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124話 作戦の開始

 ずらりと並ぶ幾千もの戦艦と空を覆う飛空船団。


 蒼海連邦軍の総戦力と、聖国・帝国からの援軍を合わせた光景は圧巻だ。


 すでに先頭の戦艦は港を出て随分と経っているらしいが……。


「私たちの乗ってる船は動かないねー」

 船のデッキでスミレがだらーとしながら、つぶやいた。


 スミレの亜麻色の髪が風になびき、海鳥の鳴き声と波の音が響く。


 戦艦の船員たちはきびきび働いているが、戦闘員である俺やスミレは手持ち無沙汰だ。


「俺たちの役目は後方支援と退路の確保だから。万が一、この船で戦うようなことがあれば……」

 それは暗黒竜(グラシャ・ラボラス)に連邦軍の敗北が確定した時だ、という言葉を飲み込んだ。


 戦前にわざわざ口にすることじゃない。


 と思っていたのだが。


「スミレ、この船で戦うことになったらそれは蒼海連邦が壊滅した時よ」

 わざわざ口にするやつがいた。


 騒がしい中でもよく通るハキハキした声。


 声の主は、パリッとした黒と赤の軍服に明るい金髪(ブロンドヘア)を煌めかしている。


 よく知る人物なのだが、こんなところにいるはずのない人物でもあった。


「あれ? アイリちゃんだー」

「アイリ、ここは蒼海連邦の戦艦だぞ。帝国の飛空船に乗ってるはずじゃないのか?」


 帝国第七皇女にして、次期皇帝のアイリ・グレンフレア――俺の幼馴染だった。


「暇だから、こっちに来たのよ」

 アイリは、堂々と言い放った。


「暇って……」

 そんなはずないだろ。


 帝国空軍の一個師団が、暗黒竜討伐の援軍として参加している。

 立場上、最高責任者はアイリ皇女になっているはずだ。


「軍の指揮は黄金騎士団長のガルヴァンがとってるわ。それにガルヴァン団長ってば、『アイリ皇女様は、安全のため島に残られるか帝国へ先にお戻りください』なんて言うのよ! そんな言葉に従えるはずないでしょ!」

 ぷんぷんと怒り顔のアイリ。


「へぇ~、そっかー」

 スミレがぽん、と手を叩いて納得したように頷く。


「そういうことか」

 嘆息する。


 確かに放っておくと、幼馴染(アイリ)天馬(ペガサス)に乗って戦場に飛び出しかねない。

 後方に控えてもらうのが、もっとも安全なのだろう。


「それにね」

 ふっとアイリが真面目な表情になる。


「今回の暗黒竜討伐は、蒼海連邦の存亡と威信をかけた作戦。帝国が助け(サポート)はするけど、まずは彼らが先陣をきらないといけない。皇族の私が作戦の中心近くにいると、あとあと面倒なことになるのって、宰相ちゃんに言われてるの」


「なるほど。じゃあ、俺やスミレの乗ってる後方部隊の船なら手柄も立てようがないってわけか」


「そういうこと。あとは……ユウに会いにね☆」

 すすすっ、と気がつくとアイリの顔がすぐ前にあった。


「あ、アイリ……?」

 髪がぎりぎり触れるくらいの距離。

 手を伸ばせば、アイリの身体に当たってしまう。

 というか、近すぎなんだが?




「次期皇帝陛下はお暇なのかしら?」




 凛とした声が響く。


 そちらを振り返ると、白を基調とした女神教会のローブと長い黒髪の聖職者(シスター)が立っていた。


 腰に下げている剣は『慈悲の剣』といわれる、聖国の聖剣。


 見知った顔、というか身内だ。


「サラちゃん!? どーしたの?」

 スミレが驚いた声を上げる。


「サラは聖国の飛空船に乗ってたはずじゃなかったのか?」

 俺が聞くと。


「私も帝国と同じような理由ね。次期聖女の立場であまり深入りし過ぎないようにって、本国から指示があったの。あとは……ユージンが心配で……」

 後半の声は少し小さい。


「あはは、大丈夫だよ。ゆーくんのお世話は私がしておくから」

 スミレが笑顔で言うが、サラはまったく笑顔ではない。


 ずいっと、サラがスミレに近づく。


「スミレちゃんとユージンを二人きりにしちゃうと、すぐ手を出すでしょ!」

 サラが顔をスミレの鼻先に近づけて言う。


「え?」

 というアイリの声が聞こえた。


 当人のスミレは涼しい顔だ。


「でもさ。どーせ私とサラちゃんはゆーくんと『身体の契約』を結んでるから、抜け駆けしてもバレバレでしょ? 抜け駆けの意味なくない?」

「……まぁ、そーなんだけど」

 スミレの言葉に、サラが不承不承頷く。


「おかげでゆーくんが、エリーさんと地下でいちゃいちゃしてる映像(イメージ)が勝手に頭に入ってきて大変だよねー」

「あれは……困るわね。変な気分になるし……」

「ねー、エリーさんえっちだもんねー」

「ふしだらな堕天使のくせに……」

 スミレとサラのあまり健全ではない会話が聞こえる。


 俺に聞こえるということは、隣の幼馴染にも聞こえてるわけで。


「ねぇ、ユウ」

 アイリが右隣から低い声で話しかけてくる。

 あまりそっちを見たくない。


「…………」

「こっちを見なさい」

 俺が聞こえないふりをしていると、アイリに両頬を手で抑えられ、強制的に視線を向かされた。


「ねぇ、ユウ。身体の契約って……、それにエリーって誰? 貴女の恋人はそこの二人だけじゃないの?」

「いや……それは」

 どう誤魔化す?


 しかし、俺は嘘が上手くない。


 昔から幼馴染に隠しごとを突き通せた試しがない。


「ねぇ、ユウ。私の目を見て」


 俺は目を逸らした。

 が、結局顔を掴んで目を合わせられた。


「…………そう、他にも女がいるのね」

「何も言ってないんだが?」


「ゆーくん、すぐ顔にでるよね」

「それがユージンのいいところだもの」

 遠目で見ていた、スミレとサラにも言われる。

 散々だ。


「弐天円鳴流に、嘘を付く鍛錬はないんだよ」

 俺は苦しまぎれに言った。


「隠していることを教えて」

 アイリが短く、言った。


 誤魔化しは無理だ。


 俺は諦め、すべて話した。





 ◇アイリの視点◇




(まさか……ユウが魔王エリーニュスと契約してるなんて)


 嘘だ……と思いたかったけど、嘘じゃないのはすぐわかった。


 しかも、魔王に誘惑された原因が『幼馴染(わたし)に振られた』からだった……。


 つまりは、私のせいなわけで。


(何も言えないじゃない……)


「アイリ? あのさ……怒ってる?」

 ユウが恐る恐るといった風に話しかけてくる。


「…………」

 ふん! と私はそっぽを向いたものの。


(別に怒ってないけど)


 ただいつも飄々としているユウが珍しく焦っているので私は意固地になっている。


 向こうでは異世界からきた女の子(スミレ)と、聖国の次期聖女(サラ)が、仲良く(?)雑談している。



「サラちゃん、今回は出番なさそうだねー。私たち」

「あったら困るわ。運命の巫女(オリアンヌ)様の予知情報は全て蒼海連邦に伝えてあるから、あとは作戦の成功を願いましょう」


「うまくいくかな……。クロードくんのことが心配」

「そうね。ソランやレオンハートも……、蒼海連邦出身者は最前線にいるでしょうし」


「ゆーくんも前線に行きたかったんじゃないかな? クロードくんと仲良しだし」

「今回は流石に無理よ。暗黒竜との戦いは、英雄科への依頼がきてないんだもの。依頼がないと勝手なことはできないわ」

「そっか」


 そんな会話が聞こえた。


 改めてユウの顔を見る。


「アイリ?」

 どうかした? という表情でこっちを見つめる幼馴染。


「んー、……別に」

 と言いつつ考える。


(よく考えると、ユウがこんなに大人しく後方にいるなんて妙なのよね)


 どんな時でも、戦場に顔を出したがる男なのに。


 帝国だと、私から大魔獣ハーゲンティの囮役を奪って。


 聖国だと、闇鳥ラウムと一対一で戦ったとか。


 何より帝国軍士官学校時代、当時は後ろ盾がない私に因縁をつけてくる大貴族や皇族の取り巻き相手に、毎日のように決闘をしていた男。


 私がユウに申し訳なく思っていると「アイリといると決闘相手に困らなくていいね」と真顔で言っていた幼馴染。


 筋金入りの戦闘狂。


 そのユウが、最強最古の大魔獣との戦いで大人しく後方で待機している?


(そんなはずがないのだけど……)


 どうにも信じられない。

 


 その時、黒い影が上空からやってきた。


 ドシン、という音とともに着地する。。


 大きさから鳥などではなく、中型の魔物に見えた。」


「魔物か!?」

「違います。グレタ島の召喚獣の飛竜です」


「紛らわしいな。誰か連絡を受けているか」

「人を迎えにくるためと、事前申請を受けています」

「なら、問題ないな。仕事にもどれ!」

 船員たちは、ぞろぞろと各々持ち場へ戻っていった。


 タン! と人影が魔物から飛び降りた。


「ユージン様!」

 小柄な女の子がユウに抱きついた。


「えっ!?」

 思わず声が出た。


 新しい女!?

 まだいたの!?


「「…………」」

 ふと、異世界の少女(スミレ)次期聖女(サラ)も訝しげな表情でユウと女の子を見ている。



「ミゲル、来てくれたのか」

「おまたせしました! ユージン様!」


(ミゲル……?)

 男の名前。

 つまり女の子っぽい美少年ってことかしら。


 ただ、頬を染めてユウに抱きつく様子は恋をしている女の子のようにしか見えない。


「いや、予定より早いくらいだよ。ありがとう」

「では、一緒に行きましょう! ()()()()()()()()


「「「えっ!?」」」


 私だけでなく、スミレとサラも同時に声を上げた。


「ゆーくん! どーいうこと!?」

「ユージン、英雄科への依頼対象外よ! 暗黒竜との戦いは!」

 スミレとサラの言葉に、ユウはきょとんとした顔で答えた。


「大丈夫、依頼ならもらったから」

「はい! リュケイオン魔法学園の『英雄科』ユージン・サンタフィールド様に我がグレタ島より依頼させていただきました! 暗黒竜の撃退を!」


「…………え?」

「…………は?」

 スミレとサラは、口をぱくぱくさせている。

 私も人のこと言えないけど。


 ただ、付き合いが長い私が一番冷静になるのが早かった。


「ユウ! あんた暗黒竜と戦いに行く気!?」

「まぁ、依頼されちゃったからね」

 いかにも仕方ない……みたいな口調で。

 

 しかし、付き合いの長い私にはわかった。


(……こ、この男は!!!)

 明らかにその目は、興奮(わくわく)を抑えきれてなかった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



■感想返し:

>・この章はほかの章より長い?

長くなっちゃった。



>ミゲルくんがいつミゲルちゃんになるのか気になって仕方が無い。

ミゲルくんは、男の()です。




■作者コメント


4巻、決定しました!!

ご購入いただいた読者様。

ありがとうございます!!!



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


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[良い点] アイリ側は素晴らしかった 私の一番好きなキャラクターはサラですが、スミレとアイリとイーライも大好きです。 話してくれてありがとう、楽しかった、そして本の第 4 巻の出版おめでとうございます…
[気になる点] 結局男の子でいいの? 問題は同性でも躰の契約は結べるかどうかだな。
[良い点] 関係各所に手続きする分だけマコトよりもまだまとも……かなぁ?
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