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12話 ユージンは、頼まれる

「頼む! 我々に手を貸してくれないか!?」

 蒼海連邦の探索部隊の隊長の男が、土下座をしてきた。


 急にそんなことを言われてもな……。

 俺が困った顔をしていると。


「隊長、駄目ですよ。我々は階層主(ボス)から助けてもらったんです。先にその救助の御礼金を渡さないと……中継装置(サテライトシステム)を通して迷宮職員(ダンジョンスタッフ)が監視してますよ」

「そ、そうだった……では、幾ら支払えば……」

 

「俺はリュケイオン学園の生徒なので、学園に専用窓口があります。迷宮を出てから、手助けの救助金額については、窓口と話をしてください。……ちなみに未払いはルール違反となり、同様の行為が繰り返されると今後の『最終迷宮』探索に、あなた方の国の探索者は立ち入り禁止になります。ご存知とは思いますが」

「……!?」

 隊長の男の表情から察するにそれも知らなかったのか……。

 本当に初心者だな。 


「わかりました。先ほどの救助の分はきっちり支払わせていただく。それとは別に、階層主の討伐についてあなたたちの力を借りたい。申し遅れたが、我々は『蒼海連邦』共和国に属するトーモア王国の探索者です。私は副隊長のダニエルと申します」

 副隊長のダニエルさんは、しっかりした人のようだ。


 トーモア王国ってのは初めて聞く名前だ。

 蒼海連邦には百以上の国が所属している。

 おそらく、その中の小国の一つなのだろう。


「俺はリュケイオン学園に所属するユージン・サンタフィールドです。こちらは同じ学園所属の指扇スミレさん」

「は、初めまして! 指扇スミレです」

 スミレがぺこりと頭を下げる。


「それで、俺たちに階層主(ボス)の討伐を手伝って欲しいというのはどういうわけです? 何か急ぎの理由があるんですか?」

「それは……」

 聞くところによると。


 トーモア王国は、現在財政が破綻しかけているらしい。

 それを解消するため、なけなしのお金で探索部隊を編成して『最終迷宮(ラストダンジョン)』にやってきたんだとか。


「我々が失敗をすれば……国王陛下に顔向けができません。現在、蒼海連邦のある国に多くの借金をしており、期日までに返せなければ、担保の領地が没収されることに……」

「「……」」

 その話を聞き、俺とスミレが眉をひそめる。


 なるほど……、傾国の危機を救うため、か。

 そりゃ、無茶な進軍もするはずだ。


「ユージンくん、どうして10階層を超えると借金の返済ができるの……?」

 こそっとスミレが耳元で質問してきた。


階層主(ボス)を倒すと、宝物(トレジャー)が出現することがある。あとは階層主(ボス)から素材が剥ぎ取れるから、それを狙ってるんじゃないかな?」


「それだけではありません。11階層へ進めば、その領域では高価な魔法の木の実などが採取できるようになります。それを売ることで利子分だけでも返せるはずなんです……」

 副隊長のダニエルさんが悲壮な顔を見せた。

 苦労してんなぁ……。


「頼む! どうかこの通り!」

 再び隊長さんから頼み込まれた。

 さっきからこの隊長さんは、土下座しかしてないんだけど。

 

 いわゆる泣き落とし……。

 だけど、俺はこの手のお願いに弱い。


「ユージンくん、どうするの?」

「つっても、俺は結界魔法か回復魔法しか使えないからなぁ」

「そうなのですか? しかし、あの人喰い巨鬼(トロール)の攻撃を無傷で捌くあの技量。我々と協力すれば……」

 副隊長さんは、諦めていないようだが、おそらく無理だろう。


 俺は普段、中継装置(サテライトシステム)を通して10階層をクリアしている探索者の技量を見ている。

 ここの人たちの攻撃では、人喰い巨鬼(トロール)は倒せない。

 俺が回復魔法と結界魔法でフォローしても、突破は難しいだろう。


 スミレからは不安五割、期待五割みたいな視線を向けられた。

 ここで断ると、彼女をがっかりさせるだろうか?


 迷宮の天井を眺め、少しだけ考えた。

 普段なら、断るところだ。


 なんせ俺は攻撃ができる魔力がない。

 回復や防御用の白魔力のみなのだ。


 しかし……、さっきのスミレの炎の魔力を見て試したいことがあった。



「スミレ、力を貸してくれる?」

「え、わ、私?」

「その女の子も戦ってくれるのですか?」

 俺の言葉に、副隊長さんが戸惑った声を上げる。


「わ、私があの人喰い巨鬼(トロール)と!? む、無理だよ、ユージンくん!」

「大丈夫、戦うのは()()()だから」

 俺はスミレの手を取った。


「ゆ、ユージンくん?」

「スミレの魔力(マナ)を少し譲ってくれ」

「え? う、うん……」

 スミレの手を少し強く握る。 




 ――魔力連結(マナリンク)




 スミレを掴んでいる手から熱い魔力が流れ込んできた。


 魔力連結(マナリンク)は、相手から魔力(マナ)を受け取る技術だ。


 もっともやり過ぎると、相手の魔力で自分の身体を傷つけることもあるので繊細な調整が必要だ。

 俺は魔法剣士を諦めきれず、色々な人と魔力連結を試したが全て無駄だった。


 俺の白魔力の効果が勝ってしまうのだ。

 しかし、炎の神人族(イフリート)の膨大な『赤魔力(マナ)』であれば、あるいは……。


 しかもその魔力には付与魔法(エンチャント)の効果までついている。

 さっき、スミレの持っている盾が赤く輝いていたのがその証拠だ。



 ゆっくりと炎の神人族(スミレ)の魔力が俺に注がれていく……。



 身体が熱い。

 だが、嫌な熱さではなく心まで高揚させるような不思議な熱だった。

 俺の身体を流れる血液が熱く燃えるような錯覚を覚えた。


 身体から白い湯気が湧き上がる。


 これが炎の神人族(イフリート)魔力(マナ)か……。

 

「スミレ、身体の調子はどう?」

「んー、なんかくすぐったいかも」

「気分は悪くない?」

「うん、平気だよ」

 スミレがニッコリと微笑む。


(よし、もう十分だろう……)

 俺はスミレの手を離した。


「あの……一体何を?」

 副隊長が戸惑ったようにこちらを見ている。


「今から、10階層の階層主(ボス)人喰いい巨鬼(トロール)』に挑戦します。どなたか剣を貸してくれませんか?」

「わ、わかった!」

 副隊長さんが腰の剣を貸してくれた。


 俺はそれをじっくりと眺める。


 刃渡りは自分の腕の長さと同程度。


 刃幅は、帝国軍で支給されているモノより薄い。

 強引な使い方をすると、すぐに折れてしまいそうだ。



 ――結界魔法・物質強化



 俺は剣を結界魔法で強化した。

 今のこの魔法剣は何も斬れない剣だ。

 しかし……


炎の神人族(イフリート)の魔力を使う……)



 ――魔法剣・炎刃(フレイムブレイド)



 スミレからもらった赤魔力(マナ)を使って魔法剣を発動する。

 副隊長さんから借りた剣が、赤く発光して刀身がジジジジ……と奇妙な音を立てている。


「「「おお!」」」

 蒼海連邦の探索者たちから、声が上がった。


 俺は呆然と、その赤く輝く剣を見つめた。


 俺の知っている反応と違う。

  

 昔、通常の付与魔法は何度も試したことがある。

 が、結果はうまく行かなかった。


 どうしても他の人の付与魔法を俺の白魔力が打ち消してしまうのだ。


 結果、全く斬れない『ナマクラ』の魔法剣が出来上がる。 


 だから俺は魔法剣士になるのを諦めた。

 

 けど俺の手の中に今炎の神人族(スミレ)からもらった魔力で、炎の魔剣ができている。


 俺はゆっくりと自身の魔力を込める。


 赤い刃の輝きは変わらない。


 試しに刃の側面を、トンと叩いてみた。


 キーン……、と魔力と魔力がぶつかった甲高い音がする。


 そして、何よりも魔法剣がやわらかく()()()()()()


 俺の白魔力よりも、炎の神人族(イフリート)の魔力の効果が上回っているのだ。


(……これなら。この魔法剣なら戦える)


 俺は剣の柄を強く握りしめていた。


「ユージンくん?」

「ありがとう、スミレ」

 キョトンとした顔のスミレに笑顔を向ける。


 そして、トーモア王国の探索者たちに告げた。


階層主(ボス)とは俺一人で戦います。そして討伐報酬は譲りますから、あとで手伝った分の報酬を支払ってください。勿論、成功報酬でいいですよ」

「き、君一人で!?」

「む、無茶だ!」

「我々も一緒に」

 案の定、彼らは反対してきた。


 が、ここは譲れない。


「俺の結界魔法や回復魔法は範囲が狭いんです。人数が多いほうが不利になる」

「…………わかりました。ではお願いします、ユージンさん」

 俺の言葉に、副隊長さんが頷いた。


「ああ。じゃあ、行ってくるよ」

「頑張って!! ユージンくん」

 スミレが両手を胸の前に組んで、大きな声で送り出してくれた。


「お気をつけて!!」

「無理はしないでください!」


 俺はスミレと探索者さんたちに手を振って、ゆっくりと階層主の縄張り(テリトリー)に足を踏み入れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] よく分からんけど、普通に領地売って借金返せばいいんでないの?
[気になる点] > ――結界魔法・物質強化 結界魔法?いや、突っ込んじゃ駄目なんだろうとは思うんですが、結界魔法をどう使ったら物質を強化出来るのか… 剣一つ強化するのに、剣を囲った空間内に物質強化が…
[気になる点] いかなる理由があろうとあんな横暴な輩に情けをかけたこと
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