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【3】Not equal romance【完結】  作者: ホズミロザスケ
なによりも大切な人たち
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第二話 なによりも大切な人たち2

 次の授業が違う真綾と別れ、ワタシは教室のドアを開く。開けた瞬間、冷房の風が気持ちいい。さてと、今日は確か紺色のポロシャツ着てたよな……? あ、いたいた。

「おーい、駿河」

 名前を呼ぶと、黒髪くせ毛の男、駿河が振り向いた。横の席に座る。

「お昼ぶりだな」

「お昼ぶりですね……ってそんな会話あります?」

「ワタシたちにはあるだろ」

「お昼一緒に食べましたけども」

 困ったように眉をひそめて、ズレた黒縁のメガネを左手でくいっと上げた。

「今日も『映画の歴史』の授業、楽しみだな」

「確か先週に引き続いてコメディ映画の歴史だとは思いますが」

「いやぁ、ちょっと先生の講義聞いてそのあと映画見て、感想書くだけで単位がもらえるとか最高だよな」

「ところどころ寝てても、それっぽく感想書いて単位もらおうとするあなたには最高でしょうね」

「おっ、嫌味か~?」

「ほら、先生入ってきましたよ。静かに」

 ワタシの通う喜志芸術大学は、名の通り芸術に特化した大学だ。芸大と聞いて、一般的に思い浮かぶ「絵を描く」「音を奏でる」「映像を撮る」学科もあれば、「芸術を通じて社会を豊かにすることを目指した」学科もある。

 文章を書くことをメインとする文芸学科にワタシは所属してるけど、受けれる授業一覧にさえあれば、こうして映画の歴史を学ぶこともできるし、写真撮影のコツやキャラクターの作り方の授業も受けることが出来る。いろんな分野の授業を受けれるのは楽しいし、創作のヒントも得られる。一般大学では学べないことが多くて、やっぱここの大学に入って良かったと思う。

 授業が終わって外に出ても、まだ日は完全に落ちていなかった。夕暮れに照らされながらスクールバスに乗り、電車で一駅。街には家々から漂うおいしそうな匂いがあちらこちらからする。

「駿河、今日晩ご飯何?」

「今日は……あ、言っておきますが、あなたの分のご飯はないので」

「はぁ~? ワタシ何も言ってないけど?」

「僕にメニューを確認してくるとき、九割がた、ご飯を食べに来ようとしているってわかっていますよ」

「ぐっ……」

「というか、最近毎日ご飯食べに来てません?」

「バイト忙しくて」

「僕もバイトしている身ですけどちゃんとご飯作ってますよ」

 なんて呆れた声で言う。

「って言いながら、いつも二人分のご飯を作ってくれてんじゃん」

「あの、作り置きっていう単語ご存じですか?」

「知ってるっての」

「僕はあえて多く作っているんです」

「そのおかげでワタシはご飯にありつけるわけだ」

「僕からしたらそのおかげで作り置きが成功した試しがないんですが」

 駿河が大きいため息をついたあと、

「まぁ、あなたはいつも美味しいって言いながら食べてくださるのでね。僕もそんな人を邪険に出来ないんですよ」

 ふいっと顔を横に逸らした。

「ありがとうな」

「まったく……。桂さんの方が料理お上手だというのに」

「お礼にまたなんか作ってやるよ」

「倍にして返してくださいね」

 

 駿河総一郎(するがそういちろう)。人生で初めてできた異性の友達。出会ってきた中で一番バカみたいなやりとりを毎日出来る同い年、同じ文芸学科の生徒。あと同じマンションに住む隣人。

 駿河と出会ったのは大学の受験の時だった。

 去年の十一月。ワタシは新幹線に乗って、試験前日に新大阪に到着した。その夜、ホテルで小説のプロットを書いていた。

 ついつい熱中しすぎて、寝るのが遅くなり、受験当日の朝、しっかり寝坊した。チェックアウトの時間も迫っていたから、慌てて受験会場には必要ないものはスーツケースに放りこんだ。その時、誤って筆記具一式も入れてしまっていることにも気づかずに。「スーツケースは帰りに引き取るんで!」ってホテルに預けて、受験会場である喜志芸へ電車で向かい、そして会場で血の気が引いた。

 今思えば、まだ試験開始まで時間があったから、大学の入り口にあった画材屋さんへ買いに走るなり、その辺に立っていた試験官の人に貸してもらえないか訊けばよかったかもしれない。

 が、あの日のテンパってるワタシにはその考えは思い浮かばす、慌てて隣の席の人に声をかけた。いつもは自分から話しかけるなんてことが出来ない人見知りのワタシだけど、こういうハプニング時には火事場の馬鹿力的に話しかけることが出来た。

 その時、隣にいたのが駿河だった。駿河はビックリしながらもシャーペンと消しゴムを貸してくれた。命拾いしたワタシはなんとかお礼をしたくて、試験後、半ば強引に食堂へ連れていき、駿河にご飯をおごった。ご飯を食べつつ、本の話や、小説を書くことについて話をした。初対面のはずなのに、そんな感じが全くなくて。ただただ楽しくて、帰りのバスや新幹線を忘れそうになるほどだった。

「駿河。あえて今、連絡先は訊かないでおくわ。どっちかが落ちたら気まずいし」

 なんてカッコつけて、ワタシたちは互いに合格を願って別れた。そして、合格通知を手にして、この地でまた駿河に再会した。


 その日からもうすぐ四か月。

 駿河とはほぼ毎日行動を共にしていたから、いろんなことがあった。バイトで失敗して落ち込んだ時、一緒に帰りながら励ましてくれた。熱が出て倒れた時、授業を休んでまで駆けつけてくれた。遊びに行った先で靴擦れしてしまった時、スニーカーをプレゼントしてくれたり。

 出会った時から、なんだか安心感があって、互いに部屋の合鍵を渡しても問題ないと心許した存在。そして、いつでもそばにいてくれる気の合う「友達」、それが駿河だ。

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