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118話 支援者

「ねぇ、ゆーくん。これからどうなっちゃうのかな?」

「どうだろうな……いったん、連邦議会で話し合いが行われているみたいだけど」


 大魔獣『黒人魚(ウェパル)』討伐作戦の()()の翌日。


 俺とスミレは荒れた海を眺めながら言った。


 風は強くないのに、波が高い。


 海鳥の姿は無く、波の音だけが響く。


 俺たちがいる場所は『黄金の国』の港。


 着港している船の数は、数日前の三分の一以下に減っている。


 理由は言うまでもなく『暗黒竜』グラシャ・ラボラスが出現したためだ。


 普段出入りしている交易船はほとんど去っていってしまった。


「サラちゃん遅いね」

「聖国カルディアへ通信魔法で報告をしているらしいが……、おそらく蒼海連邦から退避するように言われてるだろうな」

「そんなっ! でも……そうだよね」


 次期聖女のサラが、危険を冒して大魔獣の脅威に晒されている蒼海連邦に留まる意味はない。

 暗黒竜(グラシャ・ラボラス)が接近していることを聖国からの連絡を通じて周知したのもサラらしい。

 義理は十分に果たしていると言える。




 ……キュオオオオオオオオオオオン




 遠くから奇妙な鳴き声のような音が聞こえる。


「これって、あの怪獣の声なんだよね?」

「ああ、()()()()()……らしいけどな」

「いびきでこれなんだ……」

 暗黒竜の移動速度は遅い。

 あの巨体を動かすにはそれなりに体力が必要なのか、ただの不精なのか。


 距離はかなり遠いはずなのに、不気味な鳴き声だけが響いてくる。

 嫌な感じだ。

 

 その時、こっちに近づく気配があった。

 振り向こうとするその前に声をかけられる。


「よお、ユージン、スミレちゃん」

 声の主はクロードだった。

 隣にいるのは……たしか『黄金の国』の王族、ティファーニア・クリスタル王女だったはず。


「こんにちは、リュケイオン魔法学園の英雄、ユージンさんとスミレさん」

「ティファーニア王女殿下。ユージン・サンタフィールドです」

 連邦のマナーは知らなかったので、俺は帝国軍の流儀で膝をついて挨拶をした。


 スミレも慌ててそれに倣っている。

 が、俺たちの態度に慌てたのはティファーニア王女だった。


「そのように畏まらなくても結構です! どうぞクロードに接するように話してください」

「それは……」

 その言葉通りに受け取っていいか迷っていると。


「大丈夫だよ、ユージン。スミレちゃん。ティファは二人と仲良くしたいんだってさ」

「そうか」

 その言葉に従うことにした。

 口調も普段通りにする。


「クロードは軍議に参加しなくていいのか?」

 俺が聞くと。


「軍事作戦の話し合いなら参加するんだが……」

 なんとも言えない表情のクロードを見て察した。


 クロードはリュケイオン魔法学園の生徒であるが『竜の国』に仕える竜騎士だ。

 そして連邦軍の軍人でもある。


 竜騎士は連邦軍の中核であり、竜騎士部隊の精鋭の一人であるクロードが会議に呼ばれないということは。


「蒼海連邦は暗黒竜とは戦わないってことか」

「えっ!?」

 俺の言葉にスミレが驚きの声をあげる。


 が、クロードとティファーニア王女の表情から俺の予想は外れていないと確信した。


「帝の剣の御子息であるユージン様には隠せませんね」

「しかし、なぜです? 第二部隊は全員生還しましたし、第一部隊も控えていますよね?」

 俺はティファーニア王女に質問する。


 もともとは大魔獣『黒人魚』の討伐を計画していたのだ。

 準備ができていない、ということはないと思う。


「その問に答えるには、こちらを見ていただくのが早いでしょう。さきほどカルディア聖国の運命の巫女(オリアンヌ)様から暗黒竜の予想進路を予知していただきました。これがその地図です」


「俺たちに見せてもいいのですか?」

「構いませんよ。ユージン様が囮船のしんがりを務めていただいたおかげで、第二部隊は被害がありませんでした。蒼海連邦の恩人です」

 と言われたので、俺とスミレは赤い線が引かれた蒼海連邦の地図を見た。


 おそらく赤い線が暗黒竜の予想進路だろう。

 そして赤い線の引かれたところと重なる島には、バツがついている。


 俺とスミレは蒼海連邦の地理には詳しくないが。


「ゆーくん、これってやばくない?」

「蒼海連邦の島の3()()()()が被害に合う予想か……」

 想像以上の大規模被害予測だった。


(この被害でなぜ戦わないという判断になるんだ……?)


 俺の心の声がそのまま表情に出ていたのだろう。

 クロードが口を開く。


「ユージンやスミレちゃんは、地図を見ただけじゃわからないと思うが暗黒竜の予想被害国は、蒼海連邦の主要国じゃないんだ。どれも辺境国ばかりなのもあって暗黒竜との戦いには消極的なんだよ」


「連邦軍はそのほとんどを主要国の人員で占められていますからね。わざわざ被害を出してまで辺境国を救おうという意見が少なく……」

 クロードとティファーニア王女の表情が暗い。


「そんなのって……ひどい」

「とはいえ、被害予知ができるなら避難させることはできるだろう?」

 俺が言うとクロードが頷いた。


「ああ、勿論だ。すでに連邦軍が暗黒竜の被害予想地域の住民を、避難させはじめている。黄金の国にも、数万人の避難民を受け入れる野営場を設立準備中だ」


「ただ使える船の数が限られているので……避難の進捗はよくありません。辺境国の民は普段は島を出ることなく過ごしているので、そもそもの船の数が足りないんです。飛空船が大量にあればよいのですが、燃料や船員の不足もあって連邦が所持する飛空船は数が少ない……」


「このままだと暗黒竜の到達までに避難できる民は半分にも満たない……」


 クロードとティファーニア王女が悔しそうに語る。

 俺も協力できることがあれば良いが、思いつかない。

 その時。


「あっ! ここにいた!」

 こっちに走ってくる人影がある。

 長い黒髪にリュケイオン魔法学園の制服。

 

「サラちゃん! どうしたの?」

「スミレちゃん、本国との通信は終わって連邦議会にも情報は共有済みよ。それより大変なの!」

「なにかあったのか?」

「聞いて! 『海の墓場』が暗黒竜に飲み込まれたって!」


「「「「え?」」」」

 俺も含めた四人が同時に聞き返す。


 海の墓場とは、黒人魚たちが根城にしていた無人島だ。

 つい昨日に、俺やクロードが向かった場所でもある。

 

(それを暗黒竜が……飲み込んだ?)


「暗黒竜の逸話に……『島喰らい』というものがあります。空腹のあまり、小さな島ごと食べてしまうという伝説ですが、まさか本当に……そんな」

 ティファーニア王女の顔が青い。


「ティファ、飲み込まれたのは黒人魚しかいない島だ。蒼海連邦の民はいない」

「えぇ……でも、クロードも一日タイミングがずれていれば一緒に食べられていた可能性も」


「大丈夫だよ。そうなる前に飛竜で逃げるさ、ティファ」

「そうですよね、クロードなら」

 王女様を安心させるように演技掛かった笑顔を向けるクロード。


 にしても『ティファ』呼びか。

 クロードの婚約者なんだっけ? こちらの王女様は。


 ソランやレオンハートの話では、性格に難ありと聞いたが話してみた感じ特に気になることはない。

 民を心配する優しい王女様だ。


「ねぇ、サラちゃんはこれからどうするの?」

「んー、ユージン次第かな。聖国(ほんごく)からは退避命令が出たけど、無視してやったわ!」


「……いいの?」

「運命の巫女様が味方してくれたから……多分大丈夫」

 スミレとサラの会話が聞こえる。

 そこへティファーニア王女が割り込んだ。


「次期聖女サラ様!」

「は、はい! 何でしょう、王女殿下」

 サラが姿勢を正す。 

 

「聖国からの支援は……いただけそうでしょうか?」

「それは……我が国も大魔獣『闇鳥(ラウム)』の監視と防衛戦力を余り割くことができず……。闇鳥の巣が、聖都アルシャームに非常に近いので」


「そう……ですよね」

 サラの言葉にティファーニア王女が項垂れる。


 スミレは何か言いたそうにして、結局口を開かなかった。

 他国の方針に部外者が口を出すわけにはいかない。


「ティファ、帝国にも支援を依頼してるんだろ?」

 クロードが慰めるようにティファーニア王女の肩に手を置く。


「はい……しかし、帝国も先の大魔獣ハーゲンティの後始末で人員は無駄にできないと聞いています。どれほど力を貸していただけるか。それにかなりの金額を呈示されるでしょう。……あの……ユージンさん、お願いがあります」

 ティファーニア王女がこちらを向く。

 次の言葉は予想がついた。


「明日には帝国からの先発支援部隊が到着するはずです。その時、数が少ないか予想外の金額を呈示された場合に、口添えをしていただけないでしょうか?」

 子犬のような上目遣いで見つめられる。

 ここは少し演技っぽく見えた。


(まぁ、気持ちはわかるけど……)

 

「ティファーニア王女殿下、ご協力したい気持ちはありますが私では力になれないでしょう。私は帝国軍には発言力がありませんし、爵位も最下級の男爵位です。他国との交渉となると、おそらく連邦に来るのは黄金騎士の団長以上の立場のものでしょうから、私の言葉で考えを改めることはないでしょう」

 

 万が一、親父が来れば話ができるかもしれないが『帝の剣』が皇帝陛下の側を離れることはありえない。

 

 同様に『剣の勇者』エドワード様も、他国のために来ることはないだろう。


 有り得そうなのは、第一皇子であるアシュトン殿下あたりだろうか。

 帝国軍の『大将軍』であり、交渉術にも長けている。

 それと黄金騎士の団長の誰かを同行させるくらいが可能性としては一番高い。

 

(ふっかけてきそうだな……)


 帝国は実利主義だ。

 弱っている所からは容赦なく搾り取る。 


「一応、話はしてみますが……」

「どうかお願いします! ユージン様!」

「ティファーニア王女殿下!?」

 まさか、王女様から頭を下げられた。 


「わ、わかりました! 誰がくるのかわかりませんが、可能な限り協力します」

 と俺は言った。

 言ってしまった。


(言質、取られたわよ)

 ぼそっと、魔王(エリー)の声が聞こえた。 


(エリー?)

(あーあ)

(まずかったか?)

 俺は尋ねたが、返事はなかった。  


 すこしもやもやしつつ、その日は平和に終わった。




 ◇翌日◇




 俺とスミレとサラは、連邦議会の議事堂へ呼ばれた。


 場所は黄金の国のほぼ中央。


 巨大な白い建物だ。

 遠目からは女神教会の大聖堂のようにも見える。


 街がざわついている。


 理由は明確だ。


 空を埋め尽くすほどの()()()()()()()


 飛空船には、赤い剣の紋章が描かれている。


 グレンフレア帝国の飛空船だ。


(思ったより大規模だな。一個師団が丸々なんて)


 支援戦力については、出し渋るのではなく全力で支援しつつ金を搾り取る方針にしたのだろう。

 

 そんなことを考えていると、連邦議会の議事堂へ到着した。


 連邦の歴々はすでに揃っている。


 そして、帝国からやってきた支援部隊の責任者も来ているようだ。


(一体、誰が……)

 アシュトン殿下だったら、交渉は諦めて泣き落としでいこうか? なんて考えた。


 議事堂の中央あたりで誰かが囲まれている。


 俺はそっちを覗き込んだ時、ちょうど件の人物がこっちを見た。

 

「あれ?」

 と言ったのは、スミレだった。


「……まさか、嘘でしょ」

 というサラの言葉は、俺の胸中と同じだった。


(一番、ありえないと思っていたんだけど……)


「ユウ!」

 こっちに駆けてくるのは、長い金髪に純白の軽鎧の女騎士だった。

 

 鎧に刻まれた『黄金の翼を持つ獅子』は、帝国の最高戦力『天騎士』の証だ。


 もっとも、今の彼女の立場は『天騎士』よりも遥かに重い。



「久しぶり、ってほどでもないけど。アイリ」

「会いたかったーー!」

 

 俺に抱きついてきたのは皇位継承権『第一位』――()()()()アイリ・アリウス・グレンフレア。


 間違っても暗黒竜が迫る危険な場所へ来て良い人物ではなかった。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



■感想返し:

>グラちゃん「お腹空いた」、、、、、、、海中移動中、、、、、、、

>グラちゃん「お魚いっぱいいただきまーす」、、、、、、、モグモグタイム、、、、、、、(爆弾人形込み)モグモグ、、、、、、、破裂

>グラちゃん「お口がパチパチスル〜」叫び声wかなって思ってしまった


→可愛い。



■作者コメント

>6月1日に3巻の表紙が公開されますので、ツイッター(えっくす)チェックしてくださいね。


→前回のコメントを訂正。すいません、まだでした。

 月曜に発表されるはずです。


 あとエックス(ツイッター)では告知しましたが


・信者ゼロの女神サマ コミック8巻

・攻撃力ゼロから始める剣聖譚 コミック1巻

・攻撃力ゼロから始める剣聖譚 小説3巻


すべて6月25日発売です。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


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― 新着の感想 ―
使えるものはなんでも使えの精神で我儘してそうなお姫様やな…… 下半身の勇者も身体で落とされたか……
[気になる点] 最古の魔獣なんだから「グラちゃん」というより、 「モグモグモグモグ……」 「ん~、メシ、食ったっけ? まあいいか、モグモグ」
[一言] リアルでもそうだけど 自分で守ろうとしない国を手伝う意味は無いと思うがなぁ
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