110話 ユージンは、新天地へ向かう
タルシス山脈に住まう大魔獣――闇鳥ラウムとの邂逅。
それから一週間経った俺たちは、聖都アルシャームから『蒼海連邦』へと向かう飛空船へと乗っていた。
目的は蒼海連邦にいる『英雄科』との合流。
ちなみに、闇鳥ラウムに関しては『当面の間、静観する』方針となった。
方針の決定者は『運命の巫女』オリアンヌ様。
理由は「子を守る魔獣に手を出すことは最も愚かな行為。どのような厄災が起きるかわかりません」とのことだった。
まぁ、そもそも闇鳥の『死の呪い』に耐えられる者がほとんど居ない状況で手を出せば千人単位で死者が出るだろう。
納得の理由だった。
「せっかく来てもらったところ申し訳ないと思っています。ただ、ユージンくんの助力がなければこれほどスムーズに調査はできませんでした。神聖騎士団を代表してお礼申し上げます」
ジャクリーヌ団長からは、かしこまったお礼を言われた。
「別に大したことは……」
「ユージンはすぐ謙遜するんだから。悪い癖よ」
サラに注意された。
今回の俺の評価としては、『最高ランク』のS評価。
聖国からリュケイオン魔法学園にフィードバックされて、今期の成績に反映されるらしい。
(そっか……英雄科はテストとかで成績が決まらないんだな)
普通科は模擬テストや実技テストだった。
随分と評価制度が違う。
『英雄科』の生徒は先生より強い者が多いためこのような仕組みになったらしい。
とにかく、聖国の大魔獣討伐の助っ人という俺たちの仕事は完了となった。
じゃあ、なぜ俺たちがリュケイオン魔法学園に戻らずに蒼海連邦の領地に向かっているかというと……。
「ねー、ゆーくん。クロードくんたち無事かなぁ」
「きっと大丈夫よ。あいつは学園一の飛竜の乗り手だし……ねぇ、ユージン」
「俺もあいつが死んだとは思えないけど……大魔獣討伐隊が全滅っていうのは気にかかるな」
「不安だよ……レオナちゃんもきっと心配してる」
「そうね、テレシアさんも心を痛めてるわ」
飛空船のデッキでスミレとサラと一緒に、次の目的地について語り合った。
予想よりも早く闇鳥討伐、……というか調査が切り上げとなってので俺たちは蒼海連邦の大魔獣討伐隊に合流することになった。
合流するのは俺とサラとスミレの三名だけ。
それ以外の英雄科の仲間は、しばらく聖国にとどまり学園へ戻るらしい。
俺達が蒼海連邦に行くことを告げるとリリー・ホワイトウィンドには随分驚かれた。
「えっ!? 嘘でしょ。何考えてるのよ!」
「クロードが心配だからさ」
「私と勝負する話はどーなったのよ! ユージン・サンタフィールド!」
「それは学園に戻ってからでもいいだろ?」
「そんなこと言ってもしも……万一重傷負ったり、死んじゃったらどうする気!? すでに聖国から最高評価を得てるんでしょ! なんで無理に危険な場所に」
「言うほど危険か?」
「くっ……! 腹が立つ男ね! いいわ。学園であんたの帰りを待っててあげるから、帰ってきたら勝負しなさい!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
そんな会話の記憶が蘇った。
当初はろくに口を聞いてもらえなかったのにな。
(英雄科でも仲良くできそうでよかった)
「ねー、ゆーくん~」
「ユージン、誰のことを考えてる?」
俺が飛空船から外の景色を眺めていると、スミレとサラに顔を覗き込まれた。
「い、いや。なにも考えてないよ」
「ほんとーかなー。聖国だとリリーさんと仲よさげだったよね」
「あの子、人見知りだし帝国の人間には敵意が強いのに随分とユージンとは打ち解けてたわね」
なぜリリーのことを思い出していたことがすぐにばれるのか。
女の勘か……。
「スミレ、サラ。蒼海連邦までは数日かかるそうだし、そろそろ部屋で休もうか」
「あー、ごまかした」
「リリーとなにかあったのかしら」
「なにもない!」
冤罪だ。
結局、スミレとサラも部屋までついてきてあまり休めなかった。
◇数日後◇
タルシス山脈を抜けると、青い海が広がっていた。
「うわー、海綺麗ー!」
スミレのテンションが高い。
「久しぶりね、ここに来るのは」
サラは前に来たことがあるらしい。
かくいう俺はスミレと同じく初めて来る場所になる。
冷静っぽく振る舞っているが、スミレと同じく浮足立っているのを感じた。
どこまでも広がる青い海と空。
そして、大小多くの島々が見える。
俺たちを乗せた飛空船は、その上を軽やかに超えていく。
――ご乗船のお客様に申し上げます。あと一時間ほどで、当飛空船は『黄金の国』へ到着いたします。下船のご準備をお願いいたします。
拡声魔法で案内の声が響いた。
黄金の国は、千近くある蒼海連邦の中で三番目に国土が広く、一番財力のある国だ。
国名の由来は、島の中央にある巨大な金山である。
金だけでなく聖銀や魔鋼も採れるらしく、資源が豊富な国だ。
今回の大魔獣討伐は、黄金の国の発案が連邦議会で承認されたと聞いている。
――なお、現在は大魔獣『黒人魚』の活動が活発化しているため、船便の本数が制限されております。ご注意ください。
そんなアナウンスが流れた。
「こっちの大魔獣も活発なのか」
「会いたくないわね」
「ねー、ゆーくん、サラちゃん」
「どうした?」
「大魔獣の黒人魚って海の中にいるんでしょ? だったらみんな飛空船で移動すればいいんじゃないの?」
スミレの質問はもっともだ。
が、それができない理由がある。
「スミレちゃん。飛空船ってね、乗るためのチケット代がすっごく高額なの。それに小さな島だと、飛空船の発着場が作れないわ。予算がなくて」
「聞いたことがあるな。千近くの小国がある蒼海連邦で飛空船で移動できる国は100もないって」
「そ、それだけしかないの!?」
スミレが目を丸くした。
蒼海連邦の国別の格差は大きいからな……。
一番小さい規模だと、人口千人にも満たない村レベルの国まであるらしい。
リュケイオン魔法学園にいる蒼海連邦の出身者の国は、基本的にはみな裕福なはずだ。
そのあたりの話を、俺とサラでスミレに説明した。
ただ、俺もそこまで詳しいわけじゃない。
本来なら蒼海連邦の出身者に話を聞くのが一番なのだが、今はいない。
そもそもそいつの安否を確かめるためにやってきた。
無事だといいが……。
やがて、巨大な建物が目立つ大きな島が見えてきた。
あれが黄金の国らしい。
飛空船がゆっくりと着陸する。
大きな荷物のない俺たちは、チケットを渡し先頭で降りる。
入国検査は、リュケイオン魔法学園の生徒手帳と目的を告げるとスムーズに通された。
風に潮の匂いが混じっている。
飛空船でも同じだったが、地面に降りたことで海が近くなったのだとわかった。
「ねー、ゆーくん。これからどこに向かうんだっけ?」
「迎えがくるはずだよ」
とはいえ詳しい話は到着してから説明すると言われている。
俺たちは、飛空船の発着場の端にあるベンチで、時間を潰した。
風が強い。
青地に黄色い盾の旗が大きく風に煽られている。
「迎えが来ないわね」
「ねー、サラちゃん。ちょっとそのあたりを見回らない?」
「そうね、スミレちゃん。ユージンいいかしら」
「ああ、気を付けてな」
二人は露店が並ぶエリアへ去っていった。
見た所、黄金の国の街は治安がよさそうだ。
二人だけでも問題ないだろう。
俺は素振りでもしたかったが、流石に飛空船の発着場で剣を振り回していたら注意されるだろうから、大人しくしていた。
(退屈だな……)
ぼんやりと空を眺めていると、こちらに近づく足音に気づいた。
やっと迎えがきたか、と思ったら。
「あれ? おまえユージンか?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
ぱっと振り向くと、そこには見慣れた軽薄な空気の色男が立っていた。
「クロード?」
「やっぱユージンか! 来てくれたんだな!」
笑顔で肩を叩かれた。
安否を確認しに来たはずの友人が、ピンピンとしてそこに立っていた。
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次の更新は『4/14(日)』です
■感想返し:
>リリーちゃんヒロインにならないとお聞きしてても疑ってしまうくらい口説かれてて笑っちゃうw
>ツンデレ気味でとても可愛い
→ツンデレいいですよね。
■作者コメント
漫画紹介その3。
2話が公開されてます。
https://comic-gardo.com/episode/2550689798308778068
■その他
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