忍び寄る気配
アンシークに朝一で来てくれてたシュッツに昨日の事をあれこれと説明して、寝る時の状態とかも一応知らせておくことにした。
今ならまだ昨日寝る時に置いた場所から動かしたりしてないからね。
「他に何かいつもと違う事はあった?」
「いつもと……あ、シャワー壊れて急に熱湯出てきた。すぐ治ったけど」
「それも関係ありそうかな……後で確認しよう」
「ういー」
返事をして朝ごはんを食べきり、洗い物を済ませて先に寝室の確認をしていたシュッツの様子を見に行く。
窓まで確認してるけど、その辺はアンシークの守りも発動しているのでは?
それを貫通する奴はいないと思う……というより、貫通するようなヤバい奴が来たらアンシークどころか国の危機なので来ないで欲しい。
「夜はノックだけだったんだよね?」
「うん。帰ってきてすぐから、シャワー浴びて二階に上がるまではずっとノックされてたかな。もしかして朝まで居たかもだけど、すぐ寝たから分かんない」
「今日も続くかもしれないから、日が落ちたら不用意に扉は開けないで。お守りはこのままで大丈夫」
「分かった」
「バル様から貰ったお守りは?」
「ここ。ずっと持ってるよ」
あれこれ確認しているシュッツを邪魔しないように部屋の隅に立ち、寝室の確認が終わったからシャワーを確認しに行くらしいのでそれについて行く。
ここまでしっかり確認作業が入るのも中々珍しいなぁ、なんて呑気に考えているのは多分バレていないだろう。
アンシークに来てからは割と平和に過ごしてたんだけど、なんか今年は色々起こるなぁ。
いや、色々あったのは去年か?
月宵の祭りは毎年ちょこちょこ面倒が起こるけど、今年のはなんだか毎年のとはちょっと違いそうだしなぁ。
去年以上の面倒は嫌だなぁ。でも巡りが悪いってお婆様から手紙来たくらいだしなぁ……
「……エス様、ここだけ陣を張り直すね」
「あ、壊れてる?」
「壊れてはいないけど、外傷で弱まってる。この壁の向こうは外だし、水回りはどうしても強まるからね」
「じゃあドカンって来た時が熱湯になった時かぁ」
「多分。魔力お借りします」
「はいどうぞー」
差し出されたシュッツの手に自分の手を乗せて、じんわり流れていく魔力を意識する。
うっかり流しすぎるとシュッツの体調が悪くなりかねないから、流れはゆっくりにしないといけない。
周りに影響を受けやすい代わりに影響を与えやすいのが私の特徴なのだ。昔は調整が下手で兄さんにもシュッツにも迷惑をかけた。
まぁ、おかげさまで今では調整も完璧ですけどね!
お婆様のお墨付きなのでそこは自信をもって言える。
そんなわけでジリジリじわじわ流していた魔力は、シュッツが手を離した時点で流れを止めた。
「出来た?」
「うん。出来ればご本家に確認して欲しいけど……」
「流石に無理じゃない?近くに他誰が居たっけ」
「グルディアの爺様が近くに来てるらしいけど、どこにいるか分からないね」
グル爺か。あの人は確かにどこにいるか分かんないし、探しても見つからないだろう。
というか近くに来てるんだ?私聞いてないんだけど。
会いたい気もするけど、用事が無いと来ないだろうし、わざわざ呼ぶのはちょっとね。
「あ、そういえば前に渡したやつ、ちゃんと動いてる?」
「うん。おかげさまでちょっとだけ安心出来てる」
「それは何より。あと確認するところどこー?」
「裏口封印してもいい?」
「いいよ。どうせ冬の間は雪で開かないし」
その後も開店時間まで家の中を確認してもらって、とりあえず大丈夫ってことになったのでシュッツは帰って行った。
それを見送ってから私も支度を終わらせて、店を開けてカウンターの椅子に座る。
こういうのはね、意識しすぎても良くないから、なるたけいつも通りで過ごすのがいいのだ。
私は毎日をそれなりに楽しくご機嫌に過ごしているから尚の事。
月宵の祭りの後は大体毎年なんかしら起こるから、ある程度慣れてるしね。
そんなわけで鼻歌なんかを歌う余裕すらある。まぁ、やってること書類整理だからそんなに楽しくないけど。
正直書類整理するのに無理やり気分を上げた感は否めない。
なんて考えていたら扉の鈴がカランコロンと音を立てたので、顔を上げて営業スマイルを張り付ける。
本日最初のお客様は常連のお婆ちゃんだった。
「おはよう、エスティ」
「おはようございます。今日は何をお求めですか?」
「前に置いてあった湯たんぽはまだあるかい?遊びに来た孫が随分気に入っていたから、一つあげようかと思ってねぇ」
「ございますよ~。何色がいいですかね」
お求めの湯たんぽを引っ張り出して、選んで貰ったらお会計をする。
ラッピングはいらないらしいので簡易包装でお渡しして扉を開けてお見送り。あの湯たんぽ人気だなぁ。次の仕入れでちょっと多めに入れた方がいいかもしれない。
ついでにそれが入るようなもこもこの巾着も仕入れよう。
書類整理より仕入れの内容を考えている方が楽しいから、うっかり手を止めてあれこれ考えてしまった。
まぁ、そんなに急ぎでもないし楽しいこと考えながらのんびりやるかぁ。
どうせ今日はそんなにお客さん来ないだろうからね。




