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【3】Not equal romance【完結】  作者: ホズミロザスケ
やっぱりワタシは
17/21

第十七話 やっぱりワタシは8

 二食を出て、そのまま同じ階の奥にある総合体育館に向かう。

 早くも何十人か入場を待つ人の列が出来ていた。入場開始まで残り三十分ほど、壁沿いに座って待っている。同じようにワタシたちも座る。駿河はまた緊張し始めたのか、口数が減ってきてるな。かといって、黙っていても駿河となら気まずいとは思わない。ずっと一緒にいるから、なんだかいてくれるだけでそれでいい。


 膝に置いていた手をふと下ろすと、駿河の左手に軽く触れた。花火大会の時、手をつないだこと、駿河の手の感触がフラッシュバックする。はぐれないように一時的に手をつないだだけ。特に深い意味はない。駿河は異性だけど大切な友達で、ワタシの彼氏にしたらもったいないくらいで。ダメなんだよ。ずっと友達でいなきゃ。今以上に特別な関係になりたいと言って、拒絶されたら悲しいとかつらいとかそんな言葉じゃ表せない。何もかもが消えるんだから。


 あぁ、もう早く駿河に彼女出来てしまえばいい。出来てしまったら、ワタシは一緒にいれないけど。疎遠になって互いに記憶の中に消えていく。駿河は彼女に優しく話しかけて、彼女はワタシみたいに手をつなぐかどうかでウダウダ悩まず、その手を取って歩くんだろうか。考えるだけで寂しくて体に穴が開き、そこに冷たい風が通り抜けていく。


 駿河が幸せになってくれたらそれでいい。幸せな道を進んでほしい。でも、ワタシのこと忘れないでほしい。どんなことがあっても、少しの時間でもいいから今のように一緒にいてほしい。……って、ワタシはいったい何様なんだ。それはワガママすぎるよな。

 目をつむる。ちょっと遊び疲れてるからこんな変なこと考えるんだ。これ以上ムズカシイこと考えないようにしよ……。


「桂さん……桂さん……!」

「ん?」

 駿河の呼ぶ声に目をゆっくり開ける。横を見ると駿河の顔がすぐそこにあった。慌てて離れる。

「えっ? あっ?」

「僕の肩にもたれて寝てたんですよ」

「あー……そうなのか」

「おかげで左肩が凝りました」

「ご、ごめん」

「冗談ですよ。そろそろ入場開始らしいんで立ちましょうか」

「おう」

 頬や触れていた部分に残る、駿河のぬくもりに胸が高まっている自分を見て見ぬふりをして、ワタシは立ち上がった。


 会場に入ると、ステージだけで座席はない。床は土足でも良いように防汚シートが敷かれている。窓は遮光カーテンで閉め切られ、密閉感がある。ワタシたちは一番後ろ、壁側に場所を取る。ステージ全体は見やすい。


「前に行かなくていいのか? まだ空いてるぞ?」

「初心者はあまり前に行かない方が良いってネットで調べたら書いてたので」

 昔テレビで観たロックフェスの様子を思い出す。一番前にいた人は柵に掴まっていたが、少しでも前で見たい人たちと押し合いになり圧迫されていた。確かに後ろにいた方がいいかも。

 開演五分前になると、マイクや楽器のチェックがスタッフにより行われ、その人たちが立ち去ると数分も経たないうちに会場の照明が落ちた。観客から歓声が起き、早くも前に詰めかけ、前方は人でぐちゃぐちゃになっていた。バンドメンバーと思われる人たちが舞台上に現れ、自分の位置に着く。


「お前ら! いくぞぉー!」

 真ん中にいるエレキギターを持ったボーカルが叫ぶと、一気に照明が点いて、演奏が始まる。

 会場のボルテージが一気に上がり、爆発したかのような歓声が沸き起こる。ワタシみたいな初見の人も多いと踏んでいるのか、シングル曲をメインに構成されたセットリストになっている。

 周りにいるライブ慣れしてそうな人たちの見よう見まねで、腕を高く挙げてみたり、手拍子してみたりするとワタシもこの会場の一部になれて楽しい。駿河の方をちらりと見てみる。一緒に腕を挙げている。その視線はまっすぐステージに注がれていて、一秒たりとも見逃したくないという気持ちが漂ってきた。


 三曲やったあたりで、トークに入る。

「どうもー。『黄色いフリージア』、略して『イエフリ』です。喜志芸久しぶりー!」

 客席から「おかえりー!」の声が飛び交う。

「ご存じの方もいるかと思うんですけど、僕たち全員喜志芸の出身で。俺が文芸学科で、キーボードのタイスケがキャラクター造形学科、ベースのコウノさんが芸術計画学科出身です。あ、今日もサポートドラム入ってもらってます。そこのドラムおじさんなんですけど。あの人は僕のオヤジで。そのオヤジもここの出身なんすよ」

 一番後ろに座っていた髪を束ねた茶髪ウェーブヘアの男性は立ち上がり、ドラムに設置されたマイクに顔を近づける。

「どうもー! 只今ご紹介にあずかりましたボーカルギター・ソウタの実の父でサポートドラムのゲンタでーす! オレは写真学科出身、イエフリのアー写も、ソウタの七五三の写真も俺が撮ってます! よろしくお願いします!」

 一番元気なのが年長者のサポートドラムなのがおもしろい。

「まぁ、そんな感じのメンバーでやってます」

 自己紹介の後、二曲ほど披露する。パワフルなギター。キーボードは細かに音色を変えたり、ソロプレイが楽曲のスパイスになっている。反対にドラムとベースは一定のリズムを崩すことなく、土台を支える。


 MCでは久しぶりの喜志芸、大学祭を楽しんだ話になる。ソウタが鳥の巣のような茶髪の髪をタオルで乱暴に拭き、ペットボトルの水を勢いよく飲んだあと、

「コウノさん、スキンヘッドだからやっぱ怖いんすよ。喋ると優しい人だってわかるんですけど。歩くたびに呼び込みしてるメイド姿の女の子たちがスッと後ろに下がってね」

 と、言うとタイスケが無表情で、

「モーセの海割り……」

 とボソッと言って、笑いが起きる。なんかタイスケの姿はどこか駿河に似てる。黒髪で、瞳が大きくてやや幼く見える顔立ち。駿河のメガネ外して、耳にたくさんピアスつけたら似そう。

 コウノはスキンヘッドを隠すようにタオルを巻きはじめる。

「でも、ソウタのオヤジさんの方が怖くない? 長髪でウエーブパーマかけてて」

「コウノくん、俺の髪は天パなんだよ」

「マジっすか! サーセン。オヤジさん、今はライブだから俺たちのバンドTシャツに短パン姿ですけど、私服めちゃ派手な柄シャツに、これまた柄のジャケットとパンツ姿じゃないですか。その上、サングラスかけるし。完全にそのスジの人っすよ、あれは」

「昔はハンサムって言われてたんだよ。サングラスをひとたび外せば、女の子たちが気絶してだな」

「オヤジ、年々腹出てきて、貫禄が出てきたからなぁ」

「それは、ソウタの将来の姿でもある……」

「タイスケの言うとおりだぜ、ソウタ。オヤジさんにならねぇようにな」

「タイちゃんもコウノくんもなかなかひどいね……おじさん泣くよ?」

 爆笑が起きる。「僕の将来の姿はどーでもよくて!」と無理やり話を切り上げる。

「話ズレたけど、久しぶりの喜志芸でどうしてもやりたかった曲があります。その曲は在学中に作りました。僕たち学生時代成績悪いし、バンドもなかなか人気でなくてめちゃくちゃもがいて、あがきました。その時の心境を乗せた……聴いてください、『竜巻センセーション』」

 駿河が一番聴きたかったであろう、きっかけの曲。駿河はさらに目を輝かせ、ステージに全身を集中させている。


 そのあとにもう一曲、アンコールにさらに新曲をサプライズ披露し、ライブは幕を閉じた。

 次々と観客が会場を後にする。

「駿河」

 呼びかけても、駿河はしばらくぼーっとステージを見つめていた。

「駿河ぁ、大丈夫か?」

「……桂さん、これ、夢じゃないんですよね」

「おう。現実だぞ」

「よかった……。めちゃくちゃ楽しかったです」

 駿河の頬が紅潮している。両手を握りしめると、

「ボーカルの声も、ギターもベースもドラムもCDとはまた違って、生演奏だとこんなに迫力があって。今日まで何回も聴いたはずなのに全然違う。足元からこう突き上げてくる重低音も、お客さんの熱も、ライブじゃないとわかんないものですね」

 早口でまとめあげ、「楽しかったなぁ……」と感動を噛みしめ、歯を見せて笑った。駿河ってあんまり表情変わらなくて、敬語で話すし、落ち着いてるし、大人びてる。だから、駿河がこんな、どこか子どものような無邪気さのある笑顔を見たのは初めてだった。こんな笑い方するんだ。

「ワタシも楽しかった!」

「ですよね、楽しんでもらえてよかったです」

 このあと、帰宅途中でファミレスに入り、晩ご飯を食べたけど、駿河は今日の感想を話し続けた。こんなに自分から話す駿河は次いつ見れるかわからない。ワタシは聞き手になって、楽しそうに話す駿河を見ていた。駿河が楽しいと思ったものを一緒に見て、体験出来たこと、ワタシも嬉しく思った。


「駿河、今日は楽しかった。ありがと」

「はい。こちらこそありがとうございました」

「明日はバイトかー。頑張らないとな」

「そうですね。頑張りましょう」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

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