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攻撃力ゼロから始める剣聖譚 ~幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に入学したら、魔王と契約することになった~  作者: 大崎 アイル
第一章 『攻撃力ゼロの剣士』編

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11話 ユージンは、階層主と出会う

 階層主(ボス)が居座る10階層はこれまでの領域(エリア)とは大きく異なる。


 11階層へ上る階段の付近が、階層主(ボス)縄張り(テリトリー)になっている。


 そのため階層主(ボス)を倒さずに、上の階層に移動することはできない。


 10階層には、9階層までと異なり魔物たちの姿はない。


 大人しい草食動物の姿がちらほら見えるだけだ。


 そしてそいつらは全て階層主(ボス)の餌である。

 

 その領域において圧倒的な力を誇る階層主(ボス)が、他の領域に降りて迷宮の生態系を壊さないための縄張り。


 

 ――グオオオオオオオオオオオオオォォォ!!



 咆哮が響いた。

 

 スミレが、ビクリと肩を震わせる。


 俺たちは階段の出口から10階層の様子を眺めた。


 そこには一つの巨大な黒い影と、その周りをせわしなく動く小さな影があった。


「うわーーーー!!」

「た、助けて!!」

「立て直せ! 戦える者はまだ居るか!」

「無理です、隊長! 撤退しましょう!」

「駄目だ! 今度こそ、今度こそ、我が国が10階層をクリアしなければ……」


 さっき迷宮(ダンジョン)昇降機(エレベーター)で俺たちの順番を抜かしていった『蒼海連邦』の探索者たちだ。


 どうやら階層主(ボス)に苦戦しているらしい。


「もう少し近くまで行って他のチームが階層主(ボス)と戦っているのを観察しよう。近づかなれば安全だから」

「ほ、本当に!?」

 先程までの緊張感のない表情とは全然違う。


 これは良い経験になるはずだ。


 スミレがビクビクしているので、俺は手を引っ張ってあげて階層主(ボス)のほうへ近づく。



 蒼海連邦の探索者部隊と階層主(ボス)が戦っている周りには『光る白線』が見える。


 これは『挑戦者の境界(ボーダー)』と呼ばれる。


 この外に居る限り、階層主(ボス)が俺たちに襲いかかることはない……らしい。


 もっとも、無用な挑発や、手出しをした場合は別だ。

 階層主(ボス)に容赦なく襲われる。


 そのため挑戦しない探索者は、絶対に入ってはいけない。



 ……彼らが全滅しない限りは。



 俺は、先の挑戦者の様子を眺めた。


 見たところ蒼海連邦の探索者の怪我人はちらほらいるようだが、幸い死人は居なさそうだ。

 劣勢であるし、撤退するのが無難だろう。

 

 階層主(ボス)への挑戦は何度もできるのだから、今日にこだわる必要は無い。

 が、どうやら隊長の人の諦めが悪いようだ。 


「ぐわぁっ!」

 また一人、階層主(ボス)の攻撃によって探索者が気絶した。

 砂埃がこちらまで届く。

 

 階層主(ボス)は、その時々によって異なる。

 巨人の時もあれば、(ドラゴン)の場合もある。


 探索者が、階層主(ボス)を倒すと、翌日には次の階層主が現れる。

 

 階層主が不在の間は、次の階層へ進む階段が無くなってしまう。


 そのため階層主を倒さずに、次の階層へ進むことはできない。


 現在の、10階層の階層主(ボス)は狂暴な『人喰い巨鬼(トロール)』。


 そして、人喰い巨鬼(トロール)の肌の色は『黒』。


(黒の魔物か……)


『黒色』の魔物。

 それは凶暴な性格をしていることが多い。


 さらに、運が悪いことに今回の階層主(ボス)は『大型』だ。


 階層主(ボス)には大きさのカテゴリがあり『小型』『中型』『大型』『超大型』という違いがある。


 こいつは厳しい(ハード)だな。


「お、おまえは一階層に居た学生探索者か! 我々に手を貸せ!」

 隊長の男が俺たちを見つけそんなことを言ってきた。


(んなこと言われてもな……)

 部外者である俺が『挑戦者の領域(エリア)』に侵入すると(ペナルティ)を喰らうのだが。


「ゆ、ユージンくん、助けなくて大丈夫かな?」

 スミレが俺の服の裾をくいくいと引っ張った。


「迷宮の階層主(ボス)への挑戦に無断で割り込むと罰則があるんだ。この戦いは中継装置(サテライトシステム)に見られているから」

 俺は空中に浮かぶ、丸い機械の物体を見上げた。


 あの浮かぶ機械から、中継装置に映像が送られている。

 中継装置から迷宮職員が、監視をしているはずだ。


「な、何をやってる! 我々を見捨てるのか!」

 隊長の男が怒鳴る。


 ……救助の方法も知らないのか?


 迷宮職員(ダンジョンスタッフ)が説明しているはずなんだけど。

 その時。


「我々は蒼海連邦に所属する者だ! 君らに助けを求める!」

 と言って、隊長とは別の男が救難要請の旗を掲げた。


 この様子も中継装置(サテライトシステム)から流れている。

 あちらの彼は『天頂の塔』の探索規則を把握しているようだ。

 

(さて、正式に助力を求められた……か)

 加勢をするかどうかは、探索者の自由だ。


 迷宮(ダンジョン)昇降機(エレベーター)の前で俺たちに罵声を浴びせてきたマナーの悪い連中ではあるが……。

 スミレが期待半分、不安半分な表情で俺を見つめている。


(仕方ないか……)


「スミレ、行ってくるよ。そこで待っててくれ」

「う、うん! 気を付けて」

 俺は階層主の縄張り(テリトリー)内に足を踏み入れた。


 


 ◇スミレの視点◇ 




 巨大な人喰い巨鬼(トロール)の体長は約五メートルほど。


 歩くたびに地面が揺れる。


 人喰い巨鬼(トロール)の恐ろしい唸り声で私の身体は震えた。


 ユージンくんは、落ち着いているけど大丈夫かな……?


「ぎゃああああ!」

 また一人、探索者が吹き飛ばされた。


 うわぁ……あの人、足が折れてる……。


(こ、怖い……)


 迷宮探索ってこんな危険なんだ……。

 9階層まで平和だったからわかっていなかった。


 人喰い巨鬼(トロール)の手には、棍棒のように巨大な丸太が握られている。

 それが隊長の男のもとに迫った。 

 あ、危ないっ!


「隊長ー!」

「逃げて!」

「う、うわあああああ」

 隊長の男の人は、足がもつれて逃げられない。

 あ……あの直撃を喰らったら、死んじゃう!


 ズドン、と丸太が振り下ろされた衝撃で、地面が大きく揺れた。


 私は思わず目を閉じてしまい……恐る恐る目を開いた。



「おっさん、大丈夫か?」

 そこには腰を抜かした隊長の男と。



 巨大な丸太を()()()()()()()()ユージンくんが、涼しい顔で立っていた。



(え、えええええええええーーーー!!!)



「わっ! 凄っ!」

 思わず声が出た。


 よく見るとユージンくんの手が白く輝いている。


 人喰い巨鬼(トロール)が振り下ろした丸太とユージンくんの手の間には、小さな魔法の盾があった。

 

 あ、あれで防いじゃったの……?


「おっさん、早く逃げろ」

「す、すまぬ……」

 這うようにして、偉そうだった隊長の男の人は逃げて行く。


「他の人たちも階層主の縄張り(テリトリー)外まで逃げて!」

 ユージンくんが怒鳴る。


「は、はい!」

「ありがとうございます!」

「助かった!」

 怪我人に手を貸しながら、探索者さんたちは縄張り(テリトリー)の外へ逃げて行った。



 ――グガアアアアアアアア!



 攻撃を止められた巨大な人喰い巨鬼(トロール)が怒っている。

 足を大きく上げ、ユージンくんを踏みつけてきた!


「結界魔法・光の大盾」

 ユージンくんの腕に、さっきよりも大きな光る盾が現れた。


 どうして避けないの!? と思ったけど、どうやら他の探索者さんが逃げるまでその場にとどまるみたい。

 つまり囮になるつもりなんだ、ユージンくんは。


 巨大な人喰い巨鬼(トロール)が、足を上げユージンくんを踏み潰そうと迫る。


 ガンッ! という車同士が正面衝突したような鈍い衝撃音が響いた。


「ユージンくん!」

 思わず名前を叫んだ。

 そして、彼の様子を見ると……。


(え?)

 弾かれたのは、()()()()()()()だった。


 ユージンくんは、その場に立ったまま微動だにしていない。

 ……いや、「小石がぶつかった」みたいにちょっとだけ眉をひそめた。


(え、えええ~……)

 無茶苦茶過ぎるよ、ユージンくん。 


「すげぇ……」

「うそだろ……」

「何者なんだ……」

 縄張り(テリトリー)の外に出てきた探索者さんたちが、呆然とその様子を眺めている。



 ――グガアアアアアアアア!!!!!!!



 人喰い巨鬼(トロール)が吠えた。

 邪魔をするユージンくんに怒ったようだ。


 腕を振り上げ、真下に何度も拳を叩きつけた。


 ドガッ! ガンッ! ドンッ! ドガッ! ガンッ! ドンッ!!!


 ユージンくんを、殴りつけ、踏みつけ、巨大な丸太を叩きつける。

 

 地面が揺れ、大気が震え、爆発するような打撃音が鳴り響く嵐のような攻撃。


 ユージンくんは、その場から一歩も動かずに、その攻撃に()()()に耐え続けた。 


 いや……あれは『苦しそう』といえるのだろうか?


 ユージンくんの横顔は『雨が降ってきたけど傘を忘れた』くらいの表情に思えた。


 ……よ、余裕があり過ぎる。


 人喰い巨鬼(トロール)の地面を揺るがすような攻撃が、ユージンくんには全く届いていない。


 ユージンくんと人喰い巨鬼(トロール)の間に淡い光の壁があって、それが全てを防いでいた。


 こ、これが……ユージンくんの結界魔法?



 ……ゼェ、……ゼェ、……ゼェ、



 人喰い巨鬼(トロール)の体力が尽きたようで、肩で息をして、攻撃を止めた。

 忌々しそうにユージンくんを見ながら、後退りした。

 そして11階層への階段近くに、どすんと座った。


「ふぅ」

 ユージンくんは軽く息を吐き、パンパンと服に着いた埃を払った。 


「終わったよ」

 軽く微笑み、こちらに向かって歩いてくるユージンくんの姿に私は興奮で身体が熱くなるのがわかった。


(凄い! 凄い! 凄い! 凄い!)


 私は思わず、彼に抱きついていた。




 ◇ユージンの視点◇




「ユージンくん、凄い!」

「おっと」

 スミレが抱きついてきた。


 柔らかい身体の感触と、高い体温が伝わる。


「カッコよかったよ!」

「そ、そうか?」

 そんなキラキラ目で言われると悪い気がしない。


 学園では、裏口入学した生徒とあらぬ噂を流され、肩身の狭い思いをしてたので、スミレのようにストレートに褒めてくれると嬉しい。

 頑張ったかいがあった。


「うう……」

「痛てぇ……」

「しっかりしろ、回復薬は無いのか!?」


「もう底をついてます……」

「なんてことだ……」

 ふと見ると蒼海連邦の探索者の悲痛な話し声が聞こえてきた。

 どうやら負傷者の対応がまだできていないらしい。

  

(せめて回復薬くらいは十分な量を準備しとけよ……)

 俺は脱力しつつも、放置はしておけないので怪我をしている探索者に近づいた。


「あ、あんた、さっきは助かった……もし手持ちの回復薬があれば売ってもらいた」

大回復(ハイヒール)

 俺は怪我人の応急手当をしていた探索者の言葉を遮り、回復魔法をかけた。

 すぐに怪我が完治する。


「あ、あの傷が一瞬で治った!?」

「あんた回復魔法まで使えるのか!? しかも凄い使い手だ!」

 いや……あんたの怪我、ただの骨折だから。

 さっき使ったのは、普通の中級魔法なんだけど。


 まさか、中級回復魔法の使い手すら居ない部隊(チーム)なのだろうか?

 よくそれで最終迷宮に挑戦しようと思ったな。


「た、頼む。仲間たちも治してほしい!」

「わかってるよ、順番に回復するから」

 その後、他の探索者たちにも回復魔法をかけてあげた。


 幸い一番の重傷者も骨折程度の怪我だったので、すぐに治すことができた。


「お待たせ。これで全員の回復をし終えたかな」

「お疲れ様、ユージンくん」

 他の探索者の救助は予定外だったが、スミレの表情を見るに何かしら得るものはあったようだ。


 階層主(ボス)の戦闘や結界士や回復士の活躍を間近で見てもらえた。

 最初の探索としては上出来だろう。

 さあ、帰ろうかと思った時。


「待ってくれ!」

「「?」」

 誰かが俺たちの前に立ちふさがった。 


「た、頼む! 我が国に力を貸してくれ!」


 それは出会った時と正反対の態度で、土下座をする隊長の男だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一般的に後ろの他人を気にせずいちゃついている方が非常識かと。 また、熟練パーティーなら、ちゃんと計画的に決めているから、現地でどうしようとはならないのではないか?
[一言] 圧倒的耐久のタンク(自己再生可) 守らなくていいヒーラー 遠距離高火力ユニットの防衛 どこ見ても優秀すぎだろ?
[気になる点]  若しかして帝国(各国?)の能力判定システムって”才”の構成は表示されるけど、その強さ深さ(潜在能力)がどれだけ有るかとかは表示されてない?。  そうだとすれば、如何にも神様が造りそう…
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