132話 サラとアイリ
「へぇ、アイリはもう10階層を突破しているのか。はやいな!」
俺は迷宮昇降機にサラ、アイリの二人と乗り込みお互いの情報交換を行った。
実はアイリは迷宮探索の初心者ではなかった。
「まあね。戦闘科の講師に色々注意点を教わりながら2日かけて5階層づつ突破して、一日空けてから10階層の階層主と戦ったわ。ユウたちもそんな感じだったの?」
アイリの質問に俺とサラは顔を見合わせる。
「俺とサラは普通科だったから、天頂の塔の攻略は入学してから2ヶ月以上は許可されなかったよ」
「そうね。それに1回につき1階層づつだったからすごく時間がかかったし」
「私が最初に階層主と戦ったのは、本国から『慈悲の剣』が送られてからだから半年以上かかったかしら」
「俺は階層主に挑戦するまで1年以上かかったな」
懐かしいな、とサラと一緒に過去の思い出を語った。
「そ、そうなんだ……人によって違うのね」
予想外の回答だったようで、アイリが戸惑っている。
「あれ? でもスミレちゃんってもともと普通科でしょ? 学園生になってすぐ迷宮探索始めたじゃない」
「よく知ってるな、そんなこと」
本人に聞いたんだろうか。
「まあね! 帝国諜報部にかかればそれくらい余裕よ!」
諜報部からの情報だった。
「……調べさせたんだ」
サラが引いた風に言った。
「別にいいでしょ!? ユウの近くにいる女のことは全部調査済みよ!」
「本人を目の前に言うのはどうかと思いますけど?」
サラが完全に警戒の目をしている。
俺と当初パーティーを組んでいたサラのことも当然、調査済みなんだろう。
それでなくてもサラは次期聖女なわけだし、諜報部の対象リストに入っているはずだ。
「ちなみにスミレは普通科の中でも特別だぞ。なんせ、迷宮の中から発見されたからな」
「そう言えばそうだったわね。異世界人だもんね」
「ついでにいうと、スミレちゃんの初日で10階層、二日目で20階層突破はリュケイオン学園史上最速記録ね」
「え? そうなのか?」
「ユージンしらなかったの?」
「知らなかった……」
あの探索がそんな記録を達成してとは。
「まあ、ユージンは神獣ケルベロスを倒してそれどころじゃなかったから」
「懐かしいな。あの時は死ぬかと思った」
「20階層じゃ死なないでしょ」
「それくらい神獣の迫力があったんだよ」
そんな会話をしているうちに、俺たちは11階層へと到着した。
11階層は背の高い木々が生い茂っている『密林領域』
10階層以下の草原領域と異なり一気に視界が悪くなる。
――キャッ! キャッ! キャッ! キャッ!
――グルルル……
――ガサ……ガサ……
木の上で木の葉に隠れ、姿は見えない魔物の鳴き声が頭上から聞こえていくる。
「へぇ~、10階層ごとに迷宮の作りが変わるってわけね! 面白いわね!」
アイリは目をキラキラさせて周囲を観察している。
「そんなにはしゃぐと体力が持ちませんよ、アイリ皇女様」
「ご心配はいらないわ、これでも帝国の最高戦力『天騎士』ですから、サラ次期聖女様」
サラの言葉にぴしゃりと返すアイリ。
聖国と帝国は、仮想敵国同士。
二人は将来、その二国の首脳に位置するわけでどうしても緊張感のあるやりとりになる。
「ガアアアア!!」
その時、俺たちのほぼ真上から襲いかかってくる黒い影があった。
密林の中に巣を作る『葉隠豹』。
探索者の視界の外から奇襲をかけてくるやっかいな魔物だ。
狙われているのはアイリのようだ。
俺は気配を察知していたが、アイリの出方を伺う。
「弐天円鳴流・鎌鼬」
アイリの持つ細身の片手剣によって、悲鳴を上げる間もなく森豹の首が落とされていた。
バタン、と首と胴に別れた魔物が地面に落ちる。
「お見事」
「ふふん、これくらい余裕よ」
アイリがチャキン、と剣を鞘に戻す。
その時だった。
「キャ! キャッ!」
「キー!」
「シャー!」
再び頭上から魔物たちが降ってきた。
今度は複数。
密林エリアを縄張りにする『怒森猿』の群れだ。
アイリが剣を構え、俺も剣の柄に手をかけた。
「聖剣魔法・光の刃」
サラの放つ幾本もの光の刃が、森猿たちを真っ二つにした。
ぼとぼとと、魔物の死骸が地面へと落ちる。
「聖剣の扱い、上手くなったな」
「ふふ、そうでしょ」
サラが嬉しそうな笑顔を向ける。
探索は順調だ。
俺とサラはすでに100階層を突破したA級探索者。
アイリは最終迷宮の探索者としての等級は低いが、帝国最高戦力の『天騎士』。
天頂の塔の低階層で手こずる理由はない。
なので探索は問題ないんのだが、別の問題がおきた。
「ねぇ、ユウ。懐かしいわね。こうして二人でいると昔のジュウベエおじさんから課せられた剣修行の課題を思い出すわね!」
「ねぇ、ユージン。こうして低層階を二人で探索していると昔の二人部隊が懐かしいわ」
「いや……あの。二人とも? 俺たちは三人部隊だからな?」
アイリとサラが、ずっと張り合ってくる。
相性はよくないと思っていたが、ここに来て顕著になった。
「弐天円鳴流・『風の型』飛燕!」
「聖剣魔法・光の刃!」
二人で張り合って、出てくる魔物があっと言う間にアイリとサラの剣で斬られる。
俺は出番がない。
階層を11→12→13→14階層と上層へ上がっていく。
15階層では魔物としてはやっかいな石毒蜥蜴が出たので、手助けをしようと思ったがサラの光の刃とアイリの魔力の斬撃が、魔物の首を落とした。
(案外、息がピッタリだな)
性格は水と油だが、剣の相性は悪くないようだ。
「歯ごたえがないわね」
「まぁ、15階層ですからこんなもんでしょう」
アイリとサラが涼しい顔でこっちを振り向いた。
ここで幼馴染が、怪訝な顔をする。
「ねぇ、ユウ」
「なんだ? アイリ」
「さっきから全然、戦わないのはなんで?」
「そういえばそうね。どうしたの、ユージン」
二人に聞かれた。
確かに、俺はほとんど戦闘に参加してない。
「このメンバーなら、回復役は俺だろうから前線にはでないようにしてたんだよ」
「そうなの? 別にユウじゃなくても、ここには次期聖女様がいるんだし」
アイリの言葉に、サラが気まずそうな表情になる。
「サラは回復魔法が苦手だから」
「えっ!? 聖女様なのに?」
「言わないでよ! ユージン!」
「別に学園生徒なら誰でも知ってるだろ」
隠すほどの情報じゃない。
というか全然隠れてない情報だ。
「最近はだいぶできるようになったの! 聖剣の力を借りて……」
サラの声がだんだん小さくなる。
サラの持つ宝剣クルタナにかかっている回復魔法の祝福のことだろう。
自力での回復魔法が苦手なのは変わってないようだ。
「ねぇ、ユウ。回復魔法なら私も使えるわよ」
アイリがさらりと言った。
「そういえばそうだったな」
アイリは帝国史上、数人もいないと言われる七色の魔力保持者。
全ての魔法に適性がある。
「私は大丈夫だから、ユウの剣技も見せてよ」
「そうね、私もみたい」
アイリとサラから言われた。
「わかったよ。次からは俺も魔物と戦うようにする」
正直見ているだけは、とても退屈だった。
このあとは三人で戦闘をしていくと、さらに迷宮攻略のスピードは上がった。
夕方頃には19階層から、さらに上層の階段を見つけた。
「よーし! この調子で20階層で今日は終わりましょう!」
アイリが提案する。
「アイリ、上は階層主だぞ」
「もちろん、わかってるわよ」
「調子に乗ってると、痛い目をみますよアイリ皇女様」
「さっきからそのお姫様っていうのやめなさいよ、回復魔法が使えない脳筋聖女!」
「なんですって! 取り消しなさい!」
「事実でしょ!」
アイリとサラの相性が悪い。
もうさっさと隊を解散したほうがいい。
「時間もいい頃だから、そろそろ探索は切り上げに……」
「ほらー、ユウ。行くわよー」
アイリが一瞬で上層へ続く階段へ移動していた。
「お、おい!」
「もうー! 勝手なんだから!」
俺とサラは慌てて追いかける。
きっとアイリはまだ暴れたりないんだろう。
19階層程度じゃ、帝国に出る魔物ほうがずっと強い。
ボスと戦っておきたいらしい。
サラにしても、正直20階層の階層主なら十分対処できると思っているはずだ。
せいぜいがゴブリン王かオーク王あたりだろうし。
俺たち三人は軽い足取りで、20階層へ向かい…………そして見た。
――巨大な竜の姿を。
「え? なんで?」
サラが大きな口を開けて驚く。
「急に魔物の強さが上がったわね」
アイリがこれまでの余裕の表情から一変、戦場の顔になった。
「竜が出現するのは50階層以上のはずだ……」
それ意外では出会うことがない……というのが天頂の塔の常識だった。
俺たちが戸惑っていると、後ろから声をかけられた。
――ふふふ、私が天頂の塔の階層主の設定をいじったの。
突然現れた、真っ赤なローブの幼女。
天頂の塔の迷宮主。
「アネモイさん……今のはどういう意味ですか?」
俺は尋ねた。
「んー、50階層まで行かないと竜に会えないなんて、つまらないじゃない? だから迷宮難易度を変えちゃったの」
パチン、と可愛らしくウインクする迷宮主。
俺はまったく可愛く思えなかった。
(迷宮主、本当にろくなことしないなぁ!!)
心の中でどくづき、俺は竜に向かって魔法剣を構えた。
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次回の更新は、9月15日(日)です。
■感想返し:
>ユージン、自分の身の上から目を逸らすな(笑)
>帝国の帝の剣の一人息子で、次期皇帝の幼馴染で、次期聖女とねんごろな関係で、実は上級の天使とのハーフ
>君が一番おかしな存在だよ
→ユージンくん、自分の特殊性は忘れがちだから……。
>エリーとスミレ、イチャイチャしてんなぁ……
>サラともイチャイチャしてたし、スミレって同性ホイホイ?
スミレは割と人たらしですね。
■作者コメント
最近はゆるきゃん3期を見ながら執筆してます
■その他
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