102話 ユージンは、八人の聖女と謁見する
「八人の聖女様! 迷宮都市の魔法学園からの支援隊が到着しました!」
俺たちは聖アンナ大聖堂内にある千人は入れるであろう、巨大な聖堂へとやってきた。
ずらりと並ぶ聖国カルディアの神父と修道女たち。
そして白銀の鎧をまとう神聖騎士団が、俺たちを威圧するようにこちらを見ている。
彼らの背後。
一段高い所から俺たちを見下ろすのは、八人の人影。
聖国を盟主とする神聖同盟連合国の最高指導者――八人の聖女様だ。
「ようこそいらっしゃいました、リュケイオン魔法学園の英雄の卵の皆様」
最初にこちらへ声をかけてたのは、『運命の巫女』オリアンヌ様。
いつみても慈愛に満ちた微笑みの運命の巫女様。
むしろそれ以外の表情を持っていないんじゃないかというほど、常に笑顔を絶やさない聖女様。
「我ら神聖同盟は、これより忌まわしき大魔獣『闇鳥ラウム』を討伐します」
次に口を開いたのは八人の聖女、最年長――聖アンジェリカ様。
確か、御年百歳を超えていたはずだが、はっきりとよく通る声が礼拝堂内に響いた。
「闇鳥の持つ『死の呪い』は、脅威です……」
三番目に口を開いたのは……確か、聖カタリナ様。
もしかして、これって順番に喋っていくのだろうか?
「奴を倒すためには、我々全員が力を合わせなければなりません……」
また別の聖女様が口を開き。
「しかし、運命の女神様はかならずや我らを勝利へ導いてくださります」
五番目の聖女様が言うと。
「これから聖なる作戦が開始されます。それまで闇鳥ラウムの住む山『シシャパンマ』へ近づくことを禁止します」
そう言ったのは、確か……聖ナタリア様だったはずだ。
あまり表には出てこない聖女様だ。
「すでに勇敢な神聖騎士たちが、我先にと危険な作戦への参加を表明しています」
そう言ったのは、聖シーフェイ様。
確か彼女は東の大陸の出身の聖女様だったと記憶している。
「聖なる民のみなさんは、勇敢な聖騎士たちの勝利を祈ってください」
七番目に口を開いたのは、先の学園祭へと見学へ来ていた聖マトローナ様だった。
「信じましょう! 我々の輝かしい勝利を!」
最後にもう一度運命の巫女様が高らかに宣言すると、礼拝堂のみならず外からも大きな歓声が聞こえた。
(そうか……この様子は中継装置で聖国民にも中継されているんだ)
どうやら大魔獣の討伐における最後のメンバーが、リュケイオン魔法学園からやってきた俺たちだったらしい。
にしても、随分と仰々しい出迎えだと思った。
「ではこれより大魔獣の討伐作戦の詳細をお伝えします。戦士の皆様はこちらへ」
神聖騎士の一人から案内され俺たちは、大きな聖堂から会議室へと移動した。
◇
「さて……諸君」
大きな会議室には、白銀の鎧の神聖騎士団がやや窮屈そうに並んでいる。
リュケイオン魔法学園からやってきた俺たちは特別客扱いのようで、一番まえの席に座っている。
会議室の壇上で取り仕切っているのは、壮年の騎士。
神聖騎士団の総長だ。
かつて神聖同盟最強と言われた剣士で、すでに五十を超えてるはずだが、その身体が放つ闘気は帝国の最高戦力、剣の勇者様にも劣らないものだった。
もう一人の最高戦力の『帝の剣』…………うちの親父は闘気をいつも消しているのでよくわからない。
「まず最初に言っておきたいのは……、我々は闇鳥ラウムを討伐しない。それを明確にしておこう」
神聖騎士団の総長は、重々しく言った。
その場にいるほとんどの者は、それを聞いて驚くことなく頷いた。
「えっ!?」
大きな声を上げた人物――スミレに視線が集まる。
そういえばスミレはしらなかったのか。
(スミレ、今回の大魔獣討伐は演技らしい、ってサラから聞いてる)
(そうなんだ……、じゃあ、私たちくる意味あった?)
(まぁ、帝国の大魔獣討伐を手伝ってもらった借りがあるから……)
帝国として誰かしら人は送っておきたかったらしい。
もっとも、俺は言われるまでもなく聖国へ行くつもりだったが。
(そっかー、ところでサラちゃんってここにいないね?)
(ああ、聖女様に呼ばれたとかで別の場所へ行っちゃったな)
サラは俺たちを会議室へ案内したあと、用事があるといって去っていった。
(サラちゃん、いつ戻ってくるのかなー?)
スミレは椅子に座ったまま足をぶらぶらしている。
偽物の大魔獣討伐作戦に興味を失ってしまったらしい。
かくいう俺も、民を欺くための本気ではない討伐作戦に真剣に聞く気にはなれず時間が過ぎるのを待った。
◇サラの視点◇
(聖母の間……久しぶりね。ここにくるのは)
ここは『八人の聖女』様が重要事項を議論する最高会議の場。
また、教会に所属する者が重要な試練を言い渡される場でもある。
かつて私はリュケイオン魔法学園に留学するときに、ここで聖女様に告げられた。
現在、私を含め約十数人の『聖女候補』たちが、部屋に呼ばれ聖女様たちがやってくるのを待っている。
おそらく『大魔獣討伐作戦(嘘)』についてなのだろうけど……。
部屋の背景にある巨大なステンドグラスには、大勇者アベル様と聖母アンナ様が寄り添う姿が描かれている。
私とユージンもあんなふうに名を残せたら……って、ちょっと気が早いわね。
なんて考えていたら。
「サラ……あんたうまいことやったわね」
隣に立っている同期の聖女候補から刺々しい声をかけられた。
「うまいこと?」
私はとぼけた風に返事をする。
「リュケイオン魔法学園なんて辺境に飛ばされて、もう聖女になるのは諦めたかと思ってたのに~」
「帝の剣の息子をたらし込むなんてねー」
「あーあ、私が学園行きを希望すればよかったなー」
「あんたじゃ無理でしょ、色気が足りないし」
「はぁ? あんたよりましだし」
(あーあ、ギスギスしてるなー。相変わらず)
なつかしい。
聖女候補たちは、つねに比較され、競い合う。
卑怯な手を使って足を引っ張ることは許されないが、この程度の嫌味の応酬はただの日常。
(ま、私はもうそこを抜け出したんだけどね)
運命の巫女様からの推薦を持っている私は、『次期聖女』。
だからかつての聖女候補の会話を冷静に聞くことができ……。
「ちょっと、サラ。涼しい顔しているけどいいの?」
「あら、なにかしら?」
私は余裕で返す。
「あんたの男のユージンってやつ。学園にきた異世界転生人とも番なんでしょ?」
「いかにも女好きそうな顔してるもんねー」
「今も女と一緒にいるんでしょ?」
「今頃よろしくやってたりしてー」
「あとで私も挨拶しておこうっと☆」
「私もー、どこに泊まるんだっけ? サラの男って」
「あんたたち! ユージンに手を出したら承知しないわよ!」
思わず腰にかけてある宝剣クルタナに手をかけて、怒鳴る。
「お、本性だしたわね」
「サラはそうじゃないとねー」
「すましてるから、誰かと思ったわ」
「……くっ」
かつての聖女候補にあっさり平常心を奪われた。
物心付く前から一緒にいた連中だけあって、私の性格を知り尽くされてる。
生徒会だとうまく猫を被れてたんだけど……。
女神教会じゃ無理だなー。
「ふふふ、いつも貴女たちは仲がよろしいようですね」
ギィ……、と扉が開いて入ってきたのは運命の巫女様だった。
続いてぞろぞろと、聖女様たちが入室する。
「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」
聖女候補は一斉に口を閉ざした。
それは会話を聞かれるのがまずいとかではない。
聖女様の前において、許可を得るまで口を開いてはならないという只の規則。
「……楽にしなさいな」
聖アンジェリカ様の言葉で、私たちは少しだけ緊張が解けた。
八人の聖女様の最年長。
私が生まれる前からずっと聖女様をしている伝説的な御方。
しかし、寄る年波には勝てないのか最近では公の場に姿を見せることは少なくなった。
「知ってるとは思うけど、私はそろそろ聖女の座を退く……。つい先日、運命の巫女から次期聖女の推薦があったばかりだけど、私はもう何人か『次期聖女』を決めておくべきだと思ってるよ……。これから世の中が荒れていくことだしねぇ……」
聖アンジェリカ様の言葉に、私たちは静かに耳を傾ける。
『聖女候補』と『次期聖女』では、立場が大きくことなる。
千人単位で存在する聖女候補。
信任投票はあるものの、現役聖女様からの指名を受けた次期聖女は、ほぼ将来の聖女の席が約束されている。
ここ数年は、ずっと聖女様の顔ぶれはかわらなかった。
そのため『サラ』が次期聖女に選ばれたことは、聖国本国で大きなニュースになったと聞いている。
「次の大魔獣討伐作戦……、神聖騎士団と共に『死の山』へ赴きなさい。そこで目覚ましい成果をもたらしたものを『次期聖女』としましょう」
聖アンジェリカ様の言葉に……ざわ、と私たちが動揺する。
今回の大魔獣討伐は、あくまでフェイクだ。
その中で成果を出せと……。
「幸いにも今回、帝国が『巨獣ハーゲンティ』を討伐した英雄を貸し出してくれました☆ 彼の名声をうまく使ってくださいね」
さらりと運命の巫女様がとんでもないことをいい出した。
(こ、これは私がユージンを守らないと)
密かに決意を固めていると。
「あー、ちなみにサラちゃんは討伐作戦の参加は禁止です☆ お留守番しておいてくださいね」
「ええっ!?」
運命の巫女様の無常な声で、私は思わず大きな声を上げてしまった。
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■感想返し:
>聖女が8人なのは方位に対応しているのかな?
>女神様の数に対応しているとすると7人のはずですよね
もともと女神の数に対応した7人の聖女だったのに、女神の巫女が現れて8人になりました(数百年前)
それ以来、8人の聖女です。
■作者コメント
今週は忙しかったです。
■その他
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