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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
六章「曰く、魚心あれば水心」
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冬の日常 2

 外との気温差で曇った窓を拭きながら、静かな外をのんびりと眺める。

 冬は静かだから、こうして店に一人で居るともう世界には私しかいないんじゃないか、なんて気分になってくるんだよね。

 それが特に嫌いでもないので、一人静かに鼻歌を歌いながら窓を拭きあげた。


 今日はもう誰も来ないかな?昼はそれなりにお客さんも来たけど、もう日も落ちているしこの時間からわざわざ来る人は少ないだろう。

 来るとしたら仕事終わりに文房具とかを買いに寄る人とかかな。

 私が店主になってから店内がどちらかというと女性向けになったから、先代の時から比べると男性客は減ったんだけど、そういう人は変わらず来てくれる。


 まぁ、男女比が変わっただけで来店人数で言うとあんまり変わってないからね、先代に恥じることは何もしてないよ、っとね。

 そんなことを考えながらカウンターの内側に腰を下ろしたところで、窓の外に人影が見えた。

 お客さんかな?と思って目を向けると同時に扉が開き、鈴がガランゴロン!と喧しい音を立てる。


「アルトォ!静かに開けろォ!!」

「お、今日も元気だなエスティ!」

「お、じゃないよ!静かに開けてっていつも言ってるでしょ!なんで毎回毎回そんなに荒々しく扉開けるの!?なんか恨みでもあるの!?」

「いつもより元気いいな。良いことだ」


 今日も今日とて扉に対しての扱いが雑なアルトに吠えて、何にも響いて無さそうなので諦めて椅子に座り直す。

 もはやわざとなんじゃなかろうかと思ってるんだけど、それを聞いてもどうせまともな答えは返ってこないからね。


「んで?どうしたの?」

「いや、夕飯一緒に食わん?ウィプラのサンドイッチ貰ったんだけど、量多くて」

「やったー。食べるー」


 手に持っていた袋の中身は人気店のサンドイッチだったようだ。

 置いてくる、と言って奥に入って行ったアルトを見送って、一度時計を確認した。

 閉店まであと一時間。アルトは多分店を閉めるまではここで喋っているだろうから、一人でボーっとしてるよりはすぐだろうな。


「エスティ、月宵の祭りどうするんだ?アムちゃん来んの?」

「いや、今年は来ないって。なんか忙しいみたい」

「ほーん……じゃあ一緒に行くか」

「うん」


 戻ってきたアルトは手にちゃっかりお茶を持っており、カウンターの外側に回って壁に寄りかかりながら話す姿勢を整えていた。

 やったら絵になるな。アルトは割と背が高くて、フィンさんとかシュッツとかと同じくらいあるんだよね。見上げるほど大きいわけじゃないけど、なんというか映える。

 本人がそんなに見た目に頓着無いからあれだけど、磨けば光るって色んな人が言っていた。


「そういやこないだラング爺さんにあったぞ」

「あら、そうなの?職人会?」

「おう。エスティが倒れたって聞いたが大丈夫なのか、ってあたしに聞いてきた」

「倒れてはないよ。倒れては」

「そう言っといた」

「さっすがぁ」


 職人会とは、グリヴィアに住む職人たちが不定期に集まってやっている会議だ。

 ちなみに会議とは名ばかりで、大体は集まって酒とか飲んで近況報告とかしてるらしい。

 全く同じ職種な人は少なくても、個人で店を構えて居たり卸していたりする人たちの集まりだから話が合って楽しいんだって。


 参加するには既に参加している職人さんに連れて行ってもらうしかないので、変な人も入ってきにくいと。

 周りと関りが少ない職人さんとかが面倒ごとに巻き込まれた時の相談場所にもなっているみたいで、割と昔から大事にされている集まりだってラング爺さんが言ってた。

 アルトは職人会ではかなりの若手で、お爺ちゃんたちから可愛がられているらしい。


 分かるよぉ、私も仕入れ先のお爺ちゃんたちからやったら可愛がられてるからね。

 アルトは付き合いも良いからさぞ可愛いことだろう。その上かなり腕のいい職人だからね。実力主義な職人さんたちにも可愛がられているのは、そのあたりの影響だろう。


「ラング爺さんの所にも顔出してやれよ」

「今度の仕入れで行くよ」

「そうか。それなら安心……あ、エスティ、目元なんかついてる」

「んえ?……取れた?」

「取れてねぇ」

「取ってー」

「はいはい」


 どこについてるのか分からなかったので早々に諦めて目を閉じると、アルトの手が右目の目じりあたりに当たった。

 その手が離れるより早く扉が開いて、鈴が大きめの音を立てる。

 びっくりして飛び退いて目を開けると、何やら焦った顔のジャックさんと目が合った。


「い、いらっしゃいませ?」

「……あぁ」

「ふっははは!騎士様も形無しだなぁ!」

「え、なにが?」

「分からねぇならそのままでいいだろ。なぁ?騎士様?」

「そう、だな」


 ……アルトとジャックさんって知り合いなの?なんか二人だけで通じ合ってる感じがするんだけど。

 よく分からないけどジャックさんがあんな風に扉を開けるのは珍しいし、何か急ぎの用事かな?

 って、思ったんだけど、別にそういうわけでもないらしい。勢い付いちゃっただけか、そっか。


 普通に買い物をして去って行ったジャックさんを見るアルトがやたら楽しそうだったのが気になるけど、とりあえず椅子に座り直す。

 というか目元の何かしら取れた?なんだった?……あぁ、まつ毛か。

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