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106話 闇鳥ラウム

「「「…………」」」


 死の山に足を踏み入れてからは、ジャクリーヌ団長や神聖騎士見習いのリリーの会話がなくなった。


 俺もそれに倣ってしゃべりかけないようにした。


 かわりに周囲を観察する。


 地面は灰が積もったように柔らかい。


 一歩踏み出す度に、足元の結界が壊れるため張り直さないといけない。


『死の呪い』によって呪われた地面だ。 


 空気は嫌な感じに生ぬるい。


 汚染された魔力である瘴気濃度が高いためだろう。


 かつては生い茂っていたであろう木々はすべて枯れ果て、その幹だけが地面から針のように突き出ている。


 そして何よりも異質なのは、地面や岩肌、枯れた木々までが灰色であること。


 生物の姿はまったく見当たらない。


 その中を俺たちはなるべく足音を立てずに進んでいく。


「くっ……」

 その時、英雄科(クラスメイト)のリリーが膝をついた。


「大丈夫?」

 俺が声をかけるが返事がない。

 息が荒く、顔色が青白い。


「……以前来た時よりも遥かに瘴気が濃くなっている。私も長くは留まれませんね……。ユージンくんはどうですか?」

 俺に尋ねるジャクリーヌ団長の顔にも疲労が見られた。


「問題ないです」

 リュケイオン魔法学園の地下にある封印の第七牢のほうがずっと呪いがきつい。


「そう……ですか」

 団長はわずかに驚いた表情になり、クラスメイト(リリー)はこっちを化け物でも見るような表情をしている。


「リリー、死の山の入り口まで先に戻って私たちを待っていなさい。半日経っても私たちが戻らない場合は、一人で拠点へ向かい他の騎士団長に報告をするように。いいですか?」

「…………はい」

 リリーは絞り出すように返事をして、少しフラフラとしながらもゆっくり山を降りていった。


「一人にして大丈夫でしょうか?」

「あの子も聖国(カルディア)を護る剣、神聖騎士団(ホーリーナイツ)の一員です。半人前には扱えません」

 なるほど。

 確かにその通りだ。


「そうですね、では急ぎましょう」

「…………ええ」

 俺と団長の二人で山頂を目指す。


 大魔獣、闇鳥ラウムの巣はそこにあるらしい。


 ……ザ……ザ……ザ


 地面が砂……というより灰のように柔らかいため、どうしても多少の足音は響く。


 大股で歩かないと前に進まないので体力を使う。


 そして、何よりも地面や空気にまとわりつく瘴気と呪い。


「はぁ……はぁ……」

 団長の息が荒い。


「荷物を持ちますよ」

 声をかけても断られると思ったので、俺はやや強引にジャクリーヌ団長の持っている荷物を奪った。

 嫌がられはしなかった。


「……ありがとうございます。ユージンくんは本当に元気ですね」

「身軽ですから。回復魔法をかけましょうか? 多少は体力が戻るかも」


「ええ、ではお願いします」

大回復(ハイヒール)

 淡い光がジャクリーヌ団長を包む。

 少し疲労が取れたように感じた。


 ジャクリーヌ団長が、こちらをじっと見つめてきた。


「帝国の人間に優しくされるのは奇妙な感覚です」

「帝国がお嫌いですか?」

 俺が尋ねると、悲しげに団長は微笑んだ。


「私の祖父母は、先々代のグレンフレア皇帝との戦争で命を落としました。両親からは『いつか帝国が再び侵略を再開する』と言われて育てられましたから。それに女神教会内や神聖騎士団の団員でも、帝国に敵意を持つものは多いので……。偏見でしたね」


「『鋼鉄皇帝』ヨハン・グレンフレア皇帝……ですから」


 現皇帝の先々代にあたるヨハン皇帝は、大陸全土を巻き込んだ侵略戦争を何度も行ってきた。


 最後は病死したとされているが、暗殺されたという説が有力。

 近代の帝国の悪名を一手に引き受けている人物だ。


「英雄科から『帝の剣』の子息が来ると聞いて驚いたものです。もっと乱暴そうな人物を想像していたのですが、紳士ですね。サラもいい人を見つけたものです。ふふっ……剣ばかり振って、恋愛には無頓着だったのに」


「サラと仲がいいんですか?」

「同じ元聖女候補ですから。サラに剣術を教えたこともありますよ。サラに聖剣の適正がなければ、おそらく神聖騎士団に入っていたでしょうね」

「へぇ……」


 そういえば、もともとサラは聖女候補の中では魔法が苦手で剣のほうが得意だと言っていた。


 というか、二人で探索隊(パーティー)を組んでいた時は、剣士の俺が回復役で。

 修道女(シスター)のサラが攻撃役だったなー、と懐かしくなった。

 

 そんな会話をしているうちにも、山頂に近づくにつれますます瘴気と呪いは濃く深くなっていく。


 ジャクリーヌ団長の足取りが重い。


「歩けます? 肩をかしましょうか?」

 俺が声をかけると。


「もし……私が倒れた場合は、私を放置して先に行ってください」

「その時は、団長をかかえて一度戻りますよ。それに見てください、そろそろ山頂です」


「なんとかたどり着きましたか」

 ジャクリーヌ団長が、ほっとした表情になった。


 死の山の山頂は、もと火山口のようで大きなくぼみになっている。


 その中に闇鳥ラウムの巣があるらしい。


 俺たちは、そっと頭だけ出して中の様子を確認した。


 小さな池ほどのくぼみには、たくさんの動物や魔物の骨が転がっている。


(いや、それだけじゃないな……)

 明らかに人と思われる骨も多い。


 そしてその中央に、…………八枚の漆黒の翼を持った大魔獣はいた。


「なっ!」

 ジャクリーヌ団長が小さく声をあげる。


 俺は声こそ発しなかったものの、同じく驚きを隠せなかった。




 死の山の山頂にいたのは――大きな黒い羽で巨大な()()()()闇鳥ラウムの姿だった。




「卵を孵化しようとしてる……んですかね?」

「まさか……、大魔獣が子を成すなど聞いたことがない」


 大魔獣は、その見た目や行動が生き物のようではあるが一般的な『生物』の定義とは程遠い。


 物理的な肉体を持たず、身体は魔力と瘴気のみで構成されており、生物のような行動をするのは他の生物が死んだあとの『思念』を取り込んでいるから。


 存在としては『幽霊(ゴースト)』に近いと魔王(エリー)天使(リータ)さんから教わった。


 リュケイオン魔法学園の生徒に「幽霊が子供を作るか?」と質問したら「そんなわけないだろう」と全員が答える。

 常識だ。


 が、目の前ではまさにあり得ないことが起きている。


「詳しく調べたいですが、これ以上近づくのは……危険ですよね?」

 俺はジャクリーヌ団長に確認した。


「ええ、最も危険な魔獣は、子供を守る親です。それにおそらく、闇鳥はこちらに気づいていますね」

「そうですか……?」

 俺は大魔獣を観察する。


 3つの目は閉じられ、寝ているようにしか見えない。 


「普段、ここまで強い呪いと瘴気を発したりはしません。おそらく『死の呪い』で私たちが倒れたあとに、餌にしようとしているのでしょう。先日狩られていた獅子鷲(グリフォン)のように」


「確かに……闇鳥ラウムの周囲にある魔物の骨は随分と新しいようです。活発に狩りをしているようですね」

「卵を孵すために、魔物たちを狩って魔力を補給している……? いや、闇鳥ラウムは死を振りまく大魔獣。もしかすると生命そのものを餌としているのかも……」


 考え込んでいるジャクリーヌ団長の顔色はますます悪い。

 おそらく闇鳥の『死の呪い』の影響だ。


「闇鳥ラウムの行動が活発になった理由は判明しました。これ以上の調査はむずかしそうですから、いったんここから離れましょう」

「そうですね。上の指示を仰ぎましょう」

 俺と団長は小さくうなずき、来た道を引き返した。


 幸い大魔獣が追ってくるようなことはなかった。


 死の山を下るにつれて、瘴気と呪いは晴れていく。


 ジャクリーヌ団長の足取りも軽くなっていった。


 

 俺たちは調査を終え無事に死の山を下山することができた。

 


 そして、待ち合わせ場所で合流するはずだった人物。



 英雄科のクラスメイト、リリー・ホワイトウインドの姿は()()()()


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



次の更新は『3/17(日)』です



■感想返し:

>エリー有能すぎん?これを堕天させた女神が怠慢すぎねーか?

 エリーは有能です。

 若い運命の女神様は、大抵エリーが指導してたりします。



■作者コメント

 ツイッターでお知らせしましたが、

挿絵(By みてみん)

 3/15(金)から攻撃力ゼロの漫画版がスタートします!


 そして体調が激わるなので、寝ます。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 有精卵なのか、無精卵なのか。 それが問題だ。
[一言]  大魔獣は大魔獣で『三大魔獣』というバランス?仕組み?を維持しようとしてるのかしら。もしそうなら卵から生まれるが単純に闇鳥の次代とは限らないわけですが。考えすぎでしょうけどね。
[良い点] 闇鳥ラウムの貴重な産卵シーン! まあ、卵の中身が本人の子じゃないかもしれない [一言] お大事にしてください!
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