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113話 ユージンは、作戦会議に参加する

 英雄科(クラスメイト)たちとの会食の翌日。


 俺たちは大魔獣討伐を目標とした作戦会議に出席していた。


 共に行動する第二部隊のメンバーとの顔合わせと、作戦内容のすり合わせだ。


「皆! リュケイオン魔法学園からの勇敢な生徒たちが第二部隊へと志願してくれた!」

 先日会った副総長の人が俺たちを紹介する。


 パチパチと、大きな拍手で迎えられた。


 第二部隊は人数が減っていたというし、増員は願ったりなのだろう。


 蒼海連邦の出身であるクラスメイトたちは、やはり有名なようで


「拳聖様の御子息が……なんと心強い」

「勇者候補のレオンハート様が……ありがたいことだ」

「フェリシア・ブライトスパークちゃん……天使のように美しい……」

 などのつぶやきが聞こえる。


 同然だが、俺やスミレの顔を知っている人はいない、と思っていたのだが。


「ユージン殿!」

 俺の顔をみて駆け寄ってくる人物……というか集団がいた。

 顔を見ても、誰かわからない。


「ねー、ゆーくん。あの人たちって……」

 スミレは見覚えがあるようだ。

 いかん、思い出せ……えっと……。


「お久しぶりです! ユージン殿!」

中継装置(サテライトシステム)で活躍はいつも見ています!」

「天頂の塔の10階層では、本当にありがとうございました!」

「今回も一緒に戦ってくれるのですね! 百人力です!」

 天頂の塔の10階層という言葉で、記憶が繋がる。


「確か階層主(ボス)を倒した時に会った」

「はい! 人喰い巨鬼(トロール)を倒していただいたトーモア王国の者です!」

「お久しぶりです。お元気そうで……あなたたちも大魔獣討伐部隊に参加されてたんですね」


 俺が初めてボスを倒した時に会った探索者たちだった。

 彼らは蒼海連邦に所属していたし、今回の大魔獣討伐では多くの報奨金がでる。

 参加していても不思議じゃない。


(けど……大魔獣討伐に来て大丈夫なのか?)


 すくなくとも10階層のボスに手こずっていた頃のままでは黒人魚(ウェパル)の餌になってしまう。

 その心配が表情に出たのかもしれない。


「ユージン殿、我々の任務はですね……」

 トーモア王国の人が何かを言いかけた時。


「旧友との再会は喜ばしいが、積もる話はあとにしてもらえるかな?」

 さらに俺に対して話しかけようとしてたトーモア王国の人たちをやんわりたしなめる副総長さん。


「し、失礼いたしました!」

「席に戻ります!」

 トーモア王国の人たちはぞろぞろと席に戻った。


 続いて俺たちも着席する。

 

 会議が本題に入った。


「では、追加メンバーの紹介も終わったところで作戦を改めて説明する。これを見てくれ」

 会議室の前方には大きな映像投影の魔導器があり、そこに青い背景に大小の緑の点が映っている。


 どうやら蒼海連邦の国々と周囲の海図のようだ。


「現在我々がいるのは『黄金の国』。そしてこの部分が大魔獣の縄張りである『黒海』、我らの向かう先だ」

 海図のちょうど右下あたりに黒い染みが広がっていた。


 黒人魚(ウェパル)の発する瘴気によって汚染された区域――通称『黒海(シュヴァルツ・メア)』。


 黒海の中にもいくつか島があるが、そこは人が住めない状態と聞いている。


「長らく我らは黒海を死の領域として、立ち入り禁止としていた。しかし、黒海は年々わずかにだが広がっている。このままにしておくわけにはいかない」

 副総長は厳しい視線で、会議参加者を見回す。


「第一部隊の活躍により今まで全てが同一個体と思われていた黒人魚に『王』がいることが判明した。普段は群れの後方で隠れているため発見されなかったようだ。だが、確かに他の黒人魚に守られて、指示を出している特別な個体はいた。我々はこの個体を『女王』と名付けた」

 ここまではクロードに聞いていた通りだ。


「さらに我々の予想では『女王』は()()存在する」

 ざわ……、と会議室に動揺が走る。


「どうしてそれがわかったのですか?」

 挙手をして質問しているのは、帝国出身のアリス・シルバームーンだ。


「質問に応えよう。第一部隊が命をかけて残した黒人魚(ウェパル)との戦いの映像記録魔法を分析したところ、どうやら黒人魚の群れの中で争いが起きていることがわかった。個体同士の争いでなく、群れ同士の抗争だ。つまりは現在の黒人魚の群れには『2つの集団』が存在する」


「集団が2つあるから、女王も二体いると?」

「参謀部ではそう考えている」


(実際に2体の女王を確認したわけじゃないのか)


「実は黒海の黒人魚たちが攻撃的になる時期が何十年かに一度、定期的に発生することは船乗りたちの間ではずっと噂されていた。その原因はわかっていなかったのだが、定期的に王が世代交代しているのだとすれば説明がつく」


「世代交代……。つまり現在の黒人魚の群れで争っているのは『旧女王』と『新女王』ということですか」

「だろうと見ている。黒人魚は外見から年齢を推測することができないが……これを見てくれたまえ」


 ここで映像が切り替わる。


「わっ! 綺麗……」

「確かに」

 隣のスミレが小さくつぶやくのに俺は同意した。


 表示されているのは長い黒髪に、やや紫がかった黒い鱗を持つ美しい人魚たちだった。


 肌の色は薄い水色。


 映像の黒人魚は妖艶な笑みを浮かべている。


 外見からは知性的な印象すら受けた。


「この中で黒人魚を初めて見る者はいるか?」

 手を挙げているのは、俺とスミレを含めほんの数人。


 蒼海連邦の出身者にとっては、見慣れているようだ。


「一応、初めての者もいるようなので説明しておく。黒人魚の外見に騙されないように。連中とは一切の意思疎通ができない。人語を発することもできるようだが、おそらく意味はわかっていない。襲った人間の言葉を真似ているだけだろう。奴らは雑食だが、特に『魔力の多い人間』を好む。黒人魚にとって人間は食料だ。美しい外見をしているのは、我々を油断させるためだと言われている。肝に銘じておくように」


「ひぇ……」

「スミレちゃん、ユージン。騙されちゃ駄目よ」

「わかってるよー、サラちゃん」


「しかしあの外見の魔物を斬るのは少し気が引けるな」

 魔物とはいえ上半身はほぼ人間だ。

 そこも含めてこの大魔獣のやっかいな所なのだろう。


「さて、ここまでが基礎知識だが、次にどうやって黒人魚を誘き寄せるか。やつらは魔力の多い人間を好む。第一部隊では熟練の戦士や魔法使いも含めたメンバーを揃えたが結果は知っての通り…………全滅した」

 ここで副総長が言葉をいったん切る。


「第一部隊は決して弱かったわけじゃない。むしろ戦力や装備では、十分なものを用意していた」


「そうなのですか? 第一部隊は情報収集のための囮部隊だと聞いていますが」

 発言したのはサラだ。


「確かにそういった側面もあった。しかし、犠牲になって欲しかったわけじゃない。10隻の艦隊を組み、死刑囚たちを乗せた囮船も用意していた。ある程度の戦闘後には、囮を残して離脱させる手はずだったのだが……世代交代の争いで好戦的になっている黒人魚たちは囮船だけでなく、10隻の艦隊全てを沈めた」


「黒人魚は魔力の高い者を好む。死刑囚をいくら集めたところで魅力的な餌にはならなかったってことか」

 冷静につぶやくのは弓の勇者候補レオンハートだった。


「では、我々はどうすればいい? 同じことをしても二の舞いだろう」

 やや尊大な態度で質問をするのは、拳聖の血を引くソラン・ストームブレイカーくん。

 彼も蒼海連邦の中では大国にあたる国の王族だったはず。


 大きな態度はあえてだろうか。

 副総長さんも気にする様子はない。

 彼の質問に小さく頷いた。


「あれをこちらへ」

 副総長さんが部下に命令する。


 数名がかりで『何か』を運んできた。

 いや、それはモノというより……


「ゆーくん! あれって人形!?」

「にしては精巧過ぎないかしら。人間にしか見えないわ」

 スミレとサラの言う通り運ばれてきたのは、人間と見間違うほどの人形だった。

 会議室の前方に、人形が置かれる。


「帝国から購入した人間人形(リアルドール)が100体。こちらに魔力連結(マナリンク)によって魔力を移し黒人魚を釣るための餌とする。それだけではない。人間人形(リアルドール)には爆発魔法が巧妙に隠蔽されてかけられている。黒人魚は餌を巣に持ち帰る習性がある。正確には群れの仲間で分け合う性質がある。そして、おそらく最初に餌を口にするのは女王だ」


「なるほど……そこで一網打尽にするというわけね。悪くないわね」

 帝国軍士官学校出身のアリス・シルバームーンが、面白いわね、という表情をしている。


「人間そっくりの人形の爆弾かー」

「えげつないこと考えるわね……」

 スミレとサラはなんとも言えない顔をしている。


「にしても、よりによって帝国製か……」

 確かにあの精巧度なら、大魔獣も騙せるかもしれない。

 本来の用途を考えると、少し怖くもあるが。


「現在、魔法使いたちが昼夜人工人間(リアルドール)に魔力を吹き込んでいる。しかし、膨大な魔力が必要なゆえ100体全てに魔力を満たすにはあと六日ほどかかる見込みだ」


「悠長過ぎませんか? その間に第一部隊が命をかけて削った黒人魚たちの傷がいえる。それに群れは一定の場所に居るわけじゃない。場所が変わってしまえば、また振り出しに戻ってしまう」

 クロードの指摘に、副総長も渋い表情になった。


「その通りなのだが……、どうしても人間人形(リアルドール)に魔力を注入する時間が必要だ。上級魔法使い10人がかりでやっと1体の人形の魔力が溜まる。蒼海連邦にはあまり多くの魔法使いが居ないのもあってな」


「はーい! それなら私も手伝いますよー」

「おお、それは助かりますね」

 手を上げたのは賢者見習いのフェリシアだった。

 彼女は王級の魔法使いだったはず。


 フェリシアはひょこひょこと、人間人形(リアルドール)の前にやってきた。


魔力連結(マナリンク)!」

 彼女が人形の手を握り、魔力を移す。


 人間人形(リアルドール)が淡い光を放ち、会議室内を照らした。


 数分後。


「はぁ……はぁ……、どうですか?」

 やや息切れしているフェリシアが、副総長さんへ尋ねる。


「凄い! カラの状態から三分の一近く魔力が溜まってます!」

「うわ~、私の全魔力でもそれだけかー。これは厳しいね」

 王級の魔法使いですら、か。


 魔力量が普通程度の俺じゃ、訳に立たなそうだ。

 その時、視線を感じた。


「ねー、ゆーくん」

 スミレがなにか言いたげだ。

 すぐに意図に気づく。


「すいません! スミレにも魔力連結を試させてください!」

 俺は副総長に手を挙げて進言した。


「ええ、勿論構いません」

「行ってくるね! ゆーくん、サラちゃん!」

 スミレはトタトタと、会議室の前方に歩いていった。


「スミレちゃんこっちこっちー」

 フェリシアがスミレを手招きする。


「ねぇ、ユージン。スミレちゃんの魔力連結って大丈夫? 人間人形(リアルドール)が燃えたりしない? あれって帝国から買った高級品なんでしょ?」

 隣のサラに言われて、ふと心配になった。

 そういえばスミレは繊細な魔力の扱いが苦手だった。


「最近は誤炎上はほぼ無いから大丈夫…………のはず。俺に魔力を移す時も安定してるし」

 た、頼むぞ……スミレ。


 最悪、俺が弁償する。

 でも、できれば燃やさないで欲しい。


 その祈りが通じたのか。



魔力連結(マナリンク)!」



 カッ!!! と人間人形(リアルドール)が目が眩むほどの光を放った。


 ついでに軽く魔力の火花が舞ったが人形は燃えていない。


 ふぅ、助かった。


「どうですか?」

 スミレが副総長に尋ねる。


「どうですかと、言われてもこんな一瞬では……………………え? えええええええええっ!」


 終始落ち着いた口調で喋っていた副総長が、大声を上げ目を見開いている。


「うっわ……スミレちゃん、やばー。人形の魔力が満タンになってるじゃん」

 フェリシアが呆れた顔で笑った。


「あ、あの……大丈夫ですか? そんな一気に魔力を移したら身体に影響が……」

 副総長さんがスミレの体調を心配するが。


「まだまだいけるんで、残りも全部やっちゃいますよー☆」

 自分のやったことの凄さをいまいち把握できてないのか、スミレが腕まくりをしている。


「は、はぁ…………で、では。次の人形を運んでくれ!」

 副総長さんが部下に指示を出す。

 部下の人たちが慌ただしく動き出す。


「ねえ、ユージン」

「どうした? サラ」

 隣のサラが俺の肩をつつく。


「ユージンってスミレちゃんから魔力をよく貰ってるから知ってると思うんだけど、もしかしてスミレちゃんの魔力量ってユーサー王くらいあるんじゃない?」

 そんなことを聞いてきた。

 何を今さら。


「まさか、そんなわけないだろ」

 俺は首を横に振った。


「そ、そうよね……。いくらなんでもそこまでじゃ」

「ユーサー学園長どころか、魔王(エリー)より多いよ」


「………………は?」

 サラの目が、さっきの副総長と同じくらい見開いている。


魔王(ほんにん)が言ってたからなー。天界時代は別として、今の封印状態だったら魔力量だけならスミレに負けるって」

 サラが固まって動かなくなった。

 

 近くに居ても案外気づかないらしい。


 ユーサー学園長から借りている、魔法のローブのせいかもしれないが。


「じゃんじゃん、行くよー☆」

 次々に運ばれてくる人間人形(リアルドール)


 それらを片っ端から魔力連結(マナリンク)していくスミレ。


「うっわ……。スミレちゃん、怖っ」

 横にいる賢者見習い(フェリシア)が、完全に引いている。



 ――こうして、スミレの活躍により作戦の実行日が()()()()()()()()


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次の更新は『5/5(日)』です



■感想返し:

>第一章で蒼海連邦に属しているトーモア王国の人達が

→再登場してもらいました


>ユージンは女子たちに襲われてばかりで、自分から求めに行ったことは無いんじゃない?

確かに……これはいけませんね。



■作者コメント

4/25に信者ゼロの女神サマの12巻でました。

挿絵(By みてみん)


コミックガルドで攻撃力ゼロの3話が更新されてます。

https://comic-gardo.com/episode/2550689798327199177



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さーさんみたいにこの人魚の中にも日本人がいたり……はしないか。
[一言] もしかして信者0含めて神族除けば最大魔力量!?
[一言] そう言えば、ラミアなんかも黒人魚と似たような生態してましたね……。
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