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150話 ユージンは、200階層へ到着する

 200階層へ向かう迷宮(ダンジョン)昇降機(エレベーター)内。


 到着してからの流れは、事前に1階層で説明を受けており簡単な予行演習(リハーサル)まで行っている。


 剣術部の一軍と助っ人メンバー全員が同じ昇降機には乗れないため、俺たちはロベール部長とは別の機に乗った。


 約10分後には合流する予定だ。


 俺は腰に挿してある天剣と神刀を確認する。

 どちらも問題ない。


 魔力(マナ)に関しては、昇降機に乗る前に炎の神人族(スミレ)次期聖女(サラ)から受け取っている。


 おかげで既に俺の髪は真っ赤で、身体の周囲がうっすらと発光している。


 自分の魔力ではないので、細かい制御ができないためだ。

 

(なんか恥ずかしいな……)

 と自分の燃えるような赤い髪を弄りながら、昇降機が200階層に到着するのを待っていると話しかけられた。 


「ユージンくんはやる気だね~。話すのは初めてだけど、今日はよろしくね☆」

 話しかけてきたのは、背の低いぼさぼさの髪に、分厚いレンズのメガネをかけた小柄な女性だった。


 魔法研究者用の白いローブを着ており、これから神の試練に挑むとは思えない格好だ。


「はじめまして、ユージン・サンタフィールドです。貴女は魔道具開発部のエイダ部長……ですよね?」

 話すのは初めてだが、有名な人なので顔は知っている。

 英雄科の先輩にあたるひとで、たしかロベール部長とはクラスメイトのはずだ。


「うん、そうだよー。にしても、君の体質は不思議だねー。魔力連結をしてもそこまで髪色が変化する人に初めてあったよ。魔力伝導率が高いのかな。うーん、時間があればぜひ調査してみたいねー。せっかく知り合えたのだからこれから仲良く……」


「あ、あの……何をしてるんですか?」

 エイダ部長が俺の身体や髪を無遠慮に触ってくる。

 なんか初対面に対しての距離感がおかしくないか!?


「おい、エイダくん。彼が困ってるだろ」

「わー、そんな強く引っ張らないでくれよー!」

 と俺からエイダ部長を引き剥がしてくれる人がいた。


 赤に近いオレンジ髪のエルフの魔法使い。

 大きなぱっちりとしたツリ目でこちらに笑顔を向けてくるのは。


「レベッカ先輩。お久しぶりです」

「まったくだよ。いつ天頂の塔攻略に誘ってくれるのかと待ってたのに、冷たいじゃないか」

 次に話しかけてきたのは、学園祭で知り合いになったレベッカ実行委員長だった。

 

 レベッカ先輩には、かつて学園祭の武闘大会の優勝者との特別試合をするという依頼を聞く代わりに、いつか天頂の塔の探索を手伝ってもらうという約束をしていた。


 が、結局その話は有耶無耶になっていた。

 どうやらレベッカ先輩は、義理堅く待っていてくれたらしい。

 ちょっと申し訳ないことをした。


「すいません、色々と立て込んでまして……」

「ははは、わかってるよ。ユージンくんの活躍は聞いてたからね。今日はよろしくね」

「はい、よろしくお願いします、レベッカ先輩」

 そんな挨拶をしていると、俺の目の前をひらひらと光輝く蝶が通過した。


(月光蝶……?)


 最終迷宮の森林領域に生息している生物で、その姿を見ると幻覚をみてしまうと言われている。

 本来は迷宮昇降機内にいるはずがない生物だ。 

 

 つまり月光蝶の発生は人為的なわけで、そんなことをするのは……。


「おい! カルロ! こんな狭い場所で月光蝶を呼び出すなんて何考えてる!?」

「痛っ……いきなり蹴らないでくれよ、乱暴だなぁー、レベッカちゃん」 

 やっぱり生物部のカルロ先輩だった。


 レベッカ先輩、カルロ先輩もロベール部長から誘われたらしい。

 とはいえ、生物部の後輩として俺も一言いっておかないと。


「カルロ先輩、月光蝶は危険ですよ。敵と戦う幻覚を見てしまったらどうするんですか」

 俺といっしょに炎の神人族のスミレや、聖剣をもったサラがいる。

 万が一二人が暴れたら洒落にならない。


「ははっ、大丈夫だよ。この月光蝶は幻覚魔法を使わないように品種改良してあるからね。安全面もばっちりさ」

「そんなことができるんですか!?」

 驚いた。

 なんでもないように言ってるが、かなりとんでもないのでは?


「…………というか幻覚を見せない月光蝶に何の意味があるの?」

 レベッカ先輩が訝しげに腕組みしていると。


「わー、綺麗」

「人から逃げないのね」

 スミレとサラが、月光蝶をみてはしゃいでいる。

 二人の周囲を光を放ちながら、ひらひらと飛び回る月光蝶は幻想的な光景を生んでいた。

 

「観賞用に使えそうじゃない?」

「……なるほどね。確かにこれは……売れそうね」

 カルロ先輩の言葉に、レベッカ先輩が感心したように頷いた。


「ねぇ! カルロ! この月光蝶はいくらで買えるの!? 私が高値で売ってきてあげるわ!」

「まだそこまで量産化はできてないよ。それにこれで儲けるというよりは、趣味の合う人なら別にただでも……」


「あんた! なんでそんなに商売っ気がないのよ。こういうのはあとから真似されるんだから、発明者は最初にしっかり稼がないと後悔するのよ!」

 レベッカ先輩がカルロ先輩に説教している。 


「ねーねー、カルロくん。ボクも興味があるから、この無害な月光蝶を一匹譲ってくれないかなー。代わりにうちの魔道具の試作品を自由に持っていっていいから」

 そこへ魔道具開発部のエイダ部長が割り込んできた。


「いいの? じゃあ、あげるねー」

「やったー!」

 カルロ先輩とエイダ部長は、どちらも研究者タイプで気が合うようだ。


「あんたたちはすぐ適当に取引してー。エイダの試作品なんて、役に立たないか爆発するかのどっちかじゃない」

「ひどいなー、レベッカくんの言い草は」

「まぁまぁレベッカちゃん、細かいことはいいじゃないか」

 先輩たちで盛り上がっている。


 あとで聞いたが、三人とも同じ英雄科のクラスメイトだった。


 先輩たちの会話の邪魔をしては悪いので、俺は挨拶を終え少し離れる。


「ねぇ、ユウ」

 俺は後ろから背中をつつかれた。


「アイリ、どうしたんだ?」

 振り返ると先日の元気がなかった様子はなくなり、いつもの幼馴染の姿があった。


 今回の200階層の『神の試練』にはアイリもやってきた。

 ただし、あまり前には出過ぎないようにと約束している。


「あの人たちってユウがお世話になってる人たちなんでしょ? 私も挨拶をしたほうがいいかしら?」

 視線の先にいるのは、さっきまで会話していたカルロ先輩たちだった。


「到着まで少し時間があるだろうし、挨拶しておいてもいいんじゃないか」

 俺が言うと。


「そう、ね! じゃあ、行ってくるわ! ありがと、ユウ」

 アイリは小走りで先輩たちのほうに言って、話しかけている。


(あ……先輩がたがびっくりしてる)


 てっきりカルロ先輩あたりは、次期皇帝(アイリ)の顔を知らないんじゃないかと思っていたが、そんなことはなかったらしい。 


 アイリは元気になってよかったなー、とぼんやり眺めていると。



「ゆーくん、アイリちゃんとラブラブだねー」


「ユージン、釣った魚にもそろそろ餌をくれないかしら?」


 背中がぞわりとする。

 振り返るまでもなく、スミレとサラだ。


「あの……アイリとは……」

 俺が口を開き言葉を発する前に。


「大丈夫だよ、サラちゃん。もうアイリちゃんも()()()()()()だから。だってこの前は朝帰りだったし」

「そういえばそうね。でもほうっておくとすぐユージンは、()()()()()目移りしちゃうの。だから見張って……わからせておかないと」


 スミレとサラの言葉が止まらない。


「あー、確かにさっきも可愛い部長さんといちゃいちゃしてたし…………ゆるせないね」

「スミレ、さっきのはエイダ部長から一方的に……」


「レベッカ委員長ともいい雰囲気だったし…………ゆるせないわ」

「サラ、あれは以前の約束の話を……」


「ゆーくん」

「ユージン」

 俺の言葉は届かず、スミレとサラにずいっと迫られる。


「……は、はい」

 気がつくと背中に壁があった。


「「…………」」

 なんだろう。

 スミレとサラの迫力が、神獣や迷宮主に匹敵するんだが。


 ただ、この状況自体はあまり珍しくない。

 というかよくある。


 魔王(エリー)のところから帰ってきたあとの二人は毎回不機嫌だ。


 だから二人をなだめないといけないのだけど



 

「えっと……三人でなにしてるの?」




 挨拶を終えたアイリが戻ってきた。


 そして、戻ってきたら俺はスミレとサラに壁際に追い詰められている様子をみてぽかんとしている。


 さて、どう説明したらいいものか迷っていると。


 


 ――200階層に到着しました。




 機械的な音声が昇降機内に響いた。


 そして、ゆっくりと扉が開く。



「いこうか、スミレ、サラ、アイリ」


「はーい、わかったよ」

「続きはあとね」

 スミレとサラは、ぱっと表情を普段通りに戻した。


「ねぇねぇ、ユウ。さっきはなにをしてたの!? 楽しそうね! ああやって、部隊の結束を固めてるの!?」

 アイリが無邪気に話しかけてくる。


 えらくポジティブに解釈してくれている。

 壁際に追い詰められていただけです。


 アイリに話しかけられながら、俺は200階層に足を踏み入れた。


 すでにロベール部長たちは到着していた。


 剣術部の一人が、メンバーに漏れがないことを確認している。


 その間、俺は200階層の周囲を見回した。

    

 そこは地面も壁も空も灰色の空間だった。


 殺風景なのは100階層もだが、ここはそれ以上だ。


 なにもない。


 そこに無機質な声が響く。




 ――よく来ました。勇敢な探索者たち。あなたたちには『神の試練』に挑戦をする権利があります。その権利を行使するかはあなたたちの自由です。よく考えてお聞かせください。挑戦をしますか?



 その言葉にロベール部長は、全員の顔を見回し告げた。


「問題のあるものは言ってくれ」

 その言葉に言い返す者はいない。


 ロベール部長は小さく頷き。



「我らは200階層の『神の試練(デウスディシプリン)』に挑戦する!」



 力強く宣言した。


 と同時に、周囲の景色が変わる。


 灰色の地面がゴツゴツした岩肌に。


 灰色の空が、分厚い雲に覆われた空へと変わる。


 目の前に七色の大きな魔法陣が輝く。


 そして、『神獣』が出現した。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、来年の1月19日(日)です。



■感想返し:

>朝まで…語り合っただけ?

>それともヤっちゃった!?


→まだ今回はどうだったのかは不明です。



>不機嫌となった三人

>エリーは動じないと思ったが…。


→エリーは余裕ぶってるだけで嫉妬深いです。

 ゼロ剣のヒロインは全員嫉妬深いヒロインです。



■作者コメント

 最近、キャラがどんどん増えてるなー。

 前作の時はなるべくネームドキャラを増やさない方針だったんですが、学園ものは

 もっと気軽に増やしたほうが話を作りやすいと最近思ってます。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
スミレが「つられた魚側」って言ってるしクッソ不機嫌だから一発やっちまったんだろうな…… ていうか、他の異性とやってる場面が浮かぶって言ってたけど第三者視点なのかユージン視点なのかで絶望度変わってくるよ…
エリーは生き返る環境とはいえ、 嫉妬でサクッと殺しちゃう位には嫉妬深いですよね。
アイリの様子からは最後までは行ってないような? 他の3人と比べるとソッチ方面でかなり出遅れてますね そのうち巻き返すんですかね そうなったらなったでユージンの苦労が増えそう そういえば200階層の試…
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