123話 予期せぬ再会
◇スミレの視点◇
「ユージン様!!」
浅黒い肌の美少年がユージンくんに抱きついている。
えっと、少年……だよね?
女の子っぽくも見えるけど。
「久しぶり……ってほどでもないけど。元気だったか? ミゲル」
「はい! ユージン様こそどうしてこちらに?」
「黒人魚討伐の予定だったんだけどね。大変なことになったよ」
「……確かに。ユージン様はここにまだいるのですか? 連邦民含め一般人には避難勧告がでていますが。ユージン様は連邦軍ではありませんよね?」
「一応、連邦軍の特別部隊に入ってるよ。討伐対象の黒人魚はいなくなっちゃったけど」
「特に用事がないのであれば僕たちのところへ来ませんか? ユージン様をご紹介したいので!」
「急ぎの用事はないんだけど、連れがいるから……」
ユージンくんがちらっと私を見る。
少年は初めて私に気づいたようだった。
「失礼しました、お連れの方がいたとは! グレタ島のミゲルと申します!」
「はじめまして……指扇スミレです。ゆーくんとは一緒の部隊を組んでいます」
「おお! ユージン様とご一緒の隊の方でしたか!? ということは当然魔王様の信仰者なわけですね! であれば、ぜひスミレ様もご一緒……むぐ」
ユージンくんが、素早い動きでミゲル少年の口を塞ぐ。
「ミゲルくん、あまり大きな声で言わないように。あと、スミレはエリーとは無関係だよ」
「これは……失礼を!」
(んー?)
少年の口から妙な言葉が飛び出した。
エリーニュスって、あの魔王のエリーさんだよね?
ユージンくんと契約してて、えっちな関係の。
この少年は魔王さんを信仰している?
えっと、南の大陸で魔王信仰なのは『蛇の教団』ってところが有名だけど、それともう一つ『魔人族』っていう魔族と人族の混血の人たちがいるってリュケイオン魔法学園の歴史の授業でならった。
ってことは、もしかしてミゲル少年は魔人族ってこと?
確かにうっすらと赤い目と口を開いた時に小さな牙のような歯が見えた。
(魔王信仰の魔族の血を引く人たちかー)
そう聞くと少し怖い気がするけど、ユージンくんは特に気にしてなさそう。
っていうか、魔王さんに手を出してる男だしね……。
気にするわけないか。
「スミレ。俺はミゲルの同郷の人に挨拶しようと思うけど、一緒に来る?」
「是非、歓迎しますよ! スミレ様!」
何でも魔人族の人たちは凄腕の魔法使いが多いんだとか。
せっかくなので、ユージンくんは彼らの魔法が見たいらしい。
勉強熱心だなぁ。
私は少し迷った末、遠慮することにした。
私は魔王さんを信仰してないし、何なら天頂の塔で戦ったし、ユージンくんを巡っては恋敵だし。
「では、ユージン様をお借りします」
「うん、よろしくね」
「あんまり遅くならないようにするよ」
そう言ってミゲル少年とユージンくんは、島の端にある避難所エリアへ歩いていった。
ミゲル少年の住んでいた島国も、暗黒竜の被害予測に含まれているかららしい。
異世界からやってきた私には、もう帰る故郷ははるか遠い場所になってしまったけど。
彼らは近い未来に、故郷が大魔獣に蹂躙されようとしている。
(この世界は過酷……)
わかってたことだけど。
「はぁ……」
宿に戻った私は、色々な話を聞いて精神的に疲れてぐったりと横たわった。
部屋は私とサラちゃんの二人部屋なのだけど、サラちゃんはいない。
聖国の次期聖女であるサラちゃんは、すでに聖国の飛空船に避難しているから。
私は二人部屋を一人で占領していた。
目を閉じると、まだ外は明るいのに睡魔に襲われる。
そのまま夢なのか現実なのかわからない、ぼんやりとした状態でどれくらい時間が経っただろうか。
――コンコン
部屋のドアをノックされた。
「どうぞー」
ぼんやりとした顔で答える。
サラちゃんかな?
でも、サラちゃんにとっては自分の部屋だからノックする必要ないし。
ガチャン、とドアを開いて入ってきたのは美しい金髪に蒼い瞳の美女だった。
美女が身につけている黒と赤の軍服はグレンフレア帝国の特徴だと、ユージンくんに教わった。
もっとも私の知り合いの帝国の女の子なんて、ほとんどいないわけで。
「あら、スミレ一人なのね」
「アイリちゃん!?」
ユージンくんの幼馴染にして、次期皇帝という偉い人だった。
間違ってもふらっと突然現れるような人ではない。
「あの……どうしてここへ?」
尋ねたあとに気づく。
アイリちゃんが来た理由なんて一つしかない。
ユージンくんに会うためだ。
「ユウがそろそろ宿に戻っている頃だとおもったのだけど……まだみたいね」
「ゆーくんは最近知り合ったまじ……魔法使いの人のところに行ったよ。魔法を教えてもらうんだって」
魔人族っていうのは、あまり大っぴらに言わないほうがいいらしいと授業で習った。
人によっては、差別的な態度を取る人がいるんだって。
アイリちゃんはそんなことしないと思うけど。
「…………ねぇ、スミレ」
「なんでしょう?」
私の言葉に、アイリちゃんが湿度の高い視線を向ける。
「その『ゆーくん』って呼び方、前はしてなかったでしょ?」
「ソ、ソウダッタッケ?」
はい、前はしてませんでした。
ゆーくん呼びは、アイリちゃんが『ユウ』ってあだ名で呼んでるのが羨ましかったから真似しました。
(って、本人には言えないよ!)
「ふーん……」
顎に手を当てて、こっちを見つめるアイリちゃん。
バレバレっぽいなー。
「「…………」」
しばし部屋を沈黙が支配する。
その時だった。
バン! とドアが開く。
ノックもせずに入ってくるということは……。
「スミレちゃんいる!? 貴女に話が…………って、……えっ!?」
サラちゃんが、部屋にいるアイリちゃんに目を丸くする。
「っ! ……これは次期聖女様。お邪魔してるわ」
アイリちゃんも戸惑ったようで、少し声から焦りがあった。
「どうして貴女が…………あぁ」
サラちゃんは私と同じような疑問を持ち、すぐに答えがわかったみたい。
「ねぇ、スミレちゃん。ユージンは一緒じゃないの?」
「ゆーくんは、友達のところに行ったよ」
「友達ってクロード?」
「ううん、クロードくんじゃなくてミゲルっていう可愛い男の子」
「知らない名前ね」
「グレタ島ってところの出身の男の子らしいよ」
「あら?」
「え?」
私の言葉に、アイリちゃんとサラちゃんが反応した。
「グレタ島って……確か」
「魔王を信仰する魔の島。魔人族たちの隠れ里」
うわ、二人にバレちゃった。
もしかして蒼海連邦の島々を全部覚えてるのかな?
「あー、だからかー」
魔王さんとの契約を知っているサラちゃんは納得した表情になり。
「えっ!? 大丈夫なの? ユウは魔人族とも親しいの?」
アイリちゃんは戸惑っている。
「それよりもグレンフレア帝国の次期皇帝であるアイリ皇女殿下。ユージンはここにはいませんから、お引き取り願えますか?」
サラちゃんの声色が冷たい。
聖国と帝国の仲の悪さ……はユージンくんと授業でも教わってる。
アイリちゃんは、今度は顔色一つ変えない。
「あら、私はスミレと仲の良い友人だもの。ここにいても問題ないでしょ?」
「えっとー」
確かに気軽には話せるけど、仲が良いってまで言えるのかなー?
「スミレちゃん? 貴女の親友は私だけでしょ? 違う?」
「ええー?」
だけっていうのは少し違うような。
レオナちゃんとかいるし。
「やれやれねー、聖国の人間は束縛が強い。仲の良い友人なんて何人いてもいいし、恋人だって何人でも作ればいいのよ」
アイリちゃんがボソリとつぶやく。
「そうそう仲の良い友人は…………って、え?」
私は同意しかけて、途中で言葉を止める。
友人はともかく、恋人を何人でもって。
「これだから帝国の人間は、倫理観が欠如してるんですよ!」
「なんですって! 石頭の聖国には言われたくないわね!」
「「…………」」
サラちゃんとアイリちゃんがにらみ合う。
その時だった。
…………こんこん、というノックと同時にドアが開いた。
この開け方は……。
「ゆーくん、おかえり!」
「スミレ、ただいま。サラも戻って…………アイリ??」
戻ってきたユージンくんが、私たち三人の顔を見て固まった。
一瞬、迷った素振りを見せてそーっと、開いたドアを閉じようとするのを
「どこいくの? ゆーくん」
私はユージンくんの右手を掴み。
「おかえり、ユージン」
サラちゃんが、左手を掴み。
「ユウ! もう、待ってたんだから!」
アイリちゃんがユージンくんに抱きつく。
へぇ~。
「スミレ……サラ……と……アイリ?」
私たち3人にがっしり捕まったユージンくんが、子犬のように震えているのはちょっと可愛かった。
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■感想返し:
>部隊の仲間がスミレしかいないのは寂しいですね……誰か誘う?
勝手に集まりましたね。
■作者コメント
https://comic-gardo.com/episode/2550689798575439436
漫画版の5話が公開中です
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