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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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商会の噂 2

 いつも通り服を着替えて朝食を食べて、荷物を持って一階に降りる。

 店には行かず、鍵を持って裏口から外に出る。建物の隙間にある出入り口だからここ狭いんだよねぇ。

 先代はここを通るのあんまり好きじゃなかったみたいだけど、私は結構好き。

 秘密基地とかワクワクするよね。


「あら、おはようエスティ」

「おはようございまーす」

「今日はお休み?」

「仕入れです。ニレさん今日休みですか?」

「私はこれから。夕方にでもいらっしゃいよ」

「ふふ、手が空いてたら寄りますよ」


 道中知り合いと話しつつ、とりあえず向かう先は決まっているので迷いなく大通りに出た。

 一人で仕入れたものを全部運ぶのは無理だからまずは人手を借りないといけないんだよね。

 そして大通りには人手の貸し出しをしてくれる店があるのだ。私は毎週二回、仕入れの日に荷物の運搬をしてくれる人を求めてお店に行くからもう顔もしっかり覚えられてる。


 もうね、店に入っただけで察してくれるから。先代のころから始まった事業で、そのころからお世話になっているからこことも中々付き合いは長い。

 一回だけ態度の悪い人と当たったことがあったけど、腹が立ってその後一ヵ月店に寄り付かないで居たらそれ以降大体おんなじ人のいいおじさんが来てくれるようになって非常に快適だ。


「おはようございまーす」

「あ、おはようございます、エスティアさん」


 建物の中に入ると受付のお兄さんが気付いて手を振ってくれた。

 このお兄さん、大体いつでもカウンターに居るんだけど私が来るときはこの人が担当になってる日だったりするのかな。

 暇な日は彼女さんの話も聞かせてくれたりするから嬉しいんだけどね。どんどん惚気てくれ。無限に聞きたい。


「荷物運搬でよろしいですか?」

「はい。お願いします」

「ではここにサインをお願いします」


 差し出された書類に名前を書いて、その他手続きも終わらせたら既に準備が終わっていた手押し車といつものおじさんの元へ向かう。

 おじさんおじさん言ってるけど、老け顔なだけでそんなに歳は取ってないと本人は主張していたりする。まあ、それは今別にいいか。


「おはようございます、ジャンさん」

「おう。おはようエスティ。今日はどこから行くんだ?」

「今日はリュバチートからです」


 手押し車を押すジャンさんの横に立ち、雑談なんかもしながらのんびり歩いて目的地へ向かう。

 リュバチートは織物や刺繍の職人さんたちが集う、本来はドレスを作っていたりするお店なのだけれど、そこで出た端切れ布なんかをハンカチやクッション、ぬいぐるみなどに加工していて、それがうちで売られているのだ。


 あと編み物の職人さんが「なんか無心で作っちゃって……」と言ってコースターとか作ってたりもするからそれも買い取って店に並べている。

 仕事の息抜きに仕事でやってる作業やるのってなんでなんだろうね。

 職人の考えることは分かんねぇわ。


「エスティだ!おはよぉ!」

「おはよう。元気だねぇ」

「うん!今日はみんなで丘まで行くんだよ!エスティも一緒に行く?」

「エスティは今日仕事だよ。気を付けて行っておいで」

「そっかぁ。じゃあねー!」


 なんでか知らないけど、私謎に子供に人気があるんだよね。

 なんでだろう。分からない。別に嫌じゃないから良いんだけど、遊びに誘われる率が高いことからもしかしたら子供だと思われているんじゃないか説がある。

 確かに店を継ぐにはちょっと若いかもしれないけど、驚かれるほどのことじゃないし普段から子供扱いされるわけじゃないから結局説止まりで分からないままだ。


 ちょっとおませな女児がお母さんと一緒に店に来て、それの話し相手をしていたりするからそういう子に好かれるのはまだ分かる。

 でも、なんでか少年にも声かけられるんだよね……

 なんでだろう。あ、あれかな。近所の年上のお姉さんに憧れる気持ちかな。

 ……いやでも近所の憧れのお姉さんを丘までの冒険に誘わねぇか。


「なんでだろう……」

「そりゃ、エスティが可愛いからだろ」

「はっはっは、なるほどぉ」

「お前さん謙遜とかしねぇよなぁ」

「兄から散々可愛い可愛い言われてましたからね。そりゃあもう自信満々に育ちました」

「いい事じゃねえの」


 うちの兄のシスコンっぷりをなめないほうがいい。

 両親と過ごす時間が少なかったから、それと反比例するかのように兄と一緒に居た私はその影響をこれでもかと言うほど受けている。

 故に謎にメンタルが強い。最終兵器は「まあ、私可愛いしな。それに最悪兄さん呼んだら助けてくれるしな」である。うーん、我ながら厄介。


 なんて考えている間に最初の目的地、リュバチートについた。

 扉をノックして押し開けると、窓辺に置かれたロッキングチェアに腰かけた小さなお婆ちゃんがこちらに気付いてサイドテーブルに置いてある鈴を鳴らした。


「いらっしゃい、エスティ」

「おはようございます、お婆ちゃん」

「皆色々作っていたからね、持っていってあげて」

「はぁい。ありがとうございます」


 この小さなお婆ちゃんがここの店主であり、全盛期は王妃様のドレスなんかも作っていた職人だ。

 今でも店に来る客を精査していて、ここでお婆ちゃんに嫌われるとドレスの依頼は出来なかったりする。私はそれとは別口の取引だから入ってすぐに職人さんたちを呼ぶ鈴が鳴らされた。

 話している間に奥から刺繍職人のお姉さんが出て来て、あらエスティ。なんて声を出して手招きをしてくれる。


 お婆ちゃんが言っていた通り本当に色々小物が出てきた。

 一つ一つをあまり丁寧に見ているとここだけで終わってしまいそうなので、ある程度纏めて見せてもらいつつ取引価格についての話をする。

 まあ、長い付き合いなのでそのあたりはそんなに時間もかからない。

 一時間ほどで全てが終わり、次に向かうことになった。

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