冬の訪れ 3
外は真っ白に染まり、もかもかと雪が降っている。
アンシークの中は暖房が効いていて温かいからそんなに厚着もしていないけど、外を歩く人たちは寒そうだ。
ちなみにいつも通りトレーナーにエプロンつけて過ごそうとしていたら、朝のうちに店に来たシュッツから「見ていて寒いからもう一枚何か着てくれ」と言われた。
なんでよ、トレーナーだぞ。暖かいだろうがよ。
なんて思ったけれど、コートに帽子にマフラーに手袋にと完全防寒なシュッツを見ていたら私の方がズレている気がしてきたので大人しくカーディガンを追加した。
私が寒さに強いのは知ってるんだから、このくらい別に気にしなくていいと思うんだけどね。
そんなことを考えながらぼんやり店番をすること早数時間。今日は暇な日だなぁ。
この時期は外で待ち合わせをする人も少ないから、外を眺めててもあんまり楽しくないし。
まぁ、通りすがりの人を眺めてはいるんだけどね。モコモコに着込んだ女の子たちは可愛いね。
ふありと欠伸を零したところで店の扉が開き、私が営業スマイルを顔に張り付けるのと同時に見慣れた女の子が入ってきた。
「店長さーん!」
「いらっしゃいませ~。大慌てですねぇ、どうしたんです?」
「可愛いが分からない……!」
「あらまぁ」
店内に他の人が居ないことを確かめるように勢いよく左右を確認したその子は、無人なのが分かるとビャンっとカウンターに寄ってきた。
割と昔からよく来てくれている常連の子なのだけれど、数か月前に好きな人が出来たのだと照れながら教えてくれて以来、何か進展があるとこうして話してくれるようになったのだ。
私が人の恋路を覗き見るのが大好きなのを知ってても話してくれるのは、一人で悩むとロクなことが無いかららしい。つまりアドバイスをくれと、そういうことだ。
「今度はどうしたんです、前のデートはうまく行ったんでしょう?」
「楽しかったぁ……」
「よかったねぇ~」
「でも、冬ってどうしたらいいの?なにをどうすればいいの?」
「そんなに何もかも変わるわけじゃないでしょうに。最近買った可愛い冬服とかないんです?」
「無い。冬は寒さに負けて可愛さを疎かにしてた」
「なるほどー?」
私も夏は全てのやる気が溶けるし、何となく気持ちは分かる。
でも服のアドバイスは私に求めない方がいいと思うんだよねぇ……私、基本的に年がら年中服装変わらないしなぁ……
「もこもこしてたらもうそれだけで可愛くないです?」
「でもコートで見えないじゃん」
「あぁ、そっか。ちなみにどこ行くんです?」
「イルミネーション見に行くの」
「いいですねぇ」
それなら日が落ちてから、なのかな?だとしたら防寒もしっかりした方が良さそうだ。
もうコートを買うしかないのでは、等々好きに言いながら話を聞いていたら、扉が開いてカランコロンと鈴が鳴った。
「いらっしゃいませー。お、ライナちゃん」
「どうも。……取り込み中かしら?」
「……あ、ちょうど良いかもしれない。ライナちゃんの方が服とか詳しいでしょう」
入ってきたのはこれまた常連の女の子。休みの日に外で会ったら一緒にお茶をするくらいには仲が良い子なので、急ぎじゃないならちょっと付き合ってもらおう。
……今日も可愛いねぇ!可愛い子が二人も居てお姉さんは上機嫌ですよ。
「え、ご迷惑じゃないですか?」
「別に……急いでも居ないから。貴女が先に来ていたのだし、貴女の用事が先でいいわ」
「ちなみにライナちゃんは何をお求めでした?」
「……お継母様の誕生日プレゼントを、相談したくて」
「そっちの方が重要なのでは!?」
「まだ時間はあるから大丈夫よ。……二か月先の話だもの」
ライナちゃんのお継母さんは私も知っている。穏やかで、優しい春風のような雰囲気の人だ。
親子が仲良くなれて私も嬉しいよ、一緒に出掛けたとか、刺繍を習ったとか、そういう話をライナちゃんが話してくれるたびにニッコニコになるくらいには。
……というか二か月先の誕生日に向けて今から相談に来たってことは、職人さんに作成依頼を出すことも視野に入れてる感じかな?
「じゃあそっちはまたじっくりお話を聞きましょう……んで、今は君のデートですよ!」
「コート?やっぱりコート新しく買うべき?」
「私はもうコートくらいしか分かんないです。ライナちゃん的に、おめかしするときに気にする物とかってあります?」
「……靴、かしら」
「靴?コートより?」
「服やお化粧に気を取られ過ぎて、靴にまで意識がいかないとふと足元を見た時に急に汚れが気になったりするの。だから、楽しみな用事の時ほど靴を先に選ぶわ」
「な、なるほど」
確かに彼女はいつでも上から下までピシッと綺麗に纏まっている。
品の良いお嬢様って感じるのは、気の緩みを服装から一切感じないからってのもあるんだろう。
思わずほぇ~と緩み切った声を出してしまった。私はお気に入りの靴を擦り切れるまで履いてしまうタイプの人間だからね。
「普段は学校指定の靴だろうから、お気に入りを探してみたら?」
「あら、もしかして二人ともおんなじ学校です?」
「ええ。校内で見かけたことがあるわ」
「ひぇ……存じ上げず……」
「学年が違うもの。私がたまたま知っていただけよ」
ライナちゃんは記憶力の鬼だからな……なんて思っていたら、何を察したのか呆れた目を向けられてしまった。へへへ、ごめんて。
なんてやりつつそのまま三人でおしゃべりを続け、二人は一緒に買い物に行くことになって店を去って行った。
お継母さんへのプレゼントはまた後日相談に来るそうだ。




