表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
六章「曰く、魚心あれば水心」
87/124

黒い靄 2

 靄と私のちょうど中間くらいに、男性が一人現れた。

 ……あぁ、兄さんだ。数年ぶりに会ったけど、そうだという確信がある。

 服装には見覚えが無いし、腰に剣を携えているのは正直予想外で驚きだけど、この数年で使い始めたのだと言われたら普通に納得できるなぁ。


 なんて、安心感で気が抜けた頭で考えていたら、兄さんがこっちを振り返った。

 バッチリ目が合って、すぐに視線が靄に戻る。

 逸らされちゃった、なんて思っていたら、兄さんが流れるように剣を抜いた。


「テメェうちの可愛い妹に何してくれてんだぁぁ!!」

「あー、兄さんだ。すっごい安心感」

「バルセだぁ……久しぶりに見たぁ……」

「そっか、シュッツも私と同じくらい会ってないのか」


 シュッツも気が抜けたらしい。だよね、兄さんのあのテンションの前で、真剣さを保っていられるわけがないんだから。

 私とシュッツが昔と一切変わらない兄さんに気を抜かれている間も、騎士団三人は状況が飲み込めないようで、私たちと兄さんの方をチラチラ見ていた。

 ……あ、靄が兄さんに切り裂かれた。流石、霊系に強いなぁ。


「エスティ~~!!えー久しぶりだなエスティ!え、美人……元々最強に可愛かったのに美人属性まで付いてる最強じゃんかわい、妹可愛い~!」

「わーい兄さーん!来てくれてありがとーう!」


 靄を切り捨てて、そのままそちらには見向きもせずにこっちに来た兄さんに全力で手を振って、ようやく足に力が入るようになってきたので自力で立つ。

 うーん、まだあんまり力はいらないし、もうこれは兄さんに飛びついておこう。

 絶対に受け止めてくれるっていう信頼があるからね、飛びついた次の瞬間には脱力している。


「わぁ、記憶にあるより筋肉質。兄さん剣使い始めたの?」

「必要になったからなぁ。そんなに強くはねぇよ、使えるだけ」


 抱き留められたし流れるように抱えられたので、そのまま兄さんの首に手を回して体勢を整える。

 うーん、これはとても良い安定感です。

 なんてやっている間に騎士団三人が靄の残骸を確認し終えたようで、なんとも言えない顔でこっちに歩いてきた。


「えーっと……エスティのお兄さん、なんだよね?」

「はい!」

「初めまして、うちの可愛い可愛いエスティがいつもお世話になってます」

「急に現れたのは……」

「私が呼びました。非常用に魔法陣貰ってたので」


 使い切りだから、もうこれはただの紙切れだ。

 服の中から魔法陣を入れていたお守りを取り出して、お守りの中から魔法陣が描かれた紙を取り出す。

 フィンさんなら多分分かると思うから、フィンさんに渡せばいいかな。


「……確かに召喚用の魔法陣だね、効果も切れてる」

「エスティは昔から霊体に干渉されがちだから、家を出る時にバルセが持たせたんだよね」


 横から補足を入れているシュッツをチラ見しつつ、兄さんのマフラーを弄る。

 あ、これマフラーって程の厚みないな?兄さん昔から口元隠しがちだし、これもそれ用かな?

 柔らかい布は触り心地が凄く良い。兄さん肌に触れるものへのこだわり割と強いタイプだし、これもいいの選んだんだろうなぁ。


「エスティ、話聞いて?」

「んえ?なーに?」


 兄さんのマフラーの手触りに心を奪われている間に、何やら話が進んでいたらしい。

 もうしっかり何も聞いてなかったわ、へへ。

 完全に浮かれて気が緩んでるわけだけど、これくらいは許してほしい。八年ぶりに会ったんだからはしゃぎもするって。


「とりあえず非常事態だし、入国の手続き等はこちらで終わらせます」

「助かるー。ありがとうございます」

「いつまで滞在の予定ですか?」

「すぐに戻るかな。シュッツ、リュシアに連絡……」

「え、兄さん帰っちゃうの?」


 ちゃんと話を聞く態勢を取ったところで聞こえた言葉に、思わず反応してしまった。

 いや、うん、そうだよね。兄さんだって暇じゃないのだ。むしろ毎日忙しいだろうに、私が急に呼び出しちゃったんだから、そりゃあ急いで帰らないといけないよね。

 私が勝手に、二、三日くらいはいるかなーって思ってただけだし。


 声を出してしまってから慌てて脳内を整理していたら、兄さんにギューッと抱きしめられた。

 くるし……くはないな、絶妙な力加減だ。


「やっぱり一週間くらい居ようかなー!!リュシアにはそう言っといてー!!」

「僕が言うんだ……」

「こんな時じゃないとグリヴィアなんて来れないし、エスティとも次会うのいつになるか分かんないしなー!!」

「そろそろご実家に呼ばれるって話ですよ」

「それはそれ、これはこれ。というか普通にエスティの事心配だし。今年はなんか色々危ないんだろ?」


 勢いよく予定を変更した兄さんに、思わず目がキラキラしてしまう。

 リュシアは割と私と兄さんが一緒にはしゃぐの止めないし、許してくれそうな気はするよね。

 大丈夫大丈夫、シュッツは姉が怖いなら私が引き留めたって言っていいから。


「兄さん、しばらくいる?」

「居るぞー」

「じゃあお店休みにするから一緒に観光しよ!」

「勿論!……それと、俺もアンシークの先代に挨拶したいから、連れてって」

「うん!」


 必要な手続きもあるだろうから、明日はちゃんとお店を開けて、明後日は臨時休業って言っておこう。

 兄さんとグリヴィアの中を巡れることなんて今後無いだろうから、はしゃいだっていいだろう。

 お墓参りにも春まで行けないかなぁって思ってたけど、兄さんが一緒に行ってくれるから安心だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ