154話 決着
周囲に渦巻く炎が、空気をチリチリと焼いている。
霧のような雨が降り続け、視界を遮る。
時折揺れる地面とぬかるんだ足元。
戦闘環境としては最悪に近い。
神獣『麒麟』の背丈は小さな城ほどもある。
普通に攻撃すれば足元しか狙えない。
かといって飛び上がれば、神獣の放つ落雷に襲われる。
(機動性を確保するには……)
「サラ!」
俺は後方に下がっていた仲間に声をかけた。
「ユージン!」
俺と目が合うと、すぐに意図に気づいたようで小さく頷いた。
――ユージン・サンタフィールドはサラとの契約を行使する
身体に温かな魔力があふれる。
最近魔王から教わった契約の実行方法。
離れた場所からでも、契約をしたサラから魔力を受け取れるようになった。
相手の許諾がいるため、いつでもというわけにはいかない。
魔王のように念話が使えるなら別だろうけど。
次期聖女の魔力によって、天使の力が強くなる。
背中から片翼の翼が生える。
魔力によってできた翼は、長くは持たない。
が、天使である母さんから受け継いだ翼は、飛行魔法の代わりになるだけでなく『空気を蹴る』ことができるようになる。
タン!!
と地面を蹴り、空中を駆ける。
「「…………」」
巨大な神獣の瞳がこちらを見つめている。
何かを待っているかのように。
(……空歩)
麒麟の周囲を渦巻く炎を避けながら、神獣の首を狙う。
「飛燕」
斬撃を飛ばすも、キン! と鈍い音をたてて麒麟の鱗に弾かれた。
(直接斬らなければ駄目か……おっと)
自分が落雷に打たれる姿が脳裏に浮かび、慌てて避ける方向を変える。
にしても、これだけ俺は動き回っているのにどうして正確に落雷を当てられる?
もしや神獣も未来予知の魔法を使っている?
(ただの勘よ)
魔王の念話が短く告げた。
(勘だけでここまで当たるのか?)
(獣の勘をなめないほうがいいわよ。かりにも神に仕えてる獣よ?)
(そっか……そうだな。ありがとう、エリー)
(どういたしまして)
念話が途切れる。
わざわざヒントを与えてくれたらしい。
つまり、神獣は未来予知は使えない。
「スミレ!」
俺は相棒の名前を呼んだ。
「ゆーくん!!」
名前を呼ばれると共に、燃え上がるように熱い魔力が身体に満ちる。
――ユージン・サンタフィールドは指扇スミレとの契約を行使する
(ぐっ……!)
あまりに一気に魔力が流れ込んできたものだから、思わず胸を抑えた。
そして落雷に撃たれる自分の未来が視える。
避ける時間はない。
(結界魔法・光の結界!)
全身を覆う簡単な結界魔法。
それを一重でしか貼れなかった。
結界が壊れ、ダメージを覚悟していたのだが。
(耐えたか……)
流石は炎の神人族の魔力だ。
これでしばらくは神獣の相手をできる。
俺が神獣の注意を引き、ロベール部長が仕留める。
俺はその役目に徹した。
◇
それから5分。
俺が粘ることができた時間だ。
(あまり得意な技じゃないが……)
威力の低い技は、そもそも神獣の鱗に刃すら通らない。
かつ、神獣が警戒してくれるのは威力の大きな技だとわかった。
なら、やることは一つ
弐天円鳴流のもっとも一撃が強い技を
――弐天円鳴流『奥義』雷の型……麒麟
その名を借りた神獣の技を、借りた相手へと返す。
電光石火の速度で踏み込み、相手の喉笛に食らいつく狼となって神獣の首を狙う。
が……。
バヂィッー!!!!
一瞬で、視界が白く染まる。
(魔法の稲妻……しかもこれは)
何度も使っている落雷ではなく、全方位向け魔法。
ザン! と僅かに俺の剣が麒麟の堅い鱗を切り落とす。
が、それだけだった。
奥義を使ってなお神獣には届かなかった。
さっきの魔法の稲妻で、俺の周囲の結界魔法は全て壊れている。
麒麟が吠える。
角が魔力で輝き、俺に追撃が迫る。
神獣『麒麟』が、完全に俺を標的にして……ロベール部長への警戒を怠っている。
(きた……)
神獣に悟られぬよう、視線はそちらに向けない。
神獣の真後ろ、完全な死角からロベール部長が一閃を放つ。
完全な不意打ち。
が、麒麟が反応した。
首をひねりロベール部長の攻撃を躱す。
神獣の視線は、すでにロベール部長を捉えている。
(神獣は視界が360度あるのか? それともこれも神獣の勘……?)
不意打ちは失敗した。
身体は重いが、俺も参加せねばと思った時。
…………カン
薪を斧で割ったような音が響いた。
ドシン! と何かが落ちる。
神獣の片方の角が根本から斬られた。
ゴォォォォォッ――!
黄金の角が――正確には角に集まった魔力が爆発した。
(くっ……!!)
爆風と爆炎の中、なんとか体勢だけは整えた。
麒麟の追撃がくるかと身構えたがなかった。
片方の角をおられた麒麟は、静かにこちらを見下ろしている。
代わりにやってきたのは、ロベール部長だった。
「ありがとう、ユージンくん。おかげで麒麟の角を折ることができた」
「さっきの技はどうやったんですか? 麒麟への不意打ちが失敗したと思っていたら、突然別の場所からロベール部長が現れました」
俺が聞くと、ロベール部長は意味ありげに笑った。
「できることは全てやった」
「そうですね。俺は魔力が空っぽです」
お互いに笑う。
そして、次の天使の声を待った。
神獣は動かない。
長い数秒が経過した。
――挑戦者の勝利です。おめでとうございます。
無機質な声の天使の声が響いた。
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■感想返し:
>雷切をやってのけるとは、ロベール部長、既に伝説の剣士のレベルですな
>手数と引き出しの多さが特徴の円鳴流、一撃必殺の一刀流というところですか
→これだけ見るとロベール部長のほうが主人公属性が強いな……。
■作者コメント
『新作』……ではなく、カクヨムで掲載していた作品を少しだけリメイクしてなろうで掲載はじめました。
主人公のマホヨは、太陽の女神様の加護持ちです。
他シリーズとの関連性は、女神様くらいですが気になる人はぜひご一読ください。
現在、6話までUPしています。
完結まで毎日更新予定(原稿は書き終わり済)です。
魔法少女の卒業試験
https://ncode.syosetu.com/n2425jc/
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