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121話 ユージンは、幼馴染と語る

6月25日にゼロ剣の3巻とコミック1巻が同時発売です。

※すでに場所によっては販売中みたいです。

 見かけたらぜひ、ご購入を!!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「アイリ?」

 夜分遅くに、次期皇帝である幼馴染が一人でやってきた。


(不用心じゃないか?)

 と心配したが一応、遠くに護衛の気配はある。


 わんぱくな次期皇帝で、護衛の人の苦労には頭が下がる。


「相変わらずの修行好きね、ユウ」

 というアイリの手には、訓練用の木剣があった。


「寝るまでの日課だよ」

 俺が言うと。


「ユウが暇そうだから、相手をしてあげるわ」

 アイリが、にっと笑って剣先をぴしっと俺にむける。


「お手柔らかに」

 俺が八相の構えをとると、アイリは平青眼の構えをとった。

 実践的な構えじゃないが、訓練だし遊びみたいなものだ。


 しばらく構えを維持して、向き合う。


 弐天円鳴流は、どちらかというと攻めの剣だ。

 かつてならアイリが先手をとることが多かったのだが、なかなか仕掛けてこない。

 

(アイリの剣術、ちょっと変わったのかな)

 俺は普段は相手の攻撃を待ってから、カウンターで返す事が多い。

 が、アイリの返しを見たかったので、自分から仕掛けることにした。



 ――弐天円鳴流・『風の型』鎌鼬(かまいたち)



 大きく踏み込んで上段から振り下ろした剣を切り替えして、すくい上げる。



「はっ!」

 俺の剣筋を読んでいたアイリが、躱しながら鋭い突きを放つ。


(上手い……『風の型』窮鼠か!)

 俺はアイリの突きを、ギリギリ剣でそらす。


 それを読んでいたかのように次の攻撃に移るアイリに対して、俺は足払いをかけた。


「きゃあ!」

 アイリが小さく悲鳴をあげて、尻もちをつく……直前に受け身とをとった。

 が、それが大きな隙になる。


「ほい、一本」

「くっ……」

 慌てて構えるアイリの喉元に、木剣の剣先を添える。


「ユウ! もう一回よ!」

 アイリが大きな声で言う。


「いいけど、夜だから静かにな」

「わかってるわよ! 弐天円鳴流『火の型』…………!!」

 今度は昔と同じように、初手から全開で突っ込んでくる。




 それから10回勝負をして、10回勝った。




「……はぁ……はぁ……はぁ」

「大丈夫か? アイリ」

 近くにあった大きな岩にアイリが腰掛けている。


 俺は一人で素振りをしている。

 やっぱり一人で剣を振るより、相手をしてもらったほうが良い訓練になる。


「ねぇ、ユウ! 前より強くなってない!?」

「そりゃ、毎日天頂の塔に挑んでるわけだし」


「私だって天騎士の任務や、帝の剣(ジュウベエ)おじさんや剣の勇者様にも訓練してもらってるのよ! なのにどうして差がつくのよ! リュケイオン魔法学園にだってその二人より強い剣士なんていないでしょ!」

 アイリが怒鳴る。

 俺は「うーん」と記憶の糸を手繰り寄せた。


「天頂の塔は100階層を超えると『迷宮人』が出現する。彼らはかつて迷宮に挑んで死んでしまった過去の探索者たちの『なれはて』なんだけど、大抵は生前、剣や魔法の達人なんだ。『迷宮人』は数が多いし、無限にいるから彼らと戦い続けたり、あとは英雄科の先輩がたは騎士団長クラスだし、他にも親父と同じか、それより強い人もいるし」

 

 具体的には魔王(エリー)とか。


「えっ! 誰よそれ!」

「あー、まあ、実際のところはどっちが強いかわからないけど」

 俺は曖昧に言葉を濁した。


 たまに100階層で魔王に修行してもらっていることは大っぴらに言っていない。


(あとは私との『身体の関係』もアイリちゃんに言ってないでしょー)

(……言うつもりはない)


 会話を聞いていたらしい魔王からの念話が脳内に響いた。



「いいなぁ……、リュケイオン魔法学園」

 アイリが羨ましそうにぼやく。


「前に学園祭の時に来たろ?」

「そーゆんじゃなくて! ユウと一緒に学園に通ってみたかったの! 学生服は可愛かったし。私も着てみたいなぁー」


「へぇ、アイリでもそういうの気にす……痛い」

「私でも、ってどういう意味よ!」

 ぽかり、と頭を叩かれた。


 痛みを感じるまで叩かれたことに気づかなかった。

 まったく気配を感じさせない、ぽかりだった。

 やるなアイリ。


「まぁ、いいわ。そろそろ護衛の人たちも寝たいでしょうし。私は宿に帰るわね。おやすみ、ユウ」

「わかった。おやすみ、アイリ」

 アイリが泊まっているのは、俺とは違う宿だ。

 途中まで送ろうか迷っていると。


「あ、そうそう。ところでユウ。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」

「どうかし…………!?」

 何気なくアイリが俺に顔を近づけてきて…………()()()()()()


「ふふっ、じゃあね♡」

「…………ああ」

 不意打ちで反応できなかった。


 俺は去っていく、アイリの後ろ姿をぼんやり眺めた。





 ◇翌日




「おはよー、ゆーくん。………………あれ?」

「おはよう、スミレ。どうしたんだ?」

 朝の挨拶をしたらスミレが笑顔から一変、何かを疑うような表情になった。


「んー、ゆーくんから女の匂いがする」

「えっ!?」

「んー、誰だろ? サラちゃんじゃないし」

「き、気のせいじゃないか?」

「いやー、勘違いじゃないね」

 スミレが俺の目をじぃーっと見つめる。

 思わず目を逸らした。


「どうしたの? ユージン、スミレちゃん」

 サラもやってきた。 


「おはよう、サラ」

「ええ、おはよう。…………あら? 昨日は幼馴染さんと会ってたのかしら?」

「……なんで知ってるんだ?」

「へぇ、当たったのね。勘よ」

 勘かよ。

 スミレといい、どうなってるんだ。


「へぇー、昨夜はアイリちゃんと逢引してたんだー?」 

「私たちじゃ物足りないのかしら?」

「いや、違うって! 剣の訓練をしてたらアイリがやってきて修行の相手をしてもらっただけだよ」

「へぇー」

「怪しいわね」


 別に悪いことはしてないはずだ。

 最後のキス以外は。

 

(キスしてたくせに)

(…………)

 魔王(エリー)に見られていた。


「おーい、ユージン! これから今後の作戦について説明があるから集合だってさ」

 クロードが俺たちを大声で呼んだ。


「スミレ、サラ。呼ばれたみたいだ」

「仕方ないなー、行こっかサラちゃん」

「そうね。問いただすのはあとでもできるし」

 あとでもう一度、問い詰められるらしい。

 

 ……忘れてくれないかな?

 という淡い期待をいただきつつ、俺たちは集合場所へ向かった。




 ◇




 皆が集まっている場所は、黒人魚の討伐作戦を説明された大きな講堂(ホール)だった。

 同じ英雄科のレオンハートやソラン、フェリシア、も既に来ている。


「みんなよく集まってくれた!」

 演台で声を上げるのは、大魔獣討伐隊の副総長。

 黒人魚討伐の作戦を説明していた人だ。


「さて、最初に言っておきたい。良い知らせと悪い知らせがある。最初に良い知らせについて言っておこう」

 そう言って俺たちをぐるりと見回す。


「黒人魚が()()()()


 ざわ……、とその場にいる人々が動揺する。


「ゆーくん、どういうこと?」

「たぶん、これから説明がある」

 俺は演台の副隊長の言葉を待った。


「原因は……、いま蒼海連邦の領海に侵入してきている世界最古の大魔獣、暗黒竜(グラシャ・ラボラス)だ。黒人魚たちは、縄張りである黒海に侵入してきた暗黒竜に挑み……すべて喰われたと報告を受けている。以前に暗黒竜が来襲した時には、黒人魚たちは逃げていたと記録されているが、ちょうど女王交代の争いで好戦的になっていたことが仇となったようだ」


 ……おお! という小さな歓声が聞こえた。


「ねぇ、ユージン」

 サラの声は硬い。


「これがいい知らせって話だったな」

「じゃあ、次は悪い知らせ……だよね」

「そうだな、スミレ。サラ」

 ちらっと、クラスメイトのクロードの顔を見る。


 いつもの飄々とした空気は消え、渋い顔をしたままだ。

 何か知っている……のだろう。


「さて……、次は悪い知らせだ。暗黒竜(グラシャ・ラボラス)の予想進路が変わった」


 ふたたびホール内が大きくざわつく。


「情報元は、聖国と帝国。運命の巫女オリアンヌ様とエカテリーナ宰相殿だ。お二方によると、現在暗黒竜が向かっているのは『黄金の国』。つまりこの島に数日以内にたどり着く」


 よりによって、南の大陸で予知魔法が使える二人が揃って予想したのか。

 可能性が極めて高い予知になってしまった。


 シン……、と場が静まった。



 その時、副総長に割ってはいる人物がいた。


 ティファーニア・クリスタル王女だった。


「ですが、まだ諦めることはありません! 先日、帝国から多くの戦略魔法兵器を準備していただきました。我らの総力を上げて、大魔獣を退けないといけません! そうしなければ……蒼海連邦はお終いです……」


「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 反論の言葉は出ない。

 ティファーニア王女の言葉は大げさではない。


 黄金の国は、蒼海連邦の中枢。


 商業の中心であり、神聖同盟やグレンフレア帝国との交易の要。


 蒼海連邦の共通通貨は、黄金の国で発行されている。 


 連邦議会の歴代議長は、半分が黄金の国出身だ。


 蒼海連邦を牛耳っているとも言えるが、黄金の国抜きでは蒼海連邦が立ち行かないことは誰でも知っている。


「おまえら! ここが正念場だ! 連邦のため、祖国のために暗黒竜には南極へお帰りいただくぞ!」


 そう怒鳴るのは、クロードの師匠であり第二部隊の現場指揮官でもあったラルフさんだ。

 声には勢いがあるが、わずかに緊張の色も含んでいる。


「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」

 その場にいたおそらく蒼海連邦出身の軍人たちが一斉に、力強く返事をする。

 勿論、クロードも。


 それを聞いた俺は……。


(とりあえずスミレとサラには避難してもらおう)


 という言葉が最初に浮かんだ。


(あら、ユージンは避難しないの?)

 魔王の意外そうな念話が届く。


 たしかに、リュケイオン魔法学園に来た依頼は『大魔獣・黒人魚』の討伐であり、暗黒竜と戦うことではない。

 とはいえ。


(ここで逃げるのは英雄科の名折れだろ?)

(カッコつけて死ぬんじゃないわよ?)

 

 魔王の呆れた声が聞こえたが、止められはしなかった。

 なんだかんだ長い付き合いで、俺の性格はわかってるんだろう。

 

(最強最古の大魔獣か……天頂の塔でもあるまいし)


 最後にやってきたのは、『神の試練』級の難関だった。 

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!


次回の更新は、6月30日。

その前に6月25日に信者ゼロの女神サマの更新です。


■感想返し:


>3巻の新キャラのラフでも公開されるかなと思ったけど来週かな?

感想を見て思い出しました。

ラフ出しますね!



■作者コメント

3巻のイラストキャラです。

ユージンの両親と宰相閣下です。

親父の見た目若い。そして、(見た目だけなら)母親若過ぎ!!

でもエリーよりも年上です。

エカテリーナ宰相閣下は、わかりやすい美人。

挿絵(By みてみん)


■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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黒人魚さん、短い出番でしたね…「数百体以上で狩り尽くせない→実は数千体!→絶滅」の美事な散りざまでしたw
いろんなしがらみに振り回されて恋心を隠してた結果こじれたんだがら、そら今は素直に攻めまくるわw
[良い点] ユージンとアイリの関係が安易に進まなかったことです。 [気になる点] ジュウベエさんはライラさんと年に一度会っていた際、ライラさんは地上での調査活動用の『義体』を使って再会していたのでしょ…
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