月宵の祭り
いつもより早く店を閉めて、二階に上がって出かける準備をする。
あんまり薄着で行くと怒られるから、いつもよりしっかり着こまないと。
雪も降ってるから帽子も被って……まぁこんなもんでしょう。
ちゃちゃっと支度を済ませてショルダーバックを斜めにかけて、中にとりあえず財布とハンカチを入れておく。
他にいる物あるかな……あ、お守りもこっちに入れておこう。後は特にないかな。
最終確認を終えて店の鍵を手に取ったところで扉が開き、防寒対策バッチリなアルトが顔を出した。
「おっすエスティ。しっかり着こんでるか?」
「ばっちり。行こっか」
「おう」
今日は月宵の祭りの当日で、アムが来ないことは元々聞いていたのでアルトと一緒に行く約束をしていたのだ。
この時期の夜に一人で出歩いてるとものすごく心配されるから、それ対策でもある。
アルトは私の体質も家のことも、それなりに知ってるからね。
「あー……腹減ったなぁ……」
「屋台見て回る?」
「そうだな。エスティ、飯は?」
「まだ。アルト今日お酒飲むの?」
「今日は飲まん。つもりでいる」
「つまり美味しそうなものがあれば飲む、と」
「屋台の料理ってやたら酒が欲しくなるんだよな」
話しながら飾りつけされた道を歩いて、祭りの会場に足を踏み込む。
おぉ、なんかすごい賑わいだなぁ。
既に日は落ちているけどまだそんなに遅い時間じゃないから、若い子たちが多いのかな?
逸れないようにアルトの腕を掴んでおいて、そのまま周りを見渡す。
うん、やっぱり若い子が多い。楽しそうなカップルが多くって私は今非常に楽しいです。うへへへ。
なんてやっていたらアルトが歩き始めてしまったので、半ば引きずられるようについて行く。
「あ、美味しそう」
「エスティも食う?」
「ちょっとちょうだい」
「はいよー」
大きな鍋で色んな具材が煮られている屋台を覗いて、アルトが買っている具を眺める。
……屋台のご飯はお酒が欲しくなるものが多いんじゃなくて、アルトがそういうのを好んで買っているってだけの話じゃないかなぁ?
まぁ単純にそういう味付けが好みなんだろうな。アルトは普段から飲み屋街に居がちだしね。
「ほい、肉団子」
「わーい」
渡された串を受け取って、湯気が立つそれを少し冷ましてから齧る。
中までつゆだくだ。これ冷まさないで一個丸々口に入れてたら確実に火傷してたな。
そんな危険性は感じるけど、寒い外で食べてるってのもあって凄く美味しい。なんかしゃきしゃきな食感のが混ざってるけど、これなんだろう?
「美味いな」
「ね、美味しかった」
「串入れな。捨ててくる」
「ありがとーう」
空いた器を差し出されたので素直に串を入れて、ゴミを捨てに行ったアルトを見送る。
下手に動くとはぐれそうだから、戻ってくるまで私はここで待機していよう。
その間に他の屋台を遠目に眺めたりして、何となく人混みが出来ている場所を把握する。あの辺りが特に凄いから、なんかいい感じの屋台とかがあるんだろう。
何の屋台かなぁ~?人混みの隙間から覗けないかなぁ~?……駄目そうだな、諦めよう。
諦めて正面を向いたら、なんか近くに人がいた。知り合いではなかったので目線を逸らしてアルトを探していたら、その人が動く気配がしたのでちょっと警戒する。
冬の私は元気な代わりに警戒心が強いのだ。
「エスティ、お待たせ」
「あ、お帰りアルト」
「行こうぜ」
「うん」
腰を浮かしかけたタイミングでアルトが戻ってきたので、そのまま立ち上がってアルトの腕にくっ付く。
慣れたように歩きだしたアルトにくっ付いてある程度進んだところで速度が緩まったので、とりあえずアルトを見上げてみる。
「……まぁ、ナンパだろうなぁ」
「アルトがイケメン過ぎて撤退したのか……」
「距離感の所為だろ。普通仲良くても腕組まねぇよ」
「えー?」
変な人ではなく、単なるナンパだったらしい。
アルトがお嬢さんたちに割と人気なイケメン女子だから追って来なかったのかと思ったら、私が流れるようにアルトの腕にくっ付いたのが理由だったみたいだ。
……確かにやらないか。私も腕組んで歩いてる二人組が居たら男女の内訳がどうであれテンション上がるもんな。
「ナンパ避けにちょうどいいしこのまま行こ」
「どうあれ離れるつもりなかっただろ?」
「だってこの人混みではぐれたら合流できなさそそうだし」
「分かる。絶対無理だよな」
のんびり話しながら歩いて、時々屋台で買い食いをしながら進む。
目指す場所は祭り会場の中央ステージだ。月宵の祭りは何も屋台がいっぱい出るだけじゃなくて、ここで色々な出し物があるんだよね。
実は日永の祭りでもこういうステージはあるんだけど、私は会場の熱気に負けて毎回屋台だけを楽しんでいる。
日永の祭りは当日も翌日も店開けてないといけないからね。
月宵の祭りはちょっと早めに店を閉めるし、次の日もちょっとくらい開店が遅れても大丈夫だからのんびりしっかり楽しめる。
後は単純に気温の問題だ。夏場に外に居ると溶けるのよ……本当に……
なんて考えながらステージを見上げていたら、何やら派手な音楽が鳴り始めた。
一体何が始まるのかな?毎年内容が変わるから、何が起こるか分からなくて毎年楽しみなんだよね。




