119話 交渉
「ユウ!」
長い金髪に純白の軽鎧の女騎士が抱きついてきた。
「あ、アイリ? どうしてここに?」
「え? だって蒼海連邦から帝国に支援要請がきたんだもの。ユウが連邦にいることは聞いてたから、私が来たってわけ!」
ふふん、とキラキラか輝く金髪をかきあげる幼馴染。
俺が言いたいのはそういうことじゃなく……。
(なぁ、アイリ)
(何よ、ユウ)
小声で話す。
(お前は次期皇帝だろ。こんなところに来てる場合か? 危険だろ?)
(平気よ。この島は暗黒竜からは距離が離れているし。なにより帝都にずっといるのは暇だもの)
(暇って……)
呆れたが、考えるとアイリは学業優秀で帝国の最高戦力の一人である『天騎士』。
さらには皇位継承第一位という、グレンフレア帝国の最重要人物。
帝国内にいる限り自由はないだろうから、きっと羽を伸ばしにきたんだろう。
護衛には皇帝直属の黄金騎士団がいるから、皇帝陛下の許可を得て来ているはずだ。
「アイリ皇女殿下……帝都よりわざわざご足労をありがとうございます。この度は、このように多くの飛空船団を率いてくださったことを感謝いたします」
深々と頭を下げているのは、ティファーニア・クリスタル王女。
すると笑顔だったアイリの表情がすっと消える。
皇女の顔になった。
「会うのはリュケイオン魔法学園の学園祭以来ね、ティファーニア王女。暗黒竜が現れるなんて災難でしたね。帝国として可能な限りの支援はさせていただきます」
「は、はい。それで今回の支援の条件についてですが……」
「支援の条件については、ガルヴァン団長と話してもらえるかしら」
アイリがちらっと見る方向には、壮年というよりやや老年に差し掛かった目つきの鋭い騎士が立っている。
――ガルヴァン・グレイウッド団長。
先代の皇帝陛下の時から仕える、現在の黄金騎士団の中でもっとも古株の団長だ。
(他国との交渉の経験の浅いアイリのお目付け役ってことか……)
そして、俺は名前こそしっているがほとんど会話をしたことはない。
どうやら交渉で俺に力になれることは……、と思っていると。
(困ったことがあれば私のところに直接きなさい)
(えっ?)
ぼそっと、小声でアイリがティファーニア王女につぶやくのが聞こえた。
ティファーニア王女は一瞬、きょとんとした顔になり慌ててばっと頭を下げている。
(なるほど……、カルヴァン団長がふっかけてアイリがそれをとりなすことで借りを作るってことか)
知らぬ間に、幼馴染の交渉力が巧みになっていた。
感心していると。
「ねっ! ユウ、行きましょ!」
アイリが俺の手を引く。
「いいのか? 会議に参加しなくて」
「いいのよ。帝国軍はあくまで大魔獣からの避難の支援するのが目的だから。戦うわけじゃないし」
「そっか」
という会話をしながらも、ぐいぐい引っ張られる。
いかん、アイリのペースに巻き込まれた。
「ちょっと、待っ」と言おうとした時。
「ゆーくん!」
「ユージン!」
スミレとサラに引き止められた。
「あら、スミレちゃんにサラさん。ユウをお借りするわね」
「だ、ダメです!」
「アイリ皇女殿下、私たちの恋人を勝手に連れて行かれては困ります」
「む……」
アイリの顔が普段の表情に戻る。
幼馴染は、皇女として教育されてきた割にあまり感情制御が上手くない。
要は短気だ。
「少しぐらいいいでしょう。いつも一緒にいるんだから。あとユウは貴女のじゃないわ」
アイリが強引に引っ張っていこうとする。
「あら、耳が遠いのでしょうか? 帝国のお姫様は。ユージンは私たちから離れたくないそうです」
サラが俺の腕を掴む。
一応笑顔だが、目は笑ってない。
「聞こえてるわよ、独占欲が強いわね次期聖女サマは」
アイリの言葉に、サラの笑顔が消える。
幼少期から聖職者として育ったサラだが、お祈りより剣を振り回すほうが得意な武闘派シスター。
性格は直情的だ。
結果、アイリとサラが睨み合っている。
「ゆーくん……」
スミレが上目遣いで、俺のほうを見ている。
不安そう……に見えるが、「はよ、なんとかしろ」と訴えているようにも見える。
スミレの見た目は穏やかだが、炎の神人族という種族の影響か、もともとの性格なのかスミレも感情的な一面がある。
見た目ほどの穏やかさではない。
(ユージンって、そういう女の子ばっかり手を出すのが趣味なの?)
魔王が呆れた口調で言ってくる。
違う、偶然だ。
「「…………」」
ひとまず、次期皇帝と次期聖女が睨み合っている現状はよくない。
ティファーニア王女とクロードの表情が引きつっている。
「こっちへ」
俺は三人を強引に引っ張って、場所を変えた。
◇
「さっきはごめんなさい……」
「こっちこそ、悪かったわ……」
場所を変えて移動している間に、サラとアイリが冷静になってくれたようでお互いに謝っている。
よかった、国家間の問題にならずにすんだ。
ちなみに、口調はお互いにあえて砕けたものにしている。
「ところでアイリちゃんは、ゆーくんが心配できたの?」
スミレの口調は砕けすぎな気がするが。
サラが少し驚いた顔をしている。
学園祭で二人で話す機会があって、スミレとアイリは距離が近くなっていた。
「まぁ、そんなところだけ……ところでその『ゆーくん』呼びって……」
「えっ!? な、なにかなー。別に前からダヨー」
「そうだったかしら……?」
アイリが首をかしげる。
その間に、空に停泊していた飛空船団が四方へ飛んでいる。
きっと暗黒竜の移動予測先に入っている島へ避難民を迎えに行っているのだろう。
それからしばらくは四人で雑談をした。
「ところでさ、ユウ。ただ暗黒竜から逃げるだけなんてつまらなくない?」
ここでアイリが何かを企んでそうな、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「アイリ……何を考えてる?」
聞きつつ次の言葉は予想できた。
長年の付き合いのせいで。
「面白い作戦があるの。どうせなら、伝説の大魔獣をやっつけてみない?」
子どもの頃、「飛竜退治に行くわよ!」と俺と二人で飛竜に挑み、二人して大怪我した時と同じ顔だった。
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■感想返し:
>黒人魚いつの間にか存在感なくなってて草
確かに……。
■作者コメント
今日は体調悪いので寝ます。
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