? 迷宮の主なのに500階層のボスなんですか?」

 色々とちょっかいを出してくるアネモイ・バベルの姿が脳裏に浮かぶ。


「第一位記録保持者のクリストの500階層の相手が当時の迷宮主だったようだ。ただ、迷宮主はある程度召喚する神獣を選択することができるようだから、裏をかいてくる可能性もある。信憑性は低いな」


「なるほど……迷宮主が相手……。手ごわそうですね」

 戦う姿をはっきりと見たわけではないが、スミレを大きく上回る魔力に、前に自分に逆らった魔物を仕留めていた迷宮魔法。

 少なくとも今の俺では歯が立たない相手だ。

 

「ユージンは今代の迷宮主と関係は良好だろう。うまくやれば、手加減をしてもらえるかもしれん。私は無理だろうな」

「ユーサー学園長は迷宮主に嫌われてますよね……」


 現在の安全・慎重な探索を推奨する迷宮組合を作った学園長と、探索者をはやく上層へ挑戦させたい迷宮主は思想が正反対だ。


「私は当面探索に行く予定はないから問題ないさ。ただ、ここ最近起きている天頂の塔の異変の原因だけは知っておきたい」

「そのために1000階層の様子の調査を?」


「うむ、だが見た所変わった様子はない。1000階層の神獣は大人しいままだ。かの神獣がなにか妙な動きをすれば、ここ最近の異変の説明もつくのだが……」


「ちなみに聞いてしまってもいいのかわかりませんが……1000階層の神獣って何なんです?」


 天頂の塔の最終関門。


 突破すれば、天界入りを果たし『永遠の命』が手に入ると言われている。


 どれほどの神獣が試練となって立ちはだかるのか。


「見てみればいい」

 ユーサー学園長は、ごく自然に俺に『宇宙望遠鏡』を手渡してきた。


「い、いいんですか!?」

「別にかまわんよ」

 俺はごくりと、つばを飲み込み手に持った魔道具を見つめる。


 偶然、ユーサー学園長と出会っただけの俺がそんなに簡単に知ってしまっていいのだろうか?


「ちなみに……迷宮組合や学園の講師、十二騎士様たちはは1000階層の神獣については把握してるんですか?」

「いや、聞かれたことがないから知らないと思うぞ」


「それは恐れ多いような……」

「おいおい、今更そんなことを気にするのか? 私に気軽に話しかけてくる数少ない友だろう、ユージンは」 

 ん?

 数少ない?


「ユーサー学園長の知り合いは多いじゃないですか」

 なんせ、この迷宮都市の王様だ。

 知らぬものはいない。


「もちろん知り合いは多いが、気軽に話しかけてくる者は少ないぞ? 私はもっとフレンドリーに接してほしいのだが、なかなかそうもいかんな」


「俺はけっこう雑に話しかけてましたが……」

「うむ、だから貴重なのだ。普通は私がいてもこちらから声をかけなければ、会話が発生しないからな」


「…………」

 どうやら俺はずっと前から、迷宮都市の人が恐れ多くて話しかけられないユーサー王に馴れ馴れしく話しかける生徒だったらしい。 

 

(もしかして、もしかしなくても前に生徒会メンバーから学園長の依怙贔屓って言われたのはそのせいか……)


 スミレと知り合って友人が増えたけど、その前は俺は全然友達いなかったからなぁ。

 だれも指摘してくれなかった。


 サラやクロードは、本国の立場があるから気軽にユーサー学園長に話しかけないだけかと思ったが、どうやらそもそも誰もフランクに話しかけたりしなかったらしい。


「どうした、ユージン? 見ないのか?」

 ユーサー学園長が不思議そうな顔をしている。


 まぁ、いいか。

 今更かしこまるのも変だ。

 俺はいつも通りに接しよう。


「見れるなら、見ますよ。せっかくの機会ですから」

「それでこそだな。見ると驚くぞ。腰を抜かすなよ」

 学園長がニヤニヤとしている。


(大げさな……)


 文字通り天と地の距離が離れている。


 1000階層の神獣は、さぞ有名なのだろうけどこの距離で腰を抜かしたりはしない。


 俺は『宇宙望遠鏡』を覗き込んだ。



(……ん?) 


 最初に目に入ったのは、一本の縦線だった。


 そして背景にはキラキラと輝く星々が見える。


「何もいませんよ、学園長」

 俺が尋ねると。 


「それは見ている場所が悪いな。おそらくユージンが見ているのは800階層あたりだ。もっと上をみよ」

「……この細長いのが天頂の塔なんですね。もっと上を見てみます」

 ゆっくりと宇宙望遠鏡の角度をあげる。


 すると細い縦線の天辺に、大きな鳥の巣のようなものがあった。


(なんだこれ、天頂の塔と比較してデカすぎだろう)

 

 間違いなくこの迷宮都市よりもでかい。


 1000階層の神獣は、巨大な鳥なのか?


「鳥の巣みたいなものがあります」

「む……、それは神獣が不在だな。おそらく近くを飛んでいるのだろう。近くを見ればおそらくいるはずだ」


「はぁ……」

 との言葉にしたがい、天頂の塔の周囲を探す。


 美しい宇宙がどこまでも広がっている。

 

 輝く星々は数え切れない。


 ゆっくりと宇宙望遠鏡を横に動かすと、大きな星――月が見えた。


 ――違和感があった。


(あ……れ……?)


 望遠鏡から覗いた先には月が見えている。


 普段、肉眼でみるよりもはっきりと月の姿が写っている。


 問題はそれと一緒に…………()()()()()()()()()()()()()が映っていた。

 

「………………は?」


 天文学は詳しくないが、それでも月の大きさがどの程度かは知っている。


 少なくともそんな大きさの生物などいるはずがない。


 ……ないのだが、目の前ではそれがおきていた。


「あの……学園長」

「どうした?」

「月と同じ大きさの竜がいるんですが」

 震える声で尋ねた。

 

「ああ、それが1000階層の神獣だ」

「な、なんですか、アレは!? でかいにしても限度があるでしょう!」

 思わず大きな声を上げると




 ――――――月にいる竜と()()()()()



 

「……あ」

 俺は思わず尻もちをついた。

 

 そんなはずがないのに、本能が理解した。


 俺の声があの竜に届いたのだと。


「な、なんですか……あの竜は……?」

 これまで出会ってきた神獣たちと一線を画していた。


「ユージンも知っているはずだが」

 ユーサー学園長は少しだけ、もったいぶって、その名を言った。


「あれは空の主バハムートだ。神話学で習っただろう?」

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次回の更新は【 3月2日(日) 】です。


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■感想返し:


>新しい天使のマリエルちゃん可愛い。今後も出番はあるのかな?あるといいな。


→久しぶりの新天使でした。

 リータちゃんの負担は減るのか。


>かーちゃん、今ユージンを叱ってもどうせアイリに手を出した後でまた叱る事になるのよ?

>・・・え!?女癖の話じゃないんですか!?


→女癖の話でした。



■作者コメント

 5巻の表紙を悩んでいます。

 メインヒロインたちが一巡したのでエリーに戻すか、別のサブヒロインにするか、母さん(聖原ライラ)にするか。

 母さんはヒロインじゃないからなぁ……。




■その他

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― 新着の感想 ―
・巨大な鳥ならジズかなと思ったら、バハムートの方だったか。 ・更新ありがとうございます。5巻の表紙はエリーかリリーか、それともリータちゃんやライラさんあたりが来るのか?とても楽しみです。
そっかあ…海底神殿にリヴァイアサンがいるんだから、そりゃ空(宇宙)にはバハムートいるかぁ 月と同サイズ( ゜д゜ )
竜神はすべての竜の祖先と言われている。月の竜バハムートは竜神とどのような関係があるのだろうか?何百年もの間、アスタロトは自分が竜神の最後の生き残りだと思っていた。ずっと、空のすぐ上に別の巨大な竜がいる…
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