137話 生物部 その1
――おめでとうございます。貴方たちは『神の試練』を突破しました。
天使の声が天頂の塔の1階層に響いた。
神獣白虎はまだ横たわっている。
「ユージン、スミレちゃん。神獣の気を引いてくれてありがとな」
タン! という着地音と共に声をかけてきたのは、今回の立役者クロードだ。
「すごかったよ! クロードくんの必殺技!」
スミレがぴょんぴょん跳ねて、讃えている。
「一撃とは大したもんだな」
俺が言うと。
「それまでのクラスメイトの攻撃があってこそだろ。みんなの力を合わせてだよ」
クロードは偉ぶるわけでもなく、そんなことを言った。
こういうことをさらっと言えるのは流石だな。
その時だった。
さっきまで横たわっていた白虎が、むくりと起き上がった。
クラスメイトたちがざわめく。
「わわっ!?」
とスミレが慌てて杖を構え、俺とクロードはすぐ動けるよう姿勢を低くした。
――見事であった。勇者の卵たちよ
脳内に声が響いた。
初めて聞く声。
しかし、何故か安心する知性的な不思議な声。
この声の主は……
「神獣さんの声が頭の中に聞こえてくるよ!」
スミレの言う通り、どうやら神獣白虎の声らしい。
戦っている時は獰猛な神獣かと思っていたが、声を聞く限り穏やかな神獣なのかもしれない。
――槍使いの青年よ。これからも技を磨くがよい
そう言って神獣白虎は、七色の淡い光に包まれ消えて行った。
「見た目は怖かったけど、優しい声だったね」
ぽつりとスミレが言った。
「なんか……余裕のある声だったな。俺の攻撃って本当は効いてなかったんじゃないか?」
「そうだな。手加減してくれたんだろうな」
クロードの意見に俺は賛成した。
まぁ、神獣は俺たちの力を認めてくれて去っていった。
神の試練は無事に越えた。
こうして英雄科の授業は終わった。
◇スミレの視点◇
ここはリュケイオン魔法学園の男子寮の一室の前。
今日は学校の七日に一度の授業が休みの日。
普段は一緒によく遊ぶレオナちゃんは、用事があるみたい。
というかクロードくんと一緒に出かけると言ってたので、お邪魔はしないようにしてる。
サラちゃんは生徒会の仕事で忙しいって言うし、テレシアさんも予定があった。
一人でお買い物するのもありだけど、せっかくの休日だし。
というわけでゆーくんの部屋に来てみたんだけど。
現在、私はゆーくんの部屋に入れていない。
その理由が
(部屋の中から声が聞こえる……)
それも複数。
一人はゆーくんの声で、もう一人は女性の声。
サラちゃんは、今日は忙しいって言ってたから違うはず。
まさか……他の女を連れ込んでる!?
むむむ……、ゆーくんモテるからなぁ。
でも、部屋に彼女以外の女を連れ込むのはダメだからね!
「ゆーくん、入るねー」
私はノックをせずにドアを開いた。
鍵はかかっていなかった。
ガチャン、と音をたてて中を見ると。
「す、スミレ……?」
「あら、スミレじゃない」
そこに居たのはゆーくんと幼馴染のアイリちゃんだった。
◇
「ゆーくんは、これから生物部の仕事?」
「ああ、それにアイリがついてくるって聞かなくてさ」
「なんで一緒に行ったらダメなのよ!」
「魔物を飼ってる結界の点検をするだけだぞ? きても面白くないと思うけど」
「ねー、私も一緒に行っていいかな? ゆーくん」
「スミレも? あぁ、別にいいよ」
「なんで私の時と全然反応が違うのよ!」
「スミレは一応、生物部のメンバーだからな」
「えっ? そうなの、スミレ」
「あれ? そうだっけ? ゆーくん」
「……忘れてたのか?」
「い、いや! もちろん、覚えてるよ!」
ゆーくんに呆れた顔されてしまった。
確かに初めて天頂の塔の探索をした時に、一緒の部活に入りたいって言った。
けどその後、全然声がかからなかったから流れたのかとばっかり……。
「ごめんね、ゆーくん。私生物部の活動を全然できてなくて……」
「いや、スミレの魔力制御が上達するまでは魔物が怯えてしまうから活動は無理だったから」
「そ、そっかー」
どうやらどのみちやることはなかったみたい。
学園にきたばかりの頃は魔法が暴走してばっかりだったもんなー。
今でも、ちょっとだけ失敗するし。
「ねぇ、スミレ。じゃあ、今日は一緒にユウのあとをついて見学しましょうよ」
「ゆーくんがいいなら……どうかな?」
「わかったよ。退屈でも文句は受け付けないからな」
そういうゆーくんに私とアイリちゃんはついて行くことになった。
◇第二の封印牢◇
「ここが生物部で管理してる第二の封印牢、通称『第ゼロ階層』。天頂の塔から脱走した魔物が迷宮都市に侵入しないようにここに転移される仕組みになってるんだ」
ゆーくんが説明している相手は主にアイリちゃん。
私は一度聞いたことがあるし、来たことがある。
ちなみに、初めて来た時は中にいる魔物たちが私の魔力を恐れて檻の端まで逃げて震えていた。
(でも、今は魔力制御も上手くなったから!)
「ゆーくん、中に入ろうか!」
「いや、点検はもう終わったから次に行こう」
「「え?」」
ゆーくんの言葉に私だけでなく、アイリちゃんも驚く。
だって、さっき着いたばっかりだよ?
「ユウ、点検をまだしてないじゃない」
「最近覚えた魔力感知で結界の不具合がないかをチェックしたんだよ。問題なかったから次に行こう」
「それって封印牢に入らなくてもいいの?」
「あぁ、便利だろ?」
「「……」」
私とアイリちゃんは顔を見合わせた。
第二の封印牢は広い。
なんせ天頂の塔を取り囲むように作られているのだ。
前世でいうところの東京ドーム10個分以上ある。
その巨大な建物を覆う結界の点検を一瞬でやった?
私は結界魔法には詳しくない。
けど、ゆーくんの言ってることがかなりおかしいことはアイリちゃんの表情からもわかった。
適当に仕事をしているわけじゃないはず。
ゆーくんはこの手の仕事をする時はすこぶる真面目だから。
私とアイリちゃんは、ゆーくんに続いてついていった。
「ねぇ、スミレ。生物部ってところが管理している魔物を飼っている場所はいくつあるの?」
「えっとね……アイリちゃん」
私は以前、ゆーくんに教えてもらったことをアイリちゃんへ説明した。
・第一の封印牢。通称『牧場』。魔物は一切おらず馬や牛なんかを飼っている。生物部だけの管理じゃなくて、畜産部や農業部も使っている場所。
・第二の封印牢。通称『ゼロ階層』。天頂の塔から逃げ出した弱い魔物を集めている場所。
・第三の封印牢。通称『蟲籠』。虫系の魔物を飼っている場所。今から向かっている場所。
・第四の封印牢。通称『病院』。魔物使いが戦闘で怪我をさせてしまった魔物が集められている。魔物の治療は保健委員会が対応している。
・第五の封印牢。通称『墓場』。アンデッド系やゴースト系の魔物がいる場所。あと本当に魔物の墓場がある。
「へぇ、色々あるのね」
「他にも第六と第七の封印牢があって……」
私がその説明をしようとした時。
「あれ? ユージンちゃんとスミレちゃんだ。どーしたの?」
声をかけられた。
ひょろりと高い身長。
やや猫背で白衣のようなコートを着たその人は。
「こんにちは、カルロ先輩」
「カルロ先輩。今日は月一回の点検日ですよ」
「あー、そうだったね。でも、第三の封印牢はボクが毎日見てるから大丈夫だよ」
生物部のカルロ先輩は虫系魔物専門の魔物使い。
虫使いと言ってもいいのかもしれない。
以前にいくつか魔物を見せてもらったけど……。
あれは怖かった。
「カルロ先輩がそう言うなら問題ないですね。じゃあ、次は第四に……」
「あー、それなんだけどさ。部長がユージンちゃんに話したいことがあるんだって。伝言虫から連絡があって知ったんだけど」
「メディア部長が俺に、ですか? 何なんでしょうかね?」
「さぁ、内容までは聞いてないから。残りの点検はボクのほうでやっておくから、ユージンちゃんは部長のところに行ってあげれば?」
「そうですね。そうします。スミレ、アイリ、悪いんだけど俺はこれから人に会わないと行けないから部活の見学はここまででいいか?」
ゆーくんの言葉に、私は迷わず言った。
「わたし、部長さんに会いたい!」
「私もユウがお世話になっている人なら会ってみたいわ」
アイリちゃんも同じ考えみたい。
特に私は生物部のメンバーなんだし。
過去に他の生物部の人に合わせてってゆーくんに何度か言ったことがあるんだけど、毎回「今日は学校に来てないからまた今度」ってはぐらかされたなんだよねー。
「…………まぁ、いいか」
ゆーくんは少しだけ迷ったみたいだけど、反対はしなかった。
「じゃあ、カルロ先輩。行ってきますね」
「うん、部長によろしくねー」
カルロ先輩に挨拶をして、私たちは第三の封印牢を去った。
第三の封印牢は木々に覆われた林のような場所にあったのだけど、そこからさらに奥の鬱蒼と茂った森のような場所にゆーくんは向かっている。
あれ? こっちの方向って……。
「ねぇ、ゆーくん。部長さんに会うなら校舎のほうに戻らなくていいの?」
「部長は学校に通ってないからね。家に向かってる」
「生徒なのに学校に通ってないの?」
アイリちゃんの疑問は私も同じだった。
「重い病気を患ってて。療養中なんだよ」
「…………それって私たちが会いに行っていいのかしら?」
「…………ゆーくん、迷惑なら私は帰るけど」
私とアイリちゃんの表情が曇る。
気軽に会えない理由がわかった。
「人に移るようなものじゃないから大丈夫だよ。ただ、怒らせると怖い人だから無礼な態度は禁止な。じゃあ、ここから行こう」
ゆーくんはそう行って、ある扉の前に立って扉の封印を外した。
あれ? ここって……。
「ねぇ、ユウ。この大きな建物はなに?」
「第六の封印牢。通称『災害』だよ。じゃあ、中に入ろうか」
そう。
ここは第六の封印牢。
別名、『災害』とも呼ばれる場所。
特徴は竜種を始めとする『災害指定』の強い魔物がたくさんいるから。
当たり前だけど、すごく危険。
天頂の塔の低層階よりもはるかに強い魔物がたくさんいる場所。
「ちょっと待って! 生物部の部長に会いに行くんじゃなかったの!?」
「部長はここに住んでるんだよ」
「「えっ!?」」
私とアイリちゃんの驚きの声が揃った。
重い病気を患ってるんじゃなかったの?
私は混乱したまま、第六の封印牢へ足を踏み入れた。
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次回の更新は、10月20日(日)です。
■感想返し:
>神の試練の最中に10秒もキスとかしてて神獣怒らないのかなw
→白虎くんは10秒待ってました。
空気を読む神獣。
■作者コメント
スミレが強くなり過ぎってコメント多かったですね。
スミレは魔法の威力に関しては、南の大陸で一位、二位ですが制御が下手っぴなのでそこまで強くありません。
戦闘するとアイリやサラに普通に負けます。
初見ならスミレの魔力にびっくりするかもですが、
前作のヒロイン並に強くなるには、数年の修行が必要です。
■その他
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