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108話 ユージンは、死の鳥と戦う


 ブワ……、と強い風が舞った。


 闇鳥(ラウム)が、8枚の翼を大きく広げた。


 日の光が遮られ、一瞬にして夜になったのかと錯覚する。


(でかい……)


 初めて大魔獣(ラウム)を見た時、巨獣ハーゲンティに比べると小さな大魔獣だと思った。


 けど、それは勘違いだった。


 闇鳥(ラウム)の翼は()()()()()()覆うほどに巨大化している。 


 そして、黒い八枚の巨翼からは呪いの羽が絶えず降り注いでいる。


 あの羽に触れるのはまずい。


「……結界魔法・聖域(サンクチュアリ)


 自分一人で扱える最上位の結界魔法を発動する。


 魔力消費が痛いが、それ以外の結界魔法では防げないと判断した。 


 俺は今になって、闇鳥(ラウム)の能力をなんとなく理解した。


(死の呪いによる……呪いの領域)


 以前に天頂の塔に出現した、神獣・九首竜(ヒュドラ)が使っていた『侵食する毒の世界』。


 それに似た能力。


 おそらく自分から積極的に攻撃するのでなく、呪いの領域に入ってきた間抜けな獲物が弱るのを待ってから捕食するのだろう。


 呪いの領域そのものは、神獣であるヒュドラのそれよりも弱い。


 しかし……。


(呪い魔法や結界魔法の特性……術師の近くに居るほど強力になる……)


 一般的に優秀な呪い魔法使いや結界魔法使いとは、術師と離れた場所にいるなるべく大勢へ効力を及ぼせるのがいいとされている。


 俺はその逆で、手の届く範囲くらいまでしか結界魔法の効力が及ばない。


 だから、帝国ではほとんど評価されなかった。


 とにかく、結界魔法や呪い魔法は近くにいる相手ほど効く。


 そして、現在の俺たちは闇鳥の広げた『翼の中』に居るわけで……。


 呪いの領域の効力が最も強く働いている。


 視界は瘴気でぼやけ、結界魔法なしでは息をすることすらままならない。


 今、この場所は『封印の第七牢』すら超える異界となっていた。


(自分の翼を呪いの領域の外郭にして、相手を包み込む大魔獣か……)


 今まで出会ったどんな魔獣とも異なる。


 ただはっきりしているのは……。


「ジャクリーヌ団長! リリー! ここから離れましょう!!」


 俺が部隊の二人に声をかけると。


「……、しっかりしなさいリリー!」

「…………」

 ふらふらしつつも意識を保っている団長と、完全に意識を失っているクラスメイトの姿があった。

 ぐったりしたリリーを、団長が肩を貸して支えている。


「俺が運びます!」

 二人に駆け寄り団長を手伝おうとすると。


「……いえ、私たちはなんとか自力でここから逃げます。ユージンくん、もし可能ならですが……彼を救うことはできませんか?」

「え?」

 団長が指差すほうに視線を向けると、そこには飛竜とそれを召喚したミゲル少年が倒れている。


「彼はもう……死んでるんじゃないですか?」

「いえ、飛竜は死んでいますが魔人族の彼には呪いの耐性があるのでしょう。私の鑑定スキルではまだ生存しています。もってあと数分で衰弱死してしまうでしょうけど」


「この隊の隊長は貴女です。命令なら従います」

 俺は覚悟を決め腰の白刀を引き抜く。


「ま、待ってください! 命令ではありません! もし無理をしてユージンくんにもしものことがあればサラに合わせる顔がありません。可能だったらで……」

「そうですね」


 俺は黒い空を見上げる。


 闇鳥は大きく翼を広げ俺達に『死の呪いの羽』を降り注ぐ以外のことはやっていない。


 ただ、不気味な紅い三つの目はこちらをじぃっと見下ろしていた。


 あくまで獲物が弱るのを待っているだけ。

 ならば。


「問題ないと思います。彼を闇鳥(ラウム)の結界範囲外に連れ出しますね」

「申し訳ありません。本当は私も手伝えたらいいのですが……」

 そういう団長の口調は苦しげだ。

 

 意外だった。

 ミゲル少年は『蛇の教団』にして魔王信仰者。

 女神教会に所属するジャクリーヌ団長にとっては、助ける対象ではないはず。


「他信仰にはもっと冷たいのかと思っていました」

 俺はゆっくりと、闇鳥を刺激しないようゆっくりと前へ進む。


 団長は俺とは反対側。

 闇鳥の翼の外へ、クラスメイトを抱えて移動している。


「そういう方もいますが……女神教会では、誤った信仰には『対話』で諭すようにという教えがあります」

 なるほど。

 魔王信仰という誤りを正すのが女神教会のスタンスだと。


「人の考えを変えるのは大変だと思いますが……、まずは生きてないと、ですね。行ってきます」

「ユージンくん、くれぐれも無理はしないように……」

 濃い瘴気と呪いの羽に視界が遮られジャクリーヌ団長の姿は見えなくなった。

 うまく逃げてほしい。


(さて……)


 より危険なのは俺のほうだ。

 現在、闇鳥に近づいている。


 ミゲル少年が闇鳥の足元に倒れているためだ。


 白刀を構え、しかし相手になるべく敵意は向けずゆっくりと近づく。


 一歩……また一歩。


 足を踏み出す度に、ザラっとした嫌な感触が足裏に伝わる。


 この砂のような砂利のような感覚は、先ほど登った『死の山』と同じだ。


 この場所は、さっきまで木々が生い茂っていたはずだが、闇鳥の呪いによって全て死に絶えた土地と変貌してしまった。


(身体が重いな……)


 一歩進むたびに、足が重くなっていく。


 底なしの沼を歩いているような感覚だ。


 すぐそこに見えている場所へ移動するだけで、山を一つ越えるくらいの疲労感だった。


 ようやく倒れているミゲル少年のもとにたどり着いた。 


 すぐ間近に、大魔獣が居るがそれをいったん無視して俺は少年を抱き上げた。


 目を見開き、呼吸音も聞こえないがまだ身体は温かい。


超回復(スーパーヒール)」 

 俺は少年に回復魔法をかけた。


 これがダメなら聖級魔法の『蘇生(リザレクション)』を使うしかない。


 ただし、使うと魔力が空っぽになってしまうので、この場では使えない。


(効いてくれ……)

 俺の願いが通じたのか。


「はぁ……………………はぁ……………………」

 幸い少年の顔色が若干戻り、わずかに呼吸音が聞こえる。


 よし、回復魔法で少年の表情に生気が戻った。

 あとは、呪いの領域の外へ出るだけ。



 ――ぞわりと、悪寒が走る。



 俺は考えるより先に、少年を抱えたまま横へ跳んだ。


 

 シュド!! という短い振動と共にさっきまで俺がいた場所に、闇鳥の鋭い鉤爪が地面に刺さっていた。


(攻撃……してきた)


 すぐ間近にきても、ほとんど反応を示さなかった大魔獣が明確に敵対行動を取ってきた。 


 俺は左に少年を抱え、俺は右手に白刀を構えた。


 ………………ザザザ………………ザザザ


 闇鳥は、すぐに次の攻撃をしてこずゆっくりと巨大な八枚の翼を俺と少年を中心に折りたたんで、包みこんできた。


 呪いの力は、徐々に強まっていく。


(まずいな……聖域結界の魔法を解いた瞬間に死んでしまう)


 俺はともかく、隣で呼吸すらままなっていないミゲル少年は即死だろう。

 

 だから、燃費の悪い結界魔法は解けない。


 この場を切り抜けるには魔法剣を発動しないといけない。

 が、魔力が足りない。


 スミレかサラがいれば、魔力を借りることもできるが今はいない。


 残る手は……。



(ほらほら、はやくしなさいよ。ユージン☆)



 突如脳内に聞こえてきたのは、魔王(エリー)の楽しげな声だった。


(久しぶりだな、エリー。ずっと話しかけてこないから念話ができないのかと思ったよ)


(そりゃあ、女神の影響が強い聖都アルシャームにいるユージンに魔王の声を届けるのは厳しいわよ? でも、今は聖都から離れてるでしょ? で、私にいうことがあるんじゃないの?)

 

 エリーには隠し事ができない。


(助けが欲しい)

(ふふっ、()()ね)

(……わかった)

 学園に戻ったらエリーの所に通わないと。

 

 俺は白刀を仕舞い、代わりに『冥府の番犬(ケルベロス)』の牙を素材とした『黒刀』を構えた。


 こうしている間にも、闇鳥の翼はゆっくりと俺たちを包みこんでゆく。


 360度、黒い翼に囲まれ、見えるのは大魔獣の紅い三つの目だけ。


 

「魔王エリーニュスとの契約を行使する」



 俺は小さくつぶやいた。


(いいわ……、魔王(わたし)魔力(ちから)を使いなさい。私の可愛いユージン) 


 どくん、と身体全体が熱くなる。


 遠く離れた場所にいる魔王から、契約を通じて魔力が送られてくる。


 黒刀が輝き始めた。


 同時に一気に体力が奪われる。


 相変わらず、暴力的な魔力だ。


「魔法剣・闇刃(ダークブレイド)

 魔王の魔力を使って魔法剣を発動した。


「弐天円鳴流…………」

 俺は片手で剣を姿勢を低く構える。


 狙うは大魔獣の三つの瞳……とは()()()


 俺たちを弱らせようと、徐々に閉じている黒い翼の一つ。


「火の型・獅子斬!!」

 

 迫ってきている翼の一枚を切り裂く。


 切り裂いた隙間から日が差し込んできた。


 そこに俺は少年を抱えて飛び出した。


 黒い翼の、『呪いの領域』の外は、明るかった。


 さっきまでの明暗の落差に、目を細める。


 が、俺の真後ろには大魔獣が健在だ。


(……弐天円鳴流・空歩)


 とにかく、再び呪いの領域に取り込まれる前に、俺は全力でその場を離れた。


 移動しつつ、ちらと後ろを見ると。


(あれ?)


 闇鳥は俺たちを追ってこず、足に飛竜の死骸を掴みゆっくりと上昇していく。


 そのまま死の山のほうへ向かっていった。


「助かった……のか」

 なら早く団長とクラスメイトと合流しよう。


 ただ、久しぶりに魔王の魔力を使った影響か身体の疲労感が半端じゃない。

 

 正直、このまま横になりたい気分だ。


 でも、そんなわけにいかないし、団長が逃げたのはどっちだったかな? と周囲を観察していると。


 がしっ! と手を掴まれた。


 ミゲル少年が意識を取り戻したらしい。


「起きたか。歩けるなら自分の足で……ん?」

 てっきり気絶から目を覚ましたばかりなので、朦朧としているかと思っていたが少年の目は見開いている。 


 それどころか、宝物でも見つけたかのように瞳がキラキラしていた。


「どうし……」

「あ、貴方は! ()()()()()()()()()()()()()されているんですね!!」

 はっきりと言われた。


(やべ……)


 魔王と契約していることが、魔王信仰の信者にばれてしまった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次の更新は『3/31(日)』です



■感想返し:

>コミカライズ最高でした!


→ですよね!!


>リリーとユージン息ぴったりだなw

>やはり現地妻ですか!?


→うかつにヒロインは増やしません!

 前作で苦労したので!


■作者コメント

 明日は信者ゼロの更新です。

 何も書けてないけど!



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

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[一言] エリーはこの展開見越してた?
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