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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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商会の噂 4

 ギルドでの取引を終わらせて、その後数件の取引先を回って今日の仕入れ分は終了になった。

 手押し車の中身は既にぎっちぎちである。それを全部アンシークに運び込んで、空になった手押し車を軽々押していくジャンさんの横に並ぶ。

 そして朝ぶりに店に戻り、全て問題なく終わったことをちゃんと確かめてここでの取引が終了。今日の日程は全部おしまいになった。


「お疲れ様でしたー」

「おう。気を付けて帰れよエスティ」

「流石に大通りで攫われたり襲われたりしませんよ」


 言う必要がないから言わないけど、攫われた経験がないわけじゃないから縄抜けとか出来るしね。

 私を攫うのは中々大変だ。ま、そもそも攫う理由もないからそんなことされないけど。

 なんて軽口を叩きながら店を出て、帰る前に花屋に寄っていくことにした。


 朝会った時に手が空いてたら寄るって言ってたし、植物は良いものだよね。あるとなんか落ち着く。

 そんなわけで知り合いのお姉さん、ニレさんの務める花屋に立ち寄る。

 表から覗いたらちょうどニレさんと目が合って微笑みと共に手招きされた。


「こんにちはー」

「お疲れ様。本当に来てくれたのね」


 今の季節の花が色とりどりに咲き誇り自己主張しているこの空間は、それでも雑多には見えない不思議な場所だ。

 ここに居るだけで随分落ち着く。

 実は結構通ってるんだよね。それこそ、花屋のニレさんと仲良くなるくらいには。


「今日はどうする?」

「ニレさんのオススメでミニブーケ作ってください」

「お店に飾るの?」

「はい。萎れてきたら家に持っていきます」

「なら華やかな方が良いわね」


 希望があったら言ってね。と前置きをしてからニレさんは花を選び始める。

 この時間が好きだから滅多に入れる花の指定とかはしないんだよね。

 たまーに好きな花を選んで、それをメインで作ってもらうこともあるけどあれはまた別の楽しみだから今日の趣旨とは違う。


「そういえば、エスティも聞いた?アイラック商会の話」

「ニレさんまで知ってるなんて、相当広まってるんですねぇ」

「お客さんが何人か話してたのよ。あんまり信じられないけど……本当なら怖いわよねぇ」

「そうですねぇ。私も信じてはないですけど、結構聞きましたよ」

「ええ、信じられないわよね。子供を攫ったとか、人体実験だとか」


 これはまた、随分ぶっ飛んだ話が出て来たなぁ。

 誰が広めてるんだか。単に尾びれが付いたにしては付くの早すぎるだろこれ。

 面白がって噂広めてるやつでも居んのかな……傍迷惑な。


「エスティ、青と赤どっちがいい?」

「青でー」


 ニレさんが店内に置いてある椅子を示したので大人しく座り、手際よく花を選んでいく彼女を眺める。

 何となくの気分で青と言ったのだけど、既にニレさんの手元が青系で綺麗に纏まっているから大正解だったかもしれない。


「そういえばニレさん、恋人とは最近どうなんですか」

「急ね……」

「だって気になりますし。前置きとか欲しかったです?」

「いいわよ、別に。前と変わんないわ。向こうは忙しくて滅多に会えない」

「あれ?こないだ会ってくるって」

「それも駄目になったのよ!急用だって……はぁ……」

「あらら……愚痴聞きますよ?」

「ありがとう」


 ニレさんのお相手、実は知り合いなんだけどお前いい加減愛想尽かされるぞって言いに行った方がいいかな?

 前々から楽しみにしてたの知ってるから、それすっぽかすのは駄目だぞお前……

 まあ本当に急用が出来たんだろうけどさ。ニレさん大好きなんだからもっと態度で示せよ全く。


「どう?」

「わあ、綺麗」

「ふふふ。じゃあこれで包みましょうか」


 思わず拍手までしてしまった。

 流石ニレさん。包む紙まで綺麗だし、包まれると余計に綺麗。

 いつもこうやって綺麗に作ってもらえるから、花瓶に移すのにほどくのがもったいなくなっちゃうんだよね。


 まあ、最終的にはほどいて花瓶に入れるんだけどさ。

 花瓶も色々持っているからその時の気分で一番合いそうなやつを適当に選んでいる。

 今日のこれは雫型の陶器のに入れよう。多分それが一番綺麗だ。巻かれているリボンはそっちに付けてもいいかもしれない。


「はい、完成」

「ありがとうございます」

「気に入ってくれてよかったわ。代金が……五百コルメね」

「はーい」


 代金を払ってブーケを受け取る。

 他に買い物はなかったよなぁ、なんて考えつつ、お店の外まで見送りに来てくれたニレさんに笑顔を向けた。


「それじゃあ、今度はお茶しましょうね、ニレさん」

「ええ。エスティなら大丈夫だと思うけど、商会のこと、気を付けてね」

「はーい。まぁ、たぶん大丈夫ですよ」

「そうやって油断して、もし本当だったら困るでしょう?」


 ニレさんは面倒見のいいお姉さんだからアイラック商会の噂も疑いつつ忘れてしまうことは出来ないみたいだ。

 大丈夫ですよぉーと再度ゆったり口にして、ブーケを持っていない方の手を振って帰路につく。

 思ったよりも広く、色々と噂が流れているみたいだなぁ。


 今日だけで随分話を聞いたので、忘れないうちに書き留めておこう。

 あとはシュッツがどこまで調べて来てくれるか、だけど……私の比じゃないくらい色々聞けそうだからね。ひとまずはそれを待つとしよう。

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