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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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商会の噂 3

 昼休憩を終え、次の目的地に向けてのんびり歩いて進む。

 次はラング爺さんの工房に行くので通る道がなんかちょっと狭いんだよね。

 ジャンさんは慣れてるから余裕の表情で人ともすれ違っているけど、慣れない人はこの手押し車を押しながら人とすれ違おうとして壁に擦ることも多い。


 そのあたりは流石私担当とまで言われているだけあるなぁ。

 ぶつからないから乗せている商品もズレたりしない安心感があるよね。

 というかそもそもこの押し車結構重いからちゃんと安定して動かせる人もそんなにいなかったり。私が結構一気に回って物を詰め込んでいくせいもあるんだけど……ね。うん。


「ラング爺さーん」

「おお、エスティ。来たか」

「こんにちはー。調子はどうですか?」

「調子は上々。商品に出来るのは三つじゃな」


 ほっほっほ、と好々爺のごとき笑い声をあげるラング爺さんの横に腰かけ、奥に置かれていた箱を手繰り寄せているラング爺さんを眺める。

 箱の中身は商品の一つみたいだ。小さめのテーブルランプ。おぉ……綺麗……


「こんにちは、エスティ。師匠、持ってくるのこれで良かったですよね?」

「おお。そこに置いておけ」

「こんにちはーアルノートさん。アルノートさんは何個くらい行けますか」

「師匠のお許しが出たのは二個だね」


 一つ一つ確認していきながら、値段なんかの相談を始める。

 ラング爺さんそのあたりあんまり興味ないからここでしっかり決めないとね。ちゃんとお金取ってお爺ちゃん。

 お金取らないと困るのはお爺ちゃんでしょ、技術は対価取るべきものなのよ。っと。


「そういえば、エスティ知ってる?アイラック商会の話」

「ちょっとは聞きましたけど……嘘なんじゃないです?」

「でも結構話聞くよ?そこまで回ってると気になるよねぇ」

「下らん。あの連中がそんなことするか」


 ラング爺さんは否定派なのか。まあ確かに、直接話したことあるらしいしそういう判断になるんだろうなぁ。

 アルノートさんは単純に噂好きだよね。割といつでも噂話してる気がする。


「ちなみにどんな噂です?私、なんか闇取引してたらしいとかふわっとしたことしか聞かなかったですよ」

「俺が聞いたのはダンジョンアイテムを魔改造して怪我人が出た、とか裏で人身売買してた、とか」

「ほーん……アイラック商会よりやってるところありそうですけどね」

「それはそうだけどさ」


 話しながら品物の確認を進める。

 お爺ちゃんこれ材料費どのくらいかかったの?覚えてないの?アルノートさん材料費の一覧とかありますか?見せてください。

 あーまたこのお爺ちゃんはこんな高価な材料確認もせずに使って……


「ま、確証無いならあんまり広めるのは良くない気もしますねぇ」

「それもそうかぁ……」


 とりあえず取引価格はこんなもんかなぁ……はいお爺ちゃん、確認してね。

 あーまたそんな内容もちゃんと確かめないで判子押して……そのうち悪徳商人にカモにされるよ?

 うちくらいとしか取引してないって、それ言ったら終わりだけどさぁ……なんて、ひとしきり孫になり切って満足したところでアルノートさんの分も合わせて代金を渡す。


「よし。じゃあ今日はこれで」

「もう行くのか?せっかくならお茶でも飲んで行け」

「今日は仕入れの日だからのんびりは出来ないですよ。休みの日に遊びに来ますね」

「そうか。気を付けてな」

「はーい。ラング爺さんも体調気を付けてね」

「エスティ?俺は?」

「アルノートさんは何を言うまでもなくいつでも健康なので……」


 休みの日は割と入り浸っているのにむしろもっと来いというあたりがラング爺さんだよなぁ。

 私が居たら仕事進まないのにね、普通追い出すところなんじゃないだろうか。

 まあ、可愛がってもらってるから文句なんてないわけだけども。アルノートさんも親戚のお兄さんくらいの距離感で居てくれるから非常に居心地がいい。


「さーて次は……っと」


 外で待っていてくれたジャンさんに声をかけ、抱えたランプを手押し車に詰め込んでから次の行き先を確認する。

 ポーチの中からメモを取り出してラング爺さんと書かれたところにチェックを入れて、その下を指でなぞる。次は……


「ああ、ギルドか」

「ん?お前さんギルドなんて行ってたか?」

「呼ばれたんですよ。普段は向こうから来たり声かけられた日に行ったりで仕入れの日には行かないんですけど……今回はタイミングが良かったので」


 ギルドで買い取ったダンジョンアイテムの中で、冒険や戦闘には使わないような便利道具がアンシークに流れてきたりすることは割とある。

 普段はあっても一個や二個だから良いんだけど……今回なんか、まとめて持ってきた人が居たとかで私だけじゃ運びきれなそうだから仕入れの日に行くことにしたのだ。

 連絡来たの昨日だから丁度良かったんだよね。


 ちなみにギルドの正面玄関は大通りにデデンと構えられているわけだけど、私が向かうのは裏口だ。

 関係者出入り口を使えるのもアンシークの安心安全取引の賜物、ってね。

 ギルドとの取引は四代目の頃からあるらしいので、仕入れ先のほとんどは先代からの引継ぎなんだよね。私の代で増えたのなんて友人の数人分くらいだ。


「っさ。行きましょー」

「おう。ギルドの裏口なんて初めて行くぜ」


 緩く拳を突き上げて歩き始める。

 もうちょっとで仕入れも終わりだから気張っていこーう。

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