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114話 大魔獣討伐作戦

「よー、おまえら! 俺が第二部隊の現場指揮官のラルフだ! よろしくな!」

 港に集まった俺たち――大魔獣討伐作戦の第二部隊のメンバーに大きな声で挨拶をするのは、片方が眼帯でいかにも軍人な外見の男だった。


 年齢は五十を超えているのではなかろうか?


 髪は白髪の多い灰色で、顔の皺が多い。


 しかし、身体から溢れる闘気(オーラ)はまだまだ若々しい。


 男が身につけている青色の軽鎧には見覚えがあった。


「ねー、ゆーくん。あの鎧って」

「クロードと同じね」

「みたいだな」

 スミレとサラも気づいたようだ。

 おそらく彼は竜の国の戦士なのだろう。

 

「今回の作戦を説明する! といっても、もう内容は聞いてるな!? 帝国から一体一億Gでぼったくられた人間人形(リアルドール)っつう爆弾を黒人魚(ウェパル)に持ち帰ってもらうってわかりやすい仕事だ! いいか! 簡単な任務だからな! お前ら全員一人も死ぬんじゃないぞ!」


「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 俺たちは力強く、短く返事をする。

 わかりやすい激だったが、気合は入る。


 それにしてもあの人形、一億Gもするのか……。

 スミレが燃やしてしまわなくて本当によかった。


「いい返事だ。じゃあ、これから各自の持ち場を説明する。まず最初は……」

 俺たちは順番に役割についての説明を受けた。




 ◇




「私は留守番かー……」

 サラがしょんぼりしている。


「仕方ないよ、サラちゃんは次期聖女だもん。万が一、何かあったら国家間の問題になっちゃうし」

 サラを慰めるのはエルフ族の賢者見習いフェリシアだ。


 エルフの国の次期族長である彼女も、作戦の実行部隊には参加しないらしい。

 二人とも作戦後の怪我人が出た時にそなえた救護要員となっている。


「ねぇ、スミレちゃんは参加するの?」

「みたいだよ。旗艦にて本隊メンバーとして参加って……具体的に何をするのかは書いてないね」


「ユージンは?」

「俺は囮船の船員護衛担当だな。人間人形に黒人魚が釣られたら、速やかに退避する、だってさ」


「「えっ!?」」

 俺の言葉にスミレとサラが大きな声を上げる。


「それって一番危ない役目じゃない!」

「なんでゆーくんが!」

「そうは言っても、英雄科(クラスメイト)は同じ担当みたいだぞ」

 さっき確認したところ、勇者候補のレオンハートや獣人族のソランも囮船の乗船メンバーだった。


「でも……!」

「もし、何かあったら……」

 不安そうな顔の二人に「大丈夫」と言おうとした時。


「大丈夫だって。ユージンたちは竜の国の騎士が責任持って退避させるから」

 青い軽鎧に赤毛の騎士が声をかけてきた。


「クロード。おまえは何の役目なんだ?」

「俺は囮船上空から黒人魚の監視だな。それから逃げ遅れたメンバーがいれば、その手助けだな」


「クロードくんは囮船に乗らないの?」

「俺もできれば乗船したいんんだけど、飛竜が乗っていると黒人魚が警戒して近づいてこないんだ」

「それじゃあ、しょうがないな」

 にしても黒人魚の知能は高いな。

 気をつけないと。 

 それからも俺たちが雑談をしていると。


「よう! クロード! リュケイオン魔法学園からの諸君、邪魔するぞ!」

 こっちに近づいてくる人影があった。

 第2部隊の現場指揮官のラルフさんだ。

 声が大きい。


「さっきも挨拶をしたが、現場指揮官のラルフだ。そっちの三人は確か帝国の……」

「ユージン・サンタフィールドです」

「サラ・イリア・カルディアです」

「指扇スミレです」


「よろしく頼む。第一部隊のようには絶対にしない。特に……スミレ殿。あなたの魔力連結によって、黒人魚共の群れが移動を開始する前に作戦を開始できた。本当にありがとう!」

「えっ……! そんな大したことは……」

 ラルフさんが頭を下げるのを見てスミレが慌てて言った。


「ユージン殿、サラ殿。君たちは本国での立場もあるだろうに、クロードの呼びかけに応えてもらって感謝する。作戦開始は、今から二時間後。乗船はその三十分前にはしておいてくれ。じゃあ、俺は他のメンバーにも声をかけてくる。クロード、いい友人を持ったな」

「……はい、ラルフ師匠」

 ニッ、と歯を見せて笑いラルフさんは大股で去っていった。


 そのまま、別の第2部隊メンバーのところに声をかけている。

 どうやら全員に話しかけているらしい。


「なぁ、クロード。おまえが死なせたくないって言ってたのは……」

「ああ、ラルフ師匠は俺の竜騎士としての先生なんだ。竜の国の若い戦士は全員、師匠に竜騎士の基礎を教わってる」

「そっか」

 俺にとっての親父みたいなものだろうか。


「でも、それなら竜の国にとっては英雄みたいなものじゃない? どうして、あの歳で現場指揮官なんて危険な任務についてるの?」

 サラの指摘はもっともだった。

 帝国では、ある程度年齢を重ねた戦士は現場ではなく若手の育成や後方支援に回ることが通常だ。

 聖国でも同様だろう。


「ラルフ師匠は竜の国以外でも顔が広くてさ……。第一部隊に大勢知り合いがいたらしいんだ。当初は黒人魚を釣り出して、群れの規模を測るくらいの作戦だったんだが、世代交代の抗争で好戦的になっていた黒人魚の群れに全滅させられたと聞いて、第二部隊の指揮官に志願したんだ」


「そういうこと……」

「そうなんだ……」

 クロードの説明にサラとスミレの表情が曇る。


「じゃあ、第二部隊は全員生き延びないとな」

 俺が言うと、クロードが小さく笑った。


「ああ、俺がクラスメイトのみんなを誘ったからな。命に代えても守る」

 クロードの表情が硬い。

  

(あんまり思い詰め過ぎないといいけど……)


 そう懸念しつつ、俺たちは作戦開始まで思い思いに時間を潰した。




 ――二時間後。




「よーし! おまえらー! 準備はできたな! 出航する!!」

 ラルフさんの大声で、二隻の船が出向した。


 スミレが乗っているのは、よく整備されており見た所最新鋭の装備が積まれている旗艦。


 俺が乗っているのは、最低限の整備と骨董品のような大砲が積まれた囮船。


(ここまで露骨で黒人魚を騙せるんだろうか……)


 少々不安になる。


「よう! ユージン・サンタフィールド! 黒人魚討伐、腕が鳴るな!」

 バン! と背中を叩かれた。

 獅子の獣人族のソランだ。

 

「今回はこいつを送り届けるだけだろ」

 俺が視線を向けた先にあるのは『50体』の人間人形爆弾だ。

 全100体のうち、半分を餌として使うようだ。


 ぱっとみは生身の人間にしか見えないので、それが50体並ぶと……かなり不気味だ。


 人形なので当然動かないし、息もしていない。


 にも関わらず、今にも動きそうなのは人形に込めてある魔力と、擬似的に『心臓の鼓動音』や『瞬き』までするからだろう。


「とはいえ無抵抗では黒人魚も怪しむだろう! 多少の反撃はしたほうがいいと作戦書にもあっただろう?」

「まぁ、そうだな。多少は戦うことになるのか」

 となると俺は南の大陸の三大魔獣『巨獣(ハーゲンティ)』『闇鳥(ラウム)』『黒人魚(ウェパル)』の全てと戦ったことになる。


魔王(エリー)への土産話くらいにはなるかな)

(随分と余裕じゃない、ユージン? 油断して食われるんじゃないわよ)

 俺の心の中のつぶやきに、エリーが返事をした。


(聞かれてたのか)

魔王(わたし)の名前を出したからね。全部は聞こえないわ。まったく闇鳥(ラウム)と戦って無事だったならさっさと帰ればいいのに~~)


(悪い。これが終わったら学園に戻るから)

(絶対よー! 絶対!! はやく!)

 

 ここで念話が終わった。

 戻ったらしばらく色々言われそうだ。


 とはいえ、しばらく封印の第七牢に行っていないのでそれはそれで物足りなさもあった。


「そういえばクロードのやつがまだ来てないね」

 船のデッキで武器の手入れをしているのは、勇者候補のレオンハートだ。


「あいつは飛竜で移動するんじゃなかったけ?」

 俺が言うと。


「それは黒人魚の縄張りに近づいてからだよ。それまでは旗艦か囮船で飛竜を休ませるはずだけど、クロードの騎竜の姿が見えないね」

「確かに、旗艦に一頭の飛竜がいるけどあれはクロードのじゃないな。ラルフさんのかな」

 クロードの飛竜は、俺も生物部として世話をしたことがあるので外見はよく知っている。

 

「クロードならティファーニア・クリスタル王女のところらしいぞ。第二部隊への参加の引き止めにあってるってぼやいてたな」

 ソランがぽつりと言った。


「黄金の国のティファーニア第一王女。クロードの婚約者だっけ?」

 俺が言うと、ソランとレオンハートがそろってなんとも言えない表情になった。  


「ユージンは蒼海連邦じゃないから知らないと思うが、黄金の国の第一王女の我が儘っぷりは連邦中に響き渡っているからね……」

「何でも思い通りにならないと気が済まない御仁だ。我が国も苦労させられている」

「そんなに……?」

 リュケイオン魔法学園の学園祭で会った時は、そこまで悪い印象じゃなかったけど。 


 外向けとは違うってことか。


 そんな会話をしている間にも船は陸地を離れていく。


 サラがこっちを不安そうに見ているのに手を振っていると、やがて島の姿も小さな点になった。



 出向して20分ほどして、大きな飛竜が囮船にドシン! と着地する。



「すまん、ユージン! 遅くなった!」

 英雄科の竜騎士クロードが追いついた。


「王女様に捕まってたらしいな」

「……なんで知ってるんだよ」

 クロードの表情がげんなりとしたものになった。


「二人に聞いた」

 俺がソランとレオンハートのほうをちらっと見る。


「ティファーニア王女殿下から竜の国へ、第二部隊に俺が参加するを取りやめるよう圧力がかかったらしくてな。それを説得するのに手間取った」

「愛されてるじゃないか」

 俺が茶化すと、クロードの表情が苦々しいものになった。


「いまさら俺が不参加にできるはずがないっ……! クラスメイトに声をかけたのが俺なのに」

「黄金の国ってそんなに力があるのか?」

 蒼海連邦の国々は、議会制によって平等な権利を持っていると聞いたが。


「連邦の国は、大なり小なり黄金の国に金を借りてるからな。下手に逆らえば、返済期限を過ぎた瞬間に担保としている土地を没収される。それで国ごと吸収された島も少なくない」


「恐ろしいな……もしかして、トーモア王国も同じような状況か?」

 俺は昨日に再会した元探索隊のメンバーの顔を思い出した。

 たしか、10階層をクリアしないと借金が返せないと言っていた記憶がある。


「ああ、そうだよ。あの国は資源が少ないから」

 クロードの返事は肯定だった。


 ちなみにトーモア王国のメンバーは、今回戦士ではなく船員として参加していると知った。

 黒人魚と戦う役割ではないそうだ。

 少し安心した。


「なぁ、ついでに蒼海連邦の他の国について教えてくれないか?」

 俺はクロードにお願いした。

 どうやら俺の連邦に対する知識は、あてにならなそうだ。


「いいぜ、ユージン。じゃあ、最初は……」

 黒人魚の縄張りについくまで、俺はクロードに蒼海連邦のことを教えてもらった。




 ◇




 船旅から約三時間。


 周囲が薄暗くなってきた。


 天気は悪くない。


 空は雲が少なく、太陽の光が降り注いでいる。


 にもかかわらず、薄暗いのは濃い霧のせいだった。


 クロードはつい5分ほど前に、飛竜に乗って囮船と旗艦の上空を飛んでいる。


 空気が重い。


 霧に含まれる瘴気のせいだろう。


「着いたな……」

「これが……」

 ソランとレオンハートの声が硬い。


 それ以外にも、船員や他の護衛メンバーから緊張した様子が伝わる。


 俺はデッキから海面を見渡した。


 海水が黒く水中が見えない。


 はたして生き物はいるのだろうか? 


 別名:死の海――『黒海(シュバルツ・メア)


 俺は腰に下げている『白刀』を引き抜く。


 意識するまでもなく、はっきりと殺気を感じた。


 それは敵意ではなく、捕食者からの視線。


 かの大魔獣は、『人間』の味を好む。

 

 俺たちは、黒人魚(ウェパル)の縄張りへと到着した。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

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次の更新は『5/12(日)』です



■感想返し:

>トーモア王国の人達懐かしいですね

→実は感想で触れている人がいて、思い出しました。

 再登場させることができてよかったです。



>黒人魚って蜂とか蟻とかに近い習性なのね

→確かに群れ同士の争いってなると、蜂か蟻なんですよねー。



■作者コメント

3巻が6月25日発売予定です。

http://blog.over-lap.co.jp/shoei_2405-2/



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、騙されないで失敗しそう。
[一言] クロード、良いお師匠様に恵まれたようで なんでこんな軽ーい男になってしまったのか謎だけど いや、もしかして黄金の国の我儘王女に呆れさせて手を引かせようって思惑かな
[良い点] 人間人形の値段が1億ガルと、かなり高価なものだと分かったことです。 黒人魚との戦いが間近に迫ってきた緊張感が伝わってきたことです。 [気になる点] >> とはいえ、しばらく封印の第七牢に…
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