131話 魔王と炎の神人族
◇スミレの視点◇
「魔王さんはゆーくんのことが、本気で好きなの!?」
私は怖いのを我慢しながら、大きな声で言った。
前々から疑問だった。
ゆーくんと魔王さんとの関係。
ゆーくんは、学園長から頼まれたからとか、他に相手できる人がいないから無機質な関係だよって言ってた。
その割に魔王さんから頻繁に呼び出されてるし、ここ最近なんて毎晩だし。
好きでもない相手とそんな毎日会うことってある?
もっとも真剣に答えてくれる可能性は低いと思ってるし、きっとはぐらかされるんだろうなーって思ってた。
「…………」
意外にもエリーさんは、きょとんとした顔をして私の顔を見つめている。
「ど、どうなんですか!?」
私が更に問うと、魔王さんは「ふーん」と考えるような仕草の後、ちらっとゆーくんのほうを見た。
「エリー?」
「ユージン、ちょっと向こうに行ってもらえる? スミレと二人で話したいから」
魔王さんが手で追っ払うような仕草をする。
って、ゆーくんがいなくなると私と魔王さんの二人っきりになっちゃうんだけど!?
「流石にエリーとスミレを二人だけにはできないよ」
ゆーくんが私と同じことを心配してくれた。
「別に何もしないわよ。それに封印牢の中じゃ、私は『封印の呪い』のせいで誰も傷つけることができないって知ってるでしょ?」
「あ、そーなんだ」
エリーさんの言葉にちょっと安心する。
なら怖くないかも。
「誰かを攻撃をすると封印牢の呪いで傷を負うってだけで、攻撃ができないわけじゃないだろ」
「……え?」
話が違うんですけど。
「細かいことはいいでしょ」
「細かいかなぁ……」
全く攻撃ができないのと、やろうと思ったら攻撃できるはかなり違う気が。
「ま、いいわ。じゃあ、ユージンはそこにいていいから声だけ聞こえないように結界を張っておくわ。ほら、スミレ。こっちにき…………」
そう言うとやエリーさんの周囲に黒い透明のレースのようなものが覆った。
姿は変わらず見えている。
ただし、エリ―さんの声だけが聞こえなくなった。
ちょいちょい、と魔王さんが私を手招きする。
私は少しだけ迷ったけど。
(よし!)
ここまで来て帰るのもなんか違う。
私は覚悟を決めて、魔王さんのほうへ一歩一歩、ゆっくりと近づいた。
「……ふ」
ベッドの上ではエリーさんが足を組んでニヤニヤとこっちを見てくる。
(うわっ、近くでみると本当に美人……)
天頂の塔の100階層の『神の試練』の時はゆっくり観察する暇はなかったし、なによりも怖かった。
「ねぇ、そんなところで立ってないで座れば?」
「えっと……」
座れと言われても、どこに?
座れそうな場所と言ったら、エリ―さんが腰掛けてるベッドくらいしかない。
(流石にエリーさんのベッドに座るのは抵抗感があるなぁ~)
だって、そのベッドってゆーくんとエリーさんが……。
「そういえば、椅子もなかったわね」
私の表情で気付いたのか、エリ―さんがパチンと指を弾くと「ぽん!」と可愛い音を立てて私の真横に椅子が現れた。
「座れば?」
「し、失礼します」
私は恐る恐るその椅子に腰掛ける。
爆発なんてしないよね? と一瞬疑ったが、何も起きないし、ふかふかのとても座り心地がよい椅子だった。
「それで、スミレは私と話がしたいんだっけ?」
魔王さんが赤い目を妖しく輝かせ、艶っぽい唇が意地悪く歪む。
「そ、そうです! ゆーくんのことをどう思ってるんですか!? …………この会話ってゆーくんに聞こえてないんですか?」
私が後ろを振り返ると黒い透けたカーテンの奥に、こっちを心配そうに見つめるゆーくんの顔があった。
ゆーくんの口がぱくぱく動き、何かを言っているけど声は届かない。
――だ い じ ょ う ぶ か ? ス ミ レ
唇の動きから、そう言ってるのがわかった。
私は聞こえてないとわかっていても「大丈夫!」と言って手を振った。
「心配性ねー、ユージンは」
やれやれとエリーさんが苦笑する。
とりあえず、こっちの声はゆーくんには届かないことがわかった。
「それで……どーなんです?」
そろそろ落ち着いてきた私は改めて同じ質問をする。
「私なんかよりもっと気にしたほうがいい子がいるじゃないの? 帝国から追っかけてきた幼馴染の女の子がずっとユージンとべったりでしょ?」
また答えをはぐらかされた。
真面目に答えてくれる気はなさそう。
「アイリちゃんは……うーん」
最近、リュケイオン魔法学園に転校してきた女の子。
ゆーくんの幼馴染で、初恋の人。
アイリちゃんは最近、ずっとゆーくんと一緒にいる。
学園に来て間もないから、案内係という名目で。
普通に考えると彼女である私は焦らないといけないんだけど……。
「うかうかしてると、ユージンを幼馴染ちゃんに盗られちゃうわよ?」
「でもアイリちゃんって凄い奥手だから。多分、何もないよ」
「え? そーなの?」
「うん、そうなの」
意外そうな顔をしたエリーさんに私は頷いた。
わざわざリュケイオン魔法学園に転校してくるくらいだから、積極的にモーションをかけてくるとおもってたんだけど。
今のところアイリちゃんがゆーくんに迫っている様子はない。
「隠れてやってるかもよ?」
「それは私たちには伝わるじゃないですか?」
「そういえばそうね」
ゆーくんと『身体の契約』を結んでいる私やエリーさんは、ゆーくんがこっそり浮気をしててもそれが伝わってしまう。
それに……。
「そもそもゆーくん、浮気とか絶対しないですよ?」
「ド真面目だからね、あの男は」
そいう言って、私とエリーさんは同時にゆーくんの方を見た。
ゆーくんが突然私たちから見つめられて「え?」という顔をしている。
「だいたい! 最近の夜はずっとエリーさんと一緒じゃないですか! 朝まで!」
私は立ち上がって力説した。
「わ、悪かったわね。ユージンのこと独占してて」
意外にもエリーさんから素直な言葉が返ってきた。
「じゃあ、認めるんですね! ゆーくんのことが好きだって」
「………………」
私が聞くと、エリ―さんは「うーん」と小さく呟くだけだった。
(何が何でも認めない気だ……)
と思っていると。
「ねぇ、スミレ。この前の『神の試練』で怪我させて悪かったね」
突然、話題が変わった。
また、話をそらされた。
そう思った。
「…………えっと、あれは……私も油断してたので」
「ま、私も嫉妬してたのよ。ユージンが異世界からやってきた女の子の世話ばっかりやくもんだから」
「……え?」
いま、魔王さんはなんて言ったの?
嫉妬した?
てことはつまり。
「えっと、ゆーくんのことで私に嫉妬したってこと? じゃあ、本気で好きなんだ!!」
「いちいち口に出さなくていいわよ」
ぷいっと、不機嫌そうに横を向く魔王さんは、もはやまったく怖くなかった。
それどころか。
「エリーさんって案外ツンデレで可愛いですね」
「はぁっ!? 南の大陸を支配してた私を可愛いですって。泣かすわよ、スミレ!」
口調は荒っぽい。
けど、間近で見ると本気で怒ってない、とすぐわかった。
照れ隠しだ。
「わー、怖い怖い」
「くっ……舐めてるわね、私を」
一応、怖がったふりをしたけど、煽ったみたいになってしまった。
がしっ!
「えっ?」
頭を掴まれた。
「おい、エリ―!」
それを見て慌ててゆーくんが、そばに来てくれた。
「ユージン、ちょっとこの小娘を借りるわよ。この子、自分の神人族の魔力を全然制御できてないんじゃない。私が鍛えてあげるわ」
私は慌てた。
「魔法の授業は受けてるし、ゆーくんにも魔法制御は教わってるから!」
「その割に全然できてないわよ。霊気がダダ漏れだし、そもそも魔力量が人族と全く違うんだからユージンや学園の教師じゃ教えられないでしょ。スミレ、あんたこれからしばらく私のところに通いなさい」
「エリーは教えられるのか? 炎の神人族と親しかったわけじゃないんだろ?」
「そ、そうですよ! 過去に経験がないなら……」
「私は天界で『女神候補』の教育係やってたわよ」
「「…………」」
魔王さんの言葉に、私とユージンくんは押し黙った。
女神候補というのは、要するに若い神様のことでいずれは南の大陸を治める『運命の女神』様のような存在だ。
高位の天使は、若い女神様の教育を行うと言う話を学園の『神話学』で教わった。
そう、神話の話。
とんでもないことを、エリーさんはさらりと言った。
(ねぇ、ゆーくん。エリーさんって昔はすごく偉い天使さんだったの?)
(らしいけど、詳しくは教えてもらったことがない。なんでも木の女神様のお気に入りだったってことくらいしか……)
(木の女神様って、運命の女神様より格上って言われてる女神様じゃん!)
これも神話学で習った。
「木の女神の名前を出さないでくれる? イライラするから」
「ひえっ!」
聞かれてた。
魔王さんの長い指が、私の頬を優しくつねった。
「スミレ、いいわね? 明日からここに来なさい。そうすれば、私がユージンを束縛することもなくなって一石二鳥でしょ?」
「そ、そんなー、いやですー!」
精一杯抵抗したけど。
「じゃあ、これからもユージンは私が独占するから☆」
「それもやだー」
なにその究極の二択。
結局、私は魔王さんに魔力制御を教わることになった。
「ふふふ、女神候補の教育係だった頃の血が騒ぐわね」
「やっぱり、怖いよー、この魔王ー!」
ゆーくんとの関係を問いただすはずが、なぜか私の教育係が魔王さんになった。
……ちなみに、魔王さんは教えるのが超上手で、超わかりやすかった。
◇ユージンの視点◇
最近のスミレは、第七の封印牢に通っている。
魔力制御や魔法について、エリーから習うためだ。
そのかいあってか、スミレの魔法の扱いがメキメキ上達している。
それは大変喜ばしいのだけど。
(最近のエリーとスミレがどんどん仲良くなってるんだよなー)
それも悪いことではないはずなのだが、二人とも雑談好きというか魔法の修行中もずっとおしゃべりしているようで。
「ねぇ、ゆーくん、エリーさんに昔のことを教えてもらったんだけど」
「ユージン、スミレから聞いたんだけどさぁー」
二人して俺のことを話しているようでとても気恥ずかしい。
(まさか、あの二人が仲良くなるとはなぁー)
神の試練のこともあるので、もっと険悪な仲になると思っていた。
わからないもんだ。
俺がぼんやりと考え込んでいると。
「ねぇ、ユウ! 話聞いてる?」
幼馴染に肩を叩かれた。
そうだ、今はアイリの付き添いだった。
「勿論、聞いてるよ」
聞いてなかった。
「じゃあ、いいってことね。これから迷宮探索に行くわよ!」
アイリが大股で歩き出す。
いま、なんて言った?
「もう迷宮探索に行くのか!?」
アイリが転校してきて、15日も経っていない。
普通は学園で最終迷宮の基礎知識を二~三ヶ月は学んでから挑むものだ。
半月は早すぎる。
「迷宮組合からは良いって言われたわよ? ほら、迷宮探索の許可証も持ってるし」
アイリがふふん、と得意げに許可証カードをこちらにかざす。
(迷宮職員さん、次期皇帝に怯えて許可だしたんじゃないかな……)
口に出さずに推測する。
迷宮職員は、帝国か神聖同盟か蒼海連邦の出身者だ。
帝国出身の迷宮職員が、アイリに忖度して許可証を出すことは考えられる。
無論、よいことではないが。
「許可証があるなら、仕方ないか」
俺はそうつぶやいた。
こうしてアイリと二人部隊で迷宮昇降機に向かった時。
「待ちなさい、そこの二人。私も同行するわ!」
声をかけてくる人物がいた。
聞き慣れた声の主は――――サラだった。
「サラ、生徒会の仕事はいいのか?」
「ユージンが連れ去られそうになってるのに、呑気に仕事してるわけないでしょ」
「連れ去ってないし!」
「まぁ、落ち着いて。サラが来てくれるなら助かるよ」
「私はユウだけでもいいんだけど」
「アイリ、軍の訓練と迷宮の探索は別ものだ。経験者は多いほうがいい」
「……わかったわよ」
やや不満そうにアイリは頷いた。
アイリは迷宮初心者だ。
初心者は思わぬところで、足を掬われる。
その時、サポートが一人だけでは心もとない。
初心者のケアは、二人以上で行うのが基本だ。
「じゃあ、出発するわよ! ユウ」
「ほら、さっさと終わらせるわよ、ユージン」
次期皇帝と次期聖女。
奇妙なパーティーだ。
…………歴史上でも類を見ないほど。
「慎重に行こう」
なるべく平静を装って、俺は二人に言った。
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次回の更新は、9月8日(日)です。
■感想返し:
>第七牢の様子を書くのは楽しそう(SAN値から目逸らし)
>おいまてショゴスは聞いてないwww
→この辺は詳細には記載しません。
危ないので、いろんな意味で。
>こんな物騒なところでユージンは毎回いたしてたのか…
>廃病院で盛っちゃうヤンキーみたいw
→エリーの居る場所 だけ は綺麗にしているので……。
■作者コメント
8月終わっちゃいましたね。
今年もあと4ヶ月か……。
■その他
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