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136話 ユージンは、クラスメイトたちと一緒に戦う


 …………グルルルルルル



 全身から淡い紫電を発する神獣白虎(パイフー)

 

 真っ白な毛の一本一本が、まるで刃のように逆立っている。


 俺は自分が手に持つ魔法剣・炎刃を見つめた。


(さて……こいつが通じるか)


 これは地獄の番犬(ケルベロス)の牙を使った黒刀でなく、白刀『天剣』に炎の神人族(スミレ)の魔力を纏わせている。


 威力だけなら黒刀が遥かに勝るが、体力と気力を一気に奪われる。


 切り札としてとっておきたい。


 ここでふと、後ろにいる人物を思い出す。


「大丈夫か? リリー・ホワイトウィンド」

「え、えぇ……。ありがとう、ユージン」

 

 リリーは淡く輝いている白銀の剣を構えている。

 神聖騎士団(ホーリーナイツ)が持つのは、運命の女神(イリア)様の加護がかかった魔法剣『天明剣』。

 

 その魔法の刃は、魔物や魔族に大して強い威力を発揮すると言われている。

 が、今回の相手である神獣にどこまで効果があるかは不明だ。


「まだ戦えるか?」

「あ、当たり前でしょ! 馬鹿にしないで!」

 

 さっきの神獣白虎が魔力で数百本の剣を作り、それをこちらに一斉投擲してくる魔法には危うく死にそうになっていたように思えたので、迷わず助けに入った。


 けど、まだ戦意は喪失していないらしい。


(危なっかしいけどな)


 すぐフォローできるように注意を払っておくか……、と考えていると。


「ユージン、私は陽動に回るわ。距離を取って神獣の注意を引く。だから()()()()()()に貴方は戦って」

「わかった」

 考えていることが読まれたのだろうか。


 タッ! とリリーが神獣の側面へと回り込もうと走り去っていく。


 それを白虎がちらりと見て。

 

 シュン! シュン! シュン! シュン! 


 と数本の鋼の剣……もとは白虎の毛だったものが、リリーに迫る。


「瞬速矢!!」

 飛んでくる鋼の剣のいくつかを、矢が撃ち落とした。

 残りの投剣をリリーが余裕を持って避ける。


「ありがとう、レオン!」

「気をつけなよ、リリー」

 剣を撃墜したのは、次世代の弓の勇者候補レオンハート・アークフェザー。


 あっちでもフォローが入ったようだ。

 これなら心配いらなさそうだ。

 

「おらーー!!」

 気合いの入った声とともに両手から巨大な光の弾を放出するのは、獣人族の拳聖の息子、ソラン・ストームブレイカー。


 ドン!! と大きな音を立てて光弾が白虎の巨体を揺らす。


(あれは……闘気を飛ばす気功波か?)


 蒼海連邦で大魔獣黒人魚と戦った時は、見せてなかった技だ。

 てっきり近距離専門かと思ったが、器用なことをする。


 その他の英雄科の生徒たちも、神獣の範囲攻撃に注意しつつも攻撃を繰り出している。


 中でも目立つのは……。



「弐天円鳴流・『火の型』獅子斬!!」

 幼馴染(アイリ)が放った巨大な斬撃が白虎の首を狙い。


「聖剣魔法・十字刃(クロスセイバー)!!!」

 次期聖女(サラ)の放った光刃が白虎の心臓に迫った。



 ダン! と他の生徒の攻撃とは違い、アイリとサラの攻撃は神獣が大きく避けた。



(あの二人の攻撃が一番、危険ってことか……)


 

 よし、俺も二人に加勢しよう! と向かおうとした時。



「ユージン。俺の作戦に乗らないか?」

「ゆーくん! クロードくんがいい考えがあるんだって」


 俺に声をかけてきたのは、クロードとスミレだった。




 ◇




「スミレ、いけそうか?」

「う、うん……ちょっと時間がかかりそうだけど」

 俺は、杖に魔力を込めているスミレに聞いた。

 

 クロードの姿はすでにない。


 手短に作戦内容を伝えると、クロードはいったんこの場を離れた。


 作戦内容は単純で、俺とスミレが神獣の気を引きクロードが必殺の一撃を食らわせるというもの。


 それだけ聞くと、俺とスミレがダシに使われているように思えるが……。



「グルルルルルル……」


 

 神獣白虎の唸り声と、バリバリという雷魔法の弾ける音が聞こえる。


 英雄科のクラスメイトが絶え間なく攻撃をしかけているが、白虎の様子は()()()()()()()()


 こちらを威嚇はしてくるものの、基本的には待ちだ。


 近づいてきた者だけ攻撃する、という消極的な姿勢。


 追い詰めているとは言い難い。


 このままだと『神の試練』は、時間切れ(タイムアップ)で終わる。


 なにかしら神獣の意表を付く必要があると感じたから、クロードの作戦に乗った。

 

 その時、……チリチリ、と顔の横で火花が弾けた。


「ゆーくん、準備できた!」


 スミレが杖を高く掲げる。


 そして、詠唱を始めた



 ――天におわします、火の女神(ソール)


 その聖なる炎を、どうか私にお貸しください


 天より与えられし試練に打ち勝つために



 スミレの持つ杖が黄金に輝き始める。


 収束した魔力(マナ)霊力(エーテル)となり、スミレの周囲を覆っている。


 息が詰まるほどの威圧感(プレッシャー)


 当然、それは俺以外も気づくわけで。


 英雄科のクラスメイトたちが、そして神獣白虎ですら警戒の目で炎の神人族(スミレ)を見ていた。



「火魔法・炎の小天使(エンジェル)!!」


 スミレが魔法を発動する。

 


 ――キャッ! キャッ! 


  ――ウフフフ


    ――ワーイ!



 現れたのはスミレの唱えた魔法通り炎で身体ができた小さな天使たち。


 それが十数体。


 その一体、一体が竜すら凌ぐほどの魔力を秘めている。


 あまりの威圧感に、俺は無言で見ていた。


「きゃー♪ 可愛い、小天使(エンジェル)ちゃん~♪」

 スミレが無邪気にはしゃいでいる。

 

 スミレの周囲を小天使が、くるくると飛び回る。


 さながらそれを従えるスミレは、火の女神様のようにすら見える。


「ゆーくん、どうかな?」

「あ、あぁ……凄いよ。スミレは」

 どうにか口を開いて出てきた言葉は、それだけだった。


 人類が扱える最上位である聖級魔法は『仮初(かりそめ)の生物』となる。


 そして、自分が作った魔法に対して自由に()()()出せるようになる。


 さながら魔物使い(テイマー)のように。


 そのため聖級魔法使いとそれ以下の魔法使いでは大きな壁があると言われている。


 さらに『天使になる』の聖級魔法を扱えるのは、迷宮都市でもおそらく二人だけ。


 ユーサー学園長と……スミレだけだ。


 異世界転生をして1年足らず。


 すでに魔法使いとして、頂点に近い位置に上り詰めていることをまだスミレは気づいていない。


「小天使ちゃんたちー、ゆーくんについて行って☆」


 スミレが炎の小天使に指示をする。


 炎の小天使たちが、俺の周囲に集まる。


 結界魔法で熱くはないが、威圧感がすごい。


 第七の封印牢でもここまでじゃない。


 けど、このまま突っ立っているわけにもいかない。


 スミレが難しい魔法を成功させてくれて、神獣もこちらを気にしている。


 作戦は継続だ。


「じゃあ、行くか……」

 俺が剣を構え、姿勢を落とした時。


「あ、待って! ゆーくん、忘れ物!」

「忘れ物? スミレなに……」


 最後まで言葉は言えなかった。


 俺の唇が、スミレの唇で塞がれたから。


 ドクドクとマグマのような魔力が身体に伝わってくる。


 全身が熱くなる。


 十秒ほどの長い魔力連結(キス)のあと、スミレは俺から唇を離した。


「はぁ~♡ じゃあ、いってらっしゃい、ゆーくん」 

「……ありがとう、スミレ」

 急激に多くの魔力を連結(リンク)されて、すこし意識がぼーっとするが魔力酔いまではないのは、『身体の契約』のおかげだろう。


 体温は風呂上がりのように熱い。

 

「「…………」」

 少し離れた位置からのアイリとサラの視線は氷のように冷たかった。


「ちょっと、ユージン! 『神の試練』の最中に女とイチャついてるんじゃないわよ!!」

 何故かリリーにまで責められた。


 英雄科のクラスメイトには、魔力連結の件は説明したことがあるはずだけど……。


(余計なことを考えるのはあとだ!)




 ――弐天円鳴流・空歩




 俺は雑念を払い、神獣白虎との距離を一気に詰めた。


 神獣白虎の巨体のすぐ正面で俺は剣を構える。


 俺の周囲には、当然のように空歩に付いてきた炎の小天使たちがいる。



「ガアアアアア!!!」

 

 初めて白虎が待ちでなく、先にこちらへ攻撃をしかけてきた。


(速い!!)


 前足を払うのは目視できなかった。


 しかし、天使の魔力感知と予測能力によって俺は先にその攻撃を避けていた。 


 

「飛燕!!」

 避けながら、炎を纏った斬撃を放つ。

 

 斬撃はぎりぎり白虎の首元を掠めたが、本命の攻撃は別である。



 ――小天使ちゃん! GO!!!



 スミレの声が遠くから聞こえた。


 同時に、何体かの炎の小天使が白虎に向かい『爆発した』。



 ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!! 



 凄まじい勢いの炎の渦が巻き起こる。


 俺のいる場所も炎に巻き込まれたので、結界魔法を何重にもして防いだ。


「ガアアアアアアアア!!」

 白虎が苦しげな声をあげる。

 

 そこらの魔物なら消し炭になりそうな威力だったが、神獣白虎の見た目はそれほど変わらなかった。


 真っ白だった毛並みが少しだけ焼けたようにも見える。


 つまり大きなダメージは与えられていない。


 それでも炎の小天使の爆発は、嫌だったようで白虎の意識が()()()こちらに向いている。




 つまり――――――クロードの作戦準備が整った。




「天龍閃!!!」




 白虎の頭上で、光の爆発が起きた。


 クロードがいるのは、白虎のはるか上空。


 作戦通り、そこから仕掛けたはずだ。


 本来は飛竜に乗ってタイミングを計るらしいが、飛竜が居ない場合に備え竜の国の戦士は全員が、飛空魔法を使える。


 俺とスミレが神獣の気を引いているうちに、クロードは飛空魔法で上空へ移動した。


 そして暗黒竜を撃退した技を完全な死角から放った。


 あの時は『龍神の槍』を使ったが、今回は普段クロードが愛用している竜の国の戦士が使っている魔法の槍。

 

 さっきの攻撃で槍は砕け散っただろう。


 それに見合う威力があったようで。



 …………ドシン、と神獣白虎が倒れた。



 そのまま動かない。


(まさか、死んだ??)

 一瞬、心配になったが。


(死んでないわよ、神獣は不死身だから。白虎ちゃん、演技派ねー。わざわざ死んだふりするなんて)

 魔王(エリー)が教えてくれた。

 そういえば神獣は死なないんだった。


 ただ、白虎が倒れているということは。



 ――おめでとうございます。貴方たちは『神の試練』を突破しました。




 天使の声(アナウンス)が、天頂の塔(バベル)の1階層に響く。


 英雄科(クラスメイト)たちの歓声が上がった。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次回の更新は、10月13日(日)です。



■感想返し:


>もうリリーもヒロインになってしまえ


→最近、リリーの人気が高い。

 作者もけっこうお気に入りキャラです。



>最近のファンタジー作品だと白虎を四大属性に対応させて風ってことにしてるけど、本来は五行思想の金行

>雷も金行の金属が電気をよく通す性質から持ってきているわけか


→詳しい人だ!!

 実在(?)の神獣はなるべく原作に近い能力にしたい派です。

 フェニックスは、原作通りだとあまり強くなさそうですけど。



■作者コメント

 10月になって急に涼しくなりましたね(東京は)

 でも急に暑くなったりもする。

 よくわからない気温。

 みなさま体調にお気をつけて。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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白虎「ふむ,あの槍使いから美味しい魚の匂いがしたな・・・・・・・バレないように後ついていくか」
だいぶインフレしてきたなー、って感じですね 大陸でも上澄みの人たちが積み重ねてきたからこそなんだとは思いますが、スミレはなぁ 転生して一年足らず、ルーシーは目が出ず燻ってさーさんはキョウダイたちと一緒…
ほぼ一気読みして追いついてしまった。 感想欄の良い点、気になる点とかの区分無くなってるー 久々になろうで面白い作品に出会いました。 開幕から設定をつらつらと、何話も何話もまだ興味ない作品の裏設定聞か…
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