125話 勇者の憂鬱
◇クロード・パーシヴァルの視点◇
――撃ぇ!!
指揮官の号令と共に。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
数百門の大砲が火を吹いている。
百以上の戦艦が、一点黒い『小島』へと砲弾を浴びせ続ける。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
黒い小島が震え、咆哮した。
暗黒竜グラシャ・ラボラス。
先日見た時より、一回り大きく見えるのは自分がこの怪物を恐れているからだろうか。
ザザン!!!!!
と暗黒竜が長い尻尾を振るう。
ドガン!! ドガン!! ドガン!! という音と共に、数隻の戦艦が砕け散る。
砕けた戦艦から、いくつもの光が弾け消える。
「脱出用の転移魔法は発動しているようですな。しかし暗黒竜の攻撃が直撃した者は……」
「仕方あるまい。皆、暗黒竜と戦う時に覚悟はできている」
そんな会話が聞こえてきた。
蒼海連邦の司令部の面々だ。
俺が今いるのは黄金の国の率いる飛空船の中。
騎竜と共に待機している。
「クロード様、貴方の出番はまだ先のはずです。お休みになっていたほうが……」
「ティファーニア姫。皆が命をかけて戦っているのに、安穏とはできませんよ」
俺は短く答えた。
「むしろ貴女がこんな戦場まで来ても良かったのですか?」
「当たり前です! 将来の夫となる人の帰りをただ待つだけなんて……」
「ですが、この飛空船もずっと安全とは言えない。どこかのタイミングで避難したほうがいい」
「はい……」
やや冷たいかなと思いながらも、俺は告げた。
ティファーニア王女は悲しそうな表情で去っていった。
(おそらく俺はこの戦いで……)
手に持つ呪われた魔槍『龍神の槍』を見つめる。
現在は、封印の布で魔力を抑えてある。
封印を解けば、おそらく暗黒竜に気づかれるだろう。
かつて暗黒竜の心臓の一つを潰した魔槍。
連邦軍の作戦が全て失敗した時の切り札。
(使用者の命を奪う魔槍……)
俺は飛空船の中から、戦いの様子をずっと見つめ続けた。
◇
――数時間後。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
暗黒竜の咆哮が響く。
すでに戦艦は半壊している。
(あれだけの砲弾を浴びて)
暗黒竜に目立った外傷はない。
むしろますます元気になったようにすら思える。
(やはり通常の砲弾なんかじゃ、難しいか)
その時、大魔獣の咆哮や、戦艦の壊れる音に混じって風を切る飛竜の翼の音が聞こえた。
竜の国の飛竜隊だ。
もちろん全員が顔見知りだが
「よう! クロード! 」
「竜騎士の勇者が、しけた顔をするなよ!」
英雄科のソランやレオンハートたちの姿も見える。
「おまえらがいるってことは、『次の作戦』に移行するんだな」
戦艦による第一次攻撃の効果がなかった場合の作戦。
「帝国から高い金で貸し付けられた人間人形爆弾を、暗黒竜の口の中に放り込んでくるよ!」
「お前の出番はないようにしてやるからな!」
そう言って去っていく、竜騎士たち。
俺は手を振って見送った。
おそらく小回りのいい一人用飛竜の竜騎士が、爆弾を投下するのだろう。
二人乗りをしているソランやレオンハートたちは暗黒竜の気を引く陽動だと聞いている。
どちらにせよ、暗黒竜にかなり接近しないといけない危険な役目だ。
俺がいる飛空船からは遠いが、作戦が始まっている様子が見れた。
空中から投下される、人間人形を暗黒竜が大きな口を開き食らっていく。
といっても、暗黒竜のサイズからすれば竜と蟻のようなものだ。
まったく食い足りない様子だが……。
ドン!!!!!!
と低音が空気を震わした。
(人間人形が爆発した)
それ一つで百体の黒人魚を滅ぼせると言っていた帝国製の戦争兵器。
おそらくそれを数十個は喰わせて、体内から破壊しようという作戦。
暗黒竜は何でも食うと言われ、島すら食べる悪食だと運命の巫女様からの情報提供があった。
なので、この作戦にはかなり期待をしていたのだが……。
(うそだろ、爆弾まで食うのかよ)
グフー……、という暗黒竜の満足そうな喉の音が聞こえた。
外からは半壊した連邦海軍に加えて、帝国や聖国の飛空船からも砲撃が続いている。
「ゴオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
暗黒竜が天に向かって咆哮する。
その口が赤く輝きだした。
――ゴオオオオオオオ!!!!!
天を貫くような火柱が上がる。
(あんなこともできるのか!?)
みると暗黒竜の吐く、火柱によって何隻かの飛空船が焼け落ち、墜落している。
「ここにいつまでも留まっているわけには行かないな……」
俺は飛空船のデッキに待機させていた、相棒の飛竜のところへいき、その背に飛び乗った。
「よし! 行くか、相棒!」
「クルルルッ!」
いつものように調子の良い時の鳴き声だ。
トン! と相棒の首元を叩くとふわりと、宙へと浮いた。
そこから一気に上空へ上る。
あまり低い位置にいては、飛空船の砲撃の的になってしまう。
それに、俺の持っている『龍神の槍』のことを暗黒竜に気取られるのを防ぎたかった。
俺は太陽を背にしながら、ゆっくりと暗黒竜のはるか頭上へ待機して機会を伺った。
眼下では、残り半分となった連邦海軍の砲撃。
連邦、帝国、聖国の連合飛空船艦隊からの砲撃。
飛竜隊からの爆弾兵器の落下。
さらには連邦中の魔法使いたちも、攻撃を加えている。
が、それでも目立ったダメージは見られない。
俺はゆっくりと暗黒竜の頭上の高くを旋回する。
気づかれてはいないはずだ。
この位置からなら奇襲できる。
俺は右手に持つ『龍神の槍』を強く握りしめた。
そして、封印の布を剥ぎ取る。
「くっ……!」
魔槍が発する瘴気に、腕がしびれた。
が、以前ほど苦しくない。
(ユージンに教えてもらった結界魔法が役に立ったな)
剣士のくせに、結界魔法と回復魔法が得意な変な剣士。
結局、練習試合じゃ勝ち越せなかった。
もう一回くらい、ユージンと勝負したかったな。
――魔槍に魔力が吸われていく。
槍が紅く、不気味に輝く。
学園祭の武術大会の時とは違う。
一切の封印をしていない、本来の神槍の力。
この一撃を放てば、俺は……多分。
(せっかく、天使さんには黒人魚のことを色々教えてもらったのに無駄になった)
暗黒竜の倒し方は聞かなかった。
まぁ、流石に知らないと思うが。
思い出すのは、意外にも竜の国のことではなくリュケイオン魔法学園のことだった。
竜の国だと、ひたすら訓練の毎日だったもんな。
それと比べると、学園生活は楽しかった。
英雄科ってことで、女の子からはモテたし。
(……レオナ、テレシア。最後に会っておきたかった)
俺にはもったいない子たちだった。
それから。
(……ティファーニア王女)
会ったのは、学園祭の時が初めてだったが聞いていた噂よりいい子だった。
国が勝手に決めた婚約者が、先に死んでしまうことを申し訳なく思う。
(じゃあ……そろそろ行こうか)
あまり時間をかけすぎて、暗黒竜に気づかれるとまずい。
暗黒竜は、いまだ戦艦を蹴散らし飛空船に火の咆哮を浴びせている。
その時だった。
砲弾と悲鳴が響く戦場で、聞き慣れた飛竜とは違う風切り音が聞こえた。
この音は獅子鷲か?
しかし、こんな海上でグリフォンが出るか?
「クロード、手伝おうか?」
(ん?)
慌てて声の方を振り向く。
「おい、ユージン! 何してんだ、こんなところまで来て!」
そこには見慣れた英雄科の友人が、なぜか連邦の召喚魔法使いと一緒に獅子鷲に乗ってやってきていた。
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