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101話 聖都アルシャーム

◇スミレの視点◇


「わぁ~」

 私たちが歩く道には白い石が綺麗な正方形で敷き詰められてあり、両脇に並ぶ白壁の建物も全て同じデザインで統一されている。


 綺麗な街……だけど、あまりに似たような景色が続くと覚えづらくないのかな?


「この街……道に迷いそうだな……」

 隣のゆーくんがぽつりと言ったのが聞こえた。

 やっぱりそう思うよねー。


「サラちゃん、あとで街を案内してねー」

 私はサラちゃんにそう話しかけると。


「…………」

「サラちゃん?」

 聖国の街に着いて以来、友人の口数が少ない。

 というより無口になった。


 背筋をぴんと伸ばして、両手を胸の前で組みわずかに頭を下げて無表情で歩いている。

 私たちを先導してくれているようで、先に立って歩いてはくれる。


「旅の人ー、うちの商品はどうだい!?」

「夜は寒くなるよ、温かい手袋やマフラー仕入れてあるよー!」

「いい青果を入荷してるよー、見てってー」

「天頂の塔からでた希少な魔道具だよー!」

「西の大陸からの輸入品が買えるのはうちだけ!」


 大通りに入ると、露店で賑わっていた。

 建物のデザインは統一されているけど、露店の看板はカラフルで面白い。


 見たことのないような食べ物やアクセサリーを売っていて、ちょっと見てみたい気がする。

 けど、私たちが向かっているのは大魔獣討伐の依頼をした『八人の聖女』様がいる街の中央にある大聖堂。

 観光はあとにしなきゃ。

 

「いらしゃーい!」

「見てってー!」

「まけとくよー!」

 沢山の商人さんたちの呼び声の中を、私たちは歩いていく。



 その時だった。




 ――皆様、女神様への礼拝の時間です




 街中に女の人の声と「カーン……カーン……カーン……」という鐘のような音が響いた。


「え?」

 私はつい声をあげて。

 隣のゆーくんは、珍しそうに周囲に見回している。


 喧騒が途絶える。


 街中の人たちが一斉に両膝をついた。


 そして、両手を組んで祈り始める。


 前を歩くサラちゃんも同じだった。


(スミレ、俺たちも)

(う、うん、ゆーくん)

 これはサラちゃんに教えてもらったから知ってる。

 一日三回あるという『一斉礼拝』の時間だ。


 私は周りの人たちの見よう見真似で、同じように両膝をついて手を組んで目を閉じて祈った。

 ユージンくんも同じようなポーズを取っている。


 ちなみに、帝国では片膝だけつくのが普通らしく、学園の時はユージンくんはそうしてたけど、聖国ではこちらの流儀に倣っている。


「…………」

 街中を静寂が支配した。

 さっきまでの騒がしい音が一切なくなる。


 五分以上はそうしていただろうか。




 ――礼拝の時間を終了します。女神様へ感謝を




 鐘の音が鳴り止み、一斉に人々が動きだす。

 もとの喧騒に戻った。


「凄いな……」

「うん……」

 ユージンくんの言葉に、私もうなずく。

 女神様へのお祈りの時間が生活の一部に組み込まれている。


 迷宮都市はもちろん、帝国にもなかった文化。

 サラちゃんはずっと無言のまま。


(久しぶりの帰省なのに、テンション低いなぁー?)


 話しかけても返事がこないし。


 機嫌が悪いのかなー。

 でも、街に入るまでは普通だったんだけど。


 しばらく歩いて、私たちは大きな教会の前にたどり着いた。

 いや、これをただの大きな教会と呼んでいいのかな。


 10階建てのビルくらいの高さがある巨大な建物。

 横にも長く繋がっていて、教会というよりお城だった。




 ――聖アンナ大聖堂。




 南の大陸における女神教会の総本山。

 アンナ様というのは、女神教会という宗教を創った人だから教会の名前にもなっているとか。


 大聖堂の前には、おそらく教会の人たちだろう。

 神父さんや修道女さんたちがずらりと並んでいた。


 もしかして、大魔獣討伐の助っ人にきた私たちのため?

 にしては大げさだなー、と思っていたら。


「「「「「「「次期聖女サラ様、お待ちしておりました」」」」」」」


 一斉にサラちゃんに向かって頭を下げた。

 サラちゃんは慌てる様子なく、「ただいま」と返している。


「荷物をこちらへ」

「部屋へご案内を」

「上着をお持ちします」

 次々にサラちゃんだけに話しかけてくる。

 私やゆーくんのことは視界に入ってないみたい。


「一人でできますから結構です。皆様も、仕事へお戻りください」

 サラちゃんが言うと集まっていた人たちは、名残惜しそうに去っていった。


「ユージン、スミレ。こちらへ、どうぞ」

 サラちゃんが私たちの先頭に立って歩く。


(スミレって言われたの初めてだなぁー)


 いつもはスミレちゃん、なのに。

 それに態度がやっぱりすこし変。

 ゆーくんも不思議な顔をしてる。


 大聖堂の中は入り組んでいて、迷路みたい。

 通路も部屋も多い。


 隣の建物は聖職者たちの宿泊施設にもなっているようで、窓の外には寮のようなものが並んで立っている。


 サラちゃんの案内で、私たちは大きな客間のようなところへ通された。

 重い音で開く扉をサラちゃんは片手で開けて、ゆっくりと閉じる。


 ガチャン! という大きな音で鍵をかけた後。


「あー!! 疲れた!!」

 サラちゃんが、部屋のソファーに倒れ込んだ。


「あ、いつものサラちゃんだ」

 私が言うと。


「ごめんね、スミレちゃん、ユージン」

「?」

 サラちゃんが何故か謝った。


「変な態度を取ってたでしょ、私」

「わかってるよ、サラ。街に入ってからずっと()()()てたな、俺たち」

「えっ!?」

 びっくりする。


「ええ……、私も驚いた。まさか、ここまで監視されるようになったなんて」

「ちょ、ちょっと! まって、どういうこと!?」

 私が説明を求めると。


「多分だけど、聖都に入ってすぐ俺たちを監視している人が複数人いた。姿は見えなかったけど」


「聖都の守都戦士ガーディアンソルジャーね。外見は一般市民と同じ格好……というか、聖都の民は全員が女神教会の指定する服装だから同じ格好なの」

「だから探したけど見つからなかったのか……」


「え? 自由な服装ってできないの?」

 私が聞くとサラちゃんは当然のような顔で答えた。


「そうよ? 基本的な衣類は全て女神教会から支給されるわ。聖都の中ではね。だから、私もここだと着替えなきゃ」

 そういいながらサラちゃんが()()()()()()()


「ちょ、ちょっと! サラちゃん、ゆーくんがいる前だよ!?」

「別にいいんじゃない? いまさら」

「あー、そっかぁ」

 よく考えると私もサラちゃんもゆーくんに裸見られてるんだった。


「じゃあ、私も着替えよっかなー。この街って白い服がいいんだよね?」

「私の服貸そっか? 同じのが何着もあるから」

「いいの? やったー。ちょっと着てみたかったんだよねー、シスターの服」

 そういいながら私も服を脱ぎ始めると。


「いや……二人とも、ちょっとは隠してくれ」

 ゆーくんは目をそらしてた。

 真面目だなぁ。


 まぁ、それがいいところなんだけど。


「ゆーくんは着替えないの?」

「男性用の聖国の服も借りられるわよ?」

 私たちが尋ねると「俺は制服のままでいいよ」ということだった。


 ゆーくんの修道士の格好もちょっと見てみたかったけどなー。


 私はサラちゃんに借りた修道女(シスター)服に着替えた。




◇ユージンの視点◇




「もう振り向いていいよー、ゆーくん」

「てゆーか、見てもいいのにユージン」

 スミレとサラが、聖国支給の服装に着替え終わった……らしい。

 

 振り向くと違和感なく着こなしているサラと、見慣れない修道女(スミレ)服のスミレが立っていた。 


「どう? ゆーくん」

「似合ってるよ」

 くるんと回るスミレは可愛かった。


「ダメよ、スミレちゃん。ここじゃそんな動きしちゃ、はしたないって思われるから」

「き、厳しいね……」

「それくらいもダメなのか」

 

「じゃあ、夕方に聖女様への挨拶があるからそれまでは自由行動だけど……」

「私は疲れたので寝ますー」

 スミレは街までの徒歩で疲労したらしく、もう一つあったソファーに倒れ込んだ。

 そしてすぐに「すーすー」と寝息が聞こえる。


「サラは?」

「私は知り合いに挨拶をしてくるわ」


「そっか。俺も行った方がいいか?」

 ときくとキョトンとした顔をされた。


 そして、くすっと笑われる。


「そうね、あとで()()()()を紹介するわ。けど、今日は一人で回るからスミレちゃんと一緒に居てあげて」

「……わかった」

 サラの両親……、確か聖国でもそれなりの地位にある人物だったはず。

 

 軽い気持ちで言ったけど、それは緊張する。


「じゃあね、ユージン。あっ!」

 部屋を出る直前、何かを思い出したように戻ってきた。


「忘れ物?」

「部屋に二人きりだからってスミレちゃんにえっちなことしちゃダメだからね!」


「……寝てるよ? スミレ」

「寝てるスミレちゃんにイタズラを……」


「しないって!!」

「よろしい」 

 とんでもない疑いをかけられつつ、サラは部屋をでていった。


 大きな客間にはスミレの寝息だけが聞こえる。


 俺は持ってきていた探索用の毛布をスミレにかけた。


(どうするかな……) 


 街の探索をしたい気もするけど、スミレを部屋に一人残してはいけないし。


 なにより、さっきのサラの話。


(民衆に紛れた聖都アルシャームの守都戦士ガーディアンソルジャーか……)


 視線は感じたが、気配の一切を絶っていた。

 相当な手練だ。 


 次期聖女のサラの護衛と監視だというけど、おそらくそれだけではなく本来の目的は『外敵の排除』だろう。

 衛兵のようなものではなく、暗殺者に近い存在だと俺は睨んだ。


 そんな者たちが、街のいたるところに……。

 うかつな探索は危険かもな。

 

 俺は大人しく部屋で瞑想をしつつ、サラの帰りを待った。




 ◇




 サラが帰ってきたのは、夕方近くだった。


 スミレはまだ寝ている。


「はぁ~、思ったより時間を取られたわ」

 戻ってきたサラの表情からは疲れが滲んでいた。


「おかえり、サラ」

「ただいま、ユージン。スミレちゃんは……えっ? まだ起きてないの?」


「長旅だったから疲れてるんだろ」

「にしても……もうー、のんきな顔してー」

 サラがスミレの頬をひっぱっている。


「ん……んん~」

「起きなさーい、スミレちゃん!」

 それでも目を覚まさないようだ。


「……ん~、もうー、ゆーくんってば♡ サラちゃんには内緒ね♡」

「「……」」

 やけにはっきりした口調で、スミレの寝言が聞こえてきた。 


「ユージン?」

 サラがこっちを見てくる。


「夢の中の俺に文句を言ってくれ」

 冤罪だ。


「おきろー!! スミレちゃん―!」

 サラがスミレの服に手をつっこんでがくがく揺らす。


「ひゃぁあ!! なに、なに!? ……あれ? 私寝てた?」 

 ようやくスミレが起きた。


「でも、そんな乱暴に起こさなくても」

 俺が言うと。


「もうじき聖女様との謁見の時間よ」

「そうだった」

 遅刻は許されない。


「やば! どうしよう、寝起きで寝癖がついちゃった!」

 寝起きのスミレが焦った表情になる。


「スミレちゃん…………水魔法・化粧(メイクアップ)

 サラが魔法を使うと、一瞬で寝癖が直った。


「わー! ありがとう、サラちゃん」

「スミレちゃんも覚えたら? 探索じゃ必須魔法よ?」


「……私、水魔法が苦手だから」

「そういえばそうだったわね」

 

「じゃあ、向かうか?」

「ええ、行きましょうユージン」

 俺が尋ねると、サラがうなずく。


 俺とサラとスミレは、客間を出て鍵をかけた。



 これから会うのは、今回の『大魔獣討伐』の依頼者である『八人の聖女』様。



 ――聖国カルディアの最高指導者たちである。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

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次の更新は『2/11-12』です

※次の週末立て込んでいて、少し更新遅れるかもです。



■感想返し:

>スミレちゃんとサラ会長の仲が、初期と比べて良好になったことです。

 →最近仲良しですよね。


>高山の上に宗教都市がある…チベットかな

 イメージ近いかもです。



■作者コメント

 さて、八人の聖女の名前を決めないと……残り六人。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

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 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

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― 新着の感想 ―
やべぇ町だな…… 少なくともユージンの中でサラとの結婚が「なしよりのナシ」になってそうなくらいには こんな街、怖すぎて天使たちも近寄らなさそう……
[気になる点] 海千山千のおばさま聖女ばかりだったら泣ける。
[一言] 聖女が8人なのは方位に対応しているのかな? 女神様の数に対応しているとすると7人のはずですよね 或いは全く別の理由なのか、気になりますね それはそれとして聖都って凄くディストピアっぽいです…
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