122話 ユージンは、再会する
「わぁ……船がいっぱいだね、ゆーくん」
「短期間でよくこんなに集まったな」
港に並ぶ軍艦と空を覆う飛空船団を見て、スミレと俺は感嘆の声をあげた。
蒼海連邦軍の主力である黄金の国が中心となって組織している海軍『太陽の艦隊』。
そして、竜の国による空軍『蒼天の飛空隊』。
その他、連邦に属するありとあらゆる軍隊が黄金の国の港に集結している。
それだけではない。
帝国の率いる黒い飛空船団が一個師団。
聖国カルディアの白い飛空船が数隻。
幼馴染は帝国の飛空船に、次期聖女は聖国の飛空船に乗っている。
最強最古の大魔獣が迫っているので当然の措置だろう。
二人とも戦場に出たがっていたが、取り巻きの人たちに引きずられていった。
というわけで現在の部隊仲間はスミレだけである。
スミレにも避難するように伝えたのだが「ゆーくんが行くなら絶対に私も行く!」と言って聞かなか
ったので諦めた。
その後、時間ができた俺たちは港へ軍の集結状況を様子見にきた。
「ところでゆーくん。私たちって第二部隊に配属のまま?」
「何も言われていないから、多分そうなんだろうな」
現在の俺たちには、具体的な指示はまだ降りてきていない。
黄金の国、引いては『蒼海連邦』そのものの危機とあって黒人魚討伐とは別の『特別部隊』が設立され、第一部隊はそちらに吸収されたらしいが、第二部隊にはお声がかかっていない。
ただし、第二部隊の『竜騎士クロード』『拳聖候補ソラン』『弓の勇者候補レオンハート』は、特別部隊に呼ばれている。
俺やスミレに声がかからなかった理由は……。
(おそらく対暗黒竜対策の『特別部隊』は、蒼海連邦軍の全総力のはず。それを他国の人間に知られるわけにはいかないんだろう)
蒼海連邦の仮想敵国は、グレンフレア帝国だろうし。
現在は、新作戦立案の真っ最中と聞くから末端兵士に伝令が来るのは今夜、作戦開始は明朝あたりだろうか。
「そろそろ宿に戻って休んでおくか」
「うん、そうだね」
俺とスミレが歩き始めた時、大きな影が横切った。
タン! という軽い着地音が響いた先に。
「よう、ユージン、スミレちゃん。やっと見つけたよ」
蒼い軽鎧に赤みがかったオレンジの髪の見慣れた男は。
「クロード? こんなところにいていいのか?」
「どうしたの? クロードくん」
クロードは竜の国の竜騎士の代表格。
今回の対暗黒竜作戦の要の一人だ。
一人でこんなところをうろついていいはずないのだが。
「二人に挨拶しておこうと思ってさ」
「挨拶?」
急にどうして? と思ってクロードの顔を改めて見ると、普段にない悟ったような表情をしている。
「俺が引き継いだ『竜神の槍』が、かつて暗黒竜の心臓を貫いて撃退した話はユージンも知ってるだろ? スミレちゃんは知らないかもしれないけど……」
「私はサラちゃんに聞いたから知ってるよ。そういう昔話があるって」
「そっか。じゃあ、話がはやいな」
クロードが淋しげに笑う。
その口ぶりから嫌な感じがする。
スミレも同じ気持ちだったのだろう。
「ねぇ、クロードくん。まさかクロードくんが暗黒竜と戦わなきゃいけないの?」
スミレが不安げに尋ね、俺も質問を被せた。
「暗黒竜には、黒人魚と同じく人間人形の爆弾魔法を使うはずじゃなかったのか?」
アイリが千体、帝国から持ってきたはずだ。
それを使った物量作戦だと思っていた。
「もちろん帝国から売ってもらった魔道具は使うさ。他にも予備の作戦を参謀たちが検討してくれてる。ただ……、運命の巫女様の予知だと暗黒竜を撃退するには、『竜神の槍』が鍵になるらしい。もしその予知通りに作戦が進むなら、竜神の槍を使えるのは俺だけだ。かつて竜神の槍を使って暗黒竜の心臓の一つを潰した英雄は……」
「暗黒竜の呪いと、竜神の槍の力に耐えられず息絶えた……」
「…………」
俺の言葉に、スミレの表情がさっと陰る。
「そんな顔するなって、スミレちゃん。まだ死ぬって決まったわけじゃないんだから」
そう言って爽やかに笑うクロードの表情はいつも見るものだった。
無理をしていつもの表情を作っていることが、俺にはわかった。
「クロード。もし俺が近くにいれば、回復魔法を使えるし『竜神の槍』の呪いを軽減するような結界魔法だって……」
「大丈夫だ、ユージン」
俺の言葉をクロードが遮る。
「蒼海連邦で一番の魔法使い部隊が、俺の支援に回ってくれる。帝国のユージンには迷惑をかけないさ」
「…………そうか」
普段は言わない『帝国の』という言葉。
つまりはこれ以上、他国に借りを作れないということだ。
「じゃあ、俺は本部に戻るよ」
そう言って、クロードは飛竜に飛び乗り去っていった。
◇
「…………」
「…………」
宿までの道中、俺とスミレは無言で歩いた。
何かできることは? と考えても名案は浮かばない。
とぼとぼ歩いていると、声をかけられた。
「おや、ユージン殿とスミレ殿?」
「あなたは……」
「トーモア王国の副隊長さん?」
それは天頂の塔の10階層で、俺が初めて階層主を倒した時に剣をもらった人だった。
第二部隊では一緒だったが、先に避難をしていたのでその後は会えていなかった。
「何かありましたか? ずいぶん、暗い顔をされていますが」
「実は……」
そう聞かれ、俺は具体的な名前を伏せて事情を説明した。
「そうですか……ご友人が作戦で命を落とす可能性が高いと」
俺の説明に副隊長さんが顔を曇らせる。
「しかし、それほど重要な作戦を任せられるのは羨ましくもあります」
「「!?」」
その言葉に引っかかった。
「副隊長さん、そんな言い方は……」
スミレが反論しようとして、途中で止まった。
副隊長さんの悲しげな表情に。
「もしかして、暗黒竜の通り道にはトーモア王国が……?」
「はい、おそらく島ごと潰されると」
「「……」」
何も言えなくなった。
「私たちトーモア王国のような小国の兵士は後方支援を命じられています。主要な作戦部隊は、黄金の国や竜の国などの強国の軍で組織されていますからね。私たちは彼らの成功を願うしかない。歯がゆいものです。祖国の危機に命をかけることもできないとは……」
「そう……ですか」
「それは……」
俺とスミレはそれ以上、出てくる言葉がなかった。
◇
「それではまた。会うことがあればどこかで」
そう言って副隊長さんは去っていった。
俺とスミレの周囲の空気は、ますます重くなった。
命をかけて暗黒竜に挑むつもりの英雄科の友人。
祖国が亡くなるかもしれない人たちの話。
心に重しが乗ったような心地のまま宿が見えてきた時、俺とスミレの前から魔法使い装束の一団が通りかかった。
ちらっと見て横を通り過ぎようとした時、ぱっと一団の中の一人がこちらへ振り向いた。
「あ、あなたは……どうしてこちらに!?」
大声が響く。
俺の方に駆け寄ってくる人物がいた。
小柄で声変わりのしていない一見少女のようにも見える人影。
浅黒い肌に赤い瞳。
魔人族の少年だった。
そしてその顔には見覚えがあった。
「ゆーくん、知り合い?」
スミレに問われ。
「ああ、ちょっと前に……」
俺が答えるより前に。
「ユージン様! 再びお会いできて光栄です!!」
こちらへ抱きついてきそうな笑顔で、というか抱きついてきた。
「君の名前は……ミゲルくんか」
「はい! ユージン様に命を救っていただいた、ミゲルです!」
つい先日の聖国における大魔獣『闇鳥』の調査。
そこで出会った召喚魔法使いにして、魔王信仰のミゲル少年だった。
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■次回:7月7日
■感想返し:
>ジュウベエさん、ロリ?
>こんなに外見が若いというかロリとは思わなかったです。
→同様の感想がかなり多かったのですが、ユージンの母が父親のジュウベエと
会った時は、地上調査用の『義体』を使っていたので、外見はサラを大人っぽくしたようなイメージです。
一応、本編に書いてますが詳しくは書いてなかったので、念の為こちらでも。
■作者コメント
3巻のカラーイラスト。
エッチですね。
興味あれば、ぜひ買ってくださいませ!
■その他
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