忍び寄る気配 2
月宵の祭りから一週間ほどが経ち、冬真っ盛りなグリヴィアは毎日のように雪が降り、前日に作った道が次の朝には消えているなんて事が続いている。
お祭り大好きグリヴィア王国も、流石にこの天気の中で出来る祭りは少ないからこの季節は一年で一番静かな季節だ。
まぁ、祭りが一個も無いかって言われるとそんなことも無いんだけどね。
とはいえ他の季節に比べて圧倒的に少ないのも事実。
ずっと雪が降ってて晴れ間が少ないこともあり、国の中はどこかどんよりしている。
なので私はこの一週間、日が落ちてから外に出る時は絶対に一人にならないように気を使って過ごしていた。なんなら昼間も外に出る時はなるべく人と一緒にいるようにしてた。
フィンさんとイヴィさんには一応話をしておいたので、二人も気にしてくれている感じだ。
未だに嫌な気配はずっと感じているし、国内のお祭りムードが終わってしまってから強くなっているのも感じている。
けど、特に出来る事も無いからとりあえず一人にならないように気を付けてるのだ。
「でもまぁ、それにも限界があるということでね……」
呟きながらアンシークを出て、大通りの方へ向かう。
今日はアンシークの定休日であり、どうしても買わないといけない物があったので買い物に出ることにしたのだ。
日が沈む前に帰る予定だし、向かう先も大通りと商店街だし、まぁ大丈夫だろうと思っている。
一応シュッツに連絡しておこうかなぁ?でもわざわざ言う必要あるかなぁ?と考えながら歩いて、言わないで怒られるのも癪だから連絡はしておくことにした。
でも流石にこのくらいは許してもらわないと何にも出来ないよね。
ずっと家に籠ってると気も滅入るし、その状態で日々を過ごす方が問題だ。
「さーて、まずは……」
うだうだ言い訳を並べたけど、私だって休みのたびに街をうろつくほど危機感が死んでいるわけではない。
今日の買い物で色々買いこんで、来週いっぱい引きこもれるくらいの支度を整えるつもりではあるのだ。
そんなわけでしっかり居る物をメモしてきた。
そのメモを確認して行く先を決め、出来るだけ大きな道を選んで進む。
食材は最後に買うから、とりあえず他のものからね。
とりあえず毛糸かな。この時期の暇つぶしには持ってこいだから、ちまちま編み物をしてるんだよね。中々楽しい。
「ついでに布も見ようかなー」
呟きながら大通りを曲がり、目的の店に行こうとした、その時だった。
急に背筋が凍るような心地がして、肌が粟立つ。
振り返って足を止めたら、より一層気配が濃くなった。
「やば、やらかし……」
思わず声が漏れるも、時すでに遅し。私の前には見上げるほど大きな、黒い靄のようなものが現れていた。
ぞわぞわと寒気がして、その黒い靄から目が離せない。
ゆっくりと後ろに下がろうとするけれど、足が上手く動かない。
どうにかゆっくり息を吸って、吸った空気の冷たさで少しだけ冷静になる。
これは、まだ、最悪ではない。
けれど現状どうにも出来ない。さっきシュッツに連絡しておいて良かった。
「エスティ!」
聞こえた声に反応しようとして、咄嗟にやめて目を瞑る。
シュッツならば、まず私の所に来る。
私の前で止まる前に、私を後ろに下げようとする。
深く息を吸う。
ゆっくりと息を吐く。
「エス様」
「あぁ、シュッツごめん、あれ今どうなってる」
「人型っぽい靄。もしかして僕の姿模倣しようとした?」
「多分、そう。シュッツの声になったから」
今度は名前を呼ばれるのと同時に肩を抱き寄せられて、そのまま足が地面から浮いた。
足先に地面の感覚が戻ってくるのと同時にゆっくりと目を開けて、そこに居るのが確かにシュッツなのを確認する。
地面にちゃんと足をつけて立つと、シュッツは私を庇うように前に出た。
その背中越しに靄を確認すると、確かに先ほどより人型に近くなっている。
ついでにいうと二メートル以上ありそうだった大きさが、大体百七十とか百八十とかのサイズ感になっている。
うーん、やっぱりこれ、私がうっかりシュッツの事思い浮かべたからそっちに寄せた感じだなぁ。
「エスティア!」
「エスティアちゃん!あれなに!?」
「すいません、毎度本当にすいません……」
どうしようかなぁと冷や汗をかいていたら、騒ぎを聞きつけたらしい中位騎士二人が現れてシュッツの更に前に出て靄を睨みつけた。
うん、お察しの通り私が居るからあんなのが居るわけですが、私の所為かって言われたらそれは否定したいから説明は長くなりそうです。
「とりあえず、敵です、人ではないです」
「亡霊か何かか……?」
「その認識で大丈夫です。シュッツ」
「うん?」
「どう?」
「……倒せ……ない、かも」
「あわ……」
実体化されると面倒だけど、実体化してくれないと攻撃が当たらないやつか?
確かにシュッツは物理弱いし、騎士さん方は霊体への攻撃方法とか専門外だよね。
そして私はあれに接触すると取り込まれかねないから、出来る限り距離を取らないといけない。
……これ、大分不味いのでは?




