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153話 ロベール・クラウン

◇ロベール・クラウンの視点◇


 ドン!!


 落雷が地面を焦がす。


 それをユージンくんは余裕をもってかわしている。


 さっきまではかなり危なっかしかったのだが、もう慣れたのだろうか。

 恐ろしい順応性だ。


「『風の型』飛燕!」

 飛ぶ斬撃が神獣麒麟に迫る。


 ――キュォオオオオーーン!!


 神獣の鳴き声によって「ゴウ!」と風の結界が発生し、斬撃をかき消す。


 その間にユージンくんは、神獣の背後に周りこむ。


 タン! と神獣は空中へと逃げた。


「空歩!」

 それを追って、ユージンくんも飛び上がる。


(あの高さの神獣に届くのか……)


 剣術部にも飛空魔法を使えるものはいるが、ユージンくんほどの速度は出せない。


 あれも弐天円鳴流の技なのだろう。


「うわっ!」

 空中にいるところを、神獣の落雷に狙われたようだが器用にかわしている。


 よくあれを回避できるものだと感心する。


 ユージンくんは、高所から綺麗に着地をした。


 その周囲を、神獣はぐるぐると空中を駆けている。


(よし神獣の注意はユージンくんに向いている……)


 私は北神一刀流の構えをとる。


 北神一刀流は、東の大陸から伝わったとされる伝統のある剣術だ。


 昔、戦火を逃れてきた難民を聖国が受け入れその中に剣聖の末裔がいたらしい。


 東の大陸にいくつも伝わる剣聖の剣術から派生した流派だ。


 北神一刀流の技は、駆け引きが少ない。


 ほとんどが一刀で斬り伏せて、相手を倒す。


 そのため仕掛けるなら、戦闘開始直後がもっとも効果が高い。


 しかし、無作為に神獣が召喚される『神の試練』では事前に相手の情報を得ることができない。


 そのため私は後方で指揮に専念していたが……。


(部員たちと、臨時の助っ人メンバーが神獣と戦って動きを把握。そしてユージンくんが囮を買って出てくれた。この一刀は外せない……)


 精神を集中させる。


 周囲から音が消えた。


 景色がぼやけ、神獣の姿だけがはっきりと認識できる。


 神獣の注意はこっちにむいていない。


 ユージンくんに攻撃するために、地上に降りてこようとするタイミングを見計らい。


 神獣の死角から一気に距離をつめる。




 ――『秘技』星流剣




 北神一刀流で最速の一撃。


 天から降る流星の速度で、敵を斬り伏せる技。


 刃が閃光となり、空気を斬り裂いた。


 星のように煌めく斬撃に神獣麒麟の鱗が切り裂かれ


 ――ザシュッ!!


 と赤い血が吹き出した。



 ぐらりと、神獣の身体が傾く。


 部員たちの歓声が聞こえた。


(私の剣が通じたか……)


 ほっとしたのもつかの間だった。


 ゴウ!!


 と火柱が上がった。


 巨大な火柱が七本。


 神獣の周囲を守るように囲っている。


 バチバチ! と麒麟の角が白い光を放っている。


 明らかに今までと違う。



(ここからが本気というわけか……)



「ロベール部長!」

「ユージンくん、すまない! 仕留めそこねた」

 こちらへ駆け寄ってきた、ユージンくんに私は詫びた。 


 せっかくの機会をふいにしてしまった。


 囮をやってくれた彼には申し訳ない。


 さっきの一撃では神獣に認められなかった。


 残念だが、神の試練は終わりに……。


「今の剣技すごいですね! まったく見えませんでした。今度、俺にも使ってみてくださいよ」

 ユージンくんが目を輝かせている。

 普段の冷静な様子とは雰囲気が違う。


「本来は人に使う技ではないのだが……」

 剣聖が魔族や魔物と戦うことを想定した剣技だと教わっている。


「なるほど……、さすがは聖国の剣技ですね。ところで、他にはないんですか? さっきのが奥義ですか?」

 ユージンくんは北神一刀流の技がきになるらしい。


 ちなみに神獣はというと、周囲を炎が取り囲み角が太陽のように輝いているままこちらを見ている。


 つまりは――()()()()()()()()


(随分と優しいな)

 もしくは余裕なのか。

 

「奥義は別にあるが……、さっきので神獣には私も警戒されてしまっただろう。厳しいのではないか?」

「そうですね。不意打ちは難しいでしょうね。じゃあ、最後は正面突破でいきますか」

 

 ユージンくんが不敵に笑う。


 実に楽しそうに。


(ユージンくんは戦いの時には性格が変わるのだな)


 神獣麒麟は静かにこちらを見ている。


 ここで挑戦を辞めるのは、神獣に失礼だろう。


「ユージンくん、次の一撃で最後だ。どちらかが、麒麟に一太刀を食らわせ、それでも神獣に認められなかった場合は、神の試練を終了する」


「わかりました。最後の一撃ですね」

 というやユージンくんの姿が掻き消える。


 空歩、という移動術を使ったのだろう。


 炎に守られる神獣に迷わず突っ込んでいる。


 それに遅れぬよう、後に続いた。




 ◇ユージンの視点◇



 神獣の周囲は、山火事の中のようになっている。


 俺は結界魔法で防いでいるが、ロベール部長は大丈夫だろうか?

 

 心配になって振り向くと。


(凄ぇ……)


 迫りるく炎を、ロベール部長は涼しい顔で斬り捌いている。


 この人、なにがあろうとすべて剣で対処するんだな。

 

 とりあえず問題はなさそうだ。


(問題なのは……)


 先ほどまでと異なり、いっさい空中へ飛び上がらなくなった麒麟。


 白く発光する角が、「……ジジジジ」と嫌な音を立てている。


 天使の目を使うまでもなく、麒麟の角に恐ろしいほどの魔力が集まっているのがわかる。


 あれはくらえないな……。 

 

 その時、ぽつりぽつりと顔に水が当たった。


(雨……?)

  

 200階層に雨が降ってきた。


 おそらく麒麟が天候を操っているんだろう。


 麒麟を取り囲む炎の勢いは、何故か弱まらない。


 ただ、雨によって視界が悪くなった。


 さらに……ズズズズ……、と地面が揺れた。


(地震まで起こせるのか……)


 時間が経てば、雨でぬかるんだ地面で戦いづらくなる。


 しかも、不定期で起こる地震。


 時間はかけないほうがいい。


 その時だった。


(……え?) 

 俺の天使の目に、()()()()()雷に撃たれる自分の姿が映った。

 

 数秒後の自分だ。


「結界魔法!!」

 状況が理解できず、俺は魔法で防ぐことを選んだ。



 ――キュォオオオオーーン!! 



 麒麟が高い声でなくと、輝く角から蜘蛛の巣のように稲妻が広がった。


 稲妻が空中を駆け巡る。


 さらに雨を伝わってすべてに広がっていった。


(危なかった……)

 結界魔法を使っていなかったら、おそらく失神していた。  


「ロベール部長!」

 結界魔法が使えない部長のほうを振り返ると…………なぜか、涼しい顔のロベール部長が立っていた。


「危なかったな」

「あの……どうやって防いだんですか? 避けれなかったと思うんですけど」


「ああ、雷を斬った」

「斬った?」

 なにいってんだ、この人?


「ユージンくんが結界魔法を使ってくれなかったら危なかったよ。何か攻撃がくると心の準備ができたからね」 

「は、はぁ……」


 心の準備をしても防げるようなものではなかったはずだが。

 

 剣技って極めるとこうなるのか。


「では、いこうか」

「は、はい」

 炎に囲まれ、雨で視界が悪く、地面は揺れている。

 

 最悪なコンディションだが、俺はいつものように剣を構えた。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、2月9日(日)です。



■感想返し:


>ユージンとロベール部長といった、強者同士での共闘が見られることです。


→ロベール部長、当初はちょい役だったんですが、気がつくと出番増えてました。



■作者コメント

 現在、5巻の執筆中です。

 やばい、今六章だから追いつかれる……。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

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雷切をやってのけるとは、ロベール部長、既に伝説の剣士のレベルですな 手数と引き出しの多さが特徴の円鳴流、一撃必殺の一刀流というところですか 二人が戦ったらどんな結果になるのか見てみたかったですね
グループで戦っているにもかかわらず、ほとんどの探索者がこれらのレベルを克服しなかったのは良いことだと思います。100階に到達した魔法使いと戦士はすでに高く評価されており、簡単に仕事に就くことができると…
[良かった点] ローベル部長から西大陸の勇者クラスの実力者並みの強さを感じたことと、ユージンが強敵との戦いに快楽を見出す戦闘狂で主人公らしさを感じたことが良かったです。 [気になる点] スミレとサラ…
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