130話 エリーとスミレ
「ゆーくん! 私をエリーさんに会わせて!」
放課後にスミレから突然、そんなことを言われた。
「な、なんで……?」
「ダメなの?」
質問を質問で返された。
答えたくないってことだろうか。
「ダメじゃないけど、そもそも第七の封印牢は瘴気が強すぎて普通の人は、入ることすらできないし……」
ここで思い出す。
「あ、でも100階層へ天使さんに呼び出してもらえばいいか。あそこなら迷宮昇降機で行くことができ……」
(ダメよ。私に会いたいなら封印牢まで来るように伝えなさい。ここまで来れたら会ってあげるわ)
魔王の声が頭の中で響いた。
エリーからの念話だ。
「なぁ、スミレ。エリーのことなんだけど……」
俺は魔王が会う気がないと伝えようと思った。
封印牢はスミレでは行けないだろう。
「大丈夫。私にも声が聞こえたから」
「……スミレにも聞こえた?」
魔王は俺にだけ話しかけたはずだ。
それがスミレにまで聞こえたというのは。
(スミレの能力がまだ上がったのか……)
炎の神人族であるスミレの潜在能力は未知数だ。
すでに魔力量に至っては、ユーサー学園長すら上回っている。
「じゃあ、行くよー!」
「い、今から?」
今日のスミレは強引だ。
俺は不安を感じながらも、スミレと一緒に第七の封印牢の入口へと向かった。
◇
…………ギイイイイ、と重い音を立てながら黒い分厚い扉を開く。
扉の建て付けが悪い。
何度か修繕を試みたのだが、封印牢にいる神話生物たちの魔力やら瘴気であっという間に扉の内側がボロボロになってしまう。
長く扉を開くと瘴気が漏れ出るため、すばやく開いて閉じる必要がある。
現在、長時間『第七』に居られるのは、俺とユーサー学園長のみ。
結界魔法を専攻している学園生徒はおろか、教師ですら入ることができない終わってる場所だ。
「スミレ……大丈夫か? 気分が悪くなったらすぐに言」
俺はスミレのほうを振り返り……ぞわりとした。
「んー、特になんとも、かな?」
平然と言うスミレの周囲には黄金の魔力が覆っている。
その魔力密度と量は、ゆうに人間のものを超えており。
(霊気になっている……)
スミレを覆う霊気の密度が濃すぎて、封印牢の瘴気すら弾いていた。
「行こうか」
「うん!」
俺はスミレの手を取りゆっくりと地下へ続く階段を降りた。
封印の第七牢の神話生物たちは、眠っているものや意識が虚ろなものが多い。
なるべく刺激をしないよう、明かりは通路がギリギリ見えるかどうかといったところだ。
真っ暗な通路を……コツ……コツ、という足音が響く。
魔王のいる場所は、地下牢の最奥だ。
そのため両側が牢になっている通路を通っていかないといけない。
地下牢の通路は暗くジメジメしており、心地よい場所ではない。
「…………」
スミレが俺の腕をぎゅっと掴む。
クスクスクス…………クスクスクス…………
キャ! キャッ!
フフフフ…………
こちらをからかうような笑い声が、周囲から聞こえてくる。
びく! っとスミレの肩が揺れる。
「大丈夫。イタズラ好きな闇の精霊か夜の精霊だよ。人が驚くのを楽しんでいるからなるべく平然としておこう」
「う、うん……」
スミレは小さく頷きながら、俺の腕を強く掴んだ。
さらに奥に進むと。
――――あら、可愛らしい子
――――初めて見るわ
――――ねぇ、お話しましょう
ざらざらと掠れたような耳障りな声が耳に届いた。
「えっ!? だれ……むぐ」
俺は素早くスミレの口を塞ぐ。
「地下牢に溜まってる悪霊や怨霊の声だよ。返事をすると取り憑かれるから無視しよう」
「…………」
スミレが大きく何度も頷いた。
一応、取り憑かれたとしても除霊はできるが気持ちの良いものではない。
再び歩を進める。
……テケリ……リ…………テケリ……リ……
…………シャン…………シャン…………シャン
姿は見えないが、大きな真っ暗な牢の奥から奇妙な生物の鳴き声や、心をざわつかせるような不快な羽音が聞こえてきた。
「あの……ゆーくん……これって……?」
「正直、この音の正体は未だにわからない。先に進もう」
学園長が異界から召喚した神話生物らしいのだが、俺もみたことはない。
気持ちの良い場所ではないので、俺は速歩きでその場を通り過ぎた。
第七の封印牢の一番奥に巨大な地下牢がある。
これまでの牢と違い、いくつもの角灯が牢内を照らしており視界が開けている。
俺はいつもの手順で、幾重にもなっている牢の封印を一つ解いては、一つ閉じるを繰り返す。
こうして俺とスミレは、魔王がいる場所へとたどり着いた。
いつも俺が来ると、ベッドでだらしなく寝ているエリーを起こすことになるのだが……
「よく来たわね、スミレ」
珍しく魔王が起きていた。
紫のドレスにはシワ一つなく、長い銀髪には寝癖も何もない。
優雅に足を組み、頬に手をおいて鋭い眼光でこちら………スミレを見ている。
「き、来たよ! 怖かったけど!」
スミレは魔王の威圧的な態度にややたじろいでいる。
「あらあら……震えているわね」
一方の魔王は、余裕と威厳を備えている。
(なんか……いつもと全然、エリーの様子が違うんだけど)
俺と初めて会った時のようだ。
あの時は、俺も緊張したなー。
「震えたって仕方ないでしょ! 私は魔王さんに殺されかけたんだし!」
「あぁ、100階層での『神の試練』のこと? あれは仕方ないのよ、天頂の塔から召喚されたら挑戦者に手を抜くことができないんだから。力は制限されているけど」
「あの時は焦ったよ……。あとで見たら、傷は深くなかったし急所は避けてくれてたからよかった」
「ま、ユージンがいたからね。どんな傷でも大体は、治せるし」
俺の言葉にエリーが応える。
話題が殺伐としている。
空気がピリピリとしていて、気まずい。
「で、今日は何をしにきたのかしら? もしかして以前の復讐? 確かにこの封印牢にいる時は、私は力を失ってるから無抵抗なのだけど」
「そ、そんなこと考えたこともないよ!」
エリーの言葉に、スミレが慌てた表情で首を横にふる。
よかった。
ちょっとだけ、その可能性も心配していた。
「ふーん、じゃあなんの用事なの?」
「…………」
エリーが尋ねると、スミレが真剣な表情になる。
「魔王さん! 私はどうしても言いたいことがあるの!!」
「何かしら? もうユージンと会うなとか?」
エリーが薄く微笑む。
「そんなことは言わないよ! じゃなくて…………魔王さんはゆーくんと……毎晩、……なことをしてるんでしょ!」
「あの……スミレさん?」
口に出されると非常に気まずいんだが。
「…………まぁ、そうね」
一方のエリーも、少し表情が緩んでいる。
「だから私はどうしても聞きたかったの!」
「なにをかしら?」
エリーが促す。
「魔王さんはゆーくんのことが好きなの!? それとも身体目当てなの!」
「「え?」」
俺とエリーの口から、驚きの声がでた。
スミレの質問は、予想よりも数段率直なものだった。
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次回の更新は、9月1日(月)です。
■感想返し:
>ユージンくんの、物理的に爆破させられそうなフラグがあちこちに乱立してるようだけど、彼は生きてエンディングを迎えられるのだろうか?
→最近は作者も心配です。
某ス○ールデ○ズのマ○トのようにならないか。
>ここがあの女のハウスね
→この感想が多数。
ちなみに地下牢のイメージ画像。割と明るい(エリーの部屋のみ)
■作者コメント
信者ゼロと連日更新。
疲れました。
■その他
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