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111話 ユージンは、再会する

「クロード、無事だったのか!?」

 俺は見慣れない青い軽鎧(ライトプレート)を着た英雄科(クラスメイト)であるクロード・パーシヴァルに言った。


 おそらく蒼海連邦の共通装備なのだろう。

 胸に黄色い盾の紋章が入っている。


「無事?」

 クロードはきょとんとした表情になった。


「大魔獣の討伐隊は全滅したって聞いたぞ」

「あ~、その話か。順を追って説明するよ。ところで来たのはユージンひとりか?」

「いや、スミレとサラも一緒だ。じきに戻ってくると思う」

「そっか、二人とも来てくれたのか」

 少しうれしそうだった。



「あれ? クロードくんだー! やっほー」

「なによ、元気そうじゃない。心配してたんだから」

「ごめんごめん、スミレちゃん、サラちゃん」

 ほどなくしてスミレとサラが戻ってきたので、俺たちはクロードに案内されて大魔獣討伐隊が拠点にしているという宿屋へ向かった。


 黄金の国の繁華街は賑わっている。


 蒼海連邦内だけでなく、帝国、聖国とも交易の中心となっている島だ。


 島外の人間も多いようで、服装はばらばら。


 雑多な街並みは帝国や聖国のどちらとも違う。


 強いて言えば、迷宮都市に近いだろうか。


 大通りでは多くの露店や商店が客の呼び込みをしている。


 喧騒の中を歩きつつ、俺たちはクロードに状況を教えてもらった。



「じゃあ、全滅したっていうのは大魔獣討伐隊の『第一部隊』ってことなのか?」

「ああ、それが大げさに各国に伝わったみたいだな」

 蒼海連邦によって組織された大魔獣討伐隊には第一から第三の部隊があるらしい。

 クロードが所属しているのは、黄金の国や竜の国の精鋭が集まった第三部隊。


 そして全滅をした第一部隊は、あまり裕福ではない国の出身者で構成されていたらしい。


 大魔獣の様子を探るための()()()だったということだ。


「そんな……囮なんて」

「全ての民は平等であるって女神教会の教えに反するわ」

 スミレの表情が曇り、サラの目が細まる。


「確かに気分のいい話じゃないが……、無理強いしているわけじゃない。部隊の人間は全員志願者だし、残された家族には相応の金額は支払われる、からさ……」

 説明するクロードの表情は、決して全てに納得しているわけではなさそうだった。


「で、囮部隊まで使って何がわかったんだ?」

 俺が聞くと意外な答えが返ってきた。


「あぁ、黒海を縄張りとする大魔獣『黒人魚(ウェパル)』は群体で、その全ての個体は同一で群れを統率する『王』はいないと言われていたんだが……、そうじゃないことがわかった」

「統率者がいたのか?」


「そうだ。群れを命令している個体を発見した。それを『女王』と呼称している。今回の大魔獣討伐作戦は『黒人魚の女王』の討伐が目標になった」

「なるほど。黒人魚を全滅させろとか言われたらどうしようかと思ったけど、それなら望みがありそうだな」

 黒人魚の群れの正確な数はわかっていない。

 一説には数千とも言われている。


「ねーねー、クロードくんは黒人魚を見たことあるの? 人魚って可愛い?」

 スミレが無邪気な質問をする。


 かくいう俺も黒人魚は見たことがない。

 人魚族は美しい容姿をしていることが多いと聞くが。


「まぁ、見た目は可愛いと言えなくはないが……あいつらの()()()『人間』だからなぁ」

「……ひぇぇええ!!」

 クロードの言葉にスミレが青くなった。


「サラは黒人魚見たことがあるんだっけ?」

「黒海の近くを通った時に、遠くの群れをちらっとだけね。間近では見たことないわ」

 とのことらしい。


 そんな雑談をしているうちに俺たちは宿屋……というには大きすぎる建物へと到着した。


 門番が一瞬警戒した表情を見せるが、クロードの顔を見て小さく会釈した。


 顔馴染みのようだ。



「ここは黄金の国で一番大きな宿で、大魔獣討伐の支援者であるクリスタル商会が運営してるんだ。討伐隊の総隊長は夜まで戻らないけど、副総長がいるから挨拶をしておこう。あとは、英雄科の連中は街に出かけてると思うからあとで顔を見せよう。それでいいか?」

「はーい」

「問題ない」

「かまわないわ」

 クロードの言葉に俺たちは頷く。


 最初に案内されたのは、一階にある大きな会議室だった。


 ノックをしてクロードがドアを開ける。


「竜の国のクロードです。失礼します」

「うん、どうしたんだい? 確かリュケイオン魔法学園の知り合いを迎えに行くと……そうか、君たちか」

 会議室内の中央には大きな長机があり、その上やボードにたくさんの地図やメモ書き、黒人魚らしき魔獣のイラストに多くの書き込みがしてあった。


 俺たちのほうに向かってきたのは、およそ40歳前後のひょろっとした男だった。

 いっけん、非戦闘員のように見えるがその足さばきは訓練を受けているものをそれだった。


「ユージン・サンタフィールドです。リュケイオン魔法学園の英雄科から参りました」

「ユージンくんと同じクラスの指扇スミレです!」

「同じくリュケイオン魔法学園の生徒会長を務めておりますサラと申します」

 俺に続いてスミレとサラが自己紹介をした。


「遠路はるばるようこそ、対大魔獣の特別部隊へ。私は副総長をしている者です。君たちの噂は聞いているよ。戦力として期待している。今日のところはゆっくり身体を休めてくれたまえ」


 顔合わせは本当に簡単に終わった。


 副総長はすぐに会議に戻っていった。



 ――女王をどうやって見つける?


 ――罠にかけよう。囮を用意するんだ。


 ――そんな簡単にはいくまい


 ――以前より群れの統率が取れているぞ。奴らは学習している。


 ――大魔獣に知能があるというのか?


 ――あいつらは本能だけだ。バカバカしい。


 ――第一部隊はそれで全滅した。油断をするな



 そんな会話が聞こえてきた。


 内容が気になったが、ずっと聞き耳を立てているわけにも行かない。


 俺は部屋を出るクロードのあとに続いた。


「じゃあ、次は泊まる部屋に案内するよ」

 クロードが階段を上がっていく。

 着いたのは三階の部屋だった。


「宿代はどうすればいいんだ?」

「この宿代はクリスタル商会が前払いしているから気にしなくていい。ただし、食事は出ないから各自で用意してくれ」

「わかった」

 そう言ったクロードは、サラとスミレのほうに顔を向けた。


「あんまり部屋が空いてなくてさ。スミレちゃんとサラちゃんは、相部屋でもいいかな?」

「うん、いいよー。ね? サラちゃん」

「かまわないわ。迷宮探索の時も一緒のテントだし」

「じゃあ、こいつが鍵な。スペアがあるから、1つずつ渡しておくよ」

「はーい、クロードくん、ありがとう」

「ありがとう、クロード」

 スミレとサラが鍵を受け取っている。


「ねー、ゆーくんの部屋は?」

「二人の隣の部屋だよ。ユージンは、俺と相部屋でもいいか?」

「ああ、部屋数がないんだろ。問題ないよ」

 見知らぬ人となら多少気を使うが、クロード相手なら特に気にしなくていい。

 俺はクロードから鍵を受け取った。


「スミレ、サラ。いったん、呼ばれるまでは自由行動にしようか」

「わかったー、ゆーくん」

「またあとで、ユージン」

 スミレとサラは同じ部屋に入っていた。


「ねー、サラちゃん。あとでもう一回、お店見に行こうー」

「いいわよ。さっき買い物の途中だったし」


「サラちゃん、えっちな下着選んでたよねー」

「べ、別にいいでしょ! 聖国だと可愛い下着が無いんだから!」


「私も新しいの買おうかなー」

「スミレちゃんは可愛いのいっぱい持ってるじゃない。今着てる赤い下着とか」


「服の話だよ! というかなんで私の下着の色を知ってるの!?」


 スミレとサラの会話が聞こえる。

 二人とも元気だなー。


 俺も自分の部屋に入り、手荷物を置いた。


 宿泊部屋は思ったより広い。


 数日の飛空船の旅で身体が鈍ってる。


 ちょっと、動かしたいなと思っていると。


「ユージン、これから予定はあるか?」

「剣の訓練がしたいな。どこかいい場所はないか?」

「ユージンならそう言うと思ったよ。案内する」

 ニヤリとクロードが笑うと、俺についてくるように手招きした。




 ◇




「ここは……?」

 クロードに連れてこられたのは、宿屋から少し離れた場所にある広い公園だった。


 ただし、入口には『関係者以外立ち入り禁止』と書かれてあり、クロードは注意書きを無視して入っていく。


「この公園は討伐部隊の訓練用に商会が貸し切ってあるんだ」

「その割には誰もいないな」

「……まあ、な」

 クロードが自嘲するように唇を歪めた。


 何か理由があるのかと思ったが、無理には聞かなかった。


 その後、クロードに借りた訓練用の木剣とクロードの木槍でしばらく模擬戦をした。




「双竜撃!」

 神速でクロードの槍が2つに分かれたように見え、竜の顎のようにこちらへ迫る。


「くっ!」

 避けきれず槍先が頬をかする。


「『風の型』鎌鼬!」 

「おっと」

 俺の放った連撃は、あっさりとクロードに距離を取られた。


 ……今のは、負けだな。


 ざっと50戦ほどやって24勝、25敗、1分。


「ちょっと休憩するか」

 ふぅ、と一息つく。


「学園の時より動きが悪いんじゃないか、ユージン」

「みたいだな。勘が戻るのにもう少しかかりそうだ」

 あるいは実戦じゃないからか。


 ここが迷宮都市なら『天頂の塔(バベル)』に登れば、いくらでも実戦の場が持てる。

 思えば恵まれた環境だ。



(……ぬるいのよ。今の探索者は)



 ふと、天頂の塔の迷宮主アネモイ・バベルの言葉を思い出した。



「なぁ、ユージン」

 俺が天頂の塔のことを考えていると、クロードがこちらを真剣な表情で見ていた。


「なんだ? クロード」

「大魔獣『黒人魚(ウェパル)』討伐の件、俺は第三部隊に所属していると言ったよな」


「ああ、覚えてるよ」

「リュケイオン魔法学園・英雄科のメンバーも基本的には第三部隊に配属される。実力的に考えても間違いなくな。だから、俺やユージン、スミレちゃんやサラちゃんは一緒の部隊になると思う」


「そうか」

 ならよかった、とは言わなかった。


 クロードの表情を見ていたから。


「このあとの作戦では第二部隊が出撃する。第一部隊ほどひどい結果にはならないと思うが、それでも『黒人魚の女王』の討伐は難しいと予想されてる。第二部隊の目標は、女王の捕捉と目印付け(マーキング)だ。それを第三部隊で討伐するわけだが……、第二部隊はきっと壊滅に近い状態になる」


「それは……兵士は承知のうえで志願してるんだろう?」

 国のために死地にあえて向かう。

 かつて帝国軍士官学校でも、教えられた。


「ああ、そうだよ」

 クロードの表情は沈んでいる。


 俺は大魔獣の囮になると言ったアイリの役目を奪った。

 理屈はわかっても心情は別だよな。


「何か他に作戦があるのか?」

 俺が尋ねると、質問の回答とは別の言葉が返ってきた。


「昔、世話になった人がいるんだ。もう老兵でかつての実力は有してないんだが、大魔獣討伐の号令がかかると一番に志願してな。その人が第二部隊に所属してる」


「今から志願を取り下げるのは……」

「俺が言ったって聞かないさ。何より、その人は『死ぬなら戦場で華々しく散るに限る!』ってのが口癖なんだ。根っからの軍人でさ」

 

「それはまた……剛気な人だな」

 たまにいる。

 帝国軍でもみかけた。

 そしてそういう人ほど人望があったりする。


「なぁ、ユージン。さっきはサラちゃんとスミレちゃんの前だから言わなかったが……」

「クロード……まさか」

 言わんとしていることがわかった。

 しかし。


(お前は……蒼海連邦の未来の勇者だぞ……?)


「俺は第二部隊に志願しようと思う」


 それは親友が死地に向かうという宣言だった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次の更新は『4/21(日)』です



■感想返し:

>ほんさくのヒロインのスミレは前作の主人公のマコト達のクラスメートですが本作に他のクラスメートは登場するのでしょうか?

→過去にも何度か言っておりますが、本編には前作キャラは出ないです。

 名前くらいなら登場するかもしれません。

 本編終わったらクロスオーバーしたいなと思っています



>・リリーちゃんかわいい

→ヒロインにしたい誘惑が……。



■作者コメント

信者ゼロの漫画版が公開されました。

https://comic-gardo.com/episode/11341664176594718837

ついにあの人(月の巫女)の後ろ姿が……!?



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
[良い点] ウェパル討伐の現状と、クロードの人柄の良さが明らかになったことです。 [気になる点] >>そして全滅をした第一部隊は、あまり裕福ではない国の出身者で構成されていたらしい。 この中には、マコ…
[一言] 女が絡まなければクロードって真面目なんだなぁ それはそれとしてユージンはクロードと一緒に行くのかな
[良い点] リリーちゃんのヒロイン昇格賛成! ヒロインになった上でクロードくんに茶化されるユージン読みたい! [気になる点] 白魔力だろうが関係なさそうな模擬戦でユージンに勝ち越してるクロードくんやは…
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