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145話 ユージンは、幼馴染に押し切られる

「ユウ! 200階層の神の試練、私も連れてって!」


 目を輝かせてアイリ(幼馴染)が言った。


(一度言い出したら聞かないからなぁ……)


 長い付き合いでよく知ってる。


 が、200階層の神の試練(デウスディシプリン)などという危険な場に、神聖なるグランフレア次期皇帝をほいほい連れて行くわけにも行かない。


「アイリ、貴女はそもそも100階層を突破してないでしょ?」

 サラが大事な点を指摘してくれた。


「それなら近々、生徒会の皆と一緒に100階層へ挑戦するつもりだから、七日後までにクリアしておくわ! サラだって知ってるでしょ。それに前に英雄科と一緒に神獣とは一度戦ってるしへーきへーき」

 アイリの口調は楽観的だ。

 確かに以前、クラスメイトたちと神獣白虎とは戦った。

 しかし。


「なぁ、アイリ。1階層で戦った神獣はおそらく力が相当制限されてる。あの時と同じに考えると痛い目を見るぞ?」

 無駄とわかっていつつ、アイリに思いとどまるよう説得を試みる。


「いやよ! どうせユウは今回で200階層を突破しちゃうんでしょ! これ以上差をつけられてたまるもんですか!」

「アイリが個人の武勇を競っても仕方ないだろ」

 俺はただのイチ魔法剣士だが、アイリは帝国民を導く立場だ。

 むしろ後方でどっしり構えてもらいたいのだが。


「まぁ、アイリの気持ちもわかるわ」

「でしょ!?」

「サラ?」

 意外にもサラが、アイリの味方をした。 


「私だってこうやって天頂の塔(バベル)の攻略に挑めるのは、あと数年でしょうし。聖国(ほんごく)に帰ったら、気軽に剣を振るうこともできないでしょうね……」

「そうよね。次期聖女なら、きっとそうよね」


「次期皇帝ほどじゃないわ」

「「はぁ……」」

 サラとアイリが物憂げに溜息を吐く。


魔法学園(ここ)は自由で楽しいもの。アイリだってそんなに長く居られないんでしょ。だったら挑戦を認めてあげれば?」

「……そっか」

 次期聖女と次期皇帝の立場を俺は甘くみていたのかもしれない。

 自由にできるのは、あとわずかな期間か……。

   

「ねぇ、ユウ。いいでしょ?」

 潤んだ目で俺の手を掴み、懇願してくるような表情を見せる幼馴染(アイリ)

 わざとらしく、あざとい。


(……こんな仕草をすることあったっけ?)


 アイリらしからぬ態度だった。

 ちらっと、脳裏によぎったのは諜報部に所属しているというアイリの友人のカミッラ。


 あいつ、いらんことをアイリに教えたな……。

 カミッラの仕業ときまったわけじゃないが。

 ここまで頼まれては断れない。

 

「わかったよ。じゃあ、俺も100階層の神の試練を手伝うから……」

「それは駄目!!」

 俺の申し出を、今度はアイリに断られた。


「なんでだよ!」

「だって、ユウはもう神獣を4体も倒してるんでしょ! ユウが手伝ったりしたら、ヌルい試練になっちゃうじゃない」


「ヌルい神獣なんて一体もいなかったんだが……」


 冥府の番犬(ケルベロス)だと、正面で構えるだけで身体が震えた。


 悪神九首竜(ヒュドラ)に勝てたのは、ユーサー学園長と第一騎士様がいてこそだ。


 神獣・白虎……は、英雄科の戦力を結集して挑めたからある程度の余裕はあったが……。

 白虎は、1階層に出現したということでかなり力を抑えてくれていた気がする。


 魔王(エリーニュス)に至っては……、あいつは全然本気じゃなかったぽいし。

 そもそもエリーは、神獣ではない。


「と・に・か・く! 私はユウ抜きで100階層を突破してやるんだから、そしたら私を200階層の神の試練に同行させなさい! いいわね!」

 いつもの高飛車なアイリに戻った。


 あざといお願いはやめたらしい。

 こっちのほうがアイリらしい。


「保険として……手は出さないから、俺もついて行くのは駄目か?」

 おそらくアイリに同行する探索メンバーも優秀なのだとは思うが、一緒に行けないのは不安が残った。

 もしものことがあっては一生悔やむ。

 

「だーめ! そしたらユウに甘えちゃうでしょ」

「回復役としていくだけでも……」

 なんとか粘ろうとしたが。


「ユージン、そこまで心配しなくても今回アイリが参加する『神の試練』は、生徒会執行部だけじゃなくて、『白魔法研究部』と『体術部・2軍』の合同チームよ。優秀な回復役や前衛も多いんだから」

「そうなのか? 随分変わったメンバーだな」


 生徒会執行部といえば、欠員がある探索隊のサポートに入ることは多いが、自ら合同チームを組織してまで上層を目指すような活動はしてこなかったはずだ。


「近頃は迷宮主(ダンジョンマスター)アネモイ・バベルが探索隊は上層を目指せってうるさいじゃない? 迷宮組合(ダンジョンユニオン)からも、迷宮主の暴走を懸念してなるべく意に沿うように全探索者に通達が来てるの」


「そうだったのか」

 知らなかった。


 が、迷宮主の暴走というのは俺も身に覚えがある。


 ヒュドラ事件の時は、本当に酷かった。


 それに1階層の神獣出現ルール追加や、迷宮昇降機の仕様変更。

 

 ここ最近の天頂の塔の在り方は、大きく変わってしまった。


 今までは各探索隊での派閥争いが多かったが、『迷宮主』という共通の敵(あぶないやつ)が出てきたことで、団結力が強まったようだ。


 これを迷宮主(アネモイ)さんが、狙ってやっているなら大したものなのだが。


 ……きっと何も考えていないだろう、カノジョは。


 にしても『生徒会執行部』『体術部』『白魔法研究部』とは随分、大所帯の探索隊だ。

 もしかすると知り合いがいるかもな、なんて考えていると。


「ちなみに、私やレオナも同じ神の試練に参加しますよ」 

 庶務のテレシアさんが、横から告げた。


「レオナは確か体術部の三軍じゃ……、いやそういえば昇格したとスミレから聞いたな」

 以前はもっと低い階層だったと記憶している。

 いつのまにか99階層まで到達していたのか。


「ずっとクロード一人を先に進ませておくわけにはいきませんからね」

 にっこりと微笑むテレシアさん。

 クロードの恋人であるレオナとテレシアさんも、上の階層を目指しているらしい。


 レオナたち体術部と一緒に20階層の階層主を目指した頃の記憶が蘇った。


 その時、サラにぽんと肩を叩かれる。


「あと、私も付いていくんだから。ユージンは心配し過ぎよ」

「サラも……? そうか、生徒会長だから当然か」

 サラは生徒会執行部の責任者だ。

 すでに100階層は突破している立場だが、引率の意味で参加するんだろう。


 もともと優秀な学生が多い生徒会執行部。

 さらに前衛を体術部、後衛を白魔法研究部が担うなら手堅い部隊だ。

 そこに英雄科のサラとアイリが加われば、十分な布陣だろう。


(あまり過保護なのもいけないか)


 俺は考えを改めた。


「アイリ、無茶はするなよ」

「余裕で勝利してあげるから、吉報を待ってなさい!」

 自信満々で告げる。


「じゃあ、サラ。アイリを頼むよ」

「ええ、任せて。といっても、今のアイリは生徒会執行部の主戦力(エース)の一人よ。どちらかというと他のメンバーが助けられることのほうが多いわ」


「ふふん」

 サラの言葉に、得意げな顔をする幼馴染。

 ……調子に乗りすぎないといいが。


「じゃあ、頑張ってな」

 そう言って、俺は会長室をあとにした。


 生徒会棟を出る直前。


「アイリさん! 天頂の塔、51階層から緊急救助(レスキュー)依頼です! 出れますか!?」

「任せなさい! 手が空いてるやつ、ついてきなさい!」

「「「はい!!」」」

 威勢のいい声が聞こえた。

 

(すっかり馴染んでるな)


 リュケイオン魔法学園に来て間もないのに、大したもんだ。


 俺は軽い足取りで、生徒会棟をあとにした。




 ◇




「さて、俺はどうするかな」

 

 探索隊メンバーへの声かけは終わった。


 スミレは魔王(エリー)と魔法の修行。

 

 サラはアイリたちと一緒に、生徒会の業務をこなしつつ100階層への挑戦。


 俺は7日後の『神の試練』まで、授業を受ける以外に特に予定はない。


 英雄科は、必須授業がほぼなく自由参加が多い。


 教師よりも生徒のほうが探索記録が上位の者が多いからだ。


(だったら最終迷宮で修行だな)


 俺は天頂の塔へと足を向けた。


 しばらく歩いたところで、迷宮組合の前を通りかかる。


 普段は素通りすることが多い建物だが、ふと生物部のメディア部長が言っていた『狂った竜』の調査の件が気にかかった。


 結局、迷宮主の仕業ではなかったし、彼女も事態を把握してなかった。


 調査は難航している。


 もしかすると迷宮組合に何か情報が入っているかもしれない。


 常日頃、数千人の探索者からの報告を受けている迷宮都市の最大組織だ。


 情報収集してみるか、と俺は迷宮組合の建物の扉を開いた。


 中はとても混み合っていて、どの受付にも行列ができている。


 俺を担当してくれているアマリリスさんの所も10人以上、待ち人が並んでいた。


 担当である俺が声をかければ、優先してくれるだろうけど待たせている探索者に悪い。


(訓練場で時間を潰すか)


 迷宮組合の裏にある探索者向けの訓練場に向かった。


 リュケイオン魔法学園の訓練場のほうが広いためあまり来たことはない。


 訓練場ではまばらに探索者たちが、剣を振ったり魔法の練習を行っていた。


 俺は空いているところで、素振りを行った。


 白い天剣と黒い神刀。

 

 それぞれの振り心地を確認していると。


「おや、ユージンくんじゃないか」

 後ろから声をかけられ、同時に首元がぞわりとした。


 美しい声と共に大気中の魔力(マナ)が反応している。


 ただ声を発するだけで、ここまで大きな魔力の動きが発生する者はそういない。


 炎の神人族(スミレ)やユーサー学園長でもこうはならない。


 魔王(エリ―)天使(リ―タ)さんとも似ているようで違う。


 ――キャッキャ!

  ――フフフフ……

   ――ワーイ!

 

 魔力と共に小さな楽しげな声が耳に届く。


 姿は視えずとも、そこの『妖精たち』がいるのがわかった。


 妖精がこんなに反応をする相手といえば一人しかいない。


第一騎士(クレア)さま。お久しぶりです」

「そんな堅苦しい挨拶は不要だよ、ユージンくん。一緒に神獣ヒュドラと戦った仲じゃないか」


 声をかけてきたのは迷宮都市の『王の剣』――第一の騎士、クレア・ランスロット様だった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、12月15日(日)です。



■感想返し:

>ふと気になったけれども、今現在スミレ自身の身体能力ってどんなモンなんだろうか?

>100階層以上の魔物をグーパンで爆殺出来るようになってたりとか・・・しないかな


→スミレは強さの波がありますね。

 普段の強さはいまいちですが、ブチ切れると竜をワンパンできたりします。

 感情がそのまま強さになるのですが、本人は無自覚です。


>ユージン、鏡見ろ。蘇生って聖級じゃなかったですかねー


→ユージンは一回蘇生を使うと魔力切れになります。

 あと無詠唱じゃないです。一応、詠唱してます。発動は早いですが。

 スミレは聖級魔法なら何回でも使えますが、発動に数分かかります。

 戦闘だとまだ使い物にならないです。


■作者コメント

 4巻表紙です。

 アイリ、可愛いですね。

挿絵(By みてみん)


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki


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― 新着の感想 ―
エリー「へ~、神獣扱いなのね。へ~」 とか、密かにアイリへの好感度が下がってたりして。
スミレとユージーンの真の魔法レベルを明らかにしてくれてありがとう 妖精と精霊の違いは何だろう? どちらが強い? これらの魔法研究クラブ、特に水魔法研究クラブが、マコトが詠唱もジェスチャーも杖も魔法…
え、クレアさんも落とすの?(風評被害) ただユージンの魔力の特性的に、より多くの契約相手が居る方が強くなれるだろうから、唯一無二の能力持ちなクレアさんとの契約が出来れば心強い
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