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109話 ユージンは、契約がバレる

「あなた様は魔王エリーニュス様と契約されているのですね!!」

 魔王と契約していることが、魔王信仰の信者にばれてしまった。

 これはよくない。


「あなた様のお名前を教えてください!」

「……えっと」

 名乗っていいのか?


 学園外で『ユージン』の名前は知られていないが『聖原(サンタフィールド)』姓となれば別だ。

 皇帝陛下の片腕――『帝の剣』ジュウベエ・聖原(サンタフィールド)の名を知らぬ者は大陸で少ない。

 珍しい名字なので、多分すぐに素性がバレる……。

 親父に迷惑がかかってしまう。


「さきほど、神聖騎士団長からユージンと呼ばれていましたよね。帝の剣の息子が同じ名前だったはずです。ということはあなたは……」


(こりゃ、ダメだ……)

 すでにほぼ正解にたどり着いている。


(ねぇ、ユージン。これはもう()()しかないんじゃない?)

(はぁ……、気が乗らないけどな)

 他に手がない。


「君の名前はミゲル……だったか。確かに俺の名前はユージンだ」 

「ユージン様! お願いです、どうか我々を導いて……」


「ミゲルくん」

 俺は彼の手を握った。

 まるで女の子のように華奢な手だ。


「は、はいっ! なんでしょうか? ユージン様」

 子犬のように目を潤ませてこっちを見つめる少年。


(気が引けるな……)

(なーに、甘いこと言ってるのよ。魔王(わたし)との契約と名前と素性がバレてるのよ?)

 その通りだ。

 彼を放置はしておけない。


魔王(エリー)の名において、約束をして欲しいことがある」

「はい! もちろんです! ()()()()()()()ユージン様の御言葉に従います!」


「…………」

 まさかこっちから条件を指定する前に、向こうから勝手に言われるとは。

 君は本当に魔法使いなのか……?

 好都合なので、そのまま続ける。 



言葉(のろい)の契約を発動――ミゲルは、ユージン・サンタフィールドに不都合のあることを第三者に言うことはできない」

「はうっ!」

 少年がびくんと、全身を震わせる。


 かつてアイリの友人であるカミッラに対して使った呪い魔法の少し軽いやつをミゲル少年にかけた。

 悪いとは思うが、魔王との契約を言いふらされては困る。


「はぁ……はぁ……はぁ…………」

 少年の息が荒い。

 おそらく今は呪いの影響で身体がダルくなっていると思うが……。

 

「ゆ、ユージンさん!」

 ミゲル少年の声は高揚したままだった。


「あー、悪いとは思ってる。ただ、魔王との契約を言いふらされるわけにはいかないから……」

()()です! 魔王エリーニュス様の呪いをかけていただけるなんて! 一生の誉れです!」


「………………え?」

「村のみんなに自慢したい! でも、言うことができないんですよね! 心の中に留めておきます! あぁ、なんて素晴らしい日だ! エリーニュス様とユージン様に感謝を!」


(まさか呪いをかけて感謝されるとは……)

(うわー、狂信者って怖いわねー)

 俺だけでなく魔王(エリー)まで引いている。


 おまえの信者だぞ?

 その時。



「おーい! ユージンくん、無事かい!」

 遠くで名前を呼ばれた。

 ジャクリーヌ団長とまだ気を失っているリリーだ。

 

(ミゲルくん。逃げろ)

 俺は小声で少年に話しかけた。


(え、いいんですか……?)

(どのみち俺は魔力も体力も空っぽだから、抵抗されたら負けるよ)


(でも、ユージンさんの命令なら従いますが……)

(魔王信仰者が聖国に捕まったら、よくないだろう)

(……わかりました。このご恩はいずれ)

 

 ミゲル少年は、俺から距離を取ると「獅子鷲(グリフォン)召喚!」と叫び、グリフォンが現れた。

 もしかして先日のグリフォンも少年が召喚した?


「待て!!」

 ジャクリーヌ団長が叫ぶが、こちらに追いつくほどには体力がないようだ。


 ……バサ! ……バサ! ……バサ! 


 とミゲル少年を乗せたグリフォンが上空高くへと上がる。

 そのまま小さくなっていった。




 ◇




「……逃がしましたか」

 ジャクリーヌ団長がぽつりとつぶやいた。

 肩に寄りかかったクラスメイトはぐったりとしているが、呼吸音は正常だ。


「もし彼……魔王信仰の少年が捕まっていたらどうなりましたか?」

 俺が興味本位で聞いてみると。


「そうですね。おそらく『説得の部屋』に軟禁させてもらい100日間、様々な聖職者が改宗を説得するでしょうね。ふふふ、過去に説得に部屋に入って『真実』に目覚めなかった者はいませんよ」


「…………そ、そうですか」

 ドン引きした。

 聖国(カルディア)、怖い。


 よかった。

 少年が逃げてくれて。 


「ユージンくん! 説得は平和的な対話だけですからね!? 暴力的なことは一切しませんよ! 安心してください」

 俺の表情を見てからジャクリーヌ団長が慌てて付け足してきた。


 手遅れだと思います。

 

「何にせよ、いったん報告のために戻りましょう。リリーを背負いますね」

「あぁ、ありがとう。命に別状はなさそうだけど、自分で歩くのは厳しいみたいだから」

 俺は団長からリリーの身体を受取り、小柄な彼女を背負う。

 鎧を着込んでいて、なお軽かった。


「うぅ……」

 時折、苦しげなリリーの声が聞こえた。


(はやく休ませてあげたいな)


 俺と団長は重い体を引きずり、拠点を目指した。



 ――それから約半日。



 拠点の野営場に戻ってきた時は、すっかり暗くなっていた。


 いくつものかがり火が燃えている。

 

 野営の周囲には、結界魔法の杭が打たれ魔物が寄ってこないようになっている。


 とはいえ、大魔獣『闇鳥(ラウム)』には効くのだろうか?


 リリーは救護者のいる天幕へ運ばれ、ジャクリーヌ団長は報告のために司令部のある天幕へと向かった。

 俺はというと、任務完了ということで解放され自分のテントへ戻った。


 テント内から二人くらいの気配がする。

 おそらくスミレとサラだろう。


「ただいま、戻ったよ」

「ゆーくん!! どうしたの!?」

「ユージン、ひどい顔色よ!」

 テントに入るなり凄い剣幕で、仲間二人に心配された。


「そうか?」

 自分では気づかなかったが、闇鳥の『死の呪い』の影響を受けていたらしい。

 鏡を見ると疲れた表情の自分が映っていた。


「ほ、ほら! 早く寝て! それよりお腹すいてない?」

「私何か貰ってくるわ」

 スミレに無理やりマットに寝かされ、毛布をかけられた。

 サラはパタパタとテントを出ていく。


(大げさだな、二人と……も)


 思ったより身体に疲労が溜まっていたらしい。


 驚くほどあっという間に俺は眠りについた。




 翌日。


 俺はスミレとサラと一緒に朝食を食べ、今後の予定を確認した。


 どうやらジャクリーヌ団長の報告により、一度この拠点から団員全員が聖都へ戻るという判断になったらしい。


 馬車に乗るか聞かれたが、一晩たつと身体に不調はなくなっていたので俺は歩きで聖都へ戻った。

 スミレの体調も回復したようだ。


「うぅ……、今回は全然ゆーくんの役に立てなかったよぅ」 

 とスミレは落ち込んでいたが、卵の孵化のために積極的に魔力の高い魔物を狩っている闇鳥とスミレが出会っていなくて良かったと思う。


 一日かけて聖都へ戻り、別命あるまで待機状態となった。



 身体を動かしたかった俺は、サラに神聖騎士団が訓練場に使っているという場所を教えてもらった。


 部外者が使っていいか聞いた所、援軍としてきたリュケイオン魔法学園の英雄科の生徒なら問題ないらしい。


 訓練用の刃が潰された鉄剣を借り、素振りや演武を続けた。


 一時間ほど訓練をして、身体が温まってきた頃だろうか。


 俺のほうに近づいてくる人がいた。


 顔見知り……というより、ここ数日は行動を共にした彼女だ。


「ユージン・サンタフィールド。そんなに身体を動かして大丈夫なの?」

「そっちこそ、もう出歩いて平気なのか? リリー・ホワイトウィンド」

 英雄科のクラスメイトだった。

 

「お礼を言いに来たのよ。私のことを背負って拠点まで戻ってくれたんでしょ。悪いわね……結果的に足を引っ張っただけになって」


「そんなことないだろ? リリーがいたから少年の召喚計画を阻止できた」

 実際のところ、闇鳥の召喚魔法が成功する確率はゼロに近いと思うがそれでも防げたことは間違いない。

 それにあの少年に依頼をした者が別にいる。

 その計画を察知することもできた。


 まぁ、あの少年は単に騙されたのだろう。

 

「そう……。優しいのね」

 ふぅ、とリリーが物憂げにため息を吐いた。


「元気がないな」

 俺が言うと、リリーは半眼でこちらを睨んだ。


「あんたがおかしいのよ。どうして、昨日の今日でそんな元気なのよ」  

「身体を動かしてないと、落ち着かないんだ。訓練の相手をしてくれないか」


 ものは試しで聞いてみた。

 きっと断られるかと思ったのだが。


「そうね……できれば相手をしてあげたいけど、今日はまだ本調子じゃないの」

「い、いや、冗談だよ。ゆっくり休んでいてくれ」

 そういえば昨日はずっと寝込んでいた病人だった。

 ちょっと、気まずい思いでいると。


 トン! と肩を叩かれた。


「リュケイオン魔法学園に戻ったら、勝負しましょ。言っておくけど、聖剣なしならサラ様に勝ち越してるんだからね」

「へぇ……!」

 それは知らなかった。

 サラの剣術の腕も相当なんだけど。


「是非、お願いするよ」

「えぇ、楽しみにしてるわ」

 軽く微笑み、リリーは去っていった。


(ちょっとだけ仲良くなれたかな)


 当初のツンツンしていた様子からは、改善できた。

 ならきっと、ここに来たかいもあったんだろう。



(あーあ、またユージンが新しい女をひっかけてる)



「ん?」 

 一瞬、そんな魔王の声が聞こえた気がした。

 ここは女神様の結界に守られた聖都アルシャーム。


 エリーの声が聞こえるはずがない。

 のだが、やけにリアルな声だった。



 その後も数時間、一人で剣の練習をしていた所。



「大変だよ、ゆーくん!」

「ユージン! 聞いて!」

 スミレとサラが血相を変えてやってきた。


 スミレの体調はすっかり回復したようでなにより。


「どうしたんだ?」

 俺が聞くと。


「落ち着いて聞いて!」

「大変よ!」

「スミレ、サラ。落ち着いてくれ」

 どう見ても二人が冷静じゃない。


「……わかった」

「……うん、落ち着いたわ」

 大きく息を吸って吐いたあと、スミレとサラが口を開く。


「あのね! さっきウルリカちゃんに教えてもらったんだけど」

「蒼海連邦の大魔獣討伐隊が()()()()らしいの!」


 もう一つの『大魔獣討伐計画』の急報だった。

■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次の更新は『4/7(日)』です



■感想返し:

>異教徒と対話かぁ…

>対話(暴力)(洗脳)


→(洗脳)……正解



>『神聖同盟』連合国内で魔王信仰がバレると即死刑じゃなかったっけ?


→エリーニュスさんは牢屋にいるから情報が遅れています。

 ユージンも聖国に偏見があったようです。

 もっとも100日間の『説得の部屋』で耐えきったものは歴史上『居ない』わけで……。

『居ない』という意味はつまり■■■■検閲済■■■■。


■作者コメント

漫画紹介その2。

スミレちゃんも可愛いですよ。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
怖い国だ…… 内情を零してもサラが振られることは無いとか無意識に思ってそうなところが更にヤバい 特にユージン的に最初に手を出したのがエリーだから責任の中心がエリーになりそう 仮にサラと結婚するとしても…
[一言] リリーちゃんはジャネットさん枠かあ。
[良い点] 楽しく読ませてもらってます [一言] いつの間にか最新話に追いついてしまった
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