126話 暗黒竜討伐 その1
「あの……ユージン様。これからどこに向かうんですか?」
「そうだな~」
俺はミゲル少年の召喚獣である獅子鷲に乗って、砲弾の飛び交う戦場の空を飛んでいる。
ミゲル少年の祖国『グレタ島』は、蒼海連邦の三等国家。
連邦軍の中では国としての地位は低いそうだが、『召喚魔法使い』という肩書は『遊軍』としてある程度の自由度を認められているらしい。
というわけで、召喚魔法使いミゲル少年の助っ人として俺は同行している立場である。
『グレタ島』の島民は魔族の血を引く魔人族であり、もれなく魔王エリーニュスを信奉している。
俺が魔王との契約者であることは島民全員にバレており、そのせいでミゲル少年からは『ユージン様』扱いされている。
「暗黒竜に近づいてみる?」
「む、無理ですよ!? 僕の召喚魔法で砲弾をかい潜るような飛行はできませんから!! それに今は一等国家の竜の国の竜騎士たちが暗黒竜の相手をしていますから。万が一、邪魔をしてしまったら国家問題です!」
眼下では、無数の砲弾と攻撃魔法が飛び交っている。
あれを避けるのは至難だろう。
「わかった、他を考えよう」
単独で暗黒竜へ近づく案は却下となった。
同時に『竜騎士』という言葉で浮かんだのは同じ英雄科の友人の顔だった。
(クロードを探してみるか。…………太陽魔法・魔力検知)
魔王に教えてもらった天使が扱う魔法の一つ。
別名で『天の眼』とも呼ぶらしい。
天使の役割の一つは『地上の監視』であるため、天使族の魔力感知は人族のそれとは桁違いの精度を誇る。
暗黒竜のとてつもない魔力と瘴気。
十数万の連邦軍の兵士と魔法使い。
数千門の魔法砲弾と攻撃魔法が飛び交う中……
(……見つけた)
俺はクロードの魔力を引き当てた。
リュケイオン魔法学園ではあまり意識してなかった能力だが、かなり便利だ。
てっきりどこかの飛空船にいるのかと思ったが、どうやら飛竜に乗って暗黒竜へ攻撃する機会を伺っているらしい。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
暗黒竜の咆哮が響く中。
「ミゲルくん、あっちに行ってみようか」
「えっ!? えええええええっ! 暗黒竜の真上ですか!?」
「ああ、あのあたりに竜騎士の知り合いがいるんだ。クロードっていうんだけど」
「竜の国の勇者様じゃないですか!? 確かリュケイオン魔法学園に通っていると聞いたことがありますが、ユージン様のお知り合いだったんですね」
「竜の国の手伝いってことなら、ミゲルくんの国としても問題ないんだろ?」
「はい! その通りです。では、向かいますね」
ミゲル少年が獅子鷲の手綱を大きくひっぱると、上空へと急上昇した。
◇
「何やってるんだ、ユージン!? こんな所まできて」
やってきた俺とミゲル少年を見てクロードが戸惑っている。
そりゃ、そうだろう。
「手伝いにきたよ、暗黒竜退治」
「退治じゃなくて、あくまで追い払うのが目的なんだが……」
そういうクロードの手には禍々しい真紅の槍が握られている。
――龍神の槍
『竜の国』の国宝であり、呪われた神器。
かつて暗黒竜を唯一退けたと言われる伝説の槍。
学園祭の武術大会で一度それを持ったクロードと戦ったが、あの時は加減をしていたはず。
本来の槍の性能なら、闘技場そのものが吹っ飛んでいただろう。
ただし、その威力と引き換えになるのは槍の使い手の命。
暗黒竜の血によって呪われた、使い手の命を蝕む神器。
(って、いうのが通説だが……)
「なぁ、クロード。その槍をちょっと貸してもらえないか? 確認したいことがあるんだ」
「え? いや、しかし……」
流石に『竜の国』の国宝はおいそれと、人には渡せないだろう。
しかし、直接触らないと確認ができない。
「じゃあ、貸さなくていいから少しだけ触らせてくれ。俺なら龍神の槍の呪いについて何かわかるかもしれない」
「学園長でも解けなかった呪いだぞ……?」
疑いの目を向けつつも、俺はその槍を触ってみた。
――そして確信する。
「クロード。わかった」
「なにがだ?」
「この槍……『龍神の槍』は呪われていない」
「はぁっ!?」
クロードが素っ頓狂な声を上げる。
数百年の言い伝えが間違っていたと言われたらそうなるだろうが、間違いない。
ユーサー学園長が調べてもわからないはずだ。
最初から呪われてないんだから。
「けど、この槍は実際に代々の使用者の命を奪ってきたんだぞ!?」
龍神の槍の使い手は、槍に選ばれる。
そして、使用した時には使い手は命を落とす。
有名な話だ。
が、それは呪いではなく……。
「使い方が間違ってたんだ」
俺はそういいながら、魔王に教えてもらった話を口にした。
◇昨晩◇
「ねぇ、ユージン♡ 来ちゃった☆」
「エリー。最近は夢の中に出てくる頻度が多くないか?」
最近は寝たあとに魔王が現れる機会が多い。
それだけならいいのだが、夢の中でも迫られるので睡眠中なのに休まらない。
「なによー。こっちだって好きで夢の中に来てるんじゃないのー。直接がいいに決まってるでしょー。さっさと帰ってきなさいよー」
すらりと伸びた白い脚で、げしげしと蹴られる
夢なので痛くはない。
「暗黒竜の問題が解決したらすぐ帰るよ」
「ほんとうー? そっちで新しい女作るんじゃないわよ」
「心外な」
そもそもスミレとサラに加えて、幼馴染までいるのに他にいくなど考えただけで恐ろしいんだが。
「じゃあ、待ってるからね。ところで、暗黒竜ちゃんと戦うなら『竜の神の牙』を使った神器の使い方を覚えておきなさいよ」
「えっと、それは龍神の槍のことか?」
「人族はそう呼んでたわね。で、たしかユージンは呪われてるって言ってたでしょ?」
「ああ、暗黒竜の血の呪いで使用者の命を……」
「神器は、大魔獣の血くらいじゃ呪われないわよ?」
「いや、でも実際に……」
歴代の使用者の命を奪ってきた話は、帝国にも聞こえている。
「あのね。竜の神って、『原初の竜』とも呼ばれる、宇宙で最初に生まれた竜でその昔、太陽の女神様や精霊使いの邪神とも争ったとも言われる存在よ? その牙から作った神器が呪われるはずないし、そもそも人間に扱えるはずないの」
「どういう意味だ?」
「要するに最初から、そういう武器ってこと。呪われてるんじゃくて『使い手の命と引換えに使用できる』っていう奇跡がかかった神器。それが龍神の槍って呼んでる武器の正体よ」
「そんな話は……」
信じがたい。
けど、堕ちたとはいえ元天使のエリーは嘘をつかない。
「ちなみにわざわざ命を取られなくても使える方法もあるわよ」
「え?」
とんでもないことを言われた。
「知りたい?」
「教えて欲しい!」
俺が言うと、魔王は嗜虐的な笑みをにまーっと浮かべた。
「ふふふ、じゃあ、夢の中だけど私を満足させること。あとは、学園に戻ってきたらしばらくは私以外の女を構うのは禁止ね♡」
「……わ、わかった」
エリーってこんなに独占欲強かったっけ?
俺の返事に満足したようで、エリーはその方法を教えてくれた。
「いい? 神器を扱うには神気が必要。そして、神気とは人族にとっては生命そのもの。だから、扱うには人の外の存在でなければならない。例えば……私たち天使族とかね☆」
ウインクしながら、エリーはその事実を告げる。
「じゃあ、天使の血を引く俺なら……」
そう言う俺に、エリーは指で✕を作った。
「残念ながら無理ね。龍神の槍は、『竜の神』の信奉者のみに扱えるようになっているはず。そもそも神器は人間では扱えない。それが命をかければ扱えるという奇跡を発動させている以上、何かしらの制約を設けていないと説明がつかない。ねぇ、ユージン。竜の国の騎士たちは、みな『竜の神』を信奉しているんじゃないかしら」
「確かに聞いたことがある。竜の国は、女神教会の七女神様ではない局地的な神様を信仰していると」
「やっぱりね。だから、ユージンには『龍神の槍』は扱えないわ」
「そうか……」
一瞬、希望が見えたと思った。
けど、うまい話はなかった。
「で、ここでユージンには特別に教えてあげる。しばらくは小娘たちじゃなくて、私だけのユージンになってくれるってことだし☆ そうよね? わかってるでしょ?」
「…………ああ」
なんかどんどん変な深みにハマってるような気がする。
「その方法はね……」
だが、他に方法はなく俺はその魔王の知識に耳を傾けた。
◇
「クロード。命を落とさずに龍神の槍を扱える方法があればどうする?」
「そんな方法がっ!? ……あるのか?」
「ある」
俺は短く答えた。
まぁ、誰も扱えるわけじゃなく、非常に限定的な方法だが。
そもそも俺が天使である母さんの血を引いているという特殊要因だからできる手だ。
「どうやるんだ!?」
クロードが真剣な表情で尋ねた。
俺は端的に答えた。
「クロード。俺と契約を結べ」
それが魔王に教えてもらった方法だった。
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■感想返し:
>ユージンがどこまでやらかすのかwktk
やらかしは次回
■作者コメント
信者ゼロのマンガ最新話が公開されました
https://comic-gardo.com/episode/2550689798552622679
■その他
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